エンゼバー®すい臓がん 検査業務受注開始のお知らせ
~膵癌の早期発見に関する研究に貢献する、新たな選択肢を提供~

コウソミル株式会社(本社:東京都文京区、代表取締役:鏡味優、以下、当社)は、この度、膵癌の早期発見に関する研究を目的とした新たな検査業務「エンゼバー®すい臓がん」検査を、2025年7月1日より開始いたします。本検査は、医療機関より株式会社ビー・エム・エルを通じて検査を受託し、当社衛生検査所であるコウソミル東京検査センターにて検査を実施いたします。
なお、本検査の実施は、検査性能の再現性と有用性を確認する為の前向き臨床研究にご参加いただくことが条件となります。当該臨床研究については現在開始準備中です。
エンゼバー®すい臓がん開発の背景
膵癌は、特異的な症状に乏しく多くが進行癌で診断されるため、5年生存率が8.5%と全癌種の中で最も低い癌であり、[1] その予後改善には早期診断が必要不可欠とされています。[2]
当社は、東京大学大学院薬学系研究科 小松徹 准教授と理化学研究所 渡邉力也 主任研究員によって開発された「1分子計測リキッドバイオプシー」技術[3](以下、本技術)を用いた疾患の診断技術の開発を行うスタートアップ企業です。本技術は、血液中の酵素の「活性」すなわちタンパク質の機能を1分子レベルという超高感度で網羅的に解析することで、疾患の精密な診断を可能とします。
「エンゼバー®すい臓がん」は、本技術を臨床現場で利用可能とする当社の試みで初の製品であり、神戸大学大学院医学研究科 内科学講座 消化器内科学分野 児玉裕三 教授・小林隆 助教との共同研究を通じて開発しました。
エンゼバー®すい臓がんの特徴と臨床研究結果
近年、疾患の診断において、タンパク質の機能、特に酵素の活性に着目した「Activity-based Diagnostics」への関心が高まっています。[4] Activity-based Diagnosticsは、遺伝子発現やタンパク質量の解析と比べ、より表現型に近い変化を直接捉えることで疾患の本質的な理解につながると期待されます。
「エンゼバー®すい臓がん」は、本技術を利用して、サブタイプや翻訳後修飾の異なる酵素の活性を区別し、膵癌に特異的な4つの膵臓関連酵素の活性を血液中で高感度に捉えます。4つの酵素活性を組合せた識別式について、日米12施設の血液を用いた臨床研究で学習と性能評価を行いました。本臨床研究結果の詳細は今後に学会発表・論文にて公表予定です。
方法
8施設272検体(膵癌60/非癌対照群212)から成るトレーニングセットで学習を行い固定した識別式の性能を4施設181検体(膵癌48/非癌対照群133)から成るバリデーションコホートで評価しました。
結果
膵癌(Stage I-IV)に対する感度75.0%、特異度95.5%であり、ROC-AUCは0.91と既存の腫瘍マーカーCA19-9(AUC 0.75)を有意に上回る性能を示しました。特にStage I-IIでも感度71.9%と高い水準を維持しており、早期癌の検出力に優れます。また、膵癌以外の癌種(食道・胃・大腸・肺・乳・卵巣・子宮)157例に対する陽性率は12.7%と、CA19-9の20.4%よりも低く、比較的高い膵癌特異性が示唆されました。[5]

今後の展望
膵癌スクリーニング血液検査は、国内外で体外診断用医薬品(IVD)としての薬事承認の取得に向けて引き続き開発を続けていきます。国内薬事承認までの間は、「エンゼバー®すい臓がん」は実臨床での検査性能の再現性と有用性を確認するための前向き臨床研究として実施します。
また、他の癌種に対する製品開発にも着手しており、米国市場での検査事業展開に向けた準備も進行中です。
関係者からのコメント
当社 取締役/技術顧問:東京大学大学院薬学系研究科 小松徹 准教授
渡邉力也先生,本田一文先生,水野忠快先生をはじめとする多様な分野の研究者の知識・技術を結集して生まれてきた1分子酵素活性計測による疾患の診断技術が,膵癌の早期発見を目指すという形で社会実装に向けた第一歩を踏み出したことを,研究者の一人として大変嬉しく思います.この実現に向けて,並々ならぬ情熱と責任感をもって開発を推進されたコウソミル株式会社の皆さま,また,貴重な検体をご提供くださった共同研究者の先生方,様々なご助言を賜りました研究会・学会の先生方,会社の立ち上げに際して多大なご支援を賜った皆さまに,改めまして深謝申し上げます.本技術が,より多くの方々の健康に資するものとなるよう,今後の更なる発展を心より祈念いたします.
共同研究者:神戸大学大学院医学研究科 内科学講座 消化器内科分野 児玉裕三 教授
膵癌の診断バイオマーカー、特に早期発見に有用な血液バイオマーカーの確立は、私たち膵臓専門医にとってまさに悲願とも言えるテーマです。今回、コウソミル株式会社より「エンゼバー®すい臓がん」検査が開始されますことを、心より嬉しく思っております。本検査で用いられる、血液中の酵素活性を一分子レベルで評価するという革新的な技術は、従来の遺伝子解析やタンパク質定量とは異なる視点から、膵癌の新たな特性を捉える可能性を持っています。本研究に関わる機会を得ましたことを、神戸大学消化器内科として大きな喜びと誇りに感じています。本技術が膵癌の診断精度の向上に寄与し、さらには他疾患への応用にも拡がりますことを強く期待しております。
当社アドバイザー:膵癌早期診断研究会 代表世話人/JA尾道総合病院 副院長 花田敬士 先生
このたび、コウソミル株式会社より「エンゼバー®すい臓がん」が社会実装に向けて第一歩を踏み出されたことを、膵癌早期診断研究会 代表世話人として心よりお祝い申し上げます。
現在、膵癌の早期診断は依然として困難な状況にありますが、膵管拡張、膵萎縮、糖尿病の増悪などが早期発見の契機として注目されており、病診連携を活用した膵癌早期診断プロジェクトの成果も見え始めております。
今後の治療成績向上のためには、高い診断精度と低侵襲性を兼ね備えた新規マーカーを用いた膵癌スクリーニング法の確立が急務です。
「エンゼバー®すい臓がん」に関する臨床研究の進展を心より期待しております。
株式会社ビー・エム・エル 先端技術開発本部 顧問 山口敏和 様
すい臓がんは手術が可能な早期のステージで発見することが難しく、特異的なバイオマーカーの実装化を目指した取り組みにこれまで大きな関心を寄せてきました。このたび、弊社では「1分子計測リキッドバイオプシー」という高度な独自技術を開発されたコウソミル株式会社の「エンゼバー®すい臓がん」を研究用検査として扱わせていただくことになりました。現在計画中の前向き臨床研究への参加を前提とした顧客へのご案内となりますが、これまでに得られている早期のすい臓がんに対する検出力や特異性がこの臨床研究を通して実証されることを期待しています。
当社 代表取締役:鏡味優
本技術の検査としての初の社会実装として、「エンゼバー®すい臓がん」を提供開始できることを大変嬉しく思います。2020-22年に実施したJST STARTにて本技術を膵癌診断に応用しようと試みてから、本当に多くの技術・事業・医学の専門家、共同研究者、投資家、助成事業の皆様の支援を受けてここまで事業を進めることができました。そして何より当社チームの皆様の社会実装に向けたひたむきな努力が実り製品化に至ったと思います。より多くの方に製品の価値を提供できるよう、事業開発と薬事承認に向けた取り組みに引き続き邁進いたします。
コウソミル株式会社について
コウソミル株式会社は、東京大学大学院薬学系研究科 小松徹 准教授の酵素活性の蛍光検出技術と理化学研究所 渡邉力也 主任研究員の1分子計測技術を組み合わせた、血中の酵素活性を1分子レベルの超高感度で解析する独自の「1分子計測リキッドバイオプシー」技術を用いた疾患の診断技術の開発を行うスタートアップ企業です。科学技術振興機構 大学発新産業創出プログラム(JST START)の支援を経て2022年に設立されました。また、2023年8月にNEDO・JST主催の「大学発ベンチャー表彰 2023」において「科学技術振興機構理事長賞」を受賞し、2024年4月よりNEDOディープテック・スタートアップ支援基金/ディープテック・スタートアップ支援事業(DTSU)STSフェーズに採択されています。
会社概要
会社名 :コウソミル株式会社
本社所在地 :東京都文京区本郷7-3-1 東京大学南研究棟アントレプレナーラボ215
代表者 :代表取締役 鏡味 優
設立 :2022年4月
URL :https://cosomil.com/
免責事項
-
本検査は、現在癌であるかを確定するものではありません。
-
本検査は研究目的の検査業務であり、その結果を診断に用いることはできません。
-
本検査の結果は、他の検査結果や医師の診察などと合わせて、総合的にご判断ください。
本件に関するお問い合わせ先
コウソミル株式会社 広報担当
URL:https://cosomil.com/contact/
Reference
[1] 公益財団法人 がん研究振興財団:がんの統計 2024
[2] 膵癌診療ガイドライン2022
[3] Sakamoto S et al, Science Advances, 2020, 6, eaay0888.
[4] Soleimany AP, Bhatia SN, Trends Mol Med, 2020, 26, 450-468.
[5] 社内データ
すべての画像