ウナギをテーマに日本の海の未来を考える 海につながる信州から太平洋へ小学生海洋学習プログラム【信州ウナギ調査隊】を開催しました!
2024年7月30日~8月1日 【場所】長野県飯田市、静岡県浜松市
このイベントは、次世代へ豊かで美しい海を引き継ぐために、海を介して人と人とがつながる“日本財団「海と日本プロジェクト」”の一環です。
イベント概要
・開催概要
長野県の中心に位置する諏訪湖沿いの岡谷市は江戸時代からウナギ漁が盛んなウナギの街として知られ、ウナギ食文化が今も根付いている地域です。しかし、生息環境が大きく変わり、県内で獲れることはなくなり、国内でも2014年に絶滅危惧種に指定されました。今後、ウナギを水産物として持続的に利用していくためには、その資源を適切に管理することが重要です。そこで、天竜川を通じてその先の海のつながる長野県の小学生が様々な場所で学び、体験する学習プログラムを開催。ウナギが減少している要因を学び、ウナギ養殖の現場で取り組む団体や研究所での学習体験を通して、子どもたちが「ウナギを通して長野県と海のつながりの大切さ」を認識し、自分たちにできることは何かを考え、海への関心を高める機会としました。
・日程 7月30日(火)・31日(水)・8月1日(木) 2泊3日
・開催場所 長野県飯田市・静岡県浜松市
・参加人数 長野県内在住の小学5,6年生23人
・後援 長野県、長野市、長野県環境保全協会
・協力団体 天竜川総合学習館かわらんべ、浜名湖体験学習施設ウォット、
静岡県水産・海洋技術研究所浜名湖分場、海老仙、
浜名漁協弁天島遊船組合、舞阪町観光協会、浜名湖発親ウナギ放流連絡会
長野県とウナギの深い関係
7月30日(火)長野県飯田市の天竜川総合学習館かわらんべに集結した23人の信州ウナギ調査隊のメンバーたち。結団式では ひとりずつ自己紹介し、調査の意気込みを発表しました。「ウナギはどのくらいぬるぬるしているか触ってみたい。」「海の9割は解明されてないことが多く神秘的で新しい発見がある。」「ウナギの値段がとても高くなっているのはなぜなのかを知りたい。」「ウナギがどんな場所に住んでいて、どんなエサを食べるか知りたい。」「ウナギを気軽にたべることができる日が来るのか知りたい。」など隊員の意気込みが伝わってきました。
まずは、長野県とウナギの深い関係について、天竜川総合学習館かわらんべの久保田憲昭さんによる講義です。今では、諏訪湖や天竜川ではほとんど取れないウナギですが、昭和初期には、やな漁という方法で、大量に天然ウナギが獲れたそうです。1時間で940kgも獲れた際は「そうめんくだり」と称されました。しかし、昭和40年代になると急激に減少し、ウナギ漁は成り立たなくなりました。どうして減ってしまったのか?の質問に対し、児童は「水質が悪くなった」「温度が上がって住みにくくなった」などの意見がありました。天竜川の水質の悪化がウナギの減少の理由かどうかを調べるため、調査隊は、天竜川の支流の久米川へ。ここでは、どんな生き物が生息しているかを調べます。
久保田さんから「今日ウナギが見つかったら大ニュースだからがんばって見つけてみよう」と言われると児童たちは、全身で川に入り、探しました。エビ、ヘビトンボ、ヨシノボリなど多くの生物をつかまえましたが、ウナギを見つけることができませんでした。調査後、久保田さんは、「実は天竜川にダムができた影響でウナギが上流まで上ってこれなったことがウナギが減ってしまった理由です。」と説明がありました。ダムは人間の財産や命を守る大切なものである一方、ウナギなどの生き物にとっては、そうでないこともあるということを調査隊は学びました。
海・湖・川 3つの顔を持つ浜名湖で調査 ウナギの養殖の産地となった理由
2日目は、静岡県浜松市の浜名湖体験学習施設ウォットからスタート。ここは、浜名湖の多様な生物を展示している水族館です。浜名湖は淡水と海水が混じりあう汽水湖です。およそ800種類の魚介類がいると言われています。飼育担当の工藤 隆馬さんによるバックヤードツアーに特別に案内してもらいました。予備槽では、ウナギやウニ、ヒトデなどを触らせてもらいました。
続いて、静岡県水産・海洋技術研究所 浜名湖分場で研究をしている吉川 昌之さんによる講義です。テーマは「浜名湖うなぎ物語」です。まずはウナギの一生について。実は多くの研究者が調べてもよくわかっていないことが多いのです。その中でもマリアナ諸島で卵を生み、海流に乗って日本近海にやってくると言われています。シラスウナギという稚魚が川をさかのぼります。秋になるとその逆で雨がふって川の水が多くなった時に流れに乗って川をくだり海にでるというのがサイクルです。「とても広い海を旅しているんだ。」と児童たち。次にうなぎを守ることについて、生息環境の変化はあるものの、吉川さんはやはり人間がうなぎを取り過ぎたのが原因と考えます。日本人は、1年間に10万トンを食べたというデータがあり、1匹200gだとすると1年で5億匹の計算になります。これからもウナギを食べられるようにするには、どうしたらいいかの質問に児童たちは、「うなぎの国を作る」「自然のうなぎは獲らないで、養殖うなぎだけを食べる。」などの意見がでました。吉川さんは、「ひとりひとりできることを工夫することが大事」と説明しました。
午後は、楽しみにしていたシュノーケリングと磯学習です。浜名湖は海水と淡水がまじりあう汽水湖です。
浜名漁協弁天島遊船組合の協力のもと船に乗って浜名湖の無人島・いかり瀬へ上陸。潮の満ち引きによって、水深が変わり、沢山の海の生き物や貝が生息しています。カニ、ハマグリ、クラゲなど長野県では見ることができない様々な生き物を見つけましたが、この日は水温が高く、魚は姿を表しませんでした。その後、調査隊は、船から浜名湖を見てみようと遊覧へ。カキの養殖場があるなど、浜名湖は人々の暮らしに欠かせない存在であることを学びました。
これからもおいしいウナギを食べられるようにするために私たちができること
調査隊3日目の最終日は、早朝から浜名湖の雄踏漁港で競りの見学です。長野県にはない漁港では、毎朝、浜名湖で獲れた魚がここに集まります。まずは、競りの前に魚の選別作業を見せてもらいました。この日は天然のうなぎも水揚げされました。競りが始まると3.8kgのウナギ数匹が4万円で落札されると児童からは「すごい高い値段がついた」と驚いた様子でした。
その後、調査隊は、ウナギを競り落とした卸売りの海老仙へ。養鰻業も営んでいて、うなぎがいっぱい。天竜川からの地下水のシャワーを浴びることでウナギはストレスが減り、おいしくなるということです。特別にウナギのつかみ取りもさせてもらいました。「ウナギは普段は、そんなにぬるぬるしてないんですよ」と海老仙の加茂社長は説明します。敵から逃げたり、岩に体をぶつけるときにけがをしないようにウナギ自身が必要な時にぬるぬるしたものを出すとのこと。その後は、養鰻場へ。ハウス内は45℃近くあり、水温は約28℃、早く成長させるためには、エサを多く与えるためには必要な環境です。
信州ウナギ調査隊の活動もいよいよ大詰め。活動の最後は、3日間の学習の総まとめ、総合学習発表会です。ウナギを守り、豊かな海を守るためにできることは何かを班ごとにわかれ考え発表しました。児童たちからは「ウナギを天然と食用で分けて取り過ぎないようにして、天然物を増やしていく」「人の安全も大事だが、川をすべてコンクリートにしないで生き物の隠れ家を増やす」「温暖化をなくすためにCO2を減らす行動をする」「魚を残さずおいしく食べる」「調査隊で学んだ内容を沢山の人に知らせる」と言った意見がでました。
グループ発表の後はひとりずつ活動の感想作文とウナギの絵を描きました。今回学んだことをたくさんの人に伝えるために長野県の企業と連携した商品化の開発を予定していて、イラストはそのパッケージに使用されます。
ウナギをテーマに長野県から海のつながりを学び、多くの講師から指導を受け、普段できない特別な体験をした信州ウナギ調査隊のメンバーたち。海の未来を守り続けていくことをあらためて感じた、充実した学びの場となりました。
参加した子ども・保護者からの声(実施後のアンケートより)
●児童
・うなぎは絶滅しそうなものなので、海や川を守らなければ環境がどんどん変わってしまうから自分たちが守らないといけない。
・今ぼくたちにできることは、自然をこわさない、ごみのポイ捨てをしない、自然を大切にすることです。
・普段出来ない貴重な体験ができて、友達も沢山できたので、絶対にまた参加したい。
・夏休みの自由研究にまとめます。学んだことをクラスや家族に伝えたいです。
●保護者
・うなぎの生態や環境問題について個人的に調べることはできますが、今回のように短期間で体系的に深く学ぶのはなかなか難しいので、このようなイベントは本当にありがたいです。
・知り合いがまったくいない中、色々な人と関わりながら一緒に学べたことは、とても良い経験になった。
・充実していたようで満足して帰ってきました。全員が無事だったということで、安全管理や配慮が徹底されていたと思います
・実際、参加した子どもから話を聞き、プログラム以上の貴重な経験をさせていただいたと感じました。
<団体概要>
団体名称:一般社団法人 海と日本プロジェクトin長野
URL:https://nagano.uminohi.jp/
活動内容 :長野県の次世代を担う子供たちやその家族などを対象に海に親しみ、その素晴らしさ、豊かさを知り、大切にする心を育てる運動を興し推進する活動。
日本財団「海と日本プロジェクト」
さまざまなかたちで日本人の暮らしを支え、時に心の安らぎやワクワク、ひらめきを与えてくれる海。そんな海で進行している環境の悪化などの現状を、子どもたちをはじめ全国の人が「自分ごと」としてとらえ、海を未来へ引き継ぐアクションの輪を広げていくため、オールジャパンで推進するプロジェクトです。
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