本屋大賞5年連続ノミネート! 青山美智子さん初めての「語り下ろし」本ができました。小説執筆のモットー、装丁へのこだわり、本屋大賞への思い、図書館の思い出……人気作家の実像が浮かび上がる33の質問

書店員さんたちに熱い支持を得ている青山美智子さん。「学生時代に読んだ本は?」「人生最後に読む本は?」「本づくりで意識していることは?」といった、本に関する疑問に答えていただきました。本の話は終わらない

株式会社朝日新聞出版

『お探し物は図書室まで』『赤と青とエスキース』『月の立つ林で』『リカバリー・カバヒコ』『人魚が逃げた』の5作が5年連続で本屋大賞にノミネートされた青山美智子さん。本について、さまざまな角度から語っていただきました。

「本と出会う」「本で変わる」「本を書く」「本を作る」「本と触れ合う」「本から広がる」という6つの切り口で、青山さんにたっぷり語っていただきました。「時にテンション高めになっているところもあると思いますが」と青山さん本人も語る本書は、本への熱すぎる思いと、本好きなら思わず共感する言葉の数々が満載です。そんな本書の、一部をご紹介します。

私は究極のSFを書いていると思っている

 ――デビューしてから一年に数冊のペースで新刊を出されています。青山さんが小説を書くうえで、大切にしていることや意識していることを教えてください。

いくつかありますが、ひとつは「登場人物が途中で誰も死なない」こと。そして「必ずハッピーエンドである」こと。もうひとつは「小学生から、100歳以上の方も読むことができる」ということです。つまり、「小学生からちゃんと理解できて、100歳を超えた方でもちゃんと大人の小説として読める」ように、難しい言葉は使わず、わかりやすさを重視しています。

あとはジェネラル(general)を意識していて、出てくる人の年齢や男女比も偏らないようにすることが多いですね。でもそこは、これからいろいろな方向でチャレンジしたいとも考えています。

――「登場人物が途中で死なない」と決めている理由は何かあるのですか?

 私たちはいつか必ず亡くなります。たとえば、来週ランチの約束をしていた友達と突然会えなくなってしまうことが起きる世界で私たちは生きている。でも、小説では誰も死なないで済む世界にできるし、そんなことが叶うんです。それはフィクションだからできることですよね。

誰も死ななくて必ずハッピーエンドなんて、私たちの住む世界では絶対に起こりえないことだけど、それを小説でやると自然に受け入れてもらえるのがフィクションのすごいところで、そういう意味では、私は究極のSFを書いていると思っているし、自分のことをSF作家だと思っているんですよ。

どんな設定でも自由で受け入れてもらえるというのは、私が小説を書く大きな理由のひとつですね。「生きている人」を書いて、「生きる」ことを作品で伝えていきたいですし、「自分がそういう話を読みたい」という気持ちがまずあります。

――たとえば、読んでいて落ち込むくらい考えさせられる作品もあって、自分にとっては学びになるし、何かを考えるきっかけにもなるけど、良くも悪くも心に重い石のような負担がかかって、読んでいてしんどいなと思うことがあります。

わかります。私もそうなんだけど、本の中に入り込んでしまうから、そこに引きずられちゃうんですよね。まるで現実に起きたことみたいに、大きなダメージを食らって、何日も落ち込んだりして。読み方というか、捉え方次第なんだと思うけど。でも、心の闇を描いたサイコパス的な小説も決して受け付けないわけじゃなくて、むしろ好んで読みたい時がありますよ。残虐シーンが得意じゃないだけで。

――その点でいうと、青山さんの作品は安心して読めるので、「小学生から100歳の方でも読むことができる」に通じるところがありますね。

ただ、私の作品を「癒し系」と言っていただけることがあるんですけど、自分ではどちらかというと痛い話ばかり書いていると思うから、「暗い」か「明るい」かで言うと、私の小説は間違いなく暗いんですよ。もし、作品を読んで「ほっこりした」とか「気持ちがあたたかくなった」と思ってくださるなら、読み手の方の中にある優しさが反応しているんだと思います。私自身は「ここで感動させよう」とは狙っていないので、そういう気持ちになるのであれば、それは読んだ方がもともと持っていた力だと思います。

日記を5冊書いています

 作品とは別に、今、日記を5冊書いているんですよ。それくらい「書く」ことに取りつかれているのかもしれません。

内訳を説明すると、まず、5冊あるうち毎日必ず書く日記は2冊あって、一冊は「3年日記」という、同じ日付の欄に3年分の記録を並べて書ける日記です。これは2000年から書き始めたのですが、今日はどんなことがあったとか、行ったお店の名前などを記しています。その日にどんな出来事があって、誰とどんなことをしたかがわかるから「あのときはどうだったっけ?」というのを思い出すときにすごく便利で、3年ごとに同じものの同じ色を買っています。今9冊目になりますが、並んでいるのを見ると壮観ですよ。

もう一冊は、石井ゆかりさんの「星ダイアリー」というビジネス手帳のようなタイプのもので、日々の星の動きや注意期間、その意味の解説などが書いてあります。石井さんは毎日の星占いのコンテンツもネットやLINEでアップされていて、前の日の夜に次の日の占いが出るサイトもあるので、私はそれを見てウィークリー仕様の見開きの日付が書いてある左ページに書き写すんです。つまり「明日のこと」を書くわけですが、その当日になったら、昨日の夜に自分が書いたことが石井さんの書かれたこととどれくらい連動しているかを照合して右ページにメモしながら「あ、だからこうだったのか」と、あてはまっていたところにはピンク色のペンで線を引いたりしています。

――青山さんの『お探し物は図書室まで』の中でも、石井さんの著書『月のとびら』が登場しますよね。

 

私自身もこのご著書に救われてきたので、引用させていただきました。私は40代で石井さんの文章に出会ったのですが、自分の成分の2%くらいは「石井ゆかり」でできていると思っています。石井さんの星占いって、吉凶じゃないんですよ。アドバイスというより詩的で、提示されたキーワードを読み手がどう思うかそっと差し出している感じなんです。なので、読むたびに思うことが違ったりして、自分と向き合うことになるんですよね。私はそれをイメージワークだと思っていて、その言葉からいろいろなことを連想して日々のヒントのひとつにしています。

3つ目は毎日ではなく、思ったとき書くような「内観ノート」みたいなものです。これは心を落ち着かせたり頭の中を整理するためのもので、思いの丈をスペース関係なくワーッと書いています。3年日記、星ダイアリーと、このノートは手書きです。

4つ目は一日の行動ログを記録できるスマホアプリで、その日の体調や何時に薬を飲んだかといったことの他に「ゲラチェック完了」といったことを綿密に記しています。

5つ目は、最近「ポメラ」(注:「書く」ことに特化した専用デバイス)を購入したので、ふと気づいたときに「ポメラ」でササッと書いて、それを日記サイトに残しています。

今年55歳になって、出来事というより日々なんとなく感じたことを記録しておきたいなと思うようになったのがきっかけかな。どうしても流れていってしまう感覚や気持ちを書き留めておきたいなと思い、始めました。

――それは非公開のものなのですか?

いずれ公開する日が来るかもしれないけど、今のところ非公開です。こうして5つの日記をつけていてつくづく思うのは、私にとって「書く」ことは、もう欲望なんだなということです。

でも、きっとその欲望って、邪〔よこしま〕なことを考えるとたちまち消えてしまうんですよ。「売れるように書こう」みたいなことを考えちゃうと、筆が鈍るんです。小説を書くときには特に気をつけなくてはと思います。

 私が本名で作家を続けている理由

 ――デビューする前は、どんな創作活動をされていたのですか?

私は中学1年の3学期に千葉県から愛知県に引っ越しをしたのですが、その転校先で演劇クラブに入ったんです。そこで2学年上のA先輩という方に出会って、すごく気が合ったんですよ。3学期の間しか一緒にいられなかったんですけど、先輩が卒業してからは文通をしていました。私は先輩とは違う高校に行ったので、演劇のことやお互いの近況などを書き合っている中で、先輩が同じ高校の人たちと個人的に文芸サークルを始めたと知らせてくれて。「一緒にやらない?」と誘われて、学校外で文芸サークルに入りました。

だいたい、3カ月に一回くらいの頻度で、A先輩ともうひとりの方がメインになってみんなで原稿を持ち寄ってどこかのお宅に集まっていました。メンバーは10人もいなかったと思います。絵が好きな人は絵を描いて、小説好きな人は小説を書いて。まだ手書きが主流で、私も原稿用紙に書いていました。それをA先輩たちがワープロで打ち込んでくれて、人数分をコピーして冊子としてまとめていたんです。今思うと、部活じゃなくて自主的にそんなことをしていたなんて、すごいですよね。

当時はコバルト文庫全盛期でサークル内でも氷室冴子さんや新井素子〔もと こ〕さんが特に人気でした。みんなで「あの作品読んだ?」みたいなことを話し合っていたんだけど、すごくいい会だったし、そのときの経験が今の自分にとても活かされているなと思います。誰かの悪口や噂話、芸能人のゴシップとかは全然出なかったし、本当にシンプルに小説や創作が好きな人たちが集まっていたんですよね。

プロの作家さんの小説の感想も言い合うし、みんながそれぞれに書いた小説についても話していました。みんなで読んで、その次の号で感想を書くページがあったんですよ。「誰々の何々はこうだった」みたいに、人に読んでもらって感想ももらえる、同世代で、同じことが好きな人たちの書いた小説や絵が見られるという経験ができたことは、すごく大きかったです。そういえば今思い出したのですが、ひとつのお話をバトンで繋いでいくということもやっていましたね。前の人が途中まで書いたものを次の人が受け継いで、続きを書くんです。

――なんて高尚なことを(笑)。

それは企画ものとして一回だけだったんだけど、後から入った私に順番が回ってきたのは遅かったから、今までのものを全部読み返してみたら、けっこうみんな好き放題に書いているんです(笑)。それを一回自分で整理してから続きを書くのが楽しくて。みんなに「これってこういう話だったってことがよくわかった」と言ってもらったりして嬉しかったです。

高校卒業後は皆さんそれぞれの道に進んでいって、段々とフェイドアウトしてしまって。会を続けていくことはできなかったけど、プロになってからやっていることと変わらないくらいのことをそのサークルでさせてもらっていたなと思います。

この会のすごいところは、誰も1円ももらえるわけでもなく、むしろ会費を払ってまでみんなそれを夢中でやっているところなんです。なので、おっしゃる通り「好き」しかないんですよ。「好き」のパワーってすごくて、誰も「やらされている感」がないし、ただやりたくてやっているんですよね。小説を書くだけならひとりでやる作業だけど、そこから少し先の「みんなでこんなに楽しいことをシェアできるんだ」という経験を、この文芸サークルで味わわせてもらえました。サークルは「お茶会」とネーミングされていて、案内状にも「次のお茶会の案内です」と書いてあって素敵でした。

――本をたくさん読んでいる方って、特に言葉のセンスをお持ちですよね。

特に私はA先輩に教えられたことがたくさんあるし、とても影響を受けたひとりであり、大好きな方です。A先輩はいつも目をかけてくれていて「あなたの書く小説は素晴らしいから、これからも書き続けてね」って言ってくれて。その言葉にもすごく支えられていて「この人にそう言ってもらえているんだから、書き続けよう」という力になっていました。

私が本名で作家を続けている理由のひとつは、いつかA先輩が私の名前を見つけてくれるんじゃないかなという気持ちもあるからなんです。A先輩とも、その時のサークルで一緒だった人たちとも今連絡が取れなくて寂しいので、誰かが私の名前に気づいて連絡してきてくれないかなと思っていますし、いつかまた会えたらいいなと願っています。

○語り手 青山美智子(あおやまみちこ)

1970年生まれ、愛知県出身。大学卒業後、シドニーの日系新聞社で記者として勤務。帰国後、出版社で雑誌編集者を経て執筆活動に入る。デビュー作『木曜日にはココアを』で第1回宮崎本大賞を受賞。他に『鎌倉うずまき案内所』『月曜日の抹茶カフェ』など、著書多数。『お探し物は図書室まで』『赤と青とエスキース』『月の立つ林で』『リカバリー・カバヒコ』『人魚が逃げた』の5作が5年連続で本屋大賞にノミネートされている。

○聞き手 根津香菜子(ねづかなこ)

雑誌編集部のアシスタントや朝日新聞記事の執筆・編集を経て、フリーランサーに。学生時代、入院中に読んだインタビュー記事に胸が震え、ライターを志す。現在は、役者への取材をメインに活動。幼いころから美味しそうな食べものの本を読んでは「これはどんな味がするんだろう?」と想像するのが好きな食いしん坊。

【目次】 

はじめに 青山美智子 

まえがき 根津香菜子 

 

第1章 本と出会う

1 幼少期に読んだ本は?

2 学生時代に読んだ本について教えてください

3 漫画についてお聞きします 

4 社会人になって読んだ本もお聞きします 

5 人生最後に読む本は? 

 

第2章 本で変わる

6 デビュー前の創作活動について教えてください 

7 デビューのきっかけ・経緯を教えてください 

8 プロの作家になって変わったことは? 

 

第3章 本を書く

9 青山さんにとって「書く」ということとは? 

10 小説の書き方について、教えてください 

11 小説を書く際のモットーは? 

12 ストーリーの作り方を教えてください 

13 傑作だと思う映画は? 

14 連作短編の魅力とは? 

15 コラムについても教えてください 

 

第4章 本を作る

16 本作りで意識していることは? 

17 青山さんが思う「プロ」とは? 

18 装丁・表紙へのこだわりを教えてください 

19 紙への思いは? 

20 田中達也さんについてお聞きします 

 

第5章 本と触れ合う

21 書店員さんへの思いを教えてください 

22 本屋大賞への思いを教えてください 

23 図書館の魅力とは? 

24 旅に持っていく本は? 

25 古本屋さんの思い出もお聞きします 

 

第6章 本から広がる

26 ご自作の舞台化についてお聞きします 

27 オーディオブックについて教えてください 

28 自作の翻訳のこともお聞きします 

29 フランスのブックフェスティバルのことをお尋ねします 

30 青山さんにとってサイン会、講演会とは? 

31 電子書籍への思いは? 

32 読書に馴染みのない人へ 

33 青山さんが本から得たものは? 

 

あとがき 青山美智子 

『本の話はどこまでも――青山美智子さんが答える33の質問』

語り手:青山美智子

聞き手:根津香菜子

定価:1760円(本体1600円+税10%)

発売日:2025年12月19日

体裁:216ページ、四六判

https://www.amazon.co.jp/dp/402252118X

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未上場
資本金
8000万円
設立
2008年04月