海上の労働環境改善へ:電子モニタリングとWi-Fiがもたらす新たな可能性
電子モニタリングとWi-Fi技術の導入が海上乗組員の福祉と社会的責任の向上に寄与することを示した新たな報告書を発表

The Nature Conservancy (以下、TNC)とコンサベーション・インターナショナルは、国際的な漁業業界において、電子モニタリングとWi-Fi技術の導入が乗組員の福祉と社会的責任の向上に寄与することを示した新たな報告書を発表しました。1年以上にわたる調査と6か月間のパイロットプロジェクトにて、これらの技術が労働指標のモニタリング、社会的責任目標の評価、そして乗組員の福祉向上にどのように寄与するのかについて調査しました。
パイロットプロジェクトでは、マグロ延縄漁船に電子モニタリングとWi-Fi技術を導入し、労働指標(人権侵害、安全および労働条件など)のモニタリング、社会的責任の目標達成に向けた進捗の評価、そして海上における乗組員の福祉向上のため、より包括的なシステムの中で電子モニタリングがどのように活用できるか調査が行われました。その結果、電子モニタリングは労働指標を把握する効果的なツールとなり得ることが示されました。さらに両技術の組み合わせにより、家族との連絡、労働問題の報告、財務管理のための手段が確保されることで、乗組員の福祉が向上する可能性が示唆されました。
電子モニタリングとWi-Fi技術を商業漁船への導入することは、漁業管理を強化し、重要な社会的セーフガードの検証を支援します。初期調査の結果は有望であり、業界全体での普及に向けたさらなる研究が期待されます。
商業漁業は、海洋面積の半分以上を占めており、これは農業の3倍にあたります。30億人以上に必要な栄養を供給し、世界経済に数十億ドルもの貢献をしています。しかし、そうした重要性にもかかわらず、違法、無報告、無規制(IUU)漁業が蔓延しており、生計や食料安全保障、海洋の生物多様性、そして人間の福祉を脅かしています。漁業における違法行為は、強制労働や人身売買、債務による拘束、性的および労働搾取といった、多様かつ複雑な人権侵害を含んでおり深刻です。
商業漁船における重要な課題の一つは、海上でのモニタリングが不足していることです。検証可能なシステムがなければ、違法行為が見過ごされ、保全・管理措置の効果は損なわれ、ガバナンスの枠組みは弱体化します。その結果、世界のシーフードサプライチェーンに環境と人権のリスクをもたらします。
電子モニタリングとは、海上での漁業活動をモニタリング・検証するために、船内に設置されたビデオカメラ、GPS、センサーを使用する手法で、費用対効果が高く、透明性の向上、法執行、データ品質の向上に貢献する有力な手段です。しかし、これまで電子モニタリングが人権侵害を特定するためにどのように活用できるかについての研究は限られており、また、乗組員にWi-Fiを提供するメリットについても十分に研究されていませんでした。
漁船の乗組員がWi-Fiを使えるようになることは、非常に重要です。家族や友人と連絡を取ったり、困ったときに相談したり、給料を確認したりすることができます。この接続性は孤独を解消し、遠洋漁業が直面する労働リスクを軽減するための重要な外部との架け橋となります。
研究者たちは、電子モニタリングの効果を検証するため、ビデオで確認可能な労働状況を整理し、2024月3月から8月の6か月間、西中央太平洋で3隻のマグロ漁船に電子モニタリングとWi-Fi環境を試験的に導入しました。この期間中、全漁獲作業の20%と、ランダムに選ばれた作業員の24時間記録をチェックし、さらに航海前後に船長と乗組員へ50回以上のインタビューを実施しました。
今回の調査で、主に以下の点が明らかになりました。
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電子モニタリングは、海上での労働状況指標(事故やケガ、安全装備の使用状況、推定される労働・休憩時間、航海の長さなど)を捉えるのに有効である
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Wi-Fiは、乗組員の心の健康にとって非常に大切である。乗組員はWi-Fiを利用できることで、より安全で外の世界とのつながりやすくなったと報告している
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電子モニタリングは、船長と乗組員両方にとって、何か問題が起きた際の証拠として役立つと考えている
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ただし、労働環境改善のための電子モニタリングは、監視による潜在的な影響を最小限に抑えるために慎重な配慮と倫理的な実施が重要
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電子モニタリングのレビュー頻度や費用が、技術の普及と拡大における課題となる可能性があり、今後の研究と技術革新が重要になる
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労働環境をより良くするためには、より強力な政策と、業界のコミットメントが求められる
この画期的な研究は、NGOや労働組合、漁業関係者、政府機関が、社会的指標の監視メカニズムを今後の電子モニタリングプログラムに組み込むために取るべきステップについて、新たな洞察を提供しました。重要なのは、電子モニタリングから得られたデータを苦情申し立てプロセスに統合し、より広範な人権保護の取り組みと連携することです。
今後、研究をさらに発展させるため、第二段階の研究に着手します。内容は以下の通りです。
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関係機関と協力し、(1) 労働指標を含む電子モニタリングのデータ共有に関する合意、(2) 船上での乗組員のWi-Fi利用に関する取り決めを策定・導入する
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電子モニタリングとWi-Fiシステムを、3隻から10隻に増やし、より長期間にわたるデータを収集。そのデータと苦情処理の仕組みを連携させ、労働リスクの特定や申し立て、課題をどう解決に導くことができるかを検証し、社会的責任に配慮した電子モニタリング制度の形成とWi-Fi導入の普及を目指す
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労働専門家やモニタリング分析者と協力して、電子モニタリングデータを問題処理や解決のサービスに活用。その効果を証明し、乗組員の保護に役立てるAI(人工知能)などの最新技術を活用し、モニタリングデータ分析のスピードを向上させ、海上での労働問題の早期検出を強化する
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電子モニタリングとWi-Fiの活用によって生じる懸念や課題を少なくし、これらの仕組みを多くの漁船にも取り入れていくための道筋を示すことで、今後より多くの現場で導入されるよう後押しする
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