【教育関係の皆様へ】世界初:学校ACE®(小児期の学校での傷つき体験)とひきこもりの強い関連を科学的に証明。研究結果の解説付き特別セミナーを開催します。
ひきこもりは、学校での傷つき体験が重要な要因である可能性が高く、家庭での傷つき体験は関係がないという研究結果を子どもの発達科学研究所の和久田学氏らが論文で発表。解説動画を期間限定で無料配信中。
この研究から、学校生活の重要性が再認識されるとともに、逆に、学校での良い体験が子どもたちの未来を守る、学校の大きな可能性も感じられます。昨今注目される「学校風土調査」など、良い学校づくりのためのツールの活用が今後ますます期待されます。
2024年2月12日、この研究結果の報告や解説を含む特別セミナーをオンラインで開催します。
特集:学校ACE https://kohatsu.org/school_ace/
※学校ACEは公益社団法人子どもの発達科学研究所の登録商標です
今回の論文について
論文タイトル:Adverse childhood experiences: impacts on adult mental health and social withdrawal
著者名:Manabu Wakuta,Tomoko Nishimura, Yuko Osuka, Nobuaki Tsukui, Michio Takahashi,Masaki Adachi, Toshiaki Suwa, Taiichi Katayama(和久田学、西村倫子、大須賀優子、津久井伸明、高橋芳雄、足立匡基、諏訪利明、片山泰一)
https://doi.org/10.3389/fpubh.2023.1277766
ACEとは
ACEとは、Adverse Childhood Experiences、逆境的小児期体験を意味します。1990年代後半に海外で始まったACE研究によって、家庭内での虐待や家族の機能不全は、成人期のメンタルヘルス、身体疾患、社会適応など、様々なことのリスクを高めることが証明されました。しかも関連があるとされる成人期の問題は非常に幅広く、ACEのスコア(※注1)が高いほど、心臓病、糖尿病、肥満、うつ病、薬物乱用、喫煙、就労の問題などのリスクが劇的に高くなる(Anda et al.,2006, Bellis et al., 2017, Hughes et al., 2017)ということがわかっています。
(※注1:ACEスコアは、通常、①親や家族からの身体的虐待、②精神的虐待、③性的虐待、④ネグレクト、⑤精神的ネグレクト、⑥DVの目撃(母親の被害)、⑦同居家族の精神疾患、⑧同居家族の犯罪、⑨同居家族の薬物やアルコール依存、⑩両親の離婚や別居の10の事柄について、いくつ体験されているかによって計測される。体験したとする数がそのままACEスコアとなる。)
ここで扱われている「ACE:逆境的小児期体験」は、家庭での虐待と家族の機能不全、すなわち家庭における傷つき体験を示しています。
一方、学校での傷つき体験、たとえばいじめ被害や教師による体罰については、そうしたACEとは別の枠組みで研究がなされてきたという歴史があります。
今回の研究の特長の一つは、学校での傷つき体験、つまり、いじめ、教師からの強い叱責などを、学校ACEという概念でまとめ、これまでのACE研究の流れの中で扱ったという点にあります。
研究内容
日本人のうち、ACE、学校ACEがある人はどのくらいいるのか?
ACEと学校ACEは、成人期の抑うつ/不安にどのように関連しているのか?
ACEと学校ACEは、ひきこもりとどのように関連しているのか?
ここでひきこもりに注目したのは、日本社会において、ひきこもりが解決すべき大きな課題になっており、成人期の社会適応の問題を示しているためです。
研究の対象者は、インターネット調査フォームにより募集した、20歳から34歳までの日本国内の成人、計4,000名です。その対象者には、ACE、学校ACEのことはもちろん、抑うつ/不安の状況、ひきこもり状態にあるかどうかについて尋ね、その結果を科学的に解析しました。
ACEの評価には、10項目(①親や家族からの身体的虐待、②精神的虐待、③性的虐待、④ネグレクト、⑤精神的ネグレクト、⑥DVの目撃(母親の被害)、⑦同居家族の精神疾患、⑧同居家族の犯罪、⑨同居家族の薬物やアルコール依存、⑩両親の離婚や別居)のトラウマ体験を問い、「はい」と回答した項目数を「総ACEスコア」として解析に用いました。
学校でのACEの評価には、前記の質問①②③⑤⑥の5項目の主語の加害者を「学校(または幼稚園)の教師や他の大人」と置き換えて質問し、該当項目数を学校ACE の「教師関連スコア」として解析。また、同級生・上級生によるいじめ被害体験の2項目を学校ACEの「いじめ関連スコア」として解析しました。また、教師関連スコアといじめ関連スコアを統合した「学校ACEスコア」も解析に用いました。
抑うつや不安のレベルは、抑うつと不安について4項目で簡便に評価することができるアンケート「PHQ-4」を用いて把握しました。PHQ-4は0~12点でスコア化され、スコアが高いほど抑うつや不安が強いと評価されます。本研究では6点以上を中等度以上の抑うつ・不安と定義しました。
病気や妊娠、家族の介護、新型コロナウイルス感染症対策、自然災害などの理由がないにもかかわらず、6カ月以上にわたり他者との交流を伴う外出をしていない場合を「社会的ひきこもり」と定義したところ、138人(3.5%)が該当しました。
結果のポイント
1. 日本人のうち、ACE、学校ACEがある人はどのくらいいるのか?
ACEスコアが1点以上だった人は、全体の35.9%、学校ACEスコアが1点以上だった人は、全体の55.1%であった。
学校ACEを、教師関連スコア(5項目)といじめ関連スコア(2項目)に分けると、教師関連スコアで1点以上だった者は全体の20.5%、いじめ関連スコアが1点以上だった者は全体の50.5%であり、いじめによる被害の方が多い。
日本においては、ACEよりも学校ACEがある人の方が割合として多い。
2. ACEと学校ACEは、成人期の抑うつ/不安にどのように関連しているのか?
ACE、学校ACEともに成人期の抑うつ/不安に関連があった。
「総ACEスコア」が1点高くなると、抑うつ/不安のリスクが24%高まる。
「学校ACEスコア」が1点高まると、抑うつ/不安のリスクが44%高まる。
「教師関連スコア」が1点高まると、抑うつ/不安のリスクが33%増加し、「いじめ関連スコア」が1点高まると、抑うつ/不安リスクが60%高まることがわかった。
表1 抑うつ/不安との関連
※モデル1では、学校ACEを全体として扱い、モデル2は、学校ACEを教師関連スコアといじめ関連スコアに分けて扱っている。
3. ACEと学校ACEは、ひきこもりとどのように関連しているのか?
ACEは、ひきこもりと関連していないが、学校ACEは関連があった。
学校ACEの総スコアであれば、1点高くなるとひきこもりリスクが29%増加。
教師関連スコアであれば1点につき23%、いじめ関連スコアであれば1点につき37%高まることが分かった。
表2 ひきこもりとの関連
※モデル1では、学校ACEを全体として扱い、モデル2は、学校ACEを教師関連スコアといじめ関連スコアに分けて扱っている。
考察
今回の研究では、家庭内の虐待による傷つき体験(ACE)ではなく、家庭の外、それも学校での傷つき体験、すなわち「学校ACE」が、ひきこもりの要因である可能性が高いと示されました。これは非常に大きな発見であると考えています。
学校は本来、子どもたちにとって安心安全な場所であり、子どもの将来に良い影響を与えるものでなければなりません。また、子どもたちにとって初めて触れる社会でもあります。その学校が、社会参加の失敗体験を積ませ、子どもの将来の社会適応にネガティブな影響を与えていたことが推察されるのです。そうした意味で今回の研究結果は、重く捉えられるべきでしょう。
現在、ひきこもりの問題は非常に大きく、社会に影響を与えていますが、その要因に学校ACE、学校での傷つき体験があったことを考えると、学校で子どもが体験していることについて、今一度、確かめてみる必要があります。
特にいじめの被害は非常に深刻です。文部科学省の調査によると、いじめの認知件数は令和4年度で過去最高であり、相変わらずいじめに起因する自殺や不登校など、いじめ重大事態が起こっています。
学校ACEのうち、いじめ関連項目で1点以上だった者は全体の半数、いじめ関連項目は、抑うつ/不安とひきこもりのリスクの両方に大きな影響を与えています。このことから、いじめの予防、そして、教師が子どもを傷つける行為をなくすことが、子どもたちの将来のメンタルヘルスの悪化やひきこもりの問題を解決する可能性があると言えるでしょう。
また、今回の研究では学校ACEがひきこもりと関連について明らかにしましたが、学校ACEは、同様に社会適応の問題であるニートなど、不就労や、成人期の貧困等にも関連がある可能性があります。学校での傷つき体験の予防について、私たちはもっと真剣に考えるべきではないでしょうか。
もちろん、学校には学校ならではのポジティブな側面もたくさんあるでしょう。良い学校風土が、いじめ、不登校、暴力、メンタルヘルスの悪化の予防に効果的であり、成績向上とも関連があることはこれまでの研究からも明らかとなっています。具体的に学校生活でのどういった経験が子どもたちの将来を豊かにするのか、学校PCE(Positive Childhood Experience:ポジティブな小児期体験)についても今後研究を進めていく必要があります。
今回の学校ACE研究では、学校での傷つき体験に注目していますが、逆に、学校での良い体験が子どもたちの未来を守るであろうという、学校の大きな可能性も感じられます。「学校風土調査」をはじめとする、良い学校づくりのためのツールの活用にも、今後ますます注目すべきでしょう。
研究グループ
この学校ACE研究を行ったのは、(公社)子どもの発達科学研究所の主席研究員、和久田学を中心にしたグループです。
このグループは、学校の教師を長年勤めた者を中心に、研究者として学校現場にかかわった者で構成されています。もちろん全員が、子ども時代、日本の学校教育を受けてきた経験者でもあります。
よってこの研究は、学校ACEという学校のネガティブな面に注目したものではありますが、単に学校の問題を指摘しようとするものではありません。むしろ学校が、より子どもたちにとって安心安全で、子どもたちの健全な発達を促す場であるために課題を明らかにし、今の時代に合ったものに変化していくきっかけになることを願っていることを強調させていただきたいと思います。
研究者紹介
【和久田学(わくたまなぶ)】
公益社団法人子どもの発達科学研究所 所長・主席研究員
小児発達学博士
大阪大学大学院 招聘教員
弘前大学大学院 医学研究科 客員研究員
日本児童青年精神医学会 教育に関する委員会 委員
特別支援学校教諭として20年以上現場で勤め、その後科学的根拠のある支援方法や、発達障がい、問題行動に関する研究をするために連合大学院で学び、小児発達学の博士学位を取得。 現在は公益社団法人子どもの発達科学研究所主席研究員として、子どもの問題行動(いじめや不登校・暴力行為)の予防・介入支援に関するプログラム・支援者トレーニング・教材の開発に取り組む。
著書:「学校を変える いじめの科学」(日本評論社)、「科学的に考える子育て エビデンスに基づく10の真実」(緑書房)
連載:「本当の自己肯定感Q&A」・「反抗期を科学する」(エデュナビ)
特別セミナーの開催について
2024年2月12日(月・祝)14時から、今回の研究結果の詳細を、和久田研究員自らがわかりやすく解説する特別セミナーを開催します。
また、特別ゲストとして、小児科医として児童相談所などで相談業務を行う傍ら、こども家庭庁アドバイザーとしてもご活躍中の山口有紗先生もご登壇。
傷つき体験のある子どもたちのウェルビーイングを保障するために必要なことを、学校を含めたさまざまな場所で今日からできることやレジリエンスの視点も交えながらお話しします。
山口先生と和久田研究員の、専門分野を超えた対談も注目です。
また、参加者には学校ACEに関する特別冊子(PDF版)もプレゼント。
要事前申込、録画配信あり。
▼セミナー詳細はこちら
「学校ACE:成人期への深刻な影響を知る」
2024年2月12日(月・祝)14:00~16:00
【プログラム】
14:00~ 開会:挨拶 和久田学(公益社団法人子どもの発達科学研究所 所長・主席研究員)
14:05~ 第一部:研究報告 「学校ACEの衝撃 ~研究結果からわかること~」 和久田学
14:45~ 第二部:特別講演 「子どものウェルビーイングをつくるもの-傷つきとレジリエンスの視点から-」 山口有紗先生
15:30~ 第三部:特別対談 山口有紗先生×和久田研究員「ACEとPCE」(司会:奥山清)
16:00 閉会
公益社団法人子どもの発達科学研究所について
Tel/Fax:053-456-0575
E-mail:info@kohatsu.org
子育て、発達障害、いじめ予防、就労支援等に関し、科学的根拠に基づくプログラムの研究開発と提供を行う日本では数少ない社会実装団体です。
法人名にある「子ども」を対象の中心としながらも、全ての人のための「ヒト支援」を進めています。
すべての子どもの幼児期から思春期における成長を科学で支え、健やかな未来へと導くため、研究、開発、コンサルティングなど、幅広く活動しています。
本プレスリリースに関するお問い合わせ、取材依頼に関しては下記の窓口にお願い申し上げます。
【お問い合わせ先】
公益社団法人 子どもの発達科学研究所 社会実装局 奥山清、安田良子
TEL:053−456−0575
E-mail:info@kohatsu.org
※学校ACEは公益社団法人子どもの発達科学研究所の登録商標です
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