科学研究の国際大会で日本の高校生が部門優秀賞1等など6賞受賞
米国で開催されたリジェネロン国際学生科学技術フェア(Regeneron ISEF)2024で8年ぶりに部門優秀賞1等を獲得する快挙
高校生のための科学研究の国際大会「リジェネロン国際学生科学技術フェア(Regeneron ISEF)2024」が5月11日から17日(米国時間)に、米国カリフォルニア州ロサンゼルスで開催されました。この大会は、1950年から毎年開催されている権威ある科学研究コンテストで、今年は67の国と地域から1699人のファイナリストが参加し、自分たちの研究をポスター形式で披露し合いました。賞金・奨学金などの総額は約900万ドル(約14億円)以上になります。日本から15研究22名が参加し、5研究が部門優秀賞1等など計6賞を受賞しました。部門優秀賞1等の受賞は、日本代表としては8年ぶり、女子高校生としては18年ぶりの快挙です。
世界約400か所で開催される提携コンテストで選出されたファイナリストが、毎年5月に米国で開催されるISEFに派遣されます。日本では、ISEFの提携コンテストである「高校生・高専生科学技術チャレンジ(JSEC)」(朝日新聞社・テレビ朝日主催)と「日本学生科学賞」(読売新聞社主催)の受賞研究から日本代表が選ばれます。日本代表のファイナリストは、ISEFのOB/OGが中心となって組織するNPO法人日本サイエンスサービス(NSS)が行う研修会などに参加し、約半年間にわたる英語プレゼンテーション等の準備を経て出場しました。
ISEFでは、物理、化学、生物、地学、数学といった基礎科学分野のほか、機械工学や環境工学といった工学系分野、機械学習やシステムソフトウェア等の情報系分野、医療系分野、社会科学分野など多岐にわたる22の部門に分かれて審査されます。審査は、各分野の博士号を有した経験豊富な研究者によって行われ、上位約25%に「優秀賞(1〜4等)」が授与されるほか、40以上の企業・団体から奨学金やインターンシップを含む「特別賞」が用意されています。
今年は、桜蔭高等学校の中辻知代さんの研究が日本代表として8年ぶりに優秀賞1等に輝くなど、下記5研究が計6つの賞を受賞しました。また22の各部門での1等受賞者の中から特に優秀と認められた12プロジェクトには Top Awards が贈られました。全体トップの賞となるジョージ・ヤンコプロス賞には米ケンタッキー州のGrace Sunさんが選ばれ、賞金75,000ドルが贈られました。
日本代表の受賞者情報
発表者:中辻 知代
研究タイトル(和文):段ボール箱を再利用した災害時対応 机・折り畳み椅子の設計と製作手法及び手を挟みにくい折り畳み椅子の開発
研究タイトル(英文):Origami Chair: Always Accessible to Everyone, Everywhere
学校名:桜蔭高等学校
受賞内容:機械工学:静的・動的部門 優秀賞1等、特別賞 アブドゥルアズィーズ国王財団の才能創造性賞
研究概要:
中辻さんは、段ボール箱から最も簡易に製作できる耐久性の高い椅子を研究しました。発展途上国では十分な数の椅子や机を購入する費用が足りていない一方、支援物資等の運送に利用される段ボールは廃棄されていることに着目し、段ボール箱から最も簡易に製作できる椅子の設計・開発を工学的に検証しました。その結果、段ボール箱をリボン型に組み立てることで、簡易に製作できるだけでなく、JIS規格を満たす強固性を持つ、軽量で座りやすい椅子の開発に成功しました。この椅子は、災害時における生活支援や貧困で教育を受ける環境が整っていない学校のサポートに貢献することが期待されます。
発表者:池上 十和子
研究タイトル(和文):カニ殻からバイオプラスチックを生成する新規微生物の探索と同定
研究タイトル(英文):Innovative Sustainable Bioplastic Production: Unleashing the Potential of Crustacean Waste through a Novel Microbial Synthesis
学校名:近畿大学附属豊岡高等学校
受賞内容:微生物学部門 優秀賞4等
研究概要:
環境負荷の少ないプラスチックとして、生物によって分解可能な生分解性プラスチックが近年注目されています。ポリヒドロキシアルカノエート(PHA)は微生物によってつくられるプラスチックで、多様な環境で分解できることから応用が期待されていますが、生産コストが高いことが問題でした。池上さんは、多糖類でできたカニ殻が長年廃棄されてきた土壌に着目し、カニ殻からPHAを合成できる新しい細菌を発見しました。この細菌のゲノムを解析した結果、興味深いことにPHA合成過程を2種類の細菌が分担している共生体である可能性が示唆されました。食品廃棄物であるカニ殻から生分解性プラスチックを合成できるこの細菌は、原料が安価であるだけでなく、フードロス削減につながることも期待されます。
発表者:吉田 浩瑛 前田 孝太朗 鐘築 昇太郎
研究タイトル(和文):日本の公開天文台の標準機を目指した次世代型天体観測用分光器の開発
研究タイトル(英文):Development of an Inexpensive, High-Performance, Easily-Assembled, Low-Dispersion Astronomical Spectrograph
学校名:米子工業高等専門学校
受賞内容:物理学・天文学部門 優秀賞4等
研究概要:
天体分光観測は天文学において非常に重要な手法です。しかし、天体観測用の分光器は極めて高価なため、日本国内の公開天文台の保有率は一割程度という現状がありました。そこで、吉田さん、前田さん、鐘築さんは分光観測についての知識と経験を活かし、低予算で自作可能な分光器を設計・製作しました。製作した分光器は、回折格子の角度をPCから制御しスリットビュワーとスペクトルを切り替え、1台のカメラで撮像できる仕組みを採用しています。これにより従来の低分散分光器では困難だった銀河の回転速度の測定や散光星雲の分光診断が可能となりました。本研究は公開天文台の分光器の保有率を改善し、日本の天文学の発展に寄与することが期待されます。
発表者:小谷 理人
研究タイトル(和文):データアクイジションにおけるAGIバイアス解決へ
研究タイトル(英文):Bias in Large Language Models (LLMs); Paving the Way for an Equitable Artificial General Intelligence (AGI)
学校名:東京学芸大学附属国際中等教育学校
受賞内容:特別賞 ノン・トリビアル賞
研究概要:
小谷さんは、GPTなどの大規模言語モデル(LLM)のバイアス研究を行いました。これらのモデルは多くの人に利用され、社会に大きな影響を与えていますが、非合理的でステレオタイプ的なバイアスが存在します。小谷さんは、関連性、表現バイアス、ステレオタイプ、中立性、仮定の5側面からバイアスを評価し、6000以上の回答を解析しました。その結果、LLMは独自のアルゴリズムとデータ処理によりバイアスに個性があることが分かりました。この研究は、LLMのバイアス理解を深め、将来の人工汎用知能(AGI)システムの再評価に重要な一歩となることが期待されます。
発表者:塚井 優美
研究タイトル(和文):アルテミシニン誘導体の抗マラリア活性評価
研究タイトル(英文):Evaluation of Antimalarial Activity of Artemisinin Derivatives by the Reaction with Fe(II) Ion in Micelles
学校名:徳島市立高等学校
受賞内容:特別賞 医薬・化学・関連技術協会賞
研究概要:
マラリアはハマダラカが媒介する世界三大感染症の一つであり、その治療薬にはアルテミシニンという化合物があります。塚井さんはその作用機序に興味を持ち、抗マラリア活性におけるメカニズムの解明に取り組みました。その結果、強いマラリア活性をもつ新規誘導体の合成に成功し、さらに、Fenton様反応と脂質過酸化反応が具体的にどのように抗マラリア活性に関係するかを明らかにすることで、抗マラリア活性のスクリーニング評価法を開発することに成功しました。これは新規のアルテミシニン誘導体においても適用可能で、低コストで迅速に活性評価をすることを可能にします。
日本代表の情報
【ANIM040T 動物科学部門】
今村 響さん 伊藤 和哉さん 黒瀬 晴斗さん
学校名:熊本県立済々黌高等学校
「ウニ類に学習行動が確認された」
Learning and Long-Term Memory Are Found in Sea Urchin
研究プレゼン資料:https://projectboard.world/isef/project/167371
【CBIO018 計算生物学・バイオインフォマティクス部門】
角野 陽奈美さん
学校名:三田国際学園高等学校
「疾患原因となるアミノ酸変異の解析」
Analysis of the relationship Between Missense Variants and Disease
研究プレゼン資料:https://projectboard.world/isef/project/162081
【CHEM022T 化学部門】
大場 誠也さん 志田 京太郎さん
学校名:宮城県仙台第三高等学校
「白金箔における水素と酸素の反応の研究」
New Discovery of Conditions for Hydrogen Explosive Combustion in Platinum Foil
研究プレゼン資料:https://projectboard.world/isef/project/162098
【CHEM023 化学部門】
佐藤 怜さん
学校名:宮城県古川黎明高等学校
「炭酸カルシウムのリーゼガング現象」
A Novel Pattern of Reactive Crystallization of Calcium Carbonate Formed in Agarose Gel
研究プレゼン資料:https://projectboard.world/isef/project/162099
【CHEM037 化学部門】
中村 風香さん
学校名:大妻嵐山高等学校
「メチレンブルーによる可逆的な光化学反応」
Drawing a Picture in a Liquid! Novel Photochromic System Using Methylene Blue Reduction with Ascorbic Acid
研究プレゼン資料:https://projectboard.world/isef/project/165399
【CHEM045 化学部門】
塚井 優美さん
学校名:徳島市立高等学校
「アルテミシニン誘導体の抗マラリア活性評価」
Evaluation of Antimalarial Activity of Artemisinin Derivatives by the Reaction with Fe(II) Ion in Micelles
研究プレゼン資料:https://projectboard.world/isef/project/166472
【CHEM047 化学部門】
槙野 心美さん
学校名:徳島県立城ノ内中等教育学校
「フラボノイド化合物の抗酸化活性評価」
Evaluation of Antioxidant Activity of Flavonoids - Remarkable Effect of Hydroxy Groups in the B Ring and the Substituent in the C Ring -
研究プレゼン資料:https://projectboard.world/isef/project/166537
【EGSD019T エネルギー・持続可能な材料設計部門】
遠藤 碧海さん 梅原 明雅さん 八木 結希さん
学校名:静岡理工科大学静岡北高等学校
「炎酸化マグネシウムとアルミニウム箔を組み合わせた放射冷却材の開発」
Novel Passive Radiative Cooler Which Combined Magnesium Oxide and Aluminum Foil
研究プレゼン資料:https://projectboard.world/isef/project/162133
【ETSD020 機械工学:静的・動的部門】
中辻 知代さん
学校名:桜蔭高等学校
「段ボール箱を再利用した災害時対応机・折り畳み椅子の設計と製作手法及び手を挟みにくい折り畳み椅子の開発」
Origami Chair: Always Accessible to Everyone, Everywhere
研究プレゼン資料:https://projectboard.world/isef/project/162135
【MATS022 材料科学部門】
野末 紗良さん
学校名:茨城県立並木中等教育学校
「竹繊維保水性舗装によるヒートアイランド現象への挑戦~竹繊維の吸水・保水性の活用~」
Development of Water-Retaining Pavement Concrete Using Bamboo Fiber to Mitigate Urban Heat Island Effects
研究プレゼン資料:https://projectboard.world/isef/project/162757
【MCRO013 微生物学部門】
池上 十和子さん
学校名:近畿大学附属豊岡高等学校
「カニ殻からバイオプラスチックを生成する新規微生物の探索と同定」
Bioplastics From Crab Shells via Novel Microbes
研究プレゼン資料:https://projectboard.world/isef/project/162080
【PHYS023T 物理学・天文学部門】
吉田 浩瑛さん 前田 孝太朗さん 鐘築 昇太郎さん
学校名:米子工業高等専門学校
「日本の公開天文台の標準機を目指した次世代型天体観測用分光器の開発」
Development of an Inexpensive, High-Performance, Easily-Assembled, Low-Dispersion Astronomical Spectrograph
研究プレゼン資料:https://projectboard.world/isef/project/162100
【PHYS025 物理学・天文学部門】
田﨑 奏楽さん
学校名:滋賀県立膳所高等学校
「他次元の原子の電子収容数を定める「電子収容数次元理論」」
A Proposal of Multidimensional Theory for Determining Electron Capacity Numbers in Atomic Entities of Other Dimensions
研究プレゼン資料:https://projectboard.world/isef/project/162137
【PLNT021 植物科学部門】
植野 涼子さん
学校名:ノートルダム清心学園清心女子高等学校
「稲踏み効果の科学的検証Ⅱ」
Impact of Treading on Rice Growth: A Comparative Analysis Across Representative Varieties
研究プレゼン資料:https://projectboard.world/isef/project/162078
【ROBO063 ロボット工学・知能機械部門】
小谷 理人さん
学校名:東京学芸大学附属国際中等教育学校
「データアクイジションにおけるAGIバイアス解決へ」
Bias in Large Language Models (LLMs); Paving the Way for an Equitable Artificial General Intelligence (AGI)
研究プレゼン資料:https://projectboard.world/isef/project/167093
<注意>
研究タイトル(和文)は、日本国内の提携コンテストで発表した際のものです。
学校名は、日本国内の提携コンテストに出場した際(2023年12月)の所属です。
ISEFの最高賞を受賞した研究
22の各部門での1等受賞者の中から特に優秀と認められた12プロジェクトには Top Awards が贈られました。全体のトップにあたる最高賞を受賞した研究を紹介します。(タイトルの邦訳は、原題や研究内容をもとにNSSが作成したものです)
■ジョージ・ヤンコプロス賞(最高賞)
George D. Yancopoulos Innovator Award 賞金75,000ドル
Grace Sun(アメリカ)
タイトル: Novel Chemical Doping Strategy to Enhance N-Type Organic Electrochemical Transistors (邦訳:N型有機電気化学トランジスタの性能向上に関する新しい化学ドーピング戦略)
研究プレゼン資料:
https://projectboard.world/isef/project/162664
NPO法人日本サイエンスサービス(NSS)とは
科学自由研究コンテスト受賞やISEF出場経験のある大学生・大学院生が中心になって活動するNPO法人です。研究の醍醐味を誰よりも知っている自由研究の先輩たち(大学生や大学院生)が、後輩たち(小学生~高校生)の自由研究の応援と、科学研究ファンを広げる活動をしています。そのさらに先輩にあたる社会人スタッフは後方支援を行いながら、若き研究者の育成に力を入れています。「研究大好き集団」、それが日本サイエンスサービスです。
関連サイト
ISEF情報サイト
NPO法人日本サイエンスサービス(NSS)
日本学生科学賞
https://event.yomiuri.co.jp/jssa/
高校生・高専生科学技術チャレンジ(JSEC)
https://manabu.asahi.com/jsec/
SOCIETY FOR SCIENCE(ISEF主催者)
https://www.societyforscience.org/
プロジェクトボード(全参加者のプレゼン資料)
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