Innovation for Cool Earth Forum 第9回年次総会(ICEF2022)開催報告

15セッション開催、87の国・地域から約1,600名参加。「低炭素アンモニア」「ブルーカーボン」2つのロードマップ作成

経済産業省と国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構は、経済産業省がエネルギー・環境分野の10の国際会議を一体的に実施する「東京GXウィーク」の一環で、「Innovation for Cool Earth Forum 第9回年次総会(ICEF2022)」を開催しました。
ICEF2022は、地球温暖化対策の鍵を握る技術革新を世界の産学官のリーダーが協議する国際会議で、全15セッション開催、87の国・地域の政府、国際機関、産業界、学界から約1,600名が参加しました。

    【開会式:田中伸男ICEF運営委員長ご挨拶】   【若手登壇者と運営委員による座談会セッション】

キーノートでは、カーボンニュートラル達成に向けて様々な課題がある中、エネルギー安全保障の現状や、それに対するイノベーションの重要性・必要性、注目しているイノベーションなどについて、対談、講演、メッセージ上映を行いました。
・キーノート1   ファティ・ビロル IEA事務局長、田中伸男ICEF運営委員長による対談
・キーノート2   ゲルト・ミュラーUNIDO事務局長のビデオメッセージ
・キーノート3   フランチェスコ・ラ・カメラ IRENA事務局長、田中伸男ICEF運営委員長による対談
・キーノート4   ラーム・エマニュエル駐日アメリカ合衆国大使の講演

                          【原子力セッションにおけるエマニュエル駐日米大使と田中委員長】

各セッションでは、「Low-Carbon Innovation in a Time of Crises」をメインテーマとして、政策イノベーション、二酸化炭素除去技術、持続可能な原子力システム、重要金属・鉱物の安定供給を支えるイノベーションなどの議論を繰り広げました。その成果として、これら一連の議論に基づいたステートメントを発表しました。
各セッションの模様はYouTubeチャンネルでオンデマンド配信します。
《YouTubeチャンネル》https://www.youtube.com/channel/UC7ouNL9NbvDomDTfiubi8iw

また「低炭素アンモニア」と、「ブルーカーボン」の2つのロードマップを作成。ロードマップは2022年11月にエジプトで開催されるCOP27(国連気候変動枠組条約第27回締約国会議)と、上海で開催されるBNEFサミットで発表します。

【ステートメント】
ステートメントは“危機の時代における低炭素イノベーション”というICEF2022主題の下の議論に基づき、私たちが直面する様々な危機、そのような不確実性と困難な挑戦の下でのチャンスとそれを現実のものとする多様なアプローチの重要性を取り上げました。2030年までにアクションを加速させる必要性と実行を伴うイノベーションについて焦点をあて、政策立案のイノベーション、トランジションのためのイノベーションとともにCO2除去・利用、原子力、熱及び運輸分野における水素や合成燃料、希少鉱物といった供給面と、更なる省エネルギー、あらゆる分野での再生可能エネルギーの利用促進といった需要面の様々な選択肢を強調しています。
本リリースの最後に、全文を掲載しております。

【ロードマップ】
ICEFでは、二酸化炭素利用や、二酸化炭素の直接空気回収(DAC)、産業用途熱の脱炭素化、バイオマス炭素除去・貯蔵(BiCRS)、炭素鉱物化など、長期的ネット・ゼロ・エミッションを牽引することが期待される技術を採り上げ、そのロードマップを作成しています。
今年度の「Low-Carbon Ammonia」ロードマップは、ICEFでの記念すべき10本目のロードマップとなります。10本目のロードマップ作成を記念しリーフレットも作成しました。

1.ICEF2022 ロードマップ:「Low-Carbon Ammonia」 (ドラフト)

ICEFの「Low-Carbon Ammonia」ロードマップは、現代社会の必須素材であるアンモニアを取り上げます。アンモニアの製造プロセスで排出されるCO2を回収し、地下や長寿命製品に貯蔵する方法やゼロカーボン電源の電力を使って水から水素を分離する方法により製造される低炭素アンモニアは、化石燃料の代替え燃料や余剰再生可能エネルギーの貯蔵に利用することが可能であり、排出量を大幅に削減可能となります。
ロードマップでは、今日のアンモニア産業、生産規模を拡大するためのインフラの必要性など低炭素アンモニアの生産コストを削減するための戦略、数年内に利用可能な低炭素アンモニアを使用した排出量削減策、アンモニアの安全性と地域環境への影響、研究開発の必要性、政策オプションなどを検討・提言しています。

2.ICEF2022 ロードマップ:「Blue Carbon」 (概要)
ICEFの「Blue Carbon」ロードマップは、ブルーカーボンがネット・ゼロ・エミッションに貢献する可能性を探るものです。ロードマップでは、マングローブ、干潟、藻場、天然の大型藻場、およびコンブやホンダワラなどの大型藻類の養殖によって回収・蓄積されるCO2をブルーカーボンと定義しています。ブルーカーボンは、生態系の保全、修復及び再生、加えて海藻の養殖生産の増加によって、2050年までに世界で年間0.5〜1.5GtCO2eqの削減効果があると推定されています。ロードマップでは、最新の科学的知見、今後期待される研究開発分野、今後起こりうる制度・政策・環境に関する考察を整理するとともに、ブルーカーボンの吸収量を増やし、生態系の消失による排出量を削減するための道筋を提示しています。

ICEF年次総会で公開された低炭素アンモニアロードマップ(ドラフト)およびブルーカーボンロードマップ(概要)は、ICEF2022での議論に加え、パブリックコメントを募ります。コメントの反映、修正を経て、COP27で、低炭素アンモニアロードマップについては正式版、ブルーカーボンロードマップについてはドラフト版を発表する予定です。詳細は、ウェブサイトをご参照ください。
https://www.icef.go.jp/jp/roadmap/?utm_source=media&utm_medium=pt&utm_campaign=rm

パブリックコメント送付先 :
・低炭素アンモニア:icefroadmap22@gmail.com
・ブルーカーボン:ICEFRoadmap2022-bc@convention.co.jp
※コメントは英語でお願いいたします
※締め切り:2022年10月15日(土)(JST)



【ICEF2022開催概要】
《会議名》Innovation for Cool Earth Forum第9回年次総会 (ICEF2022)
《ICEFウェブページ》
 https://www.icef.go.jp/jp/?utm_source=media&utm_medium=pt&utm_campaign=tp2
《セッション数》15
《参加者数》87の国・地域から約1,600名
《YouTubeチャンネル》https://www.youtube.com/channel/UC7ouNL9NbvDomDTfiubi8iw
《主催》経済産業省、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構
《共催》外務省、文部科学省、農林水産省、環境省
《後援》国際エネルギー機関、国際連合工業開発機関、BloombergNEF
《日程》10月5日(水)8:30~18:35、10月6日(木)9:00~17:00
《場所》ホテル椿山荘東京(住所:東京都文京区関口2-10-8)、オンライン



参考資料

【ステートメント全文(仮訳)】
“危機の時代における低炭素イノベーション”という主題の下、ICEF(Innovation for Cool Earth Forum)の第9回年次総会(https://www.icef.go.jp/)は2022年10月5日と6日に、エネルギー・環境問題を幅広く議論する10の会議「東京GXウィーク」のイニシアチブとして、対面とオンラインのハイブリッド形式で開催された。今回のイベントには、87の国・地域を代表する政府、国際機関、産業界、学術界から1,600人以上が参加した。ICEF2022の閉会に当たり、運営委員会は、一連の議論に基づき以下のステートメントを発表する。

1.私たちが直面する様々な危機
・今年は世界の多くの地域の人々が、記録的な高気温や破滅的な山火事、洪水、渇水を経験し、人命や自然が脅威にさらされた。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)第6次報告書は、現状のままでは地球の平均気温上昇を1.5℃以下に抑えることは困難であることを指摘した。すべての分野で、速やかに大幅な排出削減に取り組まない限り、1.5℃は手が届かないものとなり、より多くの分岐点を越えてしまう危険が増してしまう。2℃以下の抑制すら益々困難になりつつある。
・加えて、新型コロナやウクライナ戦争は衝撃的であっただけでなく、私たちのエネルギーや食糧のシステムに劇的な混乱を引き起こすことになった。ウクライナ戦争は様々なエネルギー市場に影響を及ぼし、多くの地域のエネルギー安全保障が脅威にさらされることになった。
・その結果、石炭の使用と二酸化炭素の排出はともに増加している。また、私たちはインフレという差し迫った課題、特にエネルギーと食料品の価格高騰とサプライチェーンの混乱に直面している。
・これらの危機により、国際機関、国内機関はともにグローバルな課題対処において脆弱であることを晒すことになった。
・そして、困難な社会経済情勢への人々の不満や怒りから、世界の一部の地域では社会情勢の悪化、政治を巡る暴力も散見されている。

2. 私たちのチャンス:多様なアプローチ
・2014年の発足以来、ICEFは気候変動への解決策としてイノベーションを促進してきた。このような不確実性と連鎖的な課題において、イノベーションは益々重要性を増している。現在の再生可能エネルギーの急速なコストダウンと大規模な普及は、革新的な変化が可能であることを証明した。そして今、私たちは、他の分野やセクターでも革新的な変化を起こさなくてはならない。政府も民間も、クリーンエネルギー技術へのR&Dインセンティブや投資にはかつてないほど高い意欲を持っている。各国の化石燃料依存からの脱却に向けた取組は、中長期的にクリーンで確実なエネルギートランジションを加速していくだろう。
・こうした可能性を現実のものとするには、多様性が必要である。多様なアプローチは、異なる技術の間の健全な競争を生み、イノベーションの源泉となり普及に貢献する。
・そして、多様性は、リジリエンス(強靭性)のため重要であり、リスクと不確実性に対応する能力を高める。エネルギー安全保障への対応やポストコロナ時代への移行は、我々の社会を転換しているが、イノベーションはこれらにとって不可欠である。
・ICEFはこれまでも多様性、インクルーシブネス(包摂性)を尊重してきた。ICEFは、異なる道筋の国や地域、様々な技術分野、産学官、その他多くの関係者の間の議論を促進するだけでなく、多様な世代からの発表者、ジェンダーバランスの取れた発表者の選定を重視してきた。

3. 2030年の前にアクション(実行)を加速させる必要
・カーボンニュートラル目標を掲げ、気候変動政策に関する法律を導入する国や地域が増える一方で、二酸化炭素の排出量は、新型コロナによるロックダウンで2020年に一時的に減少した後、2021年には再び増加に転じ過去最高レベルとなった。短期的には排出量の増加は残念ながら続くだろう。IPCC第6次報告書は、50%の確率で気温上昇を1.5℃以下に抑えるための2020年以降容認できる排出量(カーボンバジェット)は、世界で500ギガトンと試算している一方、現存する化石燃料施設を使い続けるだけでも2018年から施設の寿命が尽きるまでの間に610ギガトンの二酸化炭素が排出されるとしている。私たちはこのようなペースを続けるわけにはいかず、できるだけ早くトレンドを逆転させなくてはならない。
・今世紀半ばにカーボンニュートラルを実現するためには、2030年までの10年間が極めて重要であり、イノベーションとその普及を加速する必要があることに疑問の余地はない。

. 実行を伴うイノベーション
・エネルギー安全保障と地政学の議論が沸き起こる中、ICEF2022では、この分野をリードする専門家たちが、(1)どのようにしてイノベーションはカーボンニュートラルとエネルギー安全保障の双方に貢献できるか、(2)どのような実施可能なアプローチが2030年までのトランジションを加速させるために必要か、を議論した。
・イノベーションは技術に限った話ではなく、政策立案にもイノベーションが必要である。エネルギーに関わる地政学の重要性が再認識される中、エネルギー安全保障とエネルギートランジションが、バランスの取れた形で、かつ、合理的に追及されなければならない。脱炭素社会実現のため、公平な市場環境、枠組みの整備が必要である。普及のための新しい産業政策が必要になっている。
・トランジションは、社会経済への影響に配慮し、誰も取り残さないことを確保することが必要である。したがって、イノベーションがどのようにして経済の発展とカーボンニュートラルの両立に貢献するのか検討する必要がある。多くの国において経済成長のために未だ化石燃料に依存していることから、エネルギートランジションへの挑戦において化石燃料の賢明な活用をどのように追及するか答えを得る必要がある。
・イノベーションには様々な選択肢がある。ICEFでは供給面、需要面の両方から様々な技術の選択肢について深く議論した。供給面では二酸化炭素除去・利用、原子力、熱及び運輸分野における水素や合成燃料、希少鉱物について詳細に検討された。需要面では更なる省エネルギー、あらゆる分野での再生可能エネルギーの利用促進が強調された。
・カーボンニュートラル達成にはあらゆる種類の二酸化炭素除去技術が必要となる中で、特に拡大するR&Dやガバナンスにおいて、これらの技術の環境十全性を如何に確保するかについて議論を行った。

5. 終わりに
ICEFは、元来そのDNAとして多様性とインクルーシブネスを尊重してきた。多様なスピーカーの方々に登壇していただくことを常に大切にし、その参加を祝福してきた。とりわけ、今年は、2050年頃の持続可能で強靭かつ包摂的な社会をリードし定義する若い世代の代表者の声を聴くことを意識した。ICEFは、様々なステークホルダーとともに、カーボンニュートラルに向け、技術的、社会的なイノベーションへのより強力なモーメンタムを生み出していくことに引き続き深くコミットしていく。

 

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