ステーブルコインは本当に街で使えるのか? JPYC、Sui、HashPort、INSPAYが語る「Payment 3.0」の現 在地
ステーブルコイン決済、実証から日常利用へ。普及の鍵を握る決済速度・店舗運用・利用者メリット
ステーブルコインの発行・流通が拡大する一方、日常の買い物で利用できる場面はまだ限られている。こうした状況を踏まえ、自動販売機や店舗向けに決済端末と加盟店システムを提供するINSPAYは10月2日、東京・大手町のFINOLABで「Payment 3.0:ステーブルコインは、本当に街で使えるのか。」を開催した。

イベントでは、Suiブロックチェーンのオリジナル・コントリビューターである米Mysten Labsの講演に続き、日本円ステーブルコイン「JPYC」を発行するJPYCの岡部典孝代表取締役、ノンカストディアルウォレットを手がけるHashPortの中山貴人ビジネス開発部長、INSPAYの田中夏子事業開発責任者が登壇。暗号資産・ブロックチェーン専門メディアCoinPostの古田鴻之介氏の進行で、ウォレット、ステーブルコイン発行体、店舗・決済端末をつなぐために何が必要か、各社がどのように連携できるかを探った。
会場では、JPYCとUSDsuiによるクレーンゲームの決済体験も行われた。
「Payment3.0」の課題は、使い続けられること

冒頭、INSPAYの田中氏は、世界のステーブルコイン発行量が約3,060億ドルに達する一方、決済での利用は世界の決済額の約0.02%にとどまると指摘した。日本は2025年のキャッシュレス決済比率が58%、自動販売機・自動サービス機も2025年末時点で約388万台あるなど、利用の受け皿は整っているという。
決済手段は現金(1.0)からカード・QRコード決済(2.0)へと進化し、次の段階としてステーブルコイン決済(3.0)が期待される。田中氏は、日本のクレジットカードの加盟店手数料は平均2.7%で、入金まで1カ月以上かかる契約も多いと説明。ステーブルコインなら支払いと着金がほぼ同時で、売上の自動分配など「プログラムできるお金」の利点も生かせるとした。
ただし、実店舗では送金が成功するだけでは不十分だ。注文と入金を正しくひも付け、商品やサービスの提供まで確実につなぐ仕組みが求められる。
INSPAYはJPYC、HashPortなどと連携し、京都市内の自動販売機や東京のWebXでステーブルコイン決済を実証してきた。田中氏は「使える。そして次の課題は使い続けられること」と強調。今後1年以内に、実証実験にとどまらず、店舗の日常的な売上につながる商用利用を目指す考えを示した。

Mysten Labs:高速・低コストの決済インフラを提供

米Mysten LabsのChief of Staff、Bauer Wann氏は、Suiが決済インフラとしての技術的特徴を紹介した。同社は今年7月、INSPAYとの戦略的協業を発表。日本でステーブルコイン決済の社会実装を進め、将来的にはアジア太平洋地域への展開を目指す。
Suiは、高速かつ低コストで取引を処理できるよう設計されている。複数の取引を同時に処理する並列処理により、応答速度を高め、手数料も予測しやすくすることを目指す。対象となるステーブルコインの送金では、ガス代をプロトコルレベルで無料にする仕組みも発表しており、利用者が手数料の支払い用にSUIを別途保有する負担を軽減する。これらの仕組みが、少額・高頻度の決済を支える。
さらに、企業のコンプライアンス要件に応じて資産の移転を制御する機能や、プライバシー保護も重視する。個人間送金から国際送金、企業間決済、AIエージェントによる支払いまで、幅広い用途を想定している。
Wann氏は、INSPAYとの協業による自動販売機やクレーンゲームでの決済体験を、ブロックチェーン技術が実際の消費行動につながる事例として紹介した。
普及の鍵は「利用者のメリット」

座談会でまず議論になったのは、店舗の手数料が下がっても、利用者にメリットがなければ普及しないという点だ。
JPYCの岡部氏は、カード決済では店が約3%の手数料を払い、利用者は約1%のポイントを受け取るが、ステーブルコインは決済事業者が間に入らない分、還元の仕組みがないと述べた。店が手数料の一部を値引きに回す、決済事業者が手数料の一部で還元する、といった設計が普及の鍵になるという。
利用は国内にとどまらない。韓国の暗号資産取引所Upbitでの取引開始から約2週間で、JPYCの保有の約半数が韓国側になったという。ただし、保有者が増えるだけでは決済の普及にはつながらない。
課題は速度と、店舗の運用

HashPortの中山氏は、2025年大阪・関西万博の公式ウォレットを前身とする「HashPort Wallet」を紹介した。現在はお好み焼き店や京都の自動販売機でJPYC決済に対応するほか、ローソンの既存POSシステムと連携する実証にも取り組んでいる。
一方、既存のQRコード決済と比べ、オンチェーン決済では処理に時間がかかる場合があり、最大20秒程度を要するケースもあるという。中山氏は、交通系ICとクレジットカードのタッチ決済のわずかな速度差でも利用者は遅いと感じると指摘。鉄道事業者から改札への導入相談もあるが、5秒かかるようでは難しいと述べた。
これに対し、INSPAYの田中氏は、Suiを使った自動販売機やクレーンゲームでは、約1秒で決済できる例もあると紹介した。
店舗側の運用も課題が残る。返金処理や既存POSとの接続、本部と店舗の権限管理、売上集計などへの対応が必要だ。HashPortは、法人向けサービス「HashPort Wallet for Biz」を提供し、こうした店舗運用への対応を進めているという。
次の一手は、行政サービス・AI・既存アプリとの連携

今後の連携先として岡部氏が挙げたのは政府・自治体だ。給付金や納税でJPYCが使えるようになれば、保有者が一気に増えると期待を示した。
JPYC自身はウォレットを囲い込まず、出資関係に縛られない独立の発行体として、通信キャリアやSNS、決済事業者などの既存アプリに組み込んでもらい、同じ残高をどこでも使える形を目指すという。
中山氏は、KDDIとの連携でau PAYのアプリ内ウォレットを支援しているほか、9月30日に発表したAIエージェント向けの「HashPort Wallet MCP」に言及。AIが24時間365日支払う世界では、ウォレットとステーブルコインの組み合わせが生きるとした。将来的には、利用者がウォレットやステーブルコインを意識せずに決済できる世界を目指す。
田中氏は、訪日客が多い観光地や駅、空港の自販機オーナーとの連携を挙げた。海外のステーブルコイン保有者が日本で実際に利用できる場面を増やし、店舗側の導入も促したい考えだ。
普及の時期について、中山氏は5年以内に多くの店で利用できる状態を目指すとした。INSPAYの田中氏は、1年以内に、実証ではなく日々の売上として店舗に使ってもらうことを目標に掲げた。岡部氏は、各業種の主要な場所でJPYCが使える環境を1〜2年で実現したいと述べた。
質疑応答:収益、規制、導入事例
会場からは収益モデルへの質問が出た。岡部氏は、JPYCの収益は裏付け資産の運用益のみで、決済手数料は取っておらず、現状は赤字だと説明した。
規制面では、ステーブルコインの法的位置付けや給与支払いへの利用、資金移動業の第2種ライセンスにおける1回当たり100万円の送金上限などが議論された。岡部氏は、いずれも制度の見直しが進んでおり、来年ごろには「金銭」と同様に扱える方向になるとの見通しを示した。
具体的な導入事例としては、物流大手が運転手への報酬支払いを早める目的でJPYC導入を進めていると紹介された。支払いまでの期間を、現在の約20日から5日以内、場合によっては即日にしたいという。課題が明確な分野では、導入が一気に進むとの見方だ。
■ INSPAYについて
INSPAYは日本を拠点に、ステーブルコインを実店舗で利用するための決済インフラを開発・提供するテクノロジー企業です。自動販売機、決済端末、加盟店決済システムを支える決済プラットフォームを通じて、ブロックチェーンベースの決済を日本の日常的な消費につなげるとともに、アジア太平洋地域への事業展開を目指しています。
■ 報道関係お問い合わせ先
INSPAY広報担当:press@inspay.jp
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