性別にとらわれない保育とは?乳幼児のジェンダーに切り込んだ保育用品開発プロジェクトがCAMPFIREで目標達成!
【緊急提案】その「ひな祭り」子どもに悪影響かも? -伝統行事に潜む保育のジェンダー/セクシュアリティ問題-
多様性を考える保育士研究会「にじいろ保育の会」(代表:天野諭)は、SDGs時代を担う多様な子どもたちにマッチした保育用品の開発に取り組んでいます。既存の保育用品「個人マークシール」は、女子にはウサギ・リボン・ケーキ、男子にはライオン・消防車・カブトムシなど、無意識的に男女分けしてしまう傾向がありました。商品開発第1弾は、「ジェンダーニュートラル(中立的)・個人マークシール」を製作、認可保育園を中心に無料提供するプロジェクトです。株式会社CAMPFIRE運営のクラウドファンディングサイト「GoodMorning」にて2月1日より実施し、わずか3日間で目標金額を達成、3月1日には達成率185%にまで到達しました。
- ひな祭りと保育
ひな祭りは、中国から伝来しました。そして、平安時代の人形遊び「ひいな遊び」などの文化が合わさることで日本に根付いてきました。その後、江戸幕府によって5つの節句が制定され、5月5日の「端午の節句」には男子の成長を祝い、3月3日の「桃の節句」には女子の成長を祝うようになったとされています。こうして現代では、女子の健やかな成長への願いが込められた祝いの行事として、各地の特色に合わせたひな祭りが行われるようになりました(下記引用)。
今ではテレビCMでもひな人形が紹介され、家庭でもひな人形を飾ることが定着しています。そして保育園・幼稚園では、ひな祭りに向けて童謡『うれしいひなまつり』が歌われたり、製作活動として子どもの作品が飾られたりします。ひなあられやちらし寿司が、給食で出されることもしばしばあります。とても微笑ましい光景で日本の古き良き伝統が保育園・幼稚園でも脈々と伝承されていることがわかります。
(引用元)
『にほんご日和 日本語でセカイをつなぐ』「日本のひな祭りにはどんな風習がある?ひな人形や桃の節句の由来とあわせて解説」(2020年3月6日)https://haa.athuman.com/media/japanese/culture/1874/?doing_wp_cron=1644809247.4451429843902587890625
『オマツリジャパン』「ひな祭りの意味や由来は?ひな人形はいつまで出すの?ひなまつりを大解説」(2021年3月5日)https://omatsurijapan.com/blog/about-hinamatsuri/
- ひな祭り3つの問題
しかし、このひな祭りという行事、現代のジェンダー/セクシュアリティ視点に合わせてみるといくつか悩ましい問題もあるのです。これは認可保育園乳児クラスのひな祭り(と七夕)の作品製作です。画像をよく見ていただくと、子どもの顔写真が、男子ならお内裏様(と彦星)、女子ならおひな様(と織姫)に貼られています。これは子ども自身がその性位置を選択したわけではありません(筆者が担任保育士に確認)。つまり、保育士が子どもの体の性別をもとに決定し貼り付けています。
①ジェンダー問題
ジェンダーバイアス(男女の固定的イメージ)が、性別違和のある子どもの心の傷に
こうした伝統文化をもとにした保育実践では、体の性別をもとに子どもを二分してしまう実践が今でも多く見られます。実際に子どもが自分の性別についてどのように感じているのかという予測的視点を持たない結果、画像のような保育実践が行われていきます。いうなれば、性別違和のある子どもへの目配せが全くないのです。
まだ小さな子どもにそのような配慮は早計で必要ないのでしょうか?そんなことはありません。岡山大学病院ジェンダークリニックのトランスジェンダー1167人を対象とした調査では、約90%が中学生までに性別違和を自覚しており、57%が小学校入学前までに性別違和を自覚しているとのデータがあります(https://note.com/arasen/n/ne86d9884cc3dより引用)。つまり、性別違和を経験する人の半数以上は、保育園・幼稚園の段階で自覚しているということです。これは大きな数字です。そして、保育園・幼稚園での性別違和のある子どもたちの存在は、2021年大津市のアウティングの事件から明らかとなりました。ぜひ下の動画を観てください(2022年1月のTBS『性別違和のある子どもたち【報道特集】)。性別違和のある子どもの存在は、保育領域では今でもほとんど認識されていないといっても過言ではありません。上記ニュースでも、保育園側は「子どものわがまま」や「成長過程における一時的な嗜好性」とみなし、性別違和のある子どもの苦悩を汲み取りきれないまま子どもの心に傷を負わせてしまっています。
このことから、保育園・幼稚園においても性別違和のある子どもへの目配せは今や必要不可欠であると言えます。「性別違和のある子どもはこの保育園にいない」としても(大人の思い込みかもしれないですが)、潜在的に彼らが存在していることを想定した保育実践が求められるのではないでしょうか。
②セクシュアリティ問題
異性愛中心主義が大前提にあり、性の多様性の否定に
お内裏様とおひな様(彦星と織姫)という人物構成は、異性愛的表現です。①ジェンダー問題と同様に、ひな祭りや七夕のイベントにおける保育実践の場では同性愛者の可能性を持つ子どもへの目配せが見当たりません。
保育士が子どもの体の性別をもとにそれぞれの性位置へ顔写真を貼り付ける際、そこには「あなたは男子だから女子を好きになりましょう(または逆)」という異性愛中心主義の自明性が潜んでいると言ったら言い過ぎでしょうか。もしかしたら「同性のお友だちが好きかもしれない自分は間違っているんだおかしいんだ」という自己否定感情を、子どもは経験しているかもしれません。これは保育園・幼稚園だけでなく小学校以上の義務教育にも通底しています。学習指導要領には今でも「思春期になると異性への関心が芽生える」と書かれています。LGBTQを排除したままの保育観・教育観が日本にはまだ残っています。
③ダブルスタンダード問題
伝統行事であるために議論の俎上に上がらない
現代のジェンダー/セクシュアリティ視点では性別違和も同性愛も性の多様性として受容していく方向性であることは間違いないはずです。保育も同様に「子どもの人権」が重要視され、多様な子どもたちの個性やその背景(性別・LGBTQ・障がい・国籍・民族など)を受け入れることが理念としてあります。にもかかわらず、ひな祭りなどの伝統行事になると、これは矛盾を孕みダブルスタンダードを回避できていません。すなわち、性の多様性受容という「子どもの人権」を掲げながら、一方で旧時代的な異性愛中心主義やジェンダーバイアスの温存に加担してしまっているのです。
しかし、伝統行事そのものを見直すのは勇気のいることです。大人である私たち自身も心地よい思い出としてそうした伝統行事を過ごした記憶があるために、今から変更していくことは、まるで自分たちの受けた教育・保育を、親の子育てを否定されるような気持ちにもなります。そして、伝統として昔から継承されているものを自分たちの世代で変えていいのかという疑問もあります。
これらの問題を指摘している筆者自身も、同じ気持ちです。「お内裏様とおひな様という呼び方をやめにしよう」「おひな様とおひな様、お内裏様とお内裏様で並べよう」という極端な案も考えられますが、本当にそれでいいのかという疑問もあるわけです。それでも、子どもの性自認より先んじて、大人が子どもの性別を決めつけるような行いは改善していきたいと思うのです。同じく、子どもが誰を好きになるか、大人が決めつけてしまうことも避けたいのです。実際にどのような対応が望ましいか、私たち大人は矛盾や葛藤を抱えています。やはり、伝統行事にメスを入れ変化を加えていくことは必要ではないでしょうか。どちらにせよこれまでのように「あなたは女の子だからこっち!あなたは男の子だからこっち!」ではいけない世の中になってきているということは確かだと思っています。子どもが自分のジェンダーについてどのように感じているか、それぞれの個性を大切にしてあげたいと願います。
- まとめ
保育園・幼稚園では「子どもの人権」という言葉もよく聞くようになりました。子どもを個別的に丁寧に支援する中で、子どもを一人の人間として扱い、その意見表明を尊重していくという考え方です。こうした日本の保育の進歩をもってしても、上述してきたようにLGBTQへの配慮が保育園・幼稚園にはなかなか入り込んできません。小学校以上では、男女別名簿、誰でもトイレ、選べる制服などについての議論が始まっているのに対し、保育園・幼稚園では、子どもの性の多様性に着目されていません。そのため、ジェンダー/セクシュアリティの問題を話し合うきっかけがなかなか作り出せないままでいます。
さらに、LGBTQ視点から指摘してきたひな祭りなど伝統行事問題は、性別違和がなく異性愛者になっていくであろうマジョリティ、いわゆる「普通」の子どもたちにとっても重要な問題です。というのは、こうしたジェンダーバイアスそのものがいわゆる「普通」の子どもたちにとっても強く作用している可能性があるからです。これは大人である私たちの子ども時代の体験でも、身に覚えがあるのではないでしょうか。例えば「将来の夢」です。みなさんは自分の性別に合わせて将来の夢を考えていなかったでしょうか。女子でも大工さん・宇宙飛行士さんになりたい、男子でもケーキ屋さん・花屋さんになりたいと言える選択肢があったでしょうか。筆者(40代)は、自分が男子であることから「大工さんになりたい」と、大人の顔色をうかがっていました。しかし、最近筆者の保育園にいる3歳女子は「私はお寿司屋さんになりたい!」と言っています。喜ばしいことに、将来の夢を性別で区切らない発想が次世代の子どもたちの中に芽吹き始めています。
LGBTQ視点で保育を再検討することは、何もLGBTQの子どもだけを救うことが目的ではありません。いわゆる「普通の女子・男子」と思われる子どもたちにとっても、その個性を自由に遺憾なく発揮できる環境を保障することにつながるのではないでしょうか。
- クラウドファンディング挑戦中
©NijiiroDesign+
■プロジェクト内容
プロジェクト名:性別にとらわれない保育を!保育用品「ジェンダーニュートラル・個人マークシール」
期間:2022年2月1日(火)午前10時~3月14日(月)
URL:https://camp-fire.jp/projects/view/522850
目標金額:200,000円 → 4th GOAL(200%400,000円)挑戦中!
■本プロジェクトへの想い
SDGs時代を担う多様な子どもたちを保育する私たち大人も、最新のジェンダー観にアップデートする必要があります。「女らしく」「男らしく」育てたいという保護者の方の想いは否定せず大切にしながらも、保育園においては、どのような子育て観も、多様な子どもたちの個性やその背景(性別・LGBTQ・障がい・国籍・民族など)も、ひっくるめて受け入れられる環境でありたいと願います。性別にとらわれない保育とは、LGBTQの子どもたちのためだけではありません。いわゆる「普通の女子・男子」と思われる子どもたちにとっても、その個性を自由に遺憾なく発揮できる環境を保障することに繋がるのではないでしょうか。そのためには、保育現場においてジェンダーの議論を喚起していく必要があります。その先駆けとしてジェンダーニュートラル(中立的)な保育用品を提供していく、このプロジェクトを立ち上げました。
- 多様性を考える保育士研究会「にじいろ保育の会」
筆者が代表を務める「にじいろ保育の会」では、LGBTQ当事者視点を持ちながら保育のプロとして保育園・幼稚園の問題や、子どものジェンダー/セクシュアリティの問題を検討しています。SDGs時代を担う子どもたちを鑑みると「保育とジェンダー/セクシュアリティ」「保育とLGBTQ」などの議論が必要不可欠だと考えます。保育園・幼稚園は旧時代的な異性愛中心主義やジェンダーバイアスが根強い規範的価値観として残存している場所でもあります。そのために、メンバーのほとんどはカミングアウトをしていません。それでもこうした議論を保育領域で展開するために「にじいろ保育の会」という看板を立てて、LGBTQ保育士から見える保育の問題について発言・提言できるようにしました。本団体は、「明治安田こころの健康財団」2021年度団体研究助成金の支援を受けて活動しています。
■本件に関するお問い合わせ先
にじいろ保育の会(天野諭)
E-Mail:bygones02010201@gmail.com
このプレスリリースには、メディア関係者向けの情報があります
メディアユーザーログイン既に登録済みの方はこちら
メディアユーザー登録を行うと、企業担当者の連絡先や、イベント・記者会見の情報など様々な特記情報を閲覧できます。※内容はプレスリリースにより異なります。
すべての画像