「復職可能」の主治医診断書、職場でどう読まれるか 第23回日本うつ病学会総会・第50回日本自殺予防学会総会にて
産業医不在の中小企業で生じる診断書解釈のズレを学会シンポジウムで報告。2028年のストレスチェック義務化を見据え、制度実施後の支援体制に残る課題を提起

株式会社きしもと産業保健事務所(代表取締役:岸本雄)は、2026年7月に開催された「第23回日本うつ病学会総会・第50回日本自殺予防学会総会」において、弊社代表取締役社長の岸本雄が、シンポジウム「労働者の診断書:うつ状態や適応反応症と記載するとき、受け取ったとき」に登壇したことをお知らせいたします。

■2028年、小規模事業場にもストレスチェックが義務化
2028年4月1日から、これまで努力義務であった労働者数50人未満の事業場にも、ストレスチェックの実施が義務付けられます。
一方、常時50人未満の労働者を使用する事業場には、産業医の選任義務がありません。
このため、ストレスチェックを契機に労働者から面接の申出があった場合、誰がその後の対応を担うのかという問題が生じます。
さらに、就業上の配慮や休職が必要となった場合、その妥当性をどのように検討するのか、精神科を受診した結果「異動を要する」「フルリモート勤務を要する」といった意見が出されたものの、会社がその配慮を現実的に提供できない場合、どのように対応すべきか、会社は難しい判断を下さなければなりません。
主治医診断書は、産業医が選任されていない会社にとって、労務判断を行う際の重要な医学的資料です。
しかし診断書だけでは、会社が判断を下すのに必要な情報を網羅的に知ることはできません。
会社は医学的なバックアップがないまま、診断書の行間を読もうとします。その結果、本人、主治医、会社の間で診断書の解釈にズレが生じ、混乱につながるという構造があります。
今回のシンポジウムでは、診断書を作成する主治医側と、それを受け取る会社・産業保健側とでどのような問題が生じているのか、また両者がどのように連携することが望ましいのかを議論しました。
■診断書の解釈のズレを減らすための3つの実務ポイント
今回の議論から、特に重要と考えられた3つのポイントを紹介します。
1.会社が主体的に勤務情報を整理し、主治医へ提供する
主治医が復職について意見を述べるためには、復職後に本人が担う具体的な業務、会社が求める業務水準、会社が現実的に提供できる配慮などの勤務情報が必要です。主治医へ復職に関する意見を求める際には、事前に会社側から十分な情報を提供することが重要であるとの意見が示されました。
2.診断書に記載された配慮の「重みづけ」を確認する
主治医診断書に記載されている配慮の重みづけが以下のどれに該当するのか、明確にすることも重要であるという意見がありました。
①その配慮が提供できなければ確実に病状悪化につながるという「就業制限」の意味合いなのか
②その配慮があれば従来の労務提供が可能という「就業配慮」の意味合いなのか
③あくまでも「本人の希望」にすぎないものなのか
これらの区別が不明確な場合、解釈にズレが生じ、本人に提供する配慮内容や就業の可否判断にも大きな影響を与えてしまいます。
会社側はこの配慮の「意味合い」を一歩踏み込んで主治医に確認することが望ましいと考えます。
3.本人同意と情報共有の目的・範囲を明確にする
主治医側のシンポジストだけでなく、会場の医師からも共通して聞かれたのは、「診断書に記載した情報が、休職者の不利益につながるのではないか」という懸念でした。
主治医と情報連携する際には、その必要性、情報の利用目的、共有範囲を本人へ十分に説明し、原則として同意を得たうえで進めることが重要との意見が示されました。

■まとめ
今回の議論を、診断書の「作成前」「発行時」「受領後」の3段階で捉えると、診断書をめぐる課題に対して嘱託産業医に求められる役割が見えてきます。
①作成前には、会社が業務内容や提供可能な配慮を整理し、主治医へ伝えられるよう支援する。
②発行時には、記載された配慮がどのような位置づけに当たるのかを見極め、必要に応じて
主治医への追加照会を支援する。
③受領後には、主治医の意見を職場で実行可能な対応へ翻訳する。
嘱託産業医やスポットで関与する産業医には、この3つの段階をつなぐ「翻訳者」としての役割があると考えています。
■今後も、中小企業のメンタルヘルス不調者対応について検討を続けます
岸本は2026年5月、第99回日本産業衛生学会において、産業医がいない中小企業の復職判断における課題を整理し、勤務情報提供書の試作について発表しました。
今回のシンポジウムは、同じ問題を「診断書が職場でどのように読まれるか」という切り口から捉え直したものです。
今後は社会保険労務士との意見交換を重ね、架空事例を用いた勤務情報提供書の作成ワークショップについても、実施を検討しています。
株式会社きしもと産業保健事務所では、今後も多摩地域を中心に、産業医がいない中小企業のメンタルヘルス不調者対応に取り組んでまいります。
■プロフィール

岸本 雄(きしもと ゆう)
株式会社きしもと産業保健事務所 代表産業医
宮崎大学卒業後、東京大学医学部精神神経科で専門研修を積み精神科専門医を取得。都立松沢病院、東京警察病院で精神科救急、緩和ケア、ビジネスパーソンのメンタルヘルスケアに従事。親族の労災事故を契機に産業医に興味を持ち、日本医師会認定産業医を取得。その後両立支援コーディネーター、産業保健法務主任者、産業衛生学会専攻医の資格を取得。現在はVISIONPARTNERメンタルクリニック四谷の副院長として診療する傍ら、株式会社きしもと産業保健事務所を立ち上げ、多くの事業所で顧問産業医を務める。
近年は、産業医選任義務のない小規模事業所の休職・復職ケースにもスポットで介入。本人面談だけでなく会社側とも密に連携し、復職判断に必要な勤務情報、主治医への照会事項、試し勤務計画の設計、復職基準の整理をサポートしている。
◇公式ウェブサイト
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