プラスチックの劣化状態を非破壊分析するシステムを開発
結晶の厚みと結晶中の高分子らせんの数を同時計測
・2種の光を組み合わせることでプラスチックの結晶構造を精密に分析
・劣化による結晶の厚みの増加をX線で、高分子鎖のらせん形状の変化を近赤外光で検出
・プラスチック製品の劣化機構を解明する新しいツールとして製品の長寿命化や循環型社会の実現に貢献
・劣化による結晶の厚みの増加をX線で、高分子鎖のらせん形状の変化を近赤外光で検出
・プラスチック製品の劣化機構を解明する新しいツールとして製品の長寿命化や循環型社会の実現に貢献
- 概要
下線部は【用語解説】参照
- 開発の社会的背景
- 研究の経緯
[1] https://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2020/pr20200720/pr20200720.html
- 研究の内容
X線散乱からは、プラスチックの結晶構造の大きさが分かります。一方、近赤外光の吸収からは、結晶を構成する高分子の鎖の長さが分かります。2つの計測データを組み合わせることで、高分子の鎖の構造変化が集まって、結晶構造の変化へとつながっていく様子を計測でき、最終的にプラスチック製品の強度や耐久性へ影響を及ぼす仕組みを詳細に解き明かすことが可能になります。
この計測技術をプラスチック製品の主要成分の1つであるポリプロピレンの構造解析に適用しました。ポリプロピレンは「らせん」状に巻かれた高分子鎖が規則的に集まって結晶を作るという性質を持った高分子の一種です。図2に示すように、劣化して脆くなったポリプロピレンのX線散乱のデータからは、ポリプロピレンの結晶の厚みが劣化によって長くなっている、即ち結晶構造の量が増加していることが示されました。一方、近赤外光の吸収データからは、劣化に伴って、結晶部において高分子鎖が形成する「らせん」の数が増えていることが示されました。2つの測定データを合わせると、ポリプロピレンは劣化によって結晶構造内部の高分子鎖がより多くの「らせん」を形成することで結晶の厚みが増えること、これに伴い、柔軟で機械的な変形に強い非晶構造が減ってしまうために脆く壊れやすくなるという仕組みが解明されました。このような仕組みが分かると、今度は結晶構造の変化を抑制するような対策をとることでより長寿命なプラスチック製品を設計できるようにもなります。
このような分析技術はポリプロピレンだけでなく、ポリエチレン、ナイロンといった生産量の多い他のプラスチックにも適用可能であり、新しい劣化診断技術として有望です。
- 今後の予定
- 用語解説
X線は、波長が0.001 nm~10 nm程度の電磁波であり、物質を透過しやすい性質を持つ。物質中にナノサイズの構造が周期的に存在すると照射されたX線はナノ構造の大きさに応じて散乱するため、高分子の結晶の大きさを測定できる。
近赤外光
波長が800 nm~2500 nmの電磁波。物質を透過しやすく、数ミリメートル程度の薄い試料には光を透過させて計測し、一方、数十ミリメートル程度の厚い試料では反射した光を計測することが可能なため、さまざまな厚さや形状のプラスチック試料について、近赤外光の吸収スペクトルが測定できる。
材料診断プラットフォーム
産総研 機能化学研究部門のプラスチック材料の診断拠点。プラスチック(高分子)の構造を分析する最先端の分析装置を取りそろえ、企業の抱える各種の技術課題に対して、最適な「ソリューション」を提供する。
参考URL: https://unit.aist.go.jp/ischem/ja/images/AIST_diagnosis_platform.pdf
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