WLTP ホワイトペーパー 2020年最新版
規制を越えて:競合の一歩先を歩み続ける
自動車産業の世界的な調査会社であるJATO Japan Limitedは、欧州におけるWLTPについて、最新のホワイトペーパーを公開した。
[本リリースは、2020年8月5日にJATO Dynamics Limitedが発表したホワイトペーパーを邦訳したものです]
■PDFは以下リンクよりダウンロードいただけます
https://www.jato.com/wp-content/uploads/2020/10/JATO-WLTP-Whitepaper-Beyond-regulation-J.pdf
WLTPを受け入れること:なんとか生き延びるか、それとも成功できるか
背景
環境問題への関心が報道の議題として常に上がってくるが、欧州のあらゆる業種では温室効果ガスの排出量削減目標を持っている。自動車は欧州全体の排出量の約12%を占めているため、自動車業界はカーボン・ニュートラルを目指す上で重要な役割を担っている。
気候変動が現実のものであるということは、自動車業界にとってもよく認識されていることであり、新車の排出ガス削減目標を課すために制定された規制に合わせて、より環境性能の優れた車両を製造するよう努力してきた。
2009年には、欧州連合(EU)が443/2009規制を作成し、2015年以降製造されるすべての新車に対して排出削減目標を初めて規定した。続いて2019年4月17日には2019/631規制が作られ、乗用車は2025年、小型商用車は2030年以降の排出性能基準が規定された。
WLTP値算出のための処理工数:
欧州連合の取り組みと並行して、国際連合欧州経済委員会(UNECE)は、乗用車の燃費値と二酸化炭素排出量をより正確に計測するため、WLTP(乗用車等の国際調和排出ガス・燃費試験法)を策定した。WLTPとは、ドライバーが実際に達成する燃費値により近い試験結果により、新しい規制を補完するものである。
そうした規制により、車両がいくら道路税を課されるのか計算されている。そのことによって、排出量が少ない車を買えば、税額が小さくなるというインセンティブが生まれるのだ。
世界がよりクリーンな未来へ向かっていくにつれ、WLTPはその目標を達成するための重要な要素となり得る。しかしながら、昨年の2019年に平均二酸化炭素排出量が3年連続して増加したことからも分かるように、自動車業界の大部分において、こうした目標を達成するのはまだほど遠い状況にある。
政治家や政策立案者がより厳しい排出規制を布こうとやっきになっている一方で、自動車会社は、消費者の求めるだけの多くの車両を生産しつつ、新しい排出規制も達成するという巧みな運営を余儀なくされ、多額の投資を行っている。例として、自動車会社は燃費改善や最新技術へ注力してきたが、消費者がSUVのような大型で、燃費が悪い車を好んで買うことから、相殺されてしまっているのだ。
さらに、多くの人が電動車は自動車業界の将来のための万能薬であると考えていることについても、今はまだその答えをきちんと知るには時期尚早だ。電動車の販売台数は顕著に伸びてきており、欧州では全体の10%以上を占めるまでになっているが、カーボン・ニュートラルを目指す上では、まだ車両価格は高額で、多くの人の手に届くものではない。そうしたいくつかの理由から、電動車はまだ大きな原動力となるような影響を与えられないだろう。
実際、好意的な期待もある中、目標を達成するためにはまだ多くの課題があることは明らかである。そのため、WLTPを取り巻く不透明性を取り除くことは、排出規制に適合するためにも、緊急の課題なのだ。
しかし、一体なにがWLTPへの移行を難しくしているのだろうか?
WLTP実施を複雑にしているものとは
二酸化炭素削減目標は、自動車会社の経済的成果を見る際、ますます重要になっているが、WLTP実施を難しくしている要因はいくつかある。
各国によって異なるWLTPの方針
第一に、自動車会社にとって、ある国がいつWLTPを導入し始めるのかを予測することは極めて難しく、シナリオ分析や見積もりに高額な投資を行っている。フランスの場合は、2020年3月1日から採用したが、その前夜まで議論は続いていたほどだ。
もっとも、一度WLTPが導入されたからと言って、それが確定事項となるとも限らない。フィンランドでは2018年9月にWLTPを採択した最初の国となったが、スムーズな進行とは程遠いものだった。税制が変わったことで、思いもよらず販売台数が減少してしまい、2019年1月と、2020年1月に政策を修正することとなってしまった。例え極小な変化であったとしても、政策を変えるということは、企業の決算に大きな影響を与えることがある。加えて、それぞれの国が独自に法律を変えられるため、自動車会社は政策の急激な変化に俊敏に対応しなくてはならない。
これに加え、自動車会社と欧州各国は、それぞれ異なる方針と解決策を持っており、WLTPがより多くの国で採用されるようになったら、こうした計算はより複雑さを増していくだろうと考えられる。
追加装備がいかにWLTP値に影響するか(暫定値):
データの食い違いも負担に
各国で政策を作成し、実施する際、WLTPの計算が正しいことを保証するために膨大な量の作業が必要になる。平均して、自動車会社が信用できるWLTPデータを発行するまでに、15から20の工程を踏む必要があり、なおかつそのひとつひとつの工程は、APIが正しく動くために間違いひとつあってはならない。つまり、すべての場合に100%正確であることが求められ、それには多大な労働と、多くの場合複雑な工程を消化する必要がある。
WLTPデータが信用できるものであると証明するためには、自動車会社が提出するデータに最低限の基準もある。
立法だけがWLTPの実行を進める責任があるわけではない。自動車会社から車両を購入する企業も、CSR方針に沿う形で、野心的な排出量削減目標を年次報告書に設定している。もしある自動車会社が以前に設定した目標を達成できなかったとしたら、そうした企業は別の自動車会社から車両を買うだろう。世界中の大企業へ販売する競争に勝つためには、WLTPのデータが一貫して正確であるということを確実なものにしなければならない。
業界は元々競争関係にあるが、グリーンアジェンダとWLTPは、自動車会社にかかるプレッシャーを、より強いものにしている。もしWLTPデータを正確に計算できなかったとしたら、他社に後れを取ることになるからだ。
消費者の嗜好
難しさは、消費者のレベルにもある。一度WLTPでの税制が始まると、車両に加えたアイテムやオプションについても、計算に考慮しなければならないからだ。もし消費者が最小の装備のみを選択し、市場の一般仕様と大して変わらないとしても、WLTPでの評価には小さくない影響を与える可能性がある。例えば、車両に使われるバッテリーのタイプが変更された場合、WLTPでの評価に影響するため、消費者はひとつひとつの変更がどのような影響を生むのか、心に留めておかなければならない。
外部要因
WLTPを進めるにあたって、影響を与える外部要因も数多くある。そういった要因は普段予測できないもので、最近では新型コロナウイルスの感染拡大が挙げられる。ウイルスの世界的流行が起こり、普段の生活のあらゆる面に影響が出るなどとは、誰も予測できなかった。長期的に見て、新型コロナウイルスが消費者の行動、動機、購入習慣へいかに影響し、そして最終的にはWLTPがここにどのように適合するのか、理解するにはまだ時間がかかるだろう。もっとも、その全てに影響を及ぼすことは疑いの余地もないが。
2020年は新型コロナウイルスの話題で持ちきりだ。外部要因によって、業界のありさまがいとも簡単に変わってしまうということを、我々は再認識させられた。
メルセデス・ベンツ E 220D SE のイギリス市場でのオプション数(外装色オプションを除く):
WLTPが導入された今、分かっていること、これからも変わらないこととは
WLTPが欧州全体で導入されたら、自動車業界はいくつもの変化に直面するだろう。
プロダクト・オファリング
第一に変更があることは、消費者が購入する際の、車両の選択肢である。ひとつひとつの仕様によってWLTP値が異なるため、いくつものオプションを用意することや、外観を変えるような選択肢を提供することがますます難しくなるのだ。
そのため、多くの自動車会社が、少なくとも短期的には選択可能なオプションを減らしたり、パッケージ化することで算出に関わる変数を少なくするだろう。この傾向は、すでにいくつかの会社で見られている。
オプションを追加することが、車両から排出される二酸化炭素量に影響するということは、支払うことになる税額も高くなるということだ。このことが意図せず消費者の選択に変化を起こし、追加コストのかかる、環境に悪い装備を避けるようになる可能性がある。
だからと言って、すべてのオプションを無くすべきだと言う意味ではない。むしろ低転がり抵抗タイヤや、風巻き込みの少ないアルミホイール、エアロダイナミクス・パッケージのような、環境に配慮した追加装備に消費者の好みが移っていくと我々は予測している。
環境への懸念
気候変動や環境問題は、何十年にも渡って、産業の注目を浴びてきた。しかしながら、コロナウイルス以降の世界が、どのようにこれらの問題に取り組んでいくのかは、未だ不透明なままだ。我々は、方策は全面的に一様ではないと予想する。
世の中は、交通量が減れば、空気もきれいになるという、新しい生活様式を垣間見た。これまで以上に、社会の関心は自動車産業のような、排出量の多い業界へ目を向けるようになるだろう。
しかしながら、一部の国では明らかな障害があり、JATOのデータからも、大型で排出量の多いSUVのような車両が未だに人気があることが分かっている。それでもなお、政府、自動車会社、自動車ディーラーらが低排出ガス車のメリットとインセンティブを伝えるようになれば、新型コロナウイルスがもたらした衝撃によって消費者の好みも大きく変わるだろう。
欧州27カ国での、SUVのマーケットシェア:
セントラリゼーション
自動車会社がWLTP値を測定する際、データを構成するローカルシステムから、計算を行う中央システムへデータを送る必要がある。この集中化によって、消費者にとって多くのメリットが生まれている。
以前までは競争力を保つため、業界はデータや機密扱いの情報を消費者に公開することについて消極的だった。しかしながら、WLTPが計算のために詳細な情報を必要としているため、透明性とデータ共有に大きな進歩が見られている。すべての自動車会社がこの計算方式に適応しなければならないため、WLTP導入を順調に進めるためにも、大きな措置が取られた。
デジタル化
同様に、自動車業界全体で、デジタル化が加速している。情報を公開することに見返りがないと考えていた企業は多かったが、世界的な感染拡大に押され、他業種に後れを取ることの恐れから、自動車業界も適応しなければならなくなった。多くの人が在宅勤務をするようになったことで、消費者は自分の家にいながら車両を購入したいと考えており、eコマースへ移行している。この変化を成功させるため、自動車会社はデジタル化を受け入れ、オンライン販売や製造技術へ投資しなければならない。デジタル化への動きのおかげで、WLTPデータのような重要な情報へのアクセスが可能になる。このことで競合車間の価格比較も容易となり、パワーバランスは消費者の方が優位となるだろう。
新型コロナウイルスとWLTPによって引き起こされたデジタル化によって、自動車会社は効率性を上げ、消費者にメリットのある販売をするための、新たな方法を手に入れることができる。長い期間に渡り、業界の多くの分野では、アナログ式のやり方から抜け出せずにいた。自動車会社がビッグデータを扱う必要が出てきたことで、紙ベースの価格表をディーラーに配布するやり方から、オンラインで価格を案内し、情報を公開するやり方へ移行せざるを得なくなったのだ。
メルセデス・ベンツ GLE 350 D 4MATICの二酸化炭素排出量(g/km):
結論
WLTPは、何年もの間、精査や試験を受けながら、背後で存在し続けてきた。
今ようやく、規制が施行され、政策が正式なものとなり、欧州各国がWLTPの期日に間に合うよう準備をしているところだ。
自動車会社は、WLTPのためのデジタル化に巨額な投資をしてきたが、石油燃料に頼らない車種を開発するための新技術へ移行するという大きな問題にも直面している。
全ての企業が来るべき排出量規制に向けて努力をしてきたが、それ以上の行動が必要で、2019年に大きな進歩を遂げた企業は、いくつもの戦略に同時に取り組んでいた。より軽量な車両を製造することや、SUVを減らすこと、より多くの電動車を販売することなどが挙げられる。
複数の戦略を持つことは、多くの場合メリットがある。例えば、ハイブリッド化自体は二酸化炭素排出量を減らす効果があるが、消費者が排出量の多い車を好んで買う傾向があるため、電動化だけでは目標を達成するのに不十分である。
そのため、排出量規制を達成し、追徴課税を避けながら、どのようにして収益を維持するか、という挑戦が残っているのだ。このような理由により、低排出量達成を自動車会社に後押しする期待から、WLTPは歓迎されている。
また、我々は今後新しいオプションや環境に配慮した仕様装備に加えて、電動車の目覚ましい成長を目の当たりにするだろうと信じている。フリート会社や、欧州外部の企業もこれに追従し、排出量削減へ大きく舵を切ることだろう。
リース会社のように、業界の中でも多くの企業が二酸化炭素排出量に対して責任を負う必要がないことは事実だ。しかし、そうした企業も、会社独自の排出削減目標に適合した車両を顧客の元へ届けることを保証したいだろう。そのため、明らかになった複雑性に取り組み、WLTPの良い面が最大化されるようになることが重要なのだ。
JATOについて
JATO Dynamicsは、1984年に設立され、現在世界51カ国以上で活動しています。30年以上に渡り、自動車の仕様、価格、販売登録台数に関する、世界で最もタイムリーで、正確な最新のデータを提供してきました。弊社は、単なるデータ以上のものを提供し、世界の変化と、それに伴う消費者の考え方の変化を見極め、業界が求める洞察をお伝えしています。短期的な市場の動きに対応し、長期的な成長へ向けた計画を行い、そして最終的にはお客様のニーズへもお応えすることが可能です。詳しくは弊社のウェブサイトをご覧ください。
■ダウンロードいただけるPDFもご用意しております
https://www.jato.com/japan/media-insight/
お問い合わせ先
JATO Japan Limited
113-0024 東京都文京区西片 2-22-21 本郷MKビル2F
Web: www.jato.com/japan/
Tel: 03-6801-9551
(9:00 ~ 12:00、 13:00 ~ 18:00、土日祝を除く)
Email: japan.marketing@jato.com
Twitter: https://twitter.com/JatoJapan
LinkedIn: https://linkedin.com/showcase/jato-dynamics-in-japan
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WLTPを受け入れること:なんとか生き延びるか、それとも成功できるか
背景
環境問題への関心が報道の議題として常に上がってくるが、欧州のあらゆる業種では温室効果ガスの排出量削減目標を持っている。自動車は欧州全体の排出量の約12%を占めているため、自動車業界はカーボン・ニュートラルを目指す上で重要な役割を担っている。
気候変動が現実のものであるということは、自動車業界にとってもよく認識されていることであり、新車の排出ガス削減目標を課すために制定された規制に合わせて、より環境性能の優れた車両を製造するよう努力してきた。
2009年には、欧州連合(EU)が443/2009規制を作成し、2015年以降製造されるすべての新車に対して排出削減目標を初めて規定した。続いて2019年4月17日には2019/631規制が作られ、乗用車は2025年、小型商用車は2030年以降の排出性能基準が規定された。
WLTP値算出のための処理工数:
欧州連合の取り組みと並行して、国際連合欧州経済委員会(UNECE)は、乗用車の燃費値と二酸化炭素排出量をより正確に計測するため、WLTP(乗用車等の国際調和排出ガス・燃費試験法)を策定した。WLTPとは、ドライバーが実際に達成する燃費値により近い試験結果により、新しい規制を補完するものである。
そうした規制により、車両がいくら道路税を課されるのか計算されている。そのことによって、排出量が少ない車を買えば、税額が小さくなるというインセンティブが生まれるのだ。
世界がよりクリーンな未来へ向かっていくにつれ、WLTPはその目標を達成するための重要な要素となり得る。しかしながら、昨年の2019年に平均二酸化炭素排出量が3年連続して増加したことからも分かるように、自動車業界の大部分において、こうした目標を達成するのはまだほど遠い状況にある。
政治家や政策立案者がより厳しい排出規制を布こうとやっきになっている一方で、自動車会社は、消費者の求めるだけの多くの車両を生産しつつ、新しい排出規制も達成するという巧みな運営を余儀なくされ、多額の投資を行っている。例として、自動車会社は燃費改善や最新技術へ注力してきたが、消費者がSUVのような大型で、燃費が悪い車を好んで買うことから、相殺されてしまっているのだ。
さらに、多くの人が電動車は自動車業界の将来のための万能薬であると考えていることについても、今はまだその答えをきちんと知るには時期尚早だ。電動車の販売台数は顕著に伸びてきており、欧州では全体の10%以上を占めるまでになっているが、カーボン・ニュートラルを目指す上では、まだ車両価格は高額で、多くの人の手に届くものではない。そうしたいくつかの理由から、電動車はまだ大きな原動力となるような影響を与えられないだろう。
実際、好意的な期待もある中、目標を達成するためにはまだ多くの課題があることは明らかである。そのため、WLTPを取り巻く不透明性を取り除くことは、排出規制に適合するためにも、緊急の課題なのだ。
しかし、一体なにがWLTPへの移行を難しくしているのだろうか?
WLTP実施を複雑にしているものとは
二酸化炭素削減目標は、自動車会社の経済的成果を見る際、ますます重要になっているが、WLTP実施を難しくしている要因はいくつかある。
各国によって異なるWLTPの方針
第一に、自動車会社にとって、ある国がいつWLTPを導入し始めるのかを予測することは極めて難しく、シナリオ分析や見積もりに高額な投資を行っている。フランスの場合は、2020年3月1日から採用したが、その前夜まで議論は続いていたほどだ。
もっとも、一度WLTPが導入されたからと言って、それが確定事項となるとも限らない。フィンランドでは2018年9月にWLTPを採択した最初の国となったが、スムーズな進行とは程遠いものだった。税制が変わったことで、思いもよらず販売台数が減少してしまい、2019年1月と、2020年1月に政策を修正することとなってしまった。例え極小な変化であったとしても、政策を変えるということは、企業の決算に大きな影響を与えることがある。加えて、それぞれの国が独自に法律を変えられるため、自動車会社は政策の急激な変化に俊敏に対応しなくてはならない。
これに加え、自動車会社と欧州各国は、それぞれ異なる方針と解決策を持っており、WLTPがより多くの国で採用されるようになったら、こうした計算はより複雑さを増していくだろうと考えられる。
追加装備がいかにWLTP値に影響するか(暫定値):
データの食い違いも負担に
各国で政策を作成し、実施する際、WLTPの計算が正しいことを保証するために膨大な量の作業が必要になる。平均して、自動車会社が信用できるWLTPデータを発行するまでに、15から20の工程を踏む必要があり、なおかつそのひとつひとつの工程は、APIが正しく動くために間違いひとつあってはならない。つまり、すべての場合に100%正確であることが求められ、それには多大な労働と、多くの場合複雑な工程を消化する必要がある。
WLTPデータが信用できるものであると証明するためには、自動車会社が提出するデータに最低限の基準もある。
立法だけがWLTPの実行を進める責任があるわけではない。自動車会社から車両を購入する企業も、CSR方針に沿う形で、野心的な排出量削減目標を年次報告書に設定している。もしある自動車会社が以前に設定した目標を達成できなかったとしたら、そうした企業は別の自動車会社から車両を買うだろう。世界中の大企業へ販売する競争に勝つためには、WLTPのデータが一貫して正確であるということを確実なものにしなければならない。
業界は元々競争関係にあるが、グリーンアジェンダとWLTPは、自動車会社にかかるプレッシャーを、より強いものにしている。もしWLTPデータを正確に計算できなかったとしたら、他社に後れを取ることになるからだ。
消費者の嗜好
難しさは、消費者のレベルにもある。一度WLTPでの税制が始まると、車両に加えたアイテムやオプションについても、計算に考慮しなければならないからだ。もし消費者が最小の装備のみを選択し、市場の一般仕様と大して変わらないとしても、WLTPでの評価には小さくない影響を与える可能性がある。例えば、車両に使われるバッテリーのタイプが変更された場合、WLTPでの評価に影響するため、消費者はひとつひとつの変更がどのような影響を生むのか、心に留めておかなければならない。
外部要因
WLTPを進めるにあたって、影響を与える外部要因も数多くある。そういった要因は普段予測できないもので、最近では新型コロナウイルスの感染拡大が挙げられる。ウイルスの世界的流行が起こり、普段の生活のあらゆる面に影響が出るなどとは、誰も予測できなかった。長期的に見て、新型コロナウイルスが消費者の行動、動機、購入習慣へいかに影響し、そして最終的にはWLTPがここにどのように適合するのか、理解するにはまだ時間がかかるだろう。もっとも、その全てに影響を及ぼすことは疑いの余地もないが。
2020年は新型コロナウイルスの話題で持ちきりだ。外部要因によって、業界のありさまがいとも簡単に変わってしまうということを、我々は再認識させられた。
メルセデス・ベンツ E 220D SE のイギリス市場でのオプション数(外装色オプションを除く):
WLTPが導入された今、分かっていること、これからも変わらないこととは
WLTPが欧州全体で導入されたら、自動車業界はいくつもの変化に直面するだろう。
プロダクト・オファリング
第一に変更があることは、消費者が購入する際の、車両の選択肢である。ひとつひとつの仕様によってWLTP値が異なるため、いくつものオプションを用意することや、外観を変えるような選択肢を提供することがますます難しくなるのだ。
そのため、多くの自動車会社が、少なくとも短期的には選択可能なオプションを減らしたり、パッケージ化することで算出に関わる変数を少なくするだろう。この傾向は、すでにいくつかの会社で見られている。
オプションを追加することが、車両から排出される二酸化炭素量に影響するということは、支払うことになる税額も高くなるということだ。このことが意図せず消費者の選択に変化を起こし、追加コストのかかる、環境に悪い装備を避けるようになる可能性がある。
だからと言って、すべてのオプションを無くすべきだと言う意味ではない。むしろ低転がり抵抗タイヤや、風巻き込みの少ないアルミホイール、エアロダイナミクス・パッケージのような、環境に配慮した追加装備に消費者の好みが移っていくと我々は予測している。
環境への懸念
気候変動や環境問題は、何十年にも渡って、産業の注目を浴びてきた。しかしながら、コロナウイルス以降の世界が、どのようにこれらの問題に取り組んでいくのかは、未だ不透明なままだ。我々は、方策は全面的に一様ではないと予想する。
世の中は、交通量が減れば、空気もきれいになるという、新しい生活様式を垣間見た。これまで以上に、社会の関心は自動車産業のような、排出量の多い業界へ目を向けるようになるだろう。
しかしながら、一部の国では明らかな障害があり、JATOのデータからも、大型で排出量の多いSUVのような車両が未だに人気があることが分かっている。それでもなお、政府、自動車会社、自動車ディーラーらが低排出ガス車のメリットとインセンティブを伝えるようになれば、新型コロナウイルスがもたらした衝撃によって消費者の好みも大きく変わるだろう。
欧州27カ国での、SUVのマーケットシェア:
セントラリゼーション
自動車会社がWLTP値を測定する際、データを構成するローカルシステムから、計算を行う中央システムへデータを送る必要がある。この集中化によって、消費者にとって多くのメリットが生まれている。
以前までは競争力を保つため、業界はデータや機密扱いの情報を消費者に公開することについて消極的だった。しかしながら、WLTPが計算のために詳細な情報を必要としているため、透明性とデータ共有に大きな進歩が見られている。すべての自動車会社がこの計算方式に適応しなければならないため、WLTP導入を順調に進めるためにも、大きな措置が取られた。
デジタル化
同様に、自動車業界全体で、デジタル化が加速している。情報を公開することに見返りがないと考えていた企業は多かったが、世界的な感染拡大に押され、他業種に後れを取ることの恐れから、自動車業界も適応しなければならなくなった。多くの人が在宅勤務をするようになったことで、消費者は自分の家にいながら車両を購入したいと考えており、eコマースへ移行している。この変化を成功させるため、自動車会社はデジタル化を受け入れ、オンライン販売や製造技術へ投資しなければならない。デジタル化への動きのおかげで、WLTPデータのような重要な情報へのアクセスが可能になる。このことで競合車間の価格比較も容易となり、パワーバランスは消費者の方が優位となるだろう。
新型コロナウイルスとWLTPによって引き起こされたデジタル化によって、自動車会社は効率性を上げ、消費者にメリットのある販売をするための、新たな方法を手に入れることができる。長い期間に渡り、業界の多くの分野では、アナログ式のやり方から抜け出せずにいた。自動車会社がビッグデータを扱う必要が出てきたことで、紙ベースの価格表をディーラーに配布するやり方から、オンラインで価格を案内し、情報を公開するやり方へ移行せざるを得なくなったのだ。
メルセデス・ベンツ GLE 350 D 4MATICの二酸化炭素排出量(g/km):
結論
WLTPは、何年もの間、精査や試験を受けながら、背後で存在し続けてきた。
今ようやく、規制が施行され、政策が正式なものとなり、欧州各国がWLTPの期日に間に合うよう準備をしているところだ。
自動車会社は、WLTPのためのデジタル化に巨額な投資をしてきたが、石油燃料に頼らない車種を開発するための新技術へ移行するという大きな問題にも直面している。
全ての企業が来るべき排出量規制に向けて努力をしてきたが、それ以上の行動が必要で、2019年に大きな進歩を遂げた企業は、いくつもの戦略に同時に取り組んでいた。より軽量な車両を製造することや、SUVを減らすこと、より多くの電動車を販売することなどが挙げられる。
複数の戦略を持つことは、多くの場合メリットがある。例えば、ハイブリッド化自体は二酸化炭素排出量を減らす効果があるが、消費者が排出量の多い車を好んで買う傾向があるため、電動化だけでは目標を達成するのに不十分である。
そのため、排出量規制を達成し、追徴課税を避けながら、どのようにして収益を維持するか、という挑戦が残っているのだ。このような理由により、低排出量達成を自動車会社に後押しする期待から、WLTPは歓迎されている。
また、我々は今後新しいオプションや環境に配慮した仕様装備に加えて、電動車の目覚ましい成長を目の当たりにするだろうと信じている。フリート会社や、欧州外部の企業もこれに追従し、排出量削減へ大きく舵を切ることだろう。
リース会社のように、業界の中でも多くの企業が二酸化炭素排出量に対して責任を負う必要がないことは事実だ。しかし、そうした企業も、会社独自の排出削減目標に適合した車両を顧客の元へ届けることを保証したいだろう。そのため、明らかになった複雑性に取り組み、WLTPの良い面が最大化されるようになることが重要なのだ。
JATOについて
JATO Dynamicsは、1984年に設立され、現在世界51カ国以上で活動しています。30年以上に渡り、自動車の仕様、価格、販売登録台数に関する、世界で最もタイムリーで、正確な最新のデータを提供してきました。弊社は、単なるデータ以上のものを提供し、世界の変化と、それに伴う消費者の考え方の変化を見極め、業界が求める洞察をお伝えしています。短期的な市場の動きに対応し、長期的な成長へ向けた計画を行い、そして最終的にはお客様のニーズへもお応えすることが可能です。詳しくは弊社のウェブサイトをご覧ください。
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JATO Japan Limited
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Web: www.jato.com/japan/
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(9:00 ~ 12:00、 13:00 ~ 18:00、土日祝を除く)
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