第6回「アトリエ・イグアナアイ」を開催
「原始の目で、現代を見つめ直す。」イグアナアイのワークショップ
建築家として何を手掛かりに未来を考えたらよいのか?
建築家として国内外で活躍する田根氏は、その創作過程において、常に「歴史や未来を考えて行きたい」と語ります。未来の考古学(Archaeology of The Future)を考える時、「20 世紀の最高傑作。こんなにエキサイティングな街はない」と表現するニューヨーク。ほんの 100 年の間に、巨大な建物が垂直に伸びていった大都会ニューヨーク。その周辺には、水平に新しく街が形成されてきた。次に関心を寄せるのがパリ。パリの街をつくる建物は未来に継承され、後から加わったモダニズム建築が壊されている。未来を創ってきたものが先に壊され、昔からある建物が残っていく。建築家としてモダニズムというものを前提に学んできたが、未来を創っていくはずのモダニズム建築が壊されていくのをみて、「建築家として未来の手掛かりを失いかけた」という。
そんな田根氏に齋藤が「考古学というものは人間がつくったもの。つまり、人間が中心にいるということか」と投げかける。「建築というのは人間が人間のために何かをつくること。自然と同居することはできても、自然を生み出すことはできない。自然が育つ環境を作れても、木を生み出すことはできない。人工物であることは肯定していきたい」と田根氏。「過去に掘り下がっていくものと、未来に積み重なっていくものが建築だとしたら、両者を一つに繋げることができるのではないか。(大磯の住宅の様に)縄文に戻ったり、古墳に戻ったり、遠い過去の時間に戻って未来へつながっていくのではないか。」
そんな時に出会ったのが、遺跡発掘の現場だった。「遺跡を掘り返していくと、色々な文明や様々な時代のものが発掘され、そうした記憶の断片のようなものを集めていくと、今ではわからない遠い時代の技術がわかってきたりする」と田根氏。遺跡発掘現場で様々な角度からリサーチをするにつれて、そこで見つけた「場所の記憶」のようなものをどうにか未来につないで行くための建築に可能性を見出したという。
その一つの事例が、田根氏が人生で初めて国際コンペに参加、最優秀賞を受賞したことで一躍、国際的に注目を浴びることになった「エストニア国立博物館」だという。2016 年秋に完成した同博物館を「ロケットのよう」と表現するが、「大学を出て 2、3年の僕に国の大事なプロジェクトを任せたエストニアは偉い国」と笑う。博物館の最初の展示は、そのエストニア共和国の首都タリンで開発された Skype(スカイプ;マイクロソフト社が提供するインターネット電話サービス)の創始者が座っていた椅子だった。バルト三国の中で最も北に位置するエストニア共和国は、「デジタル化が進んでいる国」とはいえ、同博物館のオープニングセレモニーで、人口 140 万人足らずの街がこんなにも盛り上がるのかと田根氏に強い印象を残したという。
「建築の力と人の想いが一つになった」瞬間だった。
歴史は現代から逆算したら非常に分かりやすくなる
エストニア共和国は、13 世紀以降、デンマーク、ドイツ騎士団、スウェーデン、ロシア帝国などの支配を経て、第一次大戦後、1918 年ロシア帝国より独立しているが、エストニア人は今を、「未来と過去をつなぐ一時代」と考えている。国民の 4 分の1がロシア人である中、彼らをいかにエストニア人として民族として繋いでいくか?長い占領の歴史を経た戦争遺産と国立博物館との繋がりは、政治的にも意味深い。そんな重責に対して、日本人である田根氏が考えたこと。それは、歴史を現代から「逆算する」ことだった。「今こうしたことが起きているのは、かつてこうしたことが起こったからだ」と逆算した結論が、あの建築に繋がったという。「歴史について、しっかりと説明できるだけの教育と知識は(ヨーロッパでは)必要不可欠」。パリに拠点を置く齋藤も、フランスやドイツなどヨーロッパの教育現場で歴史が徹底的に教えられており、「負の歴史であってもしっかりと正面から見つめる態度が大事だ」と説く。
建築家 田根氏にとって東京とは?
2012 年、2020 年東京オリンピック招致に向けた新国立競技場の基本構想国際デザイン競技で、田根氏は、世界の著名な建築家が名を連ねる中、「古墳スタジアム」を発表。当時、ファイナリストとして選出されて、「宇宙船か古墳か」と評され大きな話題を呼んだのが記憶に新しい。田根氏は、東京が「50 年でこれだけの街をつくったという点で、世界でも特別な街のつくられ方をしている。これだけエネルギーに溢れた街はなかなかない」。コンクリートに埋め尽くされた街でありながら、中心部に皇居や赤坂離宮、新宿御苑、神宮内外苑がある。神宮ができた時、内苑は明治天皇を祀る「信仰の森」として作られ、外苑は「文化・スポーツの振興の森」として作られたという背景がある。時代を経るにつれ、こうした場所の意味が失われてしまった。だから、その意味を問おうと「古墳スタジアム」を提案した。(曰く田根氏)
「古墳は、古代の日本が生み出した最大の建造物」。それにもかかわらず、その実態はエジプトのピラミッド程、世界に知られていない。「忘れられた古墳をモチーフに、日本の歴史とスポーツ文化を一つにした山のような森を明治神宮外苑に作ろう」と提案。「ただの自然の山ではなく、環境装置として都市を冷却するような仕組み」も持たせて、「100 年の森」構想を再び、100 年経った現代に提案したかったと語る田根氏。最終選考には残らなかったが、「古代からの発見は驚きが大きい。古墳は、宮内庁の管轄なので世界遺産にはなれないが、知られていないからこそ広めていきたい」とも。
最近の日本人にはやる気が足りない?!
そんな田根氏は、最近の日本人の「やる気」に懸念があると謂う。1964 年の東京オリンピック開催に際しては、当時、世界の誰もやったことのないことを建築家の丹下健三氏を中心に作り上げた。今のように、コンピューターや機械がない時代。建築技術も洗練されていなかった。時間もお金もない時代にあれほどの建築物を作り上げたのは、「やる気があったから」と田根氏。たった 50 年経っただけで「やる気」がなくなり、「これくらいでいいか」といったもの創りへの姿勢は「寂しい」(曰く田根氏)。「エストニア国立博物館」の建築は、「やる気」を持っていたからこそあれだけのものができた」「人がつくるものは、気持ちでだいぶ変わる」と語る田根氏。「息苦しさが漂っている」日本はどこに向かうのか?時間も、予算もなくても、「やる気」がある人が一人でも二人でもいれば、なんでもできるのではないか。
仕事をしていく中で大切にしている考え方とは?
そんな田根氏は、「場所の記憶と、空間と時間ということをいつも考えている」。空間と場所の関係性の定義は、曖昧。同様に、時間の中に記憶がどうやって入り込んでいるのかは非常に難解。場所は Singularity でただひとつしかない。移動できないものが場所。一方、空間は Infinity、即ち無限。縦にも横にも量産することができる。部屋に壁をつくることで、一つだった空間が途端に2つになる。部屋の上には空があり、空の上にも成層圏があり、空間は無限に増えたり割ったりできる。 時間はContinuity、継続するもの、途切れることがない。1 秒と 1 秒の間にもしっかりとした時間が流れている。一年の終わりと、次の年のはじまりの間は途切れていない。そして、記憶は Meanings、複数の意味がある。集合記憶とは、色々な時代の色々なものが蓄積して出来上がっている。文化や歴史は、意味を失うと次に伝えることができなくなる。記憶が途絶えると、歴史も文化もなくなる。これらの中心に建築というものがあると考えている。「個人的に大きな話題」だったというホテルオークラの解体について田根氏は、「ああいった大切なものを引き継ぐことが我々の大事な役目なはず」。昨今の日本で、建物が簡単に壊されていることに「怒りすら覚える」と語る。「たった一つの場所にたった一つの建築があるから、それを見に世界から人が集まる。建築はこうした大きなことを考えていないと、すぐ壊されてしまう」と締めくくった。
ヨーロッパ人は、日本は「文明の避難所」だと言う。「多くの日本の建築家が世界で活躍しているように、日本が今できることがあるはず。本来自分たちが温めてきた文化をどんどん世界に向けて発信するべき」と齋藤。テロの直後、「みんながカフェに出て、力の抑圧に負けないという意思表示をした」フランスの勇気こそ、「自由への責任感」「歴史に対する責任感」。グローバル化し、益々多様化する一方で、先が見えない現代において、これまで人類が長い時間をかけて創り上げてきた歴史や文化を再認識することで、未来へと繋がるヒントが得られるのではないかと説く田根氏の話しを通して、これからを生きるエネルギーと未来への光を感じた場となりました。
【アトリエ・イグアナアイとは】
イグアナアイの事業目的は、画期的な商品の提案を通して社会に問題提起を行い、そのより良い発展に寄与することです。ブランドフィロソフィーは、「原始の目で、現代を見つめ直す。」現代の都市環境や現代人の暮らし方を見直し、ひとりひとりがより自然な形で、自分らしく生きるためのヒントを提供したいと考えています。その一環として、イグアナアイでは定期的に、テーマ別に各分野のエキスパートを迎え、「アトリエ・イグアナアイ」を開催しています。
※次回は2017年9月の開催を予定しています。
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イグアナアイ青山本店
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