2025年問題「超高齢化社会」を地域観光の転機に香港・台湾の訪日経験者が注目する「日本のシニア世代」、暮らしや知恵が観光資源に

株式会社リクルート

2025年3月3日 13時00分

2025年、団塊世代が75歳以上となり、日本は本格的な超高齢化社会へ突入します。労働人口の減少が進む中、労働集約型の側面が大きい観光産業は、人手不足の影響を受けやすい業界の一つです。一方で、内閣府の「高齢社会白書」によると、現在収入のある仕事をしている60歳以上のうち、約9割が高齢期にも高い就労意欲を持っていることが示されています。『じゃらんリサーチセンター』の調査でも、シニア世代の中には「住んでいる地域の発展に貢献したい」と考える層が一定数いることが明らかになりました。また、香港・台湾の訪日経験者の多くが「地域ならではの文化体験」に関心を寄せていることも分かっています。こうした訪日経験者の関心とシニア世代の意向が交差し、シニア世代が観光業の担い手として活躍する可能性が広がっています。さらに、訪日経験者の中には、日本の高齢者の生き方や知恵そのものに関心を持つ層も存在し、団塊世代によってその地域の観光資源がつくられる兆しも見えています。本プレスレターでは、こうした可能性に着目し、シニア世代の経験を生かした地域観光への貢献の可能性を、調査データと事例から紐解き、ご紹介します。

■地域の発展に貢献したいシニア世代、観光業が新たな活躍の場に

『じゃらんリサーチセンター』が実施した「セカンドライフ観光需要調査」では、40～80代に現在の仕事・就労や社会参加の理由を確認したところ、70代以上では「経済的理由」よりも、自己実現や社会貢献といった「社会的理由」を挙げる割合が半数を超えていることが分かりました。さらに、セカンドライフへの期待として「住んでいる地域の発展に貢献したい」という意識が、年代が上がるほど高まる傾向があることも明らかになりました。こうしたデータから、地域振興の側面が強い観光産業は、シニア世代の意向と合致し、新たな活躍の場となる可能性があります。

■香港・台湾の訪日経験者の関心は「地域ならではの文化体験」、シニア世代が担い手となる可能性

訪日観光客のリピーターが増加する中、観光ニーズも多様化しています。観光庁の「地方滞在者の消費行動等に関する分析」によると、韓国・台湾・香港の訪日観光客は地方訪問が特に多いことが示されています。『じゃらんリサーチセンター』の「インバウンド観光資産活用調査」でも、香港・台湾の訪日経験者の多くが、日本の食文化、歴史的建造物、伝統文化など「地域ならではの文化体験」に関心を寄せていることが分かっています。

こうした背景のもと、地域文化や歴史を深く理解するシニア世代が地域文化体験の担い手となることは、訪日観光客のニーズと合致し、シニアにとっても地域貢献の機会となります。

■香港・台湾の訪日経験者の8割が「日本の高齢者」に関心、暮らしや知恵が観光資源に

香港・台湾の訪日経験者は、日本のシニア世代そのものに興味を持つ層もいます。『じゃらんリサーチセンター』の「インバウンド観光資産活用調査」によると、香港・台湾の訪日経験者に「下記の文章を読んで日本に行きたいと興味を持ったか」を尋ねたところ、両エリアとも8割以上が「興味をもった」と回答しました。

また「日本の高齢者から学びたいこと」として、「健康を保つ秘訣」「伝統的な食生活の取り込み方」「地域に伝わる風習や言い伝えの伝承」などが挙げられました。このように、訪日観光客の中には、日本の高齢者との交流を通じて日本文化や生き方をより深く理解したい層がいることがうかがえます。こうした関心の高まりを受け、シニア世代によってその地域の観光資源がつくられる可能性も考えられます。

【取材可能】岩手県野田村「苫屋」：シニアが伝える日本の暮らし、海外からリピーターが訪れる古民家宿

シニア世代の暮らしや語りが観光価値を生む事例の一つが、岩手県野田村の宿泊施設「苫屋」です。60代夫婦が営むこの宿は、築160年以上の古民家を活用し、地域の暮らしや文化を体験できる場として国内外の観光客を受け入れています。予約を含む通信手段は手紙のみ、1日2組限定で冬季休業という独自のスタイルを貫き運営しています。宿泊者は、囲炉裏を囲んだ団欒や郷土料理を通じて、宿主と交流しながら地域の歴史や生活文化に触れることができます。

【「苫屋」が提供する体験】

「苫屋」では、宿泊者が宿主の交流を通じて、地域文化の奥深さに触れることができます。

・囲炉裏を囲んだ団欒：宿泊者と宿主が一緒に火を囲み、料理や会話を楽しむ

・郷土料理の提供：自家栽培の野菜や地元の海山の幸を使った料理を通じ、食文化を体験

・昔ながらの暮らしの伝承：電話やネット環境もない不便さを楽しみ、地域の暮らしの知恵に触れる

単なる宿泊にとどまらず、宿主との交流や暮らしに触れることが観光体験の一部となり、リピーターは国内にとどまらず、海外からも訪れています。

【取材可能】研究員による解説：シニアは「観光資源の担い手」であり、地域文化の新たな価値創出に

『じゃらんリサーチセンター』客室研究員　澤柳正子

少子高齢化による働き手不足が深刻化する中、観光業界もその影響を受けています。一般的にシニア世代の役割は「労働力の補完」として語られることが多いですが、本研究では、シニアの経験・技術・人間味が観光の魅力を形成し、観光価値を高める要素になり得ることが明らかになりました。特にシニアの関わりは、地域文化の継承、観光資源の創出、観光客の満足度向上の3つの側面で大きな可能性を秘めています。

① 地域文化・技術の継承と体験価値の創出

シニア世代が語る地域の歴史や職人技、郷土料理の知恵が、その地域ならではの観光体験の価値を高めています。訪れた人々に「地域の物語」を伝えることで、単なる観光を超えた価値を提供できます。

② 「不便益」がもたらす特別な体験

デジタル化が進む中で、手間の掛かる手作業や昔ながらの暮らしが「特別な価値」として注目されています。シニア世代ならではの時間の流れや生活様式が観光の新たな魅力となっています。

③ シニアの存在がもたらす「愛着」と「安心感」

シニアとの対話や交流が、「地域の人々とつながる体験」になっています。SNSを通じた情報発信が進む中、こうした温かみのある交流が、観光客の満足度向上につながるだけでなく、地域への愛着やリピーター獲得にも貢献しています。

シニア世代の観光業への関わりは、地域文化の新たな価値の創出につながっています。彼らの経験や交流は、訪れる人々に「その土地ならではの魅力」を伝え、地域文化の継承や観光体験の深化に寄与しています。こうした取り組みが進むことで、シニア世代の存在そのものが観光の一部となる兆しも見えており、持続可能な観光の担い手としての期待が高まっています。