観光産業の最大の課題は“働き手不足”、従事者の約半数が回答 賃金・労働環境に加え、“専門スキル人材の採用・育成難”が壁に
「観光業界課題調査2025」
株式会社リクルート(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:牛田 圭一、以下リクルート)の観光に関する調査・研究、地域振興機関『じゃらんリサーチセンター』(以下JRC、センター長:沢登 次彦)は観光業従事者を対象に「観光業界課題調査2025」を実施しました。観光産業をめぐっては、オーバーツーリズムなどが社会的課題として注目される一方で、現場で従事する人々の課題を明らかにする調査は限られていました。本調査は、その点を明らかにすると共に、観光業界全体で取り組むべき対策を提言することを目的としています。結果からは、観光事業従事者は自地域への愛着を強く持ちながらも、仕事面では「働き手不足(48.6%)」が最大の課題であり、加えて専門スキルを持つ人材の採用や育成の難しさが課題となっていることが浮き彫りになりました。
調査結果ハイライト
※調査結果の詳細は報告書をご参照ください
https://www.recruit.co.jp/wp-content/uploads/2025/10/20251023_YCHRT9_01.pdf
働き手不足が依然として最大の課題
48.6%が「観光現場の働き手不足」を挙げ、改めて業界最大の課題であることが明確になった。
さらに、「観光マネジメントの人材不足対策(専門スキル人材・高度人材の不足)」も41.3%と高く、現場を支える人材の量と質の両面で課題が浮き彫りとなっている。
また、「観光地の受入環境整備(二次交通・インフラ等)」も47.3%と高く、観光地の持続性に直結する課題として顕在化している。
Q. あなたやあなたの所属する組織が、観光事業・観光振興に取り組む上で課題に感じていることをすべてお答えください。 (複数回答) 【回答者条件:観光業務従事者】

専門スキル人材の採用・育成が壁に
働き手不足の背景には、賃金や労働条件のほか、専門スキルを持つ人材の採用・育成体制にも課題があることが明らかになった。
Q. あなたの組織における「人手不足・人材不足」の具体的な要因を教えてください。 (複数回答) 【回答者条件:観光業務従事者(人手不足の影響がある人)】

地域愛と現場のギャップ(NPS®、eNPS℠分析)
「居住エリア」や「観光業全般」への誇り・愛着は高い一方で、「自社」や「自身の業務」に対する推奨意向は低く、業界全体への好意と職場への満足度の間にギャップが見られた。

※NPS(Net Promoter Score)およびeNPS(employee Net Promoter Score)は、ベイン・アンド・カンパニー、フレッド・ライクヘルド、NICE Systems, Inc.の登録商標です。
※推奨度は、各項目に対するおすすめ度を「0-10の11段階」で取得し、推奨者(9~10点)の比率から批判者(0~6点)の比率を引いた数値です。
※eNPS平均スコアは、調査によって差はあるものの、日本においては概ね-20~-60程度とされています。
観光業界全体で取り組むべき対策
今回の調査から、働き手不足が観光業界における最大の課題であること、そしてその背景には専門スキル人材の採用・育成や、不透明な労働体系があることが明らかになりました。これを踏まえ、観光業界が持続的に発展するためには人材採用の「数」と、それを可能にする働き方や育成の「質」が不可欠であり、以下のような取り組みが求められます。
1.人材の裾野を広げる仕組みづくり
・労働環境の改善を進め、長時間労働の是正や休日制度の整備を行う
・外部人材の活用を広げ、副業人材や短期滞在型ワーカーを受け入れる仕組みを整える
・リモート勤務の導入など柔軟な働き方を推進し、新しい層の人材を呼び込む
2.スキルとキャリアを育む仕組みづくり
・観光協会やDMOが中心となり、接客・語学・デジタル活用など基礎スキルを標準化した研修プログラムを整備する
・新入社員が数年後にどのようなスキルを身につけ、どんな役割を担えるのかを示すキャリアパスモデルを策定し、キャリア形成を明示化する
・専門人材を育成する仕組みをつくり、ガイド、MICE、サステナブルツーリズムといった成長分野に特化した研修や認定制度を導入する
3.地域愛を働きがいにつなげる環境づくり
・旅館組合や地域事業者が連携し、共同で研修やインターンシップを実施することで、単独企業では難しい育成を補完する
・従業員が自分の仕事を地域貢献と結びつけて実感できるよう、地域イベントや観光プロジェクトへの参画機会をつくる
・地域に貢献した人材を表彰する制度を設け、誇りと働きがいを可視化する
先進事例紹介
1.人材の裾野を広げる仕組みづくり
直近の人手不足には即戦力の確保が欠かせず、その一つとして注目されているのが「シニア人材」です。JRCが滋賀県守山市で行ったシニア層の力を観光の現場に活かすための実証実験では、地元の高齢者団体やシルバー人材センターなどに約2000枚のチラシを配布し、6名が応募しました。「社会貢献」「プロジェクトメンバー」といった表現を前面に出したことで、単なる労働力補完ではない、地域への愛着を持っている人材や、組織内のつながりや関係性を向上させられるような人材に出会うことができました。
一方、中長期的な課題には、若手人材の獲得と定着が不可欠です。奈良県ビジターズビューローが中心となり観光庁の事業の一環で進める「観光人材留学」では、従業員のスキルアップやリフレッシュ、人材不足解消を目的として、繁閑が異なる地域間で、閑散期の従業員を繁忙期の他社へ出向する(留学させる)仕組みを実証中です。実際に留学した従業員はサービスレベルの向上や経験値の蓄積、福利厚生的な効果が確認されており、将来的には若手のキャリア形成の動機づけにもつながる可能性があります。
このように、直近の課題にはシニアの力を活かし、中長期的には若手の採用・定着や育成を図る二本立ての対策が有効です。多世代がそれぞれの強みを発揮できる環境整備こそが、人材の裾野を広げる鍵となります。

2.スキルとキャリアを育む仕組みづくり
JRCでは、若手経営者や後継者を対象に、経営スキルを習得し、事業を変革していくリーダーを育成する「次世代旅館・ホテル経営者育成プログラム」を実施しています。2012年の開始以来、全国で170名以上を育成。財務や人材マネジメントといった実務知識に加え、経営者自身の存在目的を深く掘り下げる点が特徴で、参加者同士が「戦友」として学び合う強固なネットワークも築かれています。
熊本県・黒川温泉の参加者は、本プログラムを契機に従業員の労働環境改善や施設改装に踏み切り、残業時間を約40%削減しつつ利益率を大幅に改善しました。静岡県・熱海温泉の参加者は、経営の視点を「自宿の成長」から「地域全体での成長」へと転換し、地元業者への発注継続や新サービス導入を通じて、顧客満足度を高めた結果、売上を2024年度は2019年度比で165%まで伸ばし、新館開業にもつなげています。
こうした取り組みは個社の業績改善にとどまらず、地域経済や観光産業全体の底上げにも貢献。さらに、卒業生の中には地域の観光協会や業界団体のリーダーとして活動する人材も増えており、プログラムで培われた学びが地域社会へと広がり続けています。観光業界の人材不足やキャリア不透明感を打破する上で、持続的かつ実践的モデルとして期待されています。

3. 地域愛を働きがいにつなげる環境づくり
栃木県那須町では、観光業をはじめ地域全体で働く人を応援する「那須ワークコミュニティ(通称:なすワク)」が始動しました。町内の店舗や施設が協力し、従業員に公式LINEを通じて割引や特典を提供する仕組みで、まるで町全体がひとつの会社のように働き手を支えています。
実証運用には51施設・会員414名(2025年7月4日時点※1)が参加し、9割以上が「地域とのつながりが強くなった」「那須で働いていて良かった」と回答。単なる福利厚生にとどまらず、従業員同士の交流や地域への帰属意識が高まり、働く意欲や満足度の向上につながっています。
今後は地域割引や限定特典に加え、交流イベントやスキルアップ研修も展開予定。地域で働くこと自体を「誇り」や「働きがい」に転換する取り組みとして注目されており、観光産業の人材定着を促す新しいモデルとして全国への広がりが期待されています。
※1 2025年10月1日時点で64施設・会員523名

調査概要
調査名:「観光業界課題調査2025」
調査目的:JKN会員*をはじめとする観光業務従事者の業務実態や課題意識を把握し、地域観光の現状把握および今後の施策立案に資することを目的とする
*JKN会員とは、『じゃらんリサーチセンター』が保有するメールマガジン会員データベースで、観光行政(自治体、観光協会、DMO等)や観光関連事業者(宿泊、交通、IT等)が登録
調査方法:インターネット調査
(メルマガやFAX等でアンケートを依頼(アンケート画面のURLを送付)し、専用のweb画面で回答していただく形式)
調査期間:2025年7月29日(火)〜9月2日(火)
調査対象者:JKN会員および行政施設及びじゃらんの宿クライアント
※回答者の所属先別の人数は以下の通り(割付回収なし)

詳細は下記リンクよりPDFをご覧ください
https://www.recruit.co.jp/wp-content/uploads/2025/10/20251023_YCHRT9_01.pdf
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