あらゆる種類の光源下でも良好な色再現を実現する有機CMOSイメージセンサ技術を開発
パナソニック ホールディングス株式会社は、有機膜の高い光吸収率による光電変換層の薄膜化と、電気的な画素分離技術により、混色を抑えた、良好な色再現技術を開発しました。本技術では、光電変換を行う有機薄膜と電荷蓄積および読み出しを行う回路部を完全独立に設けた独自の積層構造により、緑、赤、青の各画素において、対象外の波長域では感度を抑え低混色な分光特性を達成できることから、光源の種類によらず正確な色再現が可能となります。
【概要】
従来のベイヤ配列のシリコンイメージセンサは、緑、赤、青の色分離性能が十分ではないため、例えば、シアン光やマゼンタ光のような特定波長にピークをもつような光源下では、正確な色再現、および色の認識や判定が困難でした。
当社の有機CMOSイメージセンサは、光を電気信号に変換する光電変換部を有機薄膜で、信号電荷の蓄積および読み出しを行う機能を下層の回路部で、それぞれ完全独立に行う構成となっています(図1)。これにより、従来のシリコンイメージセンサとは異なり、シリコンの物性によらない光電変換特性を持たせることが可能です。さらに、高い光吸収率をもつ有機膜により薄膜化を実現しました((1)光電変換層薄膜化)。画素の境界部には電荷排出用の電極を設けることで、画素境界部の入射光による信号電荷を排出し、隣接画素からの信号電荷の侵入を抑制します((2)電気的画素分離)。また、有機薄膜の下部は有機薄膜で発生した信号電荷を捕集するための画素電極と前述の電荷排出用電極で覆われた構造のため、有機薄膜で吸収しきれなかった入射光が回路部側に透過することを抑制します((3)光の透過抑制構造)。以上の技術により、隣接画素から侵入する光や信号電荷を抑制することが可能です。そのため、図2に示す分光特性のように混色を十分低く抑えることができ、光源の色(スペクトル)によらず正確な色再現を実現しています(図3)。
本技術により、例えばマゼンタ光を使用する植物工場のように、イメージセンサにとって本来の色の再現が難しい環境下においても、正確な色の再現、検査が可能になります。また、生体のような微細な色変化をもつ物質の正確な色再現も期待できるため、肌状態の管理や健康状態のモニタ、青果の検査等への応用も期待できます。
さらに、当社の有機CMOSイメージセンサの高飽和特性やグローバルシャッタ機能(※1)と合わせて、光源の種類や照度、速度の変化に強い、ロバスト性の高い撮像システムの構築に貢献していきます。
(1)最大10倍の光吸収による「光電変換膜薄膜化技術」
(2)画素境界の不要電荷を排出する「電気的画素分離技術」
(3)光が光電変換部で透過するのを抑制する「光の透過抑制構造」
(1)最大10倍の光吸収による「光電変換層薄膜化技術」
今回開発した有機薄膜は、光吸収係数がシリコンと比較し最大約10倍高いため(図4)、光の吸収に必要な距離を短くすることができます。その結果、シリコンフォトダイオードに対して有機膜を薄く設計でき、混色の要因である隣接画素からの斜入射光を原理的に低減することが可能です(図5)。
(2)画素境界の不要電荷を排出する「電気的画素分離技術」
画素境界部で生成された電荷は、斜入射光による隣接画素由来の信号電荷も含むため、いわゆる混色や解像度低下の一因となります。従来のシリコンイメージセンサでは画素の境界部に遮光層を設けて斜入射光を防いでいますが、遮光層で反射した光が迷光となり隣接画素に侵入したり、遮光層を回折にて光が回り込んで侵入するなど不十分な面がありました。
そこで当社は、画素の境界部に電荷排出用の電極を配することで、画素境界部の入射光による信号電荷を排出し、隣接画素からの信号電荷の侵入を抑制する構造を開発しました。電荷排出電極を設けることで、画素境界部で生成された電荷は排出されるため、上記画質劣化を抑制することが出来ます(図6)。
光電変換部(シリコンイメージセンサではフォトダイオード、有機CMOSイメージセンサでは有機薄膜)に入射した光は光電変換され、信号電荷に変換されます。しかし、一部の光は光電変換されず透過して混色の一因となります。特に青色光に比べて長波長でエネルギーの低い赤色光は透過しやすく、影響が大きくなります。
従来のシリコンイメージセンサでは波長600 nmの光は約20%透過しますが、開発した有機CMOSイメージセンサでは透過は約1%と大幅に抑制されました(図7)。有機薄膜の下部は信号電荷を捕集するための画素電極と前述の電荷排出用電極で覆われた構造です。そのため、有機薄膜で吸収しきれなかった入射光は電極で吸収もしくは反射して再度有機薄膜を通過することで吸収されます。また、画素電極と電荷排出用電極の間は僅かであるため、有機膜下部に光が透過しにくい構造となっています。
https://news.panasonic.com/jp/press/jn180214-1
【学会発表情報】
本技術の一部は、2023年3月15日~3月16日に英国ロンドンで開催された国際会議Image Sensors Europe2023にて発表しました。
【用語の説明】
[1]ベイヤ配列
色情報を取得するために各画素に搭載されているカラーフィルターの配列のひとつで、RGGBの4画素単位に繰り返し配列される。各画素はR,G,Bのいずれかの色情報しか持たないため、周りの画素からその他の色情報を補間する。
[2]混色
ある画素の信号が隣接画素に混入すること。ベイヤ配列のイメージセンサにおいては、隣接画素で色が異なるため、色信号が混じり、正確な色が再現できない状態となる。
[3]色再現性
撮像した画像が実際被写体の色をどれだけ再現できるか。イメージセンサの分光特性、光源のスペクトル、被写体の反射スペクトルに影響される。
【お問い合わせ先】
パナソニック ホールディングス株式会社
広報担当Email:crdpress@ml.jp.panasonic.com
【概要】
従来のベイヤ配列のシリコンイメージセンサは、緑、赤、青の色分離性能が十分ではないため、例えば、シアン光やマゼンタ光のような特定波長にピークをもつような光源下では、正確な色再現、および色の認識や判定が困難でした。
当社の有機CMOSイメージセンサは、光を電気信号に変換する光電変換部を有機薄膜で、信号電荷の蓄積および読み出しを行う機能を下層の回路部で、それぞれ完全独立に行う構成となっています(図1)。これにより、従来のシリコンイメージセンサとは異なり、シリコンの物性によらない光電変換特性を持たせることが可能です。さらに、高い光吸収率をもつ有機膜により薄膜化を実現しました((1)光電変換層薄膜化)。画素の境界部には電荷排出用の電極を設けることで、画素境界部の入射光による信号電荷を排出し、隣接画素からの信号電荷の侵入を抑制します((2)電気的画素分離)。また、有機薄膜の下部は有機薄膜で発生した信号電荷を捕集するための画素電極と前述の電荷排出用電極で覆われた構造のため、有機薄膜で吸収しきれなかった入射光が回路部側に透過することを抑制します((3)光の透過抑制構造)。以上の技術により、隣接画素から侵入する光や信号電荷を抑制することが可能です。そのため、図2に示す分光特性のように混色を十分低く抑えることができ、光源の色(スペクトル)によらず正確な色再現を実現しています(図3)。
本技術により、例えばマゼンタ光を使用する植物工場のように、イメージセンサにとって本来の色の再現が難しい環境下においても、正確な色の再現、検査が可能になります。また、生体のような微細な色変化をもつ物質の正確な色再現も期待できるため、肌状態の管理や健康状態のモニタ、青果の検査等への応用も期待できます。
さらに、当社の有機CMOSイメージセンサの高飽和特性やグローバルシャッタ機能(※1)と合わせて、光源の種類や照度、速度の変化に強い、ロバスト性の高い撮像システムの構築に貢献していきます。
【特徴】
本開発は、以下の技術により実現しています。(1)最大10倍の光吸収による「光電変換膜薄膜化技術」
(2)画素境界の不要電荷を排出する「電気的画素分離技術」
(3)光が光電変換部で透過するのを抑制する「光の透過抑制構造」
(1)最大10倍の光吸収による「光電変換層薄膜化技術」
今回開発した有機薄膜は、光吸収係数がシリコンと比較し最大約10倍高いため(図4)、光の吸収に必要な距離を短くすることができます。その結果、シリコンフォトダイオードに対して有機膜を薄く設計でき、混色の要因である隣接画素からの斜入射光を原理的に低減することが可能です(図5)。
(2)画素境界の不要電荷を排出する「電気的画素分離技術」
画素境界部で生成された電荷は、斜入射光による隣接画素由来の信号電荷も含むため、いわゆる混色や解像度低下の一因となります。従来のシリコンイメージセンサでは画素の境界部に遮光層を設けて斜入射光を防いでいますが、遮光層で反射した光が迷光となり隣接画素に侵入したり、遮光層を回折にて光が回り込んで侵入するなど不十分な面がありました。
そこで当社は、画素の境界部に電荷排出用の電極を配することで、画素境界部の入射光による信号電荷を排出し、隣接画素からの信号電荷の侵入を抑制する構造を開発しました。電荷排出電極を設けることで、画素境界部で生成された電荷は排出されるため、上記画質劣化を抑制することが出来ます(図6)。
(3)光が光電変換部で透過するのを抑制する「光の透過抑制構造」
光電変換部(シリコンイメージセンサではフォトダイオード、有機CMOSイメージセンサでは有機薄膜)に入射した光は光電変換され、信号電荷に変換されます。しかし、一部の光は光電変換されず透過して混色の一因となります。特に青色光に比べて長波長でエネルギーの低い赤色光は透過しやすく、影響が大きくなります。
従来のシリコンイメージセンサでは波長600 nmの光は約20%透過しますが、開発した有機CMOSイメージセンサでは透過は約1%と大幅に抑制されました(図7)。有機薄膜の下部は信号電荷を捕集するための画素電極と前述の電荷排出用電極で覆われた構造です。そのため、有機薄膜で吸収しきれなかった入射光は電極で吸収もしくは反射して再度有機薄膜を通過することで吸収されます。また、画素電極と電荷排出用電極の間は僅かであるため、有機膜下部に光が透過しにくい構造となっています。
今後、これらの有機CMOSイメージセンサ技術を、業務放送用カメラ、セキュリティ用カメラ、産業検査用カメラ、車載用カメラなど幅広い用途に提案し、光源種や照度、速度の変化に強い、ロバスト性の高い撮像システムの構築に貢献していきます。
※1[プレスリリース]有機薄膜を用いたCMOSイメージセンサによる、8K高解像度、高性能グローバルシャッタ撮像技術を開発
https://news.panasonic.com/jp/press/jn180214-1
【学会発表情報】
本技術の一部は、2023年3月15日~3月16日に英国ロンドンで開催された国際会議Image Sensors Europe2023にて発表しました。
【用語の説明】
[1]ベイヤ配列
色情報を取得するために各画素に搭載されているカラーフィルターの配列のひとつで、RGGBの4画素単位に繰り返し配列される。各画素はR,G,Bのいずれかの色情報しか持たないため、周りの画素からその他の色情報を補間する。
[2]混色
ある画素の信号が隣接画素に混入すること。ベイヤ配列のイメージセンサにおいては、隣接画素で色が異なるため、色信号が混じり、正確な色が再現できない状態となる。
[3]色再現性
撮像した画像が実際被写体の色をどれだけ再現できるか。イメージセンサの分光特性、光源のスペクトル、被写体の反射スペクトルに影響される。
【お問い合わせ先】
パナソニック ホールディングス株式会社
広報担当Email:crdpress@ml.jp.panasonic.com
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