ここにしかない価値を生かすオフィスビルの再生
築50年の既存不適格、検査済証の無い旧耐震ビルを壊し建直すのではなく“再生”させることにより建て替えでは実現できない“特別な価値”を生み出す取組み
■今回の取組みについて
株式会社東京アセットソリューション(本社:東京都港区、代表取締役:寺敷信昭、以下「当社」)と株式会社再生建築研究所(※)は、青梅街道沿いの築50 年SRC 造11 階建てオフィスビルの再生(以下、「本件」)に取り組みました。このビルは、北側に幅員40m の銀杏並木が美しい青梅街道、南側は低層の住宅地が広がる非常に見晴らしのいい場所に位置していますが、いわゆる「既存不適格」(注1)の建物です。このビルを建替える場合は現行の基準に合わせる必要があり、建物の規模が7割程度となるため事業として成立しません。そこで本件では取り壊さずに再生させることで建物や街の価値を高めることを目指しました。
本件は、容積対象面積の是正として1フロア分の減築が必要でした。また、特定緊急輸送道路である青梅街道に面した旧耐震基準の建物であるため、災害に強いまちづくりの観点から耐震補強工事により耐震基準に適合させることも大きな課題となりました。
そこで北側の青梅街道側と南側の住居地域側の外壁をセットバックし、新しい外壁を設けることにより減築(注2)し、また、外壁のセットバックにより生まれるバルコニーは建物全体の積載荷重を減らすだけでなく、このビルからのみ見ることのできる景色を得られる空間としました。
「壊すのは簡単だが、残すのは大変」です。違法建築を適法化して生まれ変わらせることを目指して計画を進めました。壊すのではなく再生させることによって、眺望を活かした利用者の多様なシーンを生むバルコニー空間が生まれ、特別な価値を持った建物へと変化を遂げました。
(※)株式会社再生建築研究所 https://saiseikenchiku.co.jp/
(注1)竣工時は適法に建てられていたが、法改正等によって、現在の法律に適合しなくなってしまった建築物の
こと
(注2)リフォーム・改修を行って床面積を減らすこと
■ 再生による特別な価値の創造 キーワードは「治す」「補強する」「新たに作る」
「治す」:このビルは過去の増改築の経緯から減築する必要があり、違反部分の是正も行わなければなりませんでした。容積率超過分の面積約200㎡を減築するため、南北の外壁ラインをセットバックさせバルコニーを新設・拡張しました。併せて、避難経路として支障のあった屋外階段を撤去し、床を補強した上で共用バルコニーに避難ハッチを新設、利用者の安全性を高めました。
「補強する」:減築による耐震性向上効果と合わせて、柱、壁への耐震補強工事を実施しています。本件の再生工事において、耐震補強や避難施設の改修により利用者と街の安全性を向上させることが認められ、中野区「特定緊急輸送道路沿道建築物耐震化促進事業」の助成交付を受けています。また再生工事完了後に、耐震基準適合証明書 および 構造評定評価書を取得ました。
「新たに作る」:最上階の最も眺望の良いフロアには、入居テナントの方々が利用できる共用のラウンジスペースを設けています。共用ラウンジは、気分を変えて集中作業を行うデスク、オープンな打合せで囲えるラウンドテーブル、小規模オフィスで確保が難しい会議室、半屋外でランチタイムを過ごせるバルコニーなど、様々なシーンにフィットする空間となっています。このビルの最大の価値である”眺望”を一つのテナントで専有するのではなく、働く方々がシーンに合わせて共有することで建物全体の価値へと転換しました。
こうして老朽・陳腐化したビルに新たに個性的な空間を設け、外壁ラインをセットバックするといった建築的操作によりこの街のこの場所のこの建物だからこそ、現代の自由で多様な働き方の受け皿となりうるビルとして再生を実現しました。
また1階には従前から営業していたパティスリーに加え、チョコレートショップとシミュレーションゴルフのテナントを誘致しました。足元周りは街の顔になる部分であり、人々の動きが見える開かれた建物することで利便性や賑わいを作り、ソフト面でもまちづくりに貢献します。
■担当者に聞きました。「どのようにして“特別”を叶えたのでしょうか?」
現在このビルから、北側には中野駅周辺の再開発の様子を、南側にはこの地域ではここからしか見ることのできない開けた景色を見ることができます。初めて屋上に立った時、この景色を見ることのできるこの場所を残したいと強く思いました。乗り越えなければならない壁が多く、そして高く、気の遠くなる思いでしたが、株式会社再生建築研究所と共に、この思いを叶えることができました。
改修工事に当たってはこの計画を既存のテナントの皆様へ説明し、おかげさまで理解を得て、うち3件は棟内移転を行いながら工事を実施しました。工事完了後には嬉しいことに従前から1階で営業していたパティスリーが戻ってきてくれました。
2階から10階までは多様なテナントを受け入れることのできる区画構成の賃貸オフィスとしました。既存建物の稼働状況やテナント構成からもスモールオフィスが求められていると考え、フロアにより執務室面積(4坪~39坪)のバリュエーションを持たせました。廊下やバルコニーの配置を工夫することで窮屈な1フロアの中に新たな価値をもたらす空間が生まれ、新しい働く場ができました。
各階に減築によって生まれた性質の異なる個性的なバルコニーは、単なるバルコニーとしてだけでなく、南側に開けた景色を楽しみながらちょっとした打ち合わせをしたり、リラックスしたい時にほっと一息つける場所になったのではないかと思います。
この地域ではこのビルでしか得られない眺望を備えた最上階(11階)を共用ラウンジとし、入居テナントが自由に使える空間としました。スモールオフィスで行うことが難しい個室での会議、ちょっとしたMTG、集中作業やアイデアを練る時間にお使い頂けるだけでなく、気分転換にお茶を飲んだり、ゆったり昼食をとるなど、働く人の様々なシーンに寄り添う空間を備えることができました。
(担当:企画営業部 藤田)
■概要
竣工年(改修):2023年(令和5年)9月 建蔽率:80%
所在地:東京都中野区本町6丁目27番12号 容積率:500%(本件建物建築時:700%)
用 途:事務所・店舗 敷地面積:279.76㎡(改修後)
構 造:鉄骨鉄筋コンクリート造陸屋根 延床面積:1,941.50㎡(改修後)
規 模:地上11階、地下1階建て 軒 高:30.30m(既存設計図より)
地域地区:商業地域 設計期間:2020年11月~2022年6月
高度規制:20m 第3 種高度地区 工事期間:2022年6月~2023年9月
防火規制:防火地域
□TAS+ NAKANO BLD. https://tas-nakano.studio.site/
■今後の取り組み
⚫ 複雑化した権利関係者や入居中のテナント様と未来志向の協議、合意形成を図りバリューアップを行います。
⚫ 物件固有の課題を解決し、流動化することによる価値向上を図ります。
⚫ 物件のバリューアップだけでなく、まちづくりに貢献しエリアの価値を向上する開発を行います。
当社はこれまでも築年数が経過した既存建物に対して、権利関係の整理、遵法性の確保、耐震性の向上、バリューアップ工事の実施、用途の転換、管理体制の整備などを行い対象不動産の価値向上に取り組んでまいりました。今後も新築や建替えだけでなく、環境負荷を低減できるストック活用を選択肢に持ち、対象不動産と街の価値を高める取り組みを継続します。
■会社概要
会社名 株式会社東京アセットソリューション
所在地 東京都港区虎ノ門一丁目16番4号
設 立 2009年
資本金 200,000千円
代 表 代表取締役 寺敷 信昭
【本件に関するお問い合わせ先】
株式会社東京アセットソリューション URL: http://www.to-as.com
〒1050001 東京都港区虎ノ門一丁目16番4号 電話:03-5510-8300(代表)
管理部 北出(キタイデ)MAIL: m-kitaide@to-as.com
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