妊産婦死亡率減少もSDGs達成ほど遠く 支援資金削減の動きに警鐘を鳴らす~ユニセフらの新報告書【プレスリリース】

ユニセフが支援するトロケア産科病棟で、無事に生まれた女の子。母親は感染症で治療を受けている(ソマリア、2024年1月29日撮影) © UNICEF/UNI534958/Hill

【2025年4月7日 ジュネーブ/ニューヨーク発】

「世界保健デー」の本日発表された新たな重要報告書によると、今日では女性が無事に妊娠・出産を終えられる可能性はこれまでになく高くなっています。しかし報告書をまとめたユニセフ(国連児童基金)をはじめとする国連諸機関は、世界中で前例のない規模の支援資金削減が行われることにより、事態が大きく後退する恐れが強まっている、と警鐘を鳴らしています。

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「妊産婦死亡率の傾向(原題:Trends in maternal mortality)」

本日発表された国連の報告書「妊産婦死亡率の傾向(原題:Trends in maternal mortality)」によると、2000年から2023年の間に妊産婦死亡率は世界的に40%減少しました。これは主に、基本的な保健医療サービスへのアクセスが改善されたことによるものです。しかし、本報告書では、2016年以降、改善のペースが大幅に鈍化していること、また、2023年には妊娠や出産に伴う合併症により、推定26万人の女性が死亡したことを明らかにしました。これは、2分に1人の割合で妊産婦が命を落としていることに相当します。

この報告書は、人道支援への資金削減により、必要不可欠な保健ケアが世界中で深刻な影響を受け、国々が妊産婦、新生児、子どもの健康のための重要なサービスを縮小せざるを得ない状況となっている中、発表されました。こうした削減により、施設の閉鎖や保健スタッフの解雇・離職が相次いでいます。加えて、妊産婦の死亡原因のトップを占める大量出血、妊娠高血圧腎症、マラリアなどの治療薬を含む、彼女たちの命を守るのに必要な物資や医薬品の供給網の寸断にもつながっています。

 

早急に対策を講じなければ、いくつもの国で妊婦が大きな影響を被ることになると、各機関は警鐘を鳴らしています。特に、すでに妊産婦死亡率が非常に高い人道危機下の現場では、影響が著しく深刻になるでしょう。

 

ザンベジア州にあるダンテ産院で、妊婦の診察を行う様子(モザンビーク、2024年2月28日撮影) © UNICEF/UNI556324/Franco

また、この報告書は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的大流行(パンデミック)による妊産婦への影響について、初めて世界規模での分析も行っています。2021年には、妊娠または出産が原因で亡くなった女性は前年の28万2,000人から推定4万人増え、32万2,000人に上りました。この急増は、新型コロナウイルス感染症による直接的な合併症だけでなく、産科保健医療の広範囲にわたる中断にも関連しています。このことは、パンデミックやその他の緊急事態において、このようなケアを確実に提供する重要性を浮き彫りにしています。妊婦は、24時間対応の緊急ケアだけでなく、日常的なサービスや検査にも確実にアクセスできる必要があります。

 

ユニセフ事務局長のキャサリン・ラッセルは次のように述べています。「妊娠中または出産時に母親が死亡すると、赤ちゃんの命も危険にさらされます。あまりにも多くの場合、予防する方法がわかっている原因により、母子共に命を落としてしまうのです。世界的な保健サービスへの資金削減により、とりわけ最も脆弱な状況にある地域では、妊娠中に必要なケアや出産時に必要なサポートを受けられなくなり、さらに多くの妊婦が危険にさらされています。世界は、助産師、看護師、地域保健スタッフに一刻も早く資金を投じ、すべての母親と赤ちゃんが生き延び、成長するチャンスを確実なものにしなければなりません」

 

妊婦の女性を診察する、コミュニティで唯一の助産師であるアベリーノさん。ユニセフ支援による研修プログラムで、母乳育児の重要性や安全な分娩方法を習得している(グアテマラ、2024年9月3日撮影) © UNICEF/UNI682710/Izquierdo

報告書はまた、地域や国による根強い格差や、進展のばらつきが際立っていることを示しています。サハラ以南のアフリカは、2000年から2023年の間に妊産婦死亡率が約40%減少し、目覚ましい成果を達成しました。同地域とならんで、2015年以降、妊産婦死亡率の大幅な減少を達成した地域(国連の分類による)は、オーストラリアとニュージーランド、中央アジアおよび南アジアの3つのみでした。しかし、高い貧困率と複数の紛争に直面しているサハラ以南のアフリカは、2023年には依然として世界の妊産婦死亡率の約70%を占めていました。

 

進展の遅れを示すように、2015年以降、妊産婦死亡率は、北アフリカ・西アジア、東アジア・東南アジア、オーストラリアとニュージーランドを除くオセアニア、欧州・北米、ラテンアメリカ・カリブ海地域の5つの地域で下げ止まっています。

 

報告書によると、人道危機下に暮らす妊婦は、世界で最も高いリスクに直面しています。 現在、世界の妊産婦死亡の3分の2近くは、脆弱性が高かったり紛争の影響を受けていたりする国々で発生しています。このような環境にいる女の子が抱えるリスクは著しいものであり、例えばこれらの国で暮らす15歳の女の子が一生のどこかで妊娠や出産で命を落とすリスクは51人に1人であるのに対し、より安定した国では593人に1人です。最もリスクが高いのはチャドと中央アフリカ共和国で(24人に1人)、ナイジェリア(25人に1人)、ソマリア(30人に1人)、アフガニスタン(40人に1人)がそれに続きます。

 

報告書はさらに、妊娠、出産、産後の重要なサービスを確実に受けられるようにするだけでなく、家族計画に関わるサービスも受けやすくし、また、リスクを高める貧血、マラリア、非感染性疾患などを予防することで、女性の全般的な健康を増進する取り組みの重要性を指摘しています。また、女の子が学校に通い続け、女性と女の子が自分の健康を守るための知識とリソースを確保することも重要です。

 

妊産婦死亡を防ぐために、緊急に投資が必要です。世界は現在、国連のSDGs(持続可能な開発目標)の妊産婦の死亡率削減に関するターゲットの達成軌道から外れています。2030年のターゲットを達成するためには、世界全体で妊産婦死亡率を毎年約15%削減させる必要があり、現在の年間削減率約1.5%から大幅に改善させなければなりません。

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■ 注記

データについて: SDGsの妊産婦死亡に関するターゲットは、2030年までに世界の妊産婦死亡率(Maternal Mortality Ratio: MMR)を出生10万人当たり70人未満に削減すること。2023年の世界の妊産婦死亡率は、出生10万人当たり197人と推計され、2020年の211人、2000年の328人から減少。

 

本報告書には、SDGsの報告に使用されている、以下の地域別に細分化されたデータが含まれています: 中央アジア・南アジア、サハラ以南アフリカ、北米・欧州、ラテンアメリカ・カリブ海諸国、西アジア・北アフリカ、オーストラリア・ニュージーランド、東アジア・東南アジア、オーストラリアとニュージーランドを除くオセアニア。

 

世界保健デーについて: 4月7日の世界保健デーは、毎年、世界中の人々が関心を寄せる特定の保健・健康に関するトピックに焦点を当てます。2025年の世界保健デーのキャンペーンは、「健康な始まり、希望ある未来(Healthy beginnings, hopeful futures)」をテーマに、妊産婦と新生児の健康と生存率の向上に焦点を当てています。予防可能な妊産婦と新生児の死亡をなくすための取り組みを強化し、女性の長期的な健康とウェルビーイングを優先するよう、各国政府と世界の保健コミュニティに呼び掛けます。

■ ユニセフについて

ユニセフ(UNICEF:国際連合児童基金)は、すべての子どもの権利と健やかな成長を促進するために活動する国連機関です。現在約190の国と地域※で、多くのパートナーと協力し、その理念をさまざまな形で具体的な行動に移しています。特に、最も困難な立場にある子どもたちへの支援に重点を置きながら、世界中のあらゆる場所で、すべての子どもたちのために活動しています。ユニセフの活動資金は、すべて個人や企業・団体からの募金や各国政府からの任意拠出金で支えられています。(https://www.unicef.org )

※ユニセフ国内委員会(ユニセフ協会)が活動する32の国と地域を含みます

 

■ 日本ユニセフ協会について

公益財団法人 日本ユニセフ協会は、32の先進国・地域にあるユニセフ国内委員会の一つで、日本国内において民間で唯一ユニセフを代表する組織として、ユニセフ活動の広報、募金活動、アドボカシーを担っています。(https://www.unicef.or.jp )

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会社概要

公益財団法人日本ユニセフ協会

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URL
http://www.unicef.or.jp
業種
官公庁・地方自治体
本社所在地
東京都港区高輪4-6-12 ユニセフハウス
電話番号
03-5789-2016
代表者名
赤松良子
上場
未上場
資本金
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設立
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