ChatGPTによる人的資本開示全件調査!生成AI×人間が上場企業4000社の人的資本開示を徹底レビュー

~#3 ChatGPTで明らかにする日本企業の人的資本開示状況~

全体サマリ

  • 約4000社の企業のうち約47%が必要最小限の開示に留まっているが、日経225やプライム市場の企業は、より積極的な開示傾向が見られた。

    ただし、日経225およびプライム市場の企業群であっても27~28%は開示が最小限に留まっているため、人的資本開示の改善余地は残っている。

    今後、生成AIによる情報収集が一般化するにつれ、AIに理解しやすい人的資本情報開示を行うことが、人間にとっても注目されやすい開示を行うことに繋がる。

本編

 近年、企業の持続的な成長と競争力強化において人的資本経営の重要性が高まり、有価証券報告書における人的資本情報開示が求められるようになりました。そこで私たちは、ChatGPTを活用して約4000社の有価証券報告書における人的資本経営の開示状況を分析する取り組みを行い、お手本となる企業や業界傾向などを分析しました。
 本レポートでは、約4000社の分析結果、第1~2回目のレポートに見られたAIと人間のスコア差異の原因についての解説、そしてChatGPTを使って有価証券報告書をスコア付けする方法を紹介していきます。

第1回レポート:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000001.000145475.html

第2回レポート:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000002.000145475.html

ChatGPTをなぜ活用しようと思ったか?

 情報過多の現代社会において、生成AIを通じた情報収集・処理は新たな標準となりつつあります。例えば、Googleは2024年5月14日に開催した年次開発者会議で、生成AIによって情報を整理してくれる「AIオーバービュー機能」の導入を発表しました。

 このように有価証券報告書のような膨大な情報量を含む文書を人間が直接読み解くのではなく、生成AIを活用して要約し、効率的に情報収集を行う流れが加速すると予想されます。

 人間が数千社の有価証券報告書を公平かつ網羅的にレビューすることは、人海戦術を用いたとしても極めて困難です。一方、生成AIを活用すれば、数千社の情報を均質に分析することが可能となります。このような背景から、私たちはChatGPTを用いて大規模なレビューを実施し、その有効性を検証するとともに、日本企業の人的資本情報開示の現状を把握することにチャレンジすることにしました。

約4000社を分析した全体結果

 2024年1月1日から7月31日にかけて公開された3613社の有価証券報告書を、ChatGPTを用いて分析した結果、全体的なスコアの分布としては以下の結果となりました。

  • スコアが満点(積極的に開示を行う意思が見られる企業):約21%

  • スコアが平均点以上満点未満(必要最小限の開示情報にプラスアルファする形で人的資本に関する開示を行い、比較的前向きな姿勢を示す企業):約32%

  • スコアが平均点未満(開示が必要最小限に留まっている、または開示内容について試行錯誤中であり、十分な内容を盛り込めていない企業):約47%

 また日経225に絞り込んだ場合のスコア分布は以下の結果となりました(平均点は全体平均の77.03点)

  • スコアが満点:約34%

  • スコアが全体平均点以上満点未満:約39%

  • スコアが全体平均点未満:約27%

 全体を見た際は必要最低限の開示に留まっている企業が47%も占めているものの、日経225に選ばれている企業だと必要最低限の開示に留まっている企業の割合は減り、積極的に開示を行う意思が見られる企業の割合が34%に増加する傾向が見受けられます。

 また、東証市場別にスコアの分布を見たところ、以下のような結果が見られました。

  1. プライム市場(1537社)
    ・スコアが満点:約32%
    ・スコアが全体平均点以上満点未満:約40%
    ・スコアが全体平均点未満:約28%

  2. スタンダード市場(1376社)
    ・スコアが満点:約12%
    ・スコアが全体平均点以上満点未満:約29%
    ・スコアが全体平均点未満:約59%

  3. グロース市場(408社)
    ・スコアが満点:約11%
    ・スコアが全体平均点以上満点未満:約26%
    ・スコアが全体平均点未満:約63%

 グロースとスタンダードと比較するとプライム市場の企業のほうが、より開示内容が充実している傾向が見られます。

 また資本金・時価総額・従業員数・PBR(データは2024年8月14日時点のものを使用)で、スコアとの相関係数を調べてみたところ、以下のような結果となりました。

  • 資本金との相関:0.057

  • 時価総額との相関:0.12

  • 従業員数との相関:0.16

  • PBRとの相関:-0.082

 相関係数がどれも0.2以下であり、相関はあまり見られませんでした。企業規模によって人的資本への取り組みや熱意に差はついていないように見受けられます。

AIと人間の差異の原因について

 調査の過程で、AIと人間の評価の差異が観察されました。特に、5つの評価基準の中で「具体性」や「戦略との連動性」に関するスコアで相関が低くなる傾向がありました。

 この差異の主な要因として、以下の二点が考えられます。

  1. 情報解釈の方法の違い: AIは明示的に記載された情報のみを評価し、人間は文脈や背景知識を用いて「行間を読む」能力を持っている

  2. 人間特有のバイアス: 人間の評価者は、企業の評判や過去の実績などの外部要因に影響を受けやすい傾向がある

 今後AIによる情報収集が一般化するにつれ、「行間を読む」必要がないようなAIに理解しやすい文章を作成する能力が重要になると予想されます。これは単にAI向けの文章を書くということではなく、より明確で具体的、かつ構造化された情報提供することを意味していると言っても良いと思います。

 実際、このような文章作成は、AIだけでなく、人間のステークホルダーにとっても理解しやすい情報開示につながります。結果として、投資家や取引先などとのコミュニケーションが改善され、企業価値の適切な評価につながることが期待されるでしょう。

※日経225の有価証券報告書における、人間とAIの評価の共通点や差異については第2回レポートで詳しく紹介しております。

第2回レポート:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000002.000145475.html

ChatGPTを活用してスコア化をする方法とは?

 今回はレビュー結果を定量的に分析できるように、ChatGPTを活用し有価証券報告書をスコア化しています。具体的には、ChatGPTへの命令文(プロンプト)に5つの評価基準を指定し、100点満点でスコア化するよう設計しました。

プロンプト作成時には、以下の点に特に注意を払いました。

  1. 評価基準にスコアの具体的な基準を明記し、評価のぶれを最小限に抑える。

  2. ISO30414を参考に、人的資本経営の11の観点をプロンプトに組み込み、適切な人的資本開示の評価を可能にする。

  3. 人的資本に関する一般的な指標を箇条書きでプロンプトに記載し、一般的指標と独自指標の識別を容易にする。

  4.  マークダウン記法を用いて情報を構造化し、理解しやすいプロンプトを作成する。

 これらの工夫により、プロンプトの内容は非常に詳細かつ包括的なものとなり、最終的にはワードファイルで10枚程度の長さになりました。このような詳細なプロンプトの使用は、最近の研究で提唱されている「メガプロンプト」の概念に基づいています。メガプロンプトとは、数百から数千の事例や指示を含む大規模なプロンプトのことで、AIの出力精度を高めることが知られています。

 また、本調査では有価証券報告書のPDFファイルを直接処理するために、ChatGPT-4o miniモデルを採用し、ChatGPT APIを使用して回答を生成しました。ChatGPT-4o miniは、GPT-4には若干精度で劣るものの、GPT-4を上回るパフォーマンスを示すモデルです。このモデルを選択した理由としては、一つはメガプロンプトを使用する際のコスト効率を考慮したためと、約4000社の有価証券報告書を高速で処理する必要があったためです。

総括

 本年度の有価証券報告書分析によると、日経225およびプライム市場の企業は、ChatGPTによる評価で他社と比較して高スコアの割合が多い傾向が見られました。しかし、これらの企業群でも27~28%がスコア平均以下であり、開示が最小限に留まっていることから、人的資本開示の改善余地が依然として存在します。人的資本の取り組みをより具体的に記載したり、事業戦略との連動性を抽象的ではなく事業戦略と人的資本KPIとの繋がりが明確に分かるように記載したりなど、行間を読み取らせないようにする工夫が求められます。

 また、人的資本開示のスコアとPBR(株価純資産倍率)の間に負の相関が見られました。この結果は、一見すると非財務資本とPBRの正の相関を示す「柳モデル」と矛盾するように思われます。

 しかし、柳良平氏と杉森州平氏の研究によると、過去20年分のデータをもとにした実証分析では、人件費投資の効果が現れるまでに6~11年かかり、TOPIX500企業だと短期的(0~3年)には負の相関が見られることが分かっています。

 人的資本開示の義務化が比較的新しいことを考慮すると、現在の分析結果は短期的な影響を反映している可能性が高いです。今後、生成AIを用いたスコア化を長期的に継続することで、スコアとPBRの本質的な関係がより明確になると期待されます。

 今回の約4000社の調査では全体的なスコア分布を紹介しましたが、業界別のスコアの特色や差異についての詳細な考察は、今後順次公開していく予定です。


著者情報

山岡慎治(J.P.コンサルティング株式会社 シニアコンサルタント)

SNSマーケティング会社での経営管理業務を経て、現在はJ.P.コンサルティング株式会社にて人事コンサルタントとして、人事制度設計および基幹システム構築に従事。ここ最近は、生成AIを通じた業務効率化支援にも注力している。

問い合わせ先

J.P.コンサルティング株式会社

URL:https://www.jp-cons.com/

問い合わせ先:https://www.jp-cons.com/contact

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経営・コンサルティング
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URL
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業種
サービス業
本社所在地
東京都中央区銀座4-14-15 サントル銀座4丁目803号
電話番号
03-4500-4502
代表者名
小野 裕輝
上場
未上場
資本金
-
設立
2022年12月