神経系病態モデルのスペシャリストが参加し、ALSの治療薬開発を推進
浅川和秀先生の科学顧問就任による研究開発体制の強化
モルミル(所在地:奈良県橿原市、代表取締役:森 英一朗)は、これまでに奈良県立医科大学・産業技術総合研究所・徳島大学の3機関からの認定を受け、リアルテックファンド[リアルテックホールディングス株式会社(所在地:東京都墨田区、代表取締役:丸 幸弘、永田 暁彦)]とKTX 株式会社(所在地:愛知県江南市、代表取締役:野田 太一)から開発に必要な資金を調達し、神経難病の治療薬開発を進めております。具体的には、細胞内の状態が変化することが疾病の兆候(相分離の異常)であることに注目し、その原因となる分子の動きを捉えることができる各種技術を開発しています。この研究開発により、相分離の異常によって発症するALSの病態を捉えることができるようになり、治療薬開発のおおきな手がかりになることが期待されています。
モルミルでは、これまでに、冨田峻介先生(産業技術総合研究所:分析化学の専門家)と齋尾智英先生(徳島大学:核磁気共鳴法の専門家)に科学顧問として参画頂き、分子動態評価技術の開発を進めて参りました。さらに、モルミルでの神経難病に対する治療薬の開発を更に加速させるために、脳神経内科学の専門家である青木正志先生(東北大学)と杉江和馬先生(奈良県立医科大学)を科学顧問に就任頂いております。この度、ALS治療薬開発を強化する目的で、ALSの病態を再現した生物モデルの作製に成功した浅川和秀先生(国立遺伝学研究所・特命准教授)を、モルミルの科学顧問として招聘いたしました。
ALS患者の運動神経細胞(ニューロン)には、健康な神経細胞にはみられない、異常な物質の集積(凝集体)が含まれることが知られています。2006年に、この凝集体の主成分がTDP-43と呼ばれるタンパク質であることが発見されたことを契機に、TDP-43がALSの発症に深く関与している、と考えられるようになりました。TDP-43は、健康な細胞においては細胞核に豊富に含まれていますが、ALS患者の組織ではTDP-43は細胞核から消失し、細胞質に移行して凝集体を形成するとされています。しかしながら、細胞核に局在するTDP-43 が、細胞質に移行し凝集するメカニズムは、ほとんど明らかになっておらず、病態解明が求められていました。
浅川先生は、近年開発されたタンパク質を光操作によって集合させる光遺伝学技術をゼブラフィッシュモデルに導入することで、TDP-43を光操作によって集合させてALSの病態を再現することに成功しました。ゼブラフィッシュは、仔魚期には身体の組織が透明であるために、生きた個体の中の運動ニューロンの全体像を直接観察できます。また、この組織の光透過性の高さは、生体内のタンパク質の機能を光で操作する光遺伝学という手法にも適しています。光遺伝学を用いて、ALSに関連するタンパク質の操作を行い、それが運動ニューロンにもたらす効果を、時間を追って追跡することが可能になります。このようなゼブラフィッシュのモデル生物としての特性は、ALSの原因を分子動態のレベルで解明するうえで非常に強力、かつユニークであると言えます。モルミルでは、浅川先生が開発されたALSの病態を模倣したゼブラフィッシュモデルを活用することで、ALS治療薬の開発をより効率よく行うことを目指します。また、浅川先生との連携・共同研究を通じて、更なる病態モデルの作製や評価技術の開発にも取り組んで参ります。
モルミルは、日本のアカデミアシーズを集約させることで、神経難病の治療薬開発に取り組んでおります。今回の浅川先生の科学顧問就任に留まらず、アカデミアシーズの集約・統合を進め、一日も早い治療薬の提供が出来るよう、研究開発に邁進して参ります。
【浅川和秀先生からのメッセージ】
ALSの病態は、ヒトでは何十年もの年月をかけて進行するため、病態解明研究が非常に遅れていました。私達の研究室では、ゼブラフィッシュと呼ばれるモデル生物に光遺伝学と呼ばれる最先端技術を組み合わせることで、いくつかの主要なALS病態を短い時間で再現することに成功しております。今年5月に、森先生がオーガナイザーとして開催された千里ライフサイエンスセミナー「相分離がもたらす医療・創薬の新展開」でお声掛け頂き、講演の機会を頂きました。その後、発表内容などを評価頂き、この度の連繫へと話が進みました。私達が開発したゼブラフィッシュの病態モデルを活用頂くことで、モルミルの目指すALSの治療薬開発が更に加速していくことを願っております。この度、この様な形で、ALS研究に取り組んでいる諸先生方と一緒に治療薬開発に携われることを、大変嬉しく思います。
[学歴]京都大学理学部卒業、東京大学大学院理学系研究科修了、博士(理学)
[職歴]
2002年 英国Cancer Research UK リサーチフェロー
2004年 国立遺伝学研究所 研究員
2006年 国立遺伝学研究所 JSPS 特別研究員PD
2009年 国立遺伝学研究所 助教
2019年 東京医科大学 准教授
2022年 国立遺伝学研究所 特命准教授
[社会活動]
Zebrafish Disease Model Society 理事
[主な受賞歴]
2017年 第1回「せりか基金」賞
2020年 第4回「せりか基金」賞
[主な研究業績]
・PNAS誌(2008年):ゼブラフィッシュ、エンハンサートラップ法の確立
・Cell Reports誌(2018年):頭蓋運動ニューロンの発生機構の解明
・Nature Communications誌(2020年):光遺伝学を用いたゼブラフィッシュALSモデルの構築
【リアルテックファンド担当者からのメッセージ】
モルミルでは、これまでに奈良県立医科大学と産業技術総合研究所と徳島大学のシーズを融合させて、基盤技術の開発を進めてきました。また、日本を代表する脳神経内科学の専門医である青木正志先生(東北大学)と杉江和馬先生(奈良県立医科大学)が科学顧問として加わることで、治療薬を神経難病の患者さんに届けるための体制が強化を進めてきております。この度、浅川先生の神経系病態モデルが加わったことで、より創薬開発のプロセスが強化されました。分析化学の専門家、構造生物学の専門家、脳神経内科学の専門家、神経系病態モデルの専門家が集まり、分析手法と創薬のターゲットとなるタンパク質に関する知見を集約してより強力に研究開発ができるようになりました。今後が楽しみです。
グロースマネージャー 高橋 宏之
【KTX株式会社・野田太一代表取締役社長からのメッセージ】
モルミルでは、基礎医学研究者の森先生を中心に、物理学や化学の専門家が集まることで、異分野を融合させる形で全く新しい分子動態評価技術の開発が進められてきました。さらに、神経難病研究で世界をリードしてきている青木正志先生と杉江和馬先生に科学顧問として御参画頂くことで、前臨床開発から医師主導試験に至るまでの体制の強化が行われてきています。この度、前臨床試験で重要な位置付けとなる、浅川先生が開発した生物モデルを導入することで、創薬が加速することが大いに期待されます。日本のアカデミアの多様な技術シーズを、モルミルを通じて融合させることで、非常に新しい創薬の形が生み出されています。医師である森先生を軸とした全国の臨床医の先生方との強固な連携を通じて、治療法を待っている患者さんの元に、一日も早く薬を届けられるようになるよう、弊社も連携・応援をして参ります。
【モルミル株式会社】
設立年月:2022年6月
所在地:奈良県橿原市四条町840
代表者:森 英一朗
資本金:4010万円(資本準備金を含む)
事業内容:創薬基盤技術、医薬品の開発
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