教職調整額引き上げ案に対する定量調査 96%教員「調整額引き上げで先生になりたい人は増えない」
辞めたいと思った理由の約7割が業務量の負担 求めるのは根本的な業務削減
教育のオープン化をミッションに教員向け支援サービスを展開する株式会社クジラボ(本社:福岡県福岡市、代表取締役:森實 泰司、以下「クジラボ」)は、全国20代~60代の小学校・中学校・高校・特別支援学校の現役教員259名の教員を対象に、教職調整額*1 引き上げ案に対する定量調査を実施しました。
文部科学省は「教職の魅力を向上し、教師に優れた人材を確保する」ことを目的に、教職調整額を現在の4%から13%に引き上げる案を提出しました*2 。それに対し、財務省は残業時間を減らすことを条件に段階的に10%まで引き上げる案*3 を公表し、議論が進められています。
本調査によると、教員の96.4%が「教職調整額引き上げで先生になりたい人は増えると思わない」と回答。辞めたいと思ったことがある教員に理由を聞くと、1位が「業務量の負担」(68.9%)、2位が「教育以外の業務割合の多さ」(59.2%)であり、「給与や待遇面」(35.3%)を大きく上回りました。また、先生の仕事を10年後も続けたくない/あまり続けたくない教員の49.6%が「教育に直接関わらない業務の軽減・削減があれば、先生を続けたい意向が上がる」と答える一方、同教員の83.9%が「教職調整額が増えても、先生を続けたい意向に変化は生まれない」と回答。これらの結果から、給与増よりも業務改善が強く求められていることが伺えます。
しかしながら、残業縮減連動の財務省案に対しては、83.0%が「財務省案が可決されても働き方改革に期待は持てない」と回答しています。理由としては、「残業の隠蔽に変わる」「職場に業務を削減しようとする雰囲気がない」などが述べられており、諦念の様子が見受けられます。
*1 教職調整額:時間外勤務手当を支給しない代わりに、基本給の4%を一律で加算する制度
*2 文部科学省 令和7年度概算要求:https://www.mext.go.jp/b_menu/activity/detail/2024/20240829_2.html
*3 財務省 財政制度分科会(令和6年11月11日開催)配布資料2「文教・科学技術」https://www.mof.go.jp/about_mof/councils/fiscal_system_council/sub-of_fiscal_system/proceedings/material/zaiseia20241111/02.pdf
<教職調整額引き上げ案に対する定量調査 調査概要>
調査方法:オンラインアンケート
対象者:全国20代~60代の小学校・中学校・高校・特別支援学校の現役教員
調査期間:2024年11月15~11月23日
有効回答数:259名
調査主体:株式会社クジラボ
調査協力:株式会社LX DESIGN、教育コミュニティ「先生たちのホームルーム」
■調査結果詳細
Point1:96%の教員が「教職調整額引き上げで先生になりたい人は増えると思わない」と回答
現場の教員の多くが、教職調整額引き上げが「教員のなり手不足解消」には結びつかないと認識していることが明らかになりました。また、33.2%の教員が教職調整額の引き上げは「喜ぶとも思わない」と回答しています。
Point2:辞めたいと思った理由 1位「業務量に対する負担」(69%)、「給与や待遇面」はわずか35%
先生の仕事を辞めたいと思ったことがある教員は、回答者全体の97.9%*。その理由の約7割が「業務量に対する負担」で第1位となりました。一方で、理由に「給与や待遇面」と回答する方は35%で、ランキングの下位に位置しています。
* 先生を辞めたいと「頻繁に思う」(36.3%)、「しばしば思う」(34.0%)、「1~2回ほど思ったことがある」(21.6%)の合算
Point3:10年後に続けたくない教員の50%が「教育以外の業務の軽減」で続けたい意向が上がる
先生の仕事を10年後も続けたいと思わないと回答した教員は、回答者全体の52.9%* と半数以上。この方々に対し、「どんな制度・サポートがあると先生を続けたい意向が上がるか」を問うと、49.6%が「教育に直接的に関わらない業務の軽減・削減」と回答し、1位となりました。「給与や待遇の改善」は14.6%で、1位とは35ptの大差があります。
* 先生の仕事を10年後も「あまり続けたくない」(31.7%)、「続けたくない」(21.2%)の合算
Point4:10年後に続けたくない教員の84%が「教職調整額が増えても、意向に変化は生まれない」
先生の仕事を10年後も続けたいと思わないと回答した教員に「教職調整額が増えることで、先生を続けたい意向に変化が生まれますか?」と質問したところ、83.9%が「変化は生まれない」と回答。Point2・3・4の結果から、給与や待遇よりも「働き方」に対する支援が重要であることが伺えます。
Point5:83%の教員が「財務省案が可決されても働き方改革に期待は持てない」
業務改善が重視される一方、働き方改革の進捗を引き上げの条件に含む財務省案には「可決されても働き方改革に期待は持てない」という回答が83.0%に上りました。その理由として「残業の隠蔽に変わる」などの懸念の声や、「これまでも同じ議論はされてきた」などの諦念の声が多数寄せられました。
「期待は持てない」と回答した理由(一部抜粋)
・業務量は変わらず、結局仕事を家に持ち帰ることになるから
・教員が従来の働き方にやりがいを待っており、働き方を変える工夫を進んで取り組んでいないため
・学校現場はいつも変化が遅い、もしくは変化を嫌う傾向にあり、新しいことを取り入れるには時間がかかる
・会議の短縮やペーパーレス化等による業務の削減への対策の方が急務だと思う
・教科書の内容が多すぎる
・教員によって、大切に思う業務が違うので、減らすのが難しい
・働く先生以上に子どもや保護者ファーストだから
・働き方改革の推進主体者の中に外部の人間がいないから。教員だけだと表面の変化に留まる可能性が高い
教職調整額引き上げに対する意見(一部抜粋)
・残業しなくても済む業務体制や人員配置の改善が優先されるべき
・労働時間や業務量を管理できる制度と人材の育成が急務だと考えます
・調整額を引き上げるお金があるなら、部活動指導案や定期テスト作成業者などの別のところに当ててほしい
・引き上げ=現状容認は避けてほしい。業務外の仕事を教員の負担から外す実効的な改革をセットにしてほしい
・引き上げてもらえるのは嬉しいが、そもそも残業をせずに定時で上がれる業務量にしてもらえる方が有難い
・給与が増えることはありがたいが全員一律で増えるのはおかしい。残業時間に応じた引き上げをしてほしい
・現代の水準に合わせて給料が上がるのは嬉しい
・残業代を出したうえで、残業を減らす取り組みをすれば良いと思います
より詳細な調査データや全意見をご覧になりたいメディアの方は、「お問い合わせ先」メールアドレスまで、お気軽にお問い合わせください。
■調査を実施した背景
2024年8月、文部科学省は令和7年度概算要求を公表しました。教師の処遇改善や学校の働き方改革に向け、教科担任制や支援スタッフ充実など様々な施策が盛り込まれる中、実現すれば50年ぶりの改定となる「教職調整額の引き上げ」に注目が集まっています。文部科学省は、「教職の魅力を向上し、教師に優れた人材を確保する」ことを目的に、教職調整額を現行の4%から13%に一律で引き上げる方針を示しました。
これに対し、財務省は「やりがいの小さい業務を縮減せずに一律に人材増や給与増をしても、教員の不満は改善しない」と指摘し、学校業務の抜本的な縮減の上で、やむを得ない残業に対して手当を支給する案を提示しました。具体的には、働き方改革の進捗を確認した上で10%を目指して段階的に引き上げること、働き方改革が進捗しない場合は外部人材の配置等に財源を振り分ける提案を行っています。
このような議論が行われている中、渦中にある現場教員の意見を明らかにするため、本調査を実施しました。
■調査結果からの示唆
教職調整額引き上げ案は、「教職の魅力を向上し、教師に優れた人材を確保する」ことを目的に提出されました。しかし、本調査の結果、教員が求めるのは教育以外の業務の見直しや、業務量の軽減であることが改めて明らかになりました。教員が行う仕事/教員以外が行う仕事を一層分化させ、教員が「子どもたちの教育」に集中できる環境を整えることに、予算の重点を置くことが重要であると示唆されます。また、教員からは「教科書の内容が多すぎる」という指摘もありました。2027年の学習指導要領改定に向け、指導内容を精選することも、業務量削減のために国が支援できる有効な手立ての1つだと考えられます。
さらに、業務改善を推進するには、学校現場における改革も不可欠です。学校長・教員一人ひとりの工夫に加え、仕組み化による生産性向上に取り組む必要があります。しかしながら、重要度の高い業務が常に眼前に迫っていること、様々なステークホルダーが関与していることから、推進が容易ではないことは想像に難くありません。実際に「働き方改革に期待が持てない」という意見が多数を占めていることからも、この問題の難しさが見て取れます。
この状況下では、「子どもたちに向き合う時間を最大限確保する」ことを共通の目的に据え、学校内外で一丸となって現場の改革に向き合う必要があると考えます。クジラボは、累計1,200人以上の教員支援の実績、当社代表の学校法人経営の経験、民間企業での組織人事の知見をもとに、自治体と連携しながらより良い学校づくりの一助となれるよう邁進してまいります。
■株式会社クジラボについて
クジラボは、「教育のオープン化」をミッションに掲げ、子どもたちにとって最も身近な大人である教員がやりがいを感じながらサステナブルに働き続けられる環境づくりを支援しています。2024年11月時点で教員のキャリア相談実績は1,200件を超え、教員が「自分らしい生き方」を見つめ直す機会を提供しています。また、教員の声をもとにした学校の働き方改革の支援を通じ、教員のなり手不足解消に取り組んでいます。これらの取り組みを通じて多様な経験や考えを持つ教員を増やし、子どもたちの豊かな価値観の育成を実現してまいります。
会社名:株式会社クジラボ
代表者:代表取締役 森實 泰司
所在地:福岡県福岡市中央区赤坂1-11-13
設 立:2021年7月2日
事 業:キャリアカウンセリング事業・人事コンサルティング事業
資本金:5,000,000円
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