建築家・坂茂氏設計による茅葺きの農家レストラン「陽・燦燦」ヨーロッパの工法を使用した屋根葺きの新築では国内最大級

-坂氏ならびにくさかんむり代表・相良のコメント公開-

　伝統的な茅葺き技法を生かし、現代に応用する取り組みを進める株式会社くさかんむり（本社：神戸市北区淡河町、以下「当社」）は、兵庫県淡路島でオープンした農家レストラン「陽・燦燦」（読み＝はる・さんさん）の屋根葺きを担当いたしました。530平米の屋根を、ヨーロッパ各国で茅葺きの新築を作る際に用いられる「気密工法」によって葺いており、その規模は日本国内最大級を誇ります。コンテンポラリーと位置付ける当社の事業セグメントの中においても過去最大規模となりました。設計者である坂茂氏と当社代表・茅葺き職人の相良のコメントを公開いたします。

農家レストラン「陽・燦燦」

・風の通りを意図的に遮断し、延焼を防止するヨーロッパでは主流の「気密工法」による茅葺き屋根

陽・燦燦の屋根部分図面

火災リスクを軽減するため、屋根の下地に準不燃ボードを設置する工法です。従来の茅葺き屋根は、丸太や竹等で組まれた格子状の骨組みに直接葺くため、屋内から直接茅が見える構造になっています。これは通気性を担保する観点でメリットがある一方、現代では実生活上・法律上の観点から新築施工がしづらいというデメリットも抱えています。欧州各国で主流となっている気密工法は、火災リスクを軽減する役割を果たすボードを屋根全面に配した上に茅を葺く手法で、万一火災が発生しても「酸欠状態」となることで、火が燃え広がるリスクを最小限にとどめる構造となっています。今回の現場は、周囲に構造物が隣接していないことや、入念な防火対策を講じた施設であることから、国産のススキを用いて、気密工法での屋根葺きを行いました。

■坂 茂氏（坂茂建築設計）
クライアントから、淡路島で社員が営む農園の真ん中に、そこで取れた野菜が食べられる「農家レストラン」をつくってほしいと依頼された。
“農家”というのだから思い切って伝統的な日本の“農家”、あるいは“民家”のタイポロジーを正面から追及してみようと考えた。しかしながら現代に昔ながらの本格的な木造小屋組みをつくるには、予算的にも材料手配にも問題がある上に、伝統的な木造を真似しても、それ以上の建築的価値は得られない。そこでこれまで開発してきた紙管構造と最小限の木を用いたハイブリッド構造を採用することによって、大断面の木の代わりに構造的に必要な太さの紙管により力強い小屋組みの内部空間を実現した。
屋根には、茅葺を考えた。そんなとき神戸市北部で活動する茅葺き職人 相良育弥さんの若いチームと出会いこの素晴らしい茅葺屋根が実現した。
茅葺屋根のおかげで伝統的農家の風格を得た農家レストランは、一旦内部に入ると、伝統的な小屋組みのように一見力強い空間が、よく見ると（目が慣れると）軽快な再生紙のクラフト紙に囲まれた未体験の紙管の空間世界へと導かれる。

■相良 育弥（株式会社くさかんむり 代表取締役社長・茅葺き職人）

相良 育弥

新型コロナウィルスが世界に広がり始めた2020年の初春の頃に、坂茂さんが茅葺きの現場へ来てくださいました。新型コロナウィルスの影響で、海外へ行けなくなってしまった時間を、国内のリサーチに充てているとの事で、茅葺きに関しても自ら足を運んで、熱心に学んでいらっしゃったのを思い出します。
近年、建築家の方々が茅葺きを現代建築に用いてくださる機会が増えましたが、その中でも坂茂さんはダントツの速さで問い合わせをして下さいました。
農家レストランの茅葺き屋根は、ヨーロッパで用いられている茅葺きの現代工法を用いて葺かれています。一見、伝統的な茅葺き屋根のように見えますが、構造と同じく茅葺き屋根も現代的な挑戦が詰まっています。
是非、農家レストランの美味しい食事を味わった後に、そんな職人達の挑戦を味わいながら建築も楽しんでいただければ幸いです。

＜店舗情報：農家レストラン陽・燦燦＞
所在地：兵庫県淡路市 Awaji Nature Lab & Resort内
ホームページ：https://www.awaji-nlr.com/harusansan

＜株式会社くさかんむり＞
神戸市北区淡河町を拠点に、伝統的な茅葺きの修復から、現代的な茅葺きへの挑戦、そしてより多くの方々に茅葺きを知ってもらうためのワークショップやセミナーを開催しています。
建物だけにとどまらず、様々な方向から茅葺きの持つ可能性や魅力を探り、引き出し、磨き上げて、今を生きる人達にお届けするという目的を共有した職能集団です。

本社所在地：兵庫県神戸市北区淡河町
代表取締役・茅葺き職人：相良 育弥
HP：https://kusa-kanmuri.jp
Instagram：@ogo_kusakanmuri