「レバノンでの事態激化は、子どもたちに恐ろしい結果をもたらす」【プレスリリース】
ガザ等の訪問を終え、ユニセフ事務局次長警鐘
【2024年9月19日 ニューヨーク発】
国連の定例記者会見に訪問先のヨルダン川西岸地区からオンラインで参加したユニセフ(国連児童基金)事務局次長のテッド・チャイバンは、直近のレバノンにおける事態、および自身が訪れたイスラエル、ガザ地区およびヨルダン川西岸地区の状況について以下のとおり報告しました。
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レバノンとイスラエルをめぐる状況を誰もが大いに懸念しています。国連事務総長は関係各国に対し、事態の激化を回避するため最大限の自制を促しています。事態のさらなる激化は、子どもたちに恐ろしい結果をもたらすでしょう。
本日、私はイスラエルと、パレスチナのガザ地区およびヨルダン川西岸地区への訪問を終えようとしています。今回の訪問では、この恐ろしい戦争の影響を被ったさまざまなコミュニティの子どもたちと会いました。10月7日は凄惨な一日でした。過去10年において4度目となるこの大規模な戦闘激化、そして解決のつかない争いと占領の歴史の結果、子どもたちにとって10月7日からの毎日が凄惨な日々なのです。
週の初め、10月7日に恐怖を体験したイスラエルの子どもたちや家族と会った際、彼らは私に、すべての子どもの声を代弁し、彼らの苦しみを伝えるよう求めました。ユニセフはイスラエルの子どもたちが支援を受けられるよう関係省庁と協力して取り組みます。
イスラエル当局との会合で私は、人道支援物資や商用物資、特に生鮮食品や栄養物資の供給の増加、子どもたちの保護、治安対策の改善、支援従事者の活動に関する手続き標準化などの改善、家族と離ればなれになった子どもやおとなの同伴者のいない子どもの移動の円滑化を求めました。
パレスチナ当局との会合では、社会サービス、特に教育への資金投入を優先し、子どもたちが学校に通えるようにすることを求めました。ガザ地区だけではなくヨルダン川西岸地区でも子どもたちが何カ月間も学べない状態が続いているため、子ども時代を失われた世代が生まれる危機に直面しています。
ガザ地区でも、学校や病院、国内避難民の施設に対する壊滅的な攻撃が続いており、パレスチナ保健省によると、1万4,000人以上の子どもが死亡したと報告されています。すでに手一杯の状態にある病院は、困難に打ちのめされています。
私はガザ地区北部にあるカマル・アドワン病院に行きました。この地域で唯一機能している小児科病院です。小児集中治療室を訪ねると、生後数カ月の小さな赤ちゃん、シャムちゃんがいました。彼女は爆弾の破片でひどい怪我をしていました。その爆撃で生き残ったのは彼女と彼女の母親だけでした。シャムちゃんは、この11カ月間にガザ地区で何千何万もの子どもが死傷していることを痛烈に思い起こさせました。
重度の急性栄養不良と呼吸器感染症を患う7カ月のファラちゃんにも会いました。白血病やその他のがんを患う、医療搬送が必要な子どもも多くいました。一刻も早く搬送しなければ、彼らは助かりません。私たちは、他の国連機関と協力して、これらの子どもたちを治療のために地区外に搬送できるよう全力を尽くします。
私が前回訪問した1月から今日までの間に、破壊と子どもたちの苦しみの規模は著しく増大しています。避難民の合計は170万人から190万人に増加しました。人々がそこへの退避を強いられた“安全地帯”と呼ばれる場所自体が、避難指示の対象となり、爆撃されています。間違いなく、ガザ地区には安全な場所はないのです。
前回の訪問以降、大量の未処理の固形廃棄物がさらに山積みになっていました。巨大なごみの山を掘っている子どもたちに話を聞くと、家族と一緒に食事を作る火をおこすための紙切れや段ボールを探している、と言っていました。避難所となったGeraar Al Qudua学校を訪問したところ、学校の中庭の真ん中に、汚水を排出するための仮設の排水溝が掘られていました。人々や子どもたちは実際にそこで生活しています。現在の気温では、こういった状況は病気の発生とまん延という恐ろしい結果を招く要因となります。
ガザ地区の南部と中部の市場には食料品が並んでおり、入手は可能ですが、法外な価格です。ガザ地区北部では品揃えが乏しく、果物はほぼなく、ほとんどが缶詰です。
私が1月にガザ地区にいたとき、毎日平均99台か100台の人道支援物資輸送用トラックが入っていました。8月には毎日平均50台、9月には、治安上の懸念、“フェンス・ロード”と呼ばれる道路での制限、そして物資の搬入拠点が少なすぎるという理由で、やっとのことで15台でした。
1,200万米ドル相当の支援物資の多くが、ヨルダンで搬入を保留している状態です。これらの物資の搬入はイスラエル当局によって承認されていますが、治安の欠如と略奪のリスクが大きな懸念となっているのです。
商用物資を積んだ車の通行はパレスチナの子どもとその家族のウェルビーイングの鍵を握っています。ガザ地区南部で、果物や野菜などより多くの種類の食料品が店に並んでいるのは、商用車の往来によるところが大きいのです。民間部門がせっけんやシャンプーをはじめとする衛生用品を運べることが必要であり、今も40万人が居住するガザ地区北部への商用物資運搬車の通行が許可される必要があるのです。
ガザ地区北部へ行って、とてもためになりました。自分の目で破壊と苦悩の度合いを確かめられただけではなく、北部に向かう際に私たちのチームがどのように行動しなければならないのかを体験することができました。私たちは午前10時に宿泊所を出発し、10時半には検問所への最初のアクセスポイントに到着しました。それから検問所を通過するまでに5時間かかりました。5時間経ってようやく検問所を通過できたのです。そのため、現地での活動に使える時間は限られました。
このような状況の中でも、物事は成し遂げられます。つい先ごろ終了した1回目のポリオワクチン集団予防接種では、 10歳未満の56万人以上の子どもにワクチンを投与できました。これは、皆で隊を組めば、ガザ地区の子どもたち――北部の子どもたちにも――極めて重要な支援を届けられということを世界に示しました。パレスチナの母親たちは、この物語の主人公となりました。11カ月間という長きにわたる悲惨な状況にもかかわらず、彼女たちは列に並び、子どもを予防接種に連れてきました。はしかの予防接種やせっけんなどの衛生用品の配布など、緊急を要する子どもたちのニーズに対応するためには、このようなことが日常的に行えるのだというさらに確実な保証が必要です。現在のような調整と対立回避の仕組みでは、私たちの支援活動を効率的に実施することはできません。
東エルサレムを含むヨルダン川西岸地区の情勢は、例えるならいつ発火が起きてもおかしくないような状況であり、かつてないほど緊張が増しています。 いくつかの軍事作戦により、都市部は深刻な影響を受け、多数の家屋が損傷または全壊しています。 2023年10月から暴力が激化し、移動が制限されたことにより、子どもたちの新たな学習上の支障が生じています。 10月7日以来これまでに、166人のパレスチナの子どもと2人のイスラエルの子どもが命を落としました。 子どもたちは家で怯え、学校に行くのも怖がっています。
これは耐え難い状況であり、事態の鎮静化と自制が必要です。
以上のことを踏まえて、私たちは何を必要としているのでしょうか?
これまで一貫して指摘してきたとおり、停戦が必要です。子どもたちの死傷を食い止め、緊急に必要な命を守るための支援物資の配送を可能にし、とりわけ子どもを含む、人質となっている人々を無条件で解放するために、停戦が必要なのです。
停戦が実現しない間は、ポリオワクチンの集団予防接種を可能にしたような、一時的な戦闘休止が必要です。支援従事者と支援活動の安全を確保する必要があります。そのためには、イスラエルの南部司令部と、より直接的な連絡を取り、検問所での手続きの標準化について合意し、インターネット回線を含む通信設備をガザ地区へ持ち込めるようになることが必要です。
栄養不良に関しては、現在目の当たりにしている人道支援物資搬送トラックの台数減少をとても懸念しています。ガザ地区は少し前まで飢きんの瀬戸際にあり、状況はすぐに元に戻る可能性があります。ガザ地区内にさらに多くの搬入拠点が必要であり、治安を再確立し、すべての人の安全を向上させるためにあらゆる手段を講じ、命を守る物資を必要とする子どもたちに配布できるようにする必要があります。
劣悪な衛生状態を考えると、大量のせっけんやシャンプーを、特に商用トラックなどで運び入れる必要があります。
最後に、地区外での治療でしか命を救えない子どもとその保護者のために、医療搬送をもっと増やす必要があります。また、医療用品や、皮膚病の治療に使う抗生物質などの医療用消耗品、新生児病棟用の装置、手術室用の注射器や包帯などもさらに多く必要です。
ガザ地区で継続する破壊とヨルダン川西岸地区で激化する暴力によって、この地域に平和や安全がもたらされることはありません。平和と安全は、イスラエルとパレスチナの子どもたち、および将来の世代の権利とウェルビーイングを優先させた交渉を通じた政治的解決によってのみ達成できるものなのです。
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■ ユニセフ「ガザ人道危機 緊急募金」 ご協力のお願い
ガザ地区をはじめパレスチナで戦闘の影響を受ける子どもたちを支援するため、(公財)日本ユニセフ協会は、ユニセフ「ガザ人道危機 緊急募金」を受け付けています。詳しくはこちらをご覧ください。
https://www.unicef.or.jp/kinkyu/gaza/
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■ ユニセフについて
ユニセフ(UNICEF:国際連合児童基金)は、すべての子どもの権利と健やかな成長を促進するために活動する国連機関です。現在約190の国と地域※で、多くのパートナーと協力し、その理念をさまざまな形で具体的な行動に移しています。特に、最も困難な立場にある子どもたちへの支援に重点を置きながら、世界中のあらゆる場所で、すべての子どもたちのために活動しています。ユニセフの活動資金は、すべて個人や企業・団体からの募金や各国政府からの任意拠出金で支えられています。(https://www.unicef.org )
※ユニセフ国内委員会(ユニセフ協会)が活動する33の国と地域を含みます
■ 日本ユニセフ協会について
公益財団法人 日本ユニセフ協会は、33の先進国・地域にあるユニセフ国内委員会の一つで、日本国内において民間で唯一ユニセフを代表する組織として、ユニセフ活動の広報、募金活動、政策提言(アドボカシー)を担っています。(https://www.unicef.or.jp )
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