紙とペンで“3割”の災害情報が埋もれる? 災害時の役場での初動対応を数値化し、DX導入の効果を検証
これまでの災害現場で実感されてきた課題を数値化し、解決策を検証 ― 熊本県菊陽町の災害図上訓練で明らかになった災害対策本部DXの効果 ―
株式会社減災ソリューションズは、令和7年3月、熊本県菊陽町と協力して大規模地震を想定した災害図上訓練を実施しました。これまで多くの災害を経て、「紙とペン」に頼る情報処理には大きな課題があることは広く認識されてきましたが、今回の訓練では、そのアナログ方式とデジタル方式(DX)を同一条件下で比較し、定量的に評価する取り組みを行いました。従来、災害図上訓練自体を数値評価する機会は限られていましたが、今回の結果により、災害対策本部をDX化することで問題点が大幅に改善できることが明確になっています。
訓練の背景:紙とペンで行われる災害対策が抱える根深い課題
地震や豪雨・台風などによる災害が日本各地で頻発するなか、役場の災害対策本部には被災者や関係機関から一度に大量の情報が寄せられます。ところが、多くの自治体では、報告された内容をメモ用紙に書き留め、持ち寄ったメモ用紙の内容を検討してからホワイトボードに転記して全体を把握しようとする“アナログ運用”が中心となっています。このやり方では、記載する担当者によって報告される情報の精度が異なる、報告や対応指示の度にメモ用紙があちこちを行き来するなど、緊迫した状況下で情報が変容・欠落するリスクが高いとされてきました。
今回の訓練を実施した菊陽町は、2016年の熊本地震や2020年の令和2年7月豪雨の経験から、防災に関する取り組みを積極的に進めています。その取り組みの一つとして、上記のような課題を解決するため、「紙とペン」による従来の手法の精度を数値で検証し、合わせてデジタル方式の導入による改善効果を客観的に示すことを大きな目的として災害図上訓練を実施しました。こうした取り組みは、全国の自治体や関連機関にも横展開できる汎用的なモデルとなる可能性があります。

訓練の内容:「紙とペン」とデジタルの訓練を比較し、情報処理の正確性・速度を数値化
今回の訓練では、大規模地震の直後を想定し、約20分間のあいだに約40件もの被災・避難情報が役場に殺到する状況を設定しました。災害対策本部室内では「情報収集担当者」「報告担当者」「意思決定者」の三つの役割を設け、まず情報収集担当者が電話で伝えられる被災状況を正確に記録し、それを報告担当者が整理して意思決定者へ伝達。最後に、意思決定者が集まった情報をもとに具体的な対応を指示する――という災害初動期の流れを総合的に再現しています。
このような訓練を、紙とペンだけを使うアナログ方式と、パソコンやタブレットを活用して記録・閲覧するデジタル方式*の二つの手法を連続して実施し、それぞれの情報の網羅率や記録ミスの発生率、受信から意思決定に至るまでの速度を数値化して比較しました。
*デジタル方式では、株式会社減災ソリューションズが開発中の災害情報共有アプリ「GENSAI-Platform™」を使用


浮き彫りになったアナログ運用の課題
今回の訓練では、「紙とペン」方式の運用を実施した際、最終的に約3割の情報が抜け落ちることや、一部では重大な転記ミスや誤認が生じるなど、災害対応に支障をきたすリスクが明らかになりました。実際、高齢者の転倒事故を「5歳児が転倒」と間違って記録し、誤った対応指示を出しかけるケースが確認されています。また、報告時刻や記録担当者など、全ての報告に必須の情報が抜け落ちたケースも多く見られました。こうした例は、これまで全国で頻発している初動期の混乱を、より数値的に裏付ける結果ともいえます。
災害時に収集される情報は、本来全てを時系列で網羅的に整理するべきとされていますが、「紙とペン」方式の訓練では記録用紙があちこちに散在するために書き写しが間に合わず、実際に時系列として整理された情報は全体のわずか18%に留まりました。
DX導入による解決策:抜け漏れゼロに近づき、処理時間も20%短縮
一方、デジタル方式では、パソコンやタブレット端末上で受信日時や発信者を自動的に取り込み、複数の担当者が同時入力しても即時に時系列で整理されるため、情報の抜け漏れがゼロに近づき、報告を受けて意思決定に至るまでの処理時間も最大20%短縮されたことが確認されました。これまで曖昧になりがちだった図上訓練の精度を数値化し、DXによる具体的な改善効果を客観的に示した点に、今回の取り組みの大きな意義があります。参加者からは、「デジタル方式の導入で手書きメモの書き写しを省け、作業の重複がなくなった」「報告された情報がすぐに閲覧できるため、対応の決定や指示が円滑に行える」という評価が寄せられました。
災害初動業務への理解と担当意欲が大幅に向上
訓練に参加した菊陽町職員を対象とした訓練前後のアンケートでは、「被災情報を収集・整理・共有し、意思決定に役立てる一連の業務を自分で担えるか」という問いに対する自信が大きく高まったことが確認されました。具体的には、訓練前は5点満点中2.15にとどまっていた「災害時の情報処理体制を理解しているか」という評価が訓練後には4.53へと大幅に上昇し、「自分が実務を担当できる」という自己評価も同様に改善しています。
参加者の声としては、「紙とペンだけでは共有しづらかった情報がデジタル方式では瞬時に共有でき、全体像を把握しやすくなった」「デジタル方式のやり方に慣れておけば、実際に災害が起きても落ち着いて対応できそうだと感じた」といった感想が寄せられました。単なるツールの操作習得に留まらず、災害時の実務を主体的に担えるという自信が育まれたことが、自治体の防災力全体を高める大きな要因になっていると考えられます。
今後の展望:全国での標準化を目指す災害対策本部のDX化
株式会社 減災ソリューションズでは、今回菊陽町で得られた結果を基盤に、全国の自治体や企業、関係機関が抱えるアナログ運用の課題を数値的に洗い出し、DX導入による解決策を示す取り組みを広げていく方針です。アナログから脱却して誰でも正確に情報を扱える本部運用を確立することは、地震・豪雨など激甚化する災害に対応するうえで不可欠と考えられます。今後も本訓練の成果を展開し、日本各地での防災力向上を支援していきます。
報告書の公開について
今回の訓練に関する詳細な評価データや具体的な課題分析は、熊本県菊陽町が取りまとめ、今後菊陽町公式ウェブサイトにて公開予定です。全国の自治体・企業の防災担当者・危機管理担当者にとって、実務に直結する具体的な知見が含まれた、今後の大規模災害に備える上で有益な資料です。ぜひご参照ください
熊本県菊陽町HP:https://www.town.kikuyo.lg.jp
減災ソリューションズについて
減災ソリューションズが描く未来は、迫りくる災害からひとりでも多くの「命とくらし」を守ることができる社会です。最新技術である「GENSAI-Platform™」や「Rescue Training Module™」は災害現場での対応を革新しますが、同時にそれを支えるのは、訓練を通じて育まれる人々の力です。
減災ソリューションズは、迫りくる災害から「ひとりでも多くの命とくらしを守る」ために、革新的な技術開発と実戦的な減災ソリューションを提供するとともに、災害に強い社会を築くための減災教育にも注力し、社会の減災力向上に貢献していきます。
会社概要
株式会社減災ソリューションズ
代表取締役社長 加古 嘉信
本社所在地 〒101-0047
東京都千代田区内神田1-8-11 東京保井ビル8階
設立日 2024年5月
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