〈小説現代長編新人賞〉受賞作決定!「死」と向き合う納棺師を描く、喪失と救いの物語。選考委員特別賞は、少し不思議な恋愛小説

株式会社講談社

今村翔吾氏、塩田武士氏、中島京子氏、凪良ゆう氏、宮内悠介氏、薬丸岳氏を選考委員に迎えた第19回小説現代長編新人賞(主催:株式会社講談社)に、朝宮夕さんの「薄明のさきに」が選ばれました。また選考委員特別賞が、迂回ひなたさんの「梅咲く頃にまた会おう」に贈られます。

受賞作が発表された「小説現代」3月号(左)と、受賞作「薄明のさきに」の抄録が掲載されている「小説現代」4月号(右)

受賞作「薄明のさきに」はタイトルを変更の上、7月に小社より単行本として発売されます。贈呈式は同月開催予定です。抄録は、発売中の「小説現代」4月号でお読みいただけます。

選考委員特別賞受賞作「梅咲く頃にまた会おう」もタイトルを変更の上、小社より単行本として刊行を予定しています(時期未定)。

第19回小説現代長編新人賞は、2024年7月31日の〆切までに、郵送とWEBであわせて641編の応募がありました。

101編が1次選考を通過し、さらに2次選考の結果16編が3次選考へ進み、最終候補に5作品が選ばれ、今村翔吾氏、塩田武士氏、中島京子氏、凪良ゆう氏、宮内悠介氏、薬丸岳氏の6名の選考委員による選考の結果、朝宮夕さんの「薄明のさきに」の受賞が決定しました。

葬儀会社を舞台に、納棺師が直面するシビアな「生」と「死」の現場を描き、選考委員から「執念の如き力を感じた」(今村翔吾さん)、「納棺作業のリアリティには他者にない強さがあった」(塩田武士さん)、「チャレンジングな作品」(中島京子さん)、「心情の繊細な移り変わりを丁寧に描いていた」(凪良ゆうさん)、「死という普遍的なテーマが常にそこにあるためか、小さな会社の物語なのに、それ以上のスケールが感じられる」(宮内悠介さん)、「この物語や題材に唯一無二の魅力を感じて一番に推した」(薬丸岳さん)との評価を集めました。

また、選考委員特別賞に、迂回ひなたさんの「梅咲く頃にまた会おう」が選ばれました。大学生の青年が、幽霊になった初恋の人と再会を果たす物語。選考委員の凪良ゆうさんから「小説は楽しい、ということを伝えられる強さを持っている作品」と強く推されました。

選評の全文は、「小説現代」3月号(電子版配信中)および文芸ニュースサイト「tree」に掲載されています。

受賞者略歴

朝宮 夕(あさみや・ゆう)

神奈川県横浜市出身。受賞作は小説初執筆にして、初めて公募に応募した作品。

受賞の言葉

 この度は、第19回小説現代長編新人賞を賜り、大変光栄に感じております。

 受賞の連絡をいただいた翌日は、雲ひとつない晴天でした。

 明け方からずっと有明の月が浮かんでいて、どこまでも透き通った空を見ていたら、なぜ私はこの作品を書いたのか、何を書きたかったのかを今一度考えたくなりました。

 執筆のきっかけは、極めてネガティブなものです。人生の節目を前に、後にも先にも『何もない』と覚る出来事があり、すべてを放り出そうとしました。もういい。何かあるとすぐにそれを口にするのが私の悪い癖です。でも、何もない日々を過ごす中で、ひとつくらい自分の力で何かをやり遂げたい。そんな気持ちが芽生えました。何をやっても全部中途半端だったから、せめて最後くらい。そんな動力が、この作品のはじまりです。

 人間とは、欲深い生き物です。「書き上げたい」だけだった感情が、次第に「誰かに見てほしい」気持ちへと変わり、最後は「たくさんの人に届けたい」と思うようになっていました。

 この物語には、奇妙なほどリアルな「死」と、その傍らで「生」きる彼らの日々を詰め込みました。

 彼らにたくさんのものを背負わせたのは、その質量も感じ方も人それぞれであり、みんな同じ人「生」だからです。目を逸らしたくなるほど鮮明な死を追求したのは、人の最期がどんな形であれ、同じ「死」だからです。優劣も、善悪も、陽も陰も比較もない。大切なのは理解ではなく知ること。そこで初めて人は人に寄り添えるのだと思います。この作品が誰かを想うきっかけになることを心から願っています。

 最後に、拙作を読んでくださった編集部の方々、そして選考委員の皆様には、深く、深く感謝申し上げます。本当にありがとうございました。

 私には小説を書く技術も、知識も、経験もありません。でもこれは、私にしか書けない物語です。そして、ここから先をどう進むかは自分次第だと重く受け止めています。まずは栄えある賞に恥じぬよう、その一歩目をしっかり踏み出していきたいと思います。

「薄明のさきに」あらすじ

 納棺師・遺品整理士・生花装飾技能士といった葬儀関係のプロが集まる「株式会社C・F・C」。中でもとりわけ損傷の激しい遺体を専門とする特殊復元処置衛生課・通称「二課」に数年ぶりの新入社員がやってきた。

 就職活動に苦戦し、受かったのはここだけだと話す東雲。自分の意志も夢も持てず「僕には何もない」と感じて生きてきた彼は、課長の有明から「君は僕の大本命」と期待されるも、その真意を計りかねていた。しかし指導担当となる若手納棺師・八宵の施行に生まれて初めての憧れを抱き、自ら二課を志望してきたのだった。

 二課には様々な遺体が運ばれてくる。数日後が高校の入学式だった少年、年を取ることが怖いと工場の冷凍庫に飛び込んだ若者、幼い子どもを残して不慮の事故に見舞われた母親──。葬儀会社の無理な要望に翻弄され、遺族のケアにも奔走しながら、傷を直し、髪型を整え、生前好きだったアクセサリーを付け、着るはずだった制服や、小さなドレスを着せていく。遺族が最後に顔を見られるように。

 東雲が仕事に慣れ始めたある日、飛び降り自殺の遺体が運び込まれる。八宵の過去の大きな傷を知った東雲は彼女の心を救いたいと願い、ともに遺体の修復へ向かう。

 愛する人が突然いなくなった時、どうすれば前に進めるのか。あの人はなぜ命を絶ったのか。遺された者はどう生きればいいのか──。死んだように生きていた東雲と、それぞれ”喪失”を抱えた二課の面々は、納棺師の仕事を通じ、自分の居場所と明日を生きる微かな光を見出していく。

選考委員特別賞受賞者略歴

迂回ひなた(うかい・ひなた)

1993年新潟県新潟市出身。鎌倉女子大学卒業。趣味は日記を書くこと、イラスト、LINEスタンプを作ること。

受賞の言葉

 選考会の当日、私は結果を待ちながら、次回の小説現代長編新人賞に送る原稿を書いていました。「今回受賞できずとも、また挑戦しよう」。不安と少々の期待が入り混じる中、「選考委員特別賞を受賞されました!」という電話をいただきました。

 一人の選考委員の方が強く推してくださり、今回特別に受賞に至ったとのことで、感無量でした。選考委員の先生方が拙作に眠る可能性を見つけて下さったこと、今後に期待して特別にチャンスを下さったこと、全てがうれしく、大変光栄です。幼い頃から、信念は道を拓くと信じてきました。主人公たちが物語を通じて選考委員の先生方にその思いを届け、作家の道を拓いてくれたのではないかと思います。

 初夏のある夜、いつものように海辺に出かけた私は、ノートを開いてぼんやりしていました。波の往来を眺めていると、突然『恨んでるって聞いたから』というフレーズが浮かんだのです。よくわからぬままメモをすると、『呪い殺すに値しない』『今の遺恨はどんくらい?』『この世に転生してもなお』とフレーズは続きます。四つ並んだ時点でこれは物語なのだと気づきました。浮かんだフレーズをそのまま章のタイトルとし、長編小説に仕上げていきました。完成するまでの期間、もう間に合わないかもしれないと焦って眠れない夜もありましたが、必死に書き続けました。慌ただしかったですが、充実した、とても楽しい時間でした。

 回り道だけど日向道。これが私の合言葉であり、筆名の由来です。たとえ回り道することがあっても、読んで下さる方の心に小説を通してあたたかな「日向」を届けたい。いつもそんな思いで小説を書いています。今回の作品も、これから書く作品も、誰かの心を優しく照らす一冊となったら、こんなに幸せなことはありません。

 最後になりますが、選考委員の先生方をはじめ、選考に関わって下さった全ての方に改めて感謝申し上げます。選考の過程で見つけていただいた多くの改善点と真摯に向き合い、選考委員特別賞を頂戴した者として恥ずかしくない存在になれるよう精進します。本当にありがとうございました。

「梅咲く頃にまた会おう」あらすじ

「一生……恨むよ……」

 大学2年の夏、若梅は思いがけず普段あまり関わりのない男女4人と共に、自身の地元である「畦の峠」へ赴くことに。この峠にはSNSにアップロードされた動画で幽霊が出ると有名になった廃病院「あぜのとうげ病院」があり、4人は肝試しを計画したようだ。ただ、若梅には他の目的があった。

 怖がる4人と共に夜の廃病院の中に入った若梅の前に現れた、少女の幽霊。彼女は海老原小梅という、7年前に13歳でこの病院で亡くなった、若梅の大切な友人だった。「一生恨む」という動画内の声に聞き覚えのあった彼は、小梅が成仏できていないのは自分のせいではないか、と考えこの病院を訪れたのだ。

 無事に小梅と再会した若梅。自身の心残りを話すが、小梅に一蹴される。そして、奇跡のようなひと時を過ごすことに。しかし、突然小梅の体が光りだし、消えてしまう。小梅は成仏した、かに思えた。

 肝試しをしたグループの中にいた牧りりあ。小梅は自分でもわからないまま、りりあの体に憑依してしまった。若くして亡くなり、過ごせなかった時間を取り戻すように、小梅はりりあとしてバイトや遊びなど、大学生の夏休みを過ごす。異変に気がついた若梅は、小梅をサポートしながらも、りりあの人生を奪っている状態を懸念し、成仏するために「心残りを解消しよう」と提案。小梅はこれを了承した。小梅の心残りとは一体なんだったのだろうか。

 甘酸っぱい中にわずかな塩気が混じる、小梅と若梅が過ごした奇跡のような一夏の物語。

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業種
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本社所在地
東京都文京区音羽2-12-21
電話番号
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代表者名
野間省伸
上場
未上場
資本金
3億円
設立
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