スマホアプリに搭載したドライアイ疾患特異的質問紙票によって収集した患者報告アウトカムの同等性を検証
〜スマホアプリを用いたランダム化クロスオーバー試験〜
従来の紙媒体のドライアイ疾患特異的質問紙票による問診をスマホアプリによって代替できれば、遠隔診療・オンライン診療におけるドライアイ自覚症状の適切な評価や、ドライアイ患者の早期診断、早期治療を実現できる可能性があります。本研究はデジタルヘルスに関する学術雑誌Journal of Medical Internet Research誌に掲載されました。
本研究のポイント
■スマホアプリに搭載した電子媒体のドライアイ疾患特異的質問紙票と紙媒体の質問紙票の同等性が示された
■従来の紙媒体のドライアイ疾患特異的質問紙票による問診をスマホアプリによって代替できる可能性がある
■スマホアプリに搭載した電子媒体ドライアイ疾患特異的質問紙票を遠隔診療やオンライン診療に活用することで、ドライアイの早期発見・早期治療の実現が期待できる
研究の背景
ドライアイは国内で2,000万人以上が罹患する最も多い眼疾患の一つであり、超高齢社会、デジタル社会の進展により今後も増加すると予想されています。また、ドライアイによる眼の乾燥感や不快感といった症状は、人生長期にわたり視覚の質や集中力、労働生産性を低下させ、多大な経済的損失を引き起こすことが問題となっています。
ドライアイの症状は乾燥感のみならず、まぶしさや眼精疲労、視機能低下など多岐にわたるため、自覚症状を有していてもドライアイと診断されず、適切な治療を受けられずにいるドライアイ未診断者が多数存在することがわかっています。また、ドライアイと診断されたとしても、仕事や学業、日常生活動作の低下や新型コロナウイルス感染症の蔓延のために通院の継続が困難という社会的問題があります。一方で、ドライアイは重症化すると角膜障害や視力低下などを引き起こす可能性があるため、早期診断・早期治療が求められています。
現在、本邦におけるドライアイの診断や治療においては、紙のドライアイ疾患特異的質問紙票を用いた自覚症状による評価が行われています。近年は遠隔診療やオンライン診療の普及が進んでおり、仕事や学業による受診や通院が困難という課題の解決が期待されていますが、従来の紙の質問紙票による問診は遠隔診療やオンライン診療には適しておらず、電子化されたドライアイ疾患特異的質問紙票が必要とされています。しかし、電子化されたドライアイ疾患特異的質問紙票の従来の紙の質問紙との同等性はこれまであきらかになっておりませんでした。
そのため、遠隔診療・オンライン診療において使用可能な電子媒体のドライアイ疾患特異的質問紙票を開発するためには、従来の紙媒体のドライアイ疾患特異的質問紙票との同等性を証明する必要がありました。
研究の目的
本研究では、当研究グループが開発したドライアイ研究用スマホアプリ「ドライアイリズム®」 (図1) を用いて、スマホアプリに搭載した電子媒体のドライアイ疾患特異的質問紙票 (日本語版OSDI, J-OSDI※2) (図2)と紙媒体のJ-OSDI (図3) によって収集されたドライアイ自覚症状に関する症状スコアであるJ-OSDI合計スコアの同等性を検証しました。
研究の方法
研究期間中(2022年4月から2022年6月)に順天堂大学医学部附属順天堂医院の眼科外来を受診し、研究参加に同意が得られた20歳以上の患者33名を対象としたランダム化クロスオーバー試験を実施しました。研究参加者を紙媒体J-OSDI →電子媒体J-OSDIの順に検査を行うグループと電子媒体J-OSDI →紙媒体J-OSDIの順に検査を行うグループにランダムに分類し、紙媒体J-OSDIおよび電子媒体J-OSDIによって得られたJ-OSDI合計スコアを比較しました。
研究の結果
研究参加者33名から得られたデータを解析したところ、紙媒体J-OSDIおよび電子媒体J-OSDIによって得られたJ-OSDI合計スコアの平均値の差は1.8点 (95%信頼区間: -1.4–5.0) であり、J-OSDIの同等性の許容範囲内であったことから、紙媒体J-OSDIと電子媒体J-OSDIは同等と判定されました (表1)。
両媒体のJ-OSDI合計スコアの平均値差の95%信頼区間 (-1.4–5.0)がJ-OSDIの同等性の許容範囲±7.0点以内であったことから、紙媒体J-OSDIと電子媒体J-OSDIは同等と判定された
今後の展開
本研究では、スマホアプリに搭載した電子媒体J-OSDIの紙媒体J-OSDIに対する同等性の証明に成功しました。これにより、従来の紙媒体のドライアイ疾患特異的質問紙票による問診をスマホアプリによって代替できる可能性があります。スマホアプリによるドライアイ自覚症状の評価が可能になれば、遠隔診療・オンライン診療におけるドライアイ自覚症状の適切な評価や、これまで受診できていなかった未受診患者へのスマホアプリを用いた治療介入により、ドライアイ患者の早期診断、早期治療を実現できる可能性があります。
■原著論文
本研究は、「Journal of Medical Internet Research」に2023年8月3日付で公開ました。
タイトル: Smartphone application- and paper-based patient-reported outcomes using a disease-specific questionnaire for dry eye disease: A randomized cross-over equivalence study
(日本語訳):スマホアプリおよび紙媒体のドライアイ疾患特異的質問紙票によって収集された患者報告アウトカムの同等性検証:クロスオーバー試験
著者 (日本語表記):梛野 健 1,、奥村雄一 1、赤崎安序 1、藤尾謙太 1、黄 天翔 1、Jaemyoung Sung 1、緑川-猪俣明恵 1、藤本啓一 1、江口敦子 1、Shokirova Hurramhon 1、Alan Yee 1、三浦真里亜 1、大野 瑞 1、廣澤邦彦 1、諸岡裕城 1、小林弘幸 1、猪俣武範 1
著者所属: 順天堂大学 1
掲載誌: Journal of Medical Internet Research
URL: https://www.jmir.org/2023/1/e42638/
DOI: 10.2196/42638
■用語解説
※1 ドライアイリズム® : 2016年10月に順天堂大学医学部眼科学講座(研究代表者: 猪俣武範)が開発したドライアイ研究のためのスマートフォンアプリケーション。ドライアイの症状、瞬目(まばたき)の計測が可能で、QoLや労働生産性への影響などの評価ができる。なお、ドライアイリズム®の商標は順天堂大学発ベンチャーであるInnoJin株式会社が保有します
※2 ドライアイ疾患特異的質問紙票 (Japanese version of Ocular Surface Disease Index: J-OSDI):
ドライアイの自覚症状を評価するドライアイ特異的質問紙票で12項目からなる。4段階で各項目を解答し、その結果から100点満点のJ-OSDI総合スコアを算出することが可能
■本研究に関わる助成金
本研究は、株式会社シード、ノバルティスファーマ株式会社、ロート製薬株式会社、HOYA株式会社、わかもと製薬株式会社、ジョンソンエンドジョンソン株式会社、InnoJin株式会社の助成を受け実施されました。また、公益財団法人一般医薬品セルフメディケーション振興財団令和3年度研究助成、JST COIプログラム(JPMJCER02WD02)、JSPS科研費(JP20K23168、JP21K17311)を受けました。しかし、研究および解析は研究者が独立して実施しており、助成元が本研究結果に影響を及ぼすことはありません。
本研究にご協力いただいた参加者の皆様に深謝いたします
■InnoJin株式会社について
InnoJin株式会社は、健康・医療・介護の分野で、どんなにテクノロジーが進歩しても、「人にやさしい」医療を提供することを理念に医療のDx化に取り組む⼤学発ベンチャーです
■順天堂大学について
順天堂大学は、8学部4研究科6附属病院からなる健康総合大学・大学院大学として、「教育」「研究」「診療・実践」という3つの柱を通じた国際レベルでの社会貢献と人材育成を進めています
(https://www.juntendo.ac.jp/)
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