高齢者のいる世帯は「過度な水準の保健医療支出」をより多く経験している
国際的な医療経済学誌で研究結果を発表
ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ (UHC) とは、すべての人が必要な保健医療サービスを、経済的な困難を経験することなく利用できることを意味し、持続可能な開発目標(SDGs)の一つとして2030年までの達成に向けて、世界全体で取り組みを推進しています。国民の健康指標と医療システムが最高水準に達成している日本においても、UHCの実現には課題があります。特に、人口高齢化はUHCを実現する上で大きな課題となる可能性がある一方、高齢者の医療サービスへのアクセスやサービスの利用による経済的負担の影響に関しては、知見が限られています。
WHO健康開発総合研究センター(WHO神戸センター)と東京都健康長寿医療センターは、人口高齢化が進む中で高齢者の貧困を防ぎ、医療へのアクセスを改善するためのより良い政策立案に資することを目的に、「過度な水準の保健医療支出」 の規模、原因、影響と、保健医療サービスに対する未充足のニーズに関する分析を行いました。本研究の結果は、2024年1月30日に国際的な医療経済雑誌「Health Economics Review」に掲載されました。
主な研究結果
本研究からは、高齢者のいる世帯の方が、それ以外の世帯よりも過度な水準の保健医療支出を経験している傾向にあることが明らかになりました。過度な水準の保健医療支出が家計に与える影響も世帯の年齢構成によって異なり、高齢者がいる世帯は、過度な水準の保健医療支出を経験した翌年には、食費や社会活動への支出の減少が顕著で、若年者のみの世帯では、教育への支出が削減される傾向がありました。
また、若年者のみの世帯では、高額な医療費負担が発生した翌年に収入が減少する一方、高齢者のいる世帯ではそのような影響が見られないことも判明しました。これは、雇用ベースの収入に依存している(つまり健康状態が収入減に影響する)若い世帯の方が、経済的影響が大きい可能性があることを示唆しています。
一方、未充足のニーズ(保健医療関連の満たされていないニーズ)に関しては、若年者と高齢者において高い傾向がみられました。
SDGs達成状況の評価および政策への示唆
本研究で示されたように、UHCをモニタリングするための指標として過度な水準の保健医療支出を評価する際には、世帯の年齢構成による違いを考慮する必要があります。それと同時に、そもそも必要なサービスにアクセスできているかどうかを評価するためには、保健医療サービスに対する未充足のニーズを評価することも重要です。日本を含め世界各国でUHCを推進していくには、異なるグループのさまざまなニーズをより正確に理解し、それらを国や自治体の保健医療制度や社会保障政策に反映させた上で保健医療サービスや経済的支援を取り入れる必要があります。
◆ WHO健康開発総合研究センターについて
世界保健機関健康開発総合研究センター(WHO神戸センター)は、ジュネーブにあるWHO本部の一部局として、国内外の学術・研究機関と連携してユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)や災害・健康危機管理に関するグローバルヘルス課題を解決するための研究に取り組んでいます。阪神淡路大震災の復興のシンボルとして兵庫県神戸市の協力で設立された経緯から、地元に根差した活動も行っています。
ウェブサイト:https://wkc.who.int/ja
◆地方独立行政法人東京都健康長寿医療センターについて
東京都健康長寿医療センターは、1872年(明治5年)に設立された養育院を前身としています。渋沢栄一翁は養育院の初代院長であり、福祉・医療事業の維持・発展に尽力されました。2009年(平成21年)に東京都老人医療センターと東京都老人総合研究所が一体化し、地方独立行政法人となり高齢者医療のパイオニア・老年学研究の拠点として、高齢者の心身の特性に応じた適切な医療の提供、臨床と研究の連携、高齢者のQOLを維持・向上させるための研究を通じて、高齢者の健康増進、健康長寿の実現を目指し活発な診療・研究活動を展開しています。
ウェブサイト:https://www.tmghig.jp/
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