日本沿岸におけるマイクロプラスチック汚染の実態を明らかにする最新研究

海洋研究と海洋保全に取り組む一般社団法人タラ オセアン ジャパン(所在地:東京都、代表理事:エチエンヌ・ブルゴワ、以下「タラ オセアン ジャパン」)は、日本の臨海実験所ネットワークであるJAMBIO(マリンバイオ共同推進機構)と共同で、2020年から3年間にわたり、日本沿岸域におけるマイクロプラスチック汚染の実態を明らかにするための大規模調査「Tara JAMBIO マイクロプラスチック共同調査」を実施しました。本調査では、海面表層水と海底堆積物を同時に解析するこれまでで最も広範な調査を行い、その成果は米国化学会の学術誌 Environmental Science & Technology に2025年8月11日に掲載されました。

マイクロプラスチックは、最深部の海溝から大気まで、地球上のあらゆる生態系で確認されています。プラスチック汚染は海洋生物にとって脅威であるだけでなく、人間の健康への懸念も高まっています。過去10年間の研究によって理解は進んできましたが、その発生源や移動経路、汚染の広がりについては未解明の部分が多く残されています。また、これまで研究の多くは太平洋ゴミベルトのような外洋の漂流ごみに注目してきましたが、当プロジェクトは人と海との関わりが最も密接な沿岸域に焦点を当てています。重要な生態系サービスが提供される場所であると同時に、汚染に最も晒される場所でもあるからです。

タラ オセアン ジャパンはこうした課題を背景に、JAMBIOと協力し、日本発のローカルプロジェクト「Tara JAMBIO マイクロプラスチック共同調査」を立ち上げました。本プロジェクトは、日本沿岸海域におけるマイクロプラスチックの実態把握とその影響の研究、そして科学・教育・アートを通した啓発活動を目的に、2020年から実施しています。

Tara JAMBIO マイクロプラスチック共同調査の調査地点

北海道から沖縄に至るまでの調査により、表層水および海底堆積物の両方からマイクロプラスチックが広範に検出されました。平均濃度は表層水で288.7 ± 651.6 g/km²、堆積物で1,185 ± 3,829 kg/km²に達しました。つまり、全国沿岸の表層水から採取されたマイクロプラスチックは、平均で 1 km²あたり約289g、海底の堆積物では、約1,185kgに達しました。この結果から日本沿岸がマイクロプラスチック汚染のホットスポットであること、そして海底への蓄積が進んでいることが明らかになりました。

さらに、汚染の要因に関しても新しい知見が得られました。採取前10日間の降水量と表層水中のマイクロプラスチック濃度には強い相関が見られ、陸域から海への流入が重要な要因であることが示されました。加えて、養殖業も主要な汚染源の一つとして特定されました。

「沿岸生態系は社会にとって欠かせない存在です。その場から文字通り“トン単位”のマイクロプラスチックが見つかったことは、私たちの未来にとって憂慮すべきことです。海とのより持続可能な関わり方を緊急に模索する必要があります」と、本プロジェクトの科学リーダーであり、タラ オセアン ジャパン理事でもあるシルバン・アゴスティーニ博士(元・筑波大学下田臨海実験センター)は語ります。

表層水の結果:マイクロプラスチック濃度と場所毎のマイクロプラスチックのポリマーの割合

堆積物の結果:マイクロプラスチック濃度と場所毎のマイクロプラスチックのポリマーの割合

「ポリマー分析では、検出されたマイクロプラスチックの大半がポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレンといった世界で最も生産量の多いプラスチックであることが明らかになりました。これは、生産・流通・汚染の直接的なつながりを示しています」とタラ オセアン財団エグゼクティブディレクターのロマン・トゥルブレは説明します。

一方で、表層水中の約10%、堆積物中の20%以上の粒子は劣化が進みすぎて化学的に特定できませんでした。「分解が進んだ結果、成分を同定できない粒子も多く存在します。分解過程や添加剤の行方に関する研究は喫緊の課題です」と沖縄科学技術大学院大学(OIST)パイ共役ポリマーユニットのラスコム博士はコメントしています。

また、地方では予想を超えた高濃度のマイクロプラスチックが確認され、廃棄物管理の課題も浮き彫りとなりました。「リサイクルや処理の進展はあるものの、地方の廃棄物管理は依然として深刻な課題です。しかしリサイクルだけでは問題を解決できません。漁業を含む多くの産業で広く使われるポリスチレンは効率的にリサイクルできないのです。プラスチック全体の生産量を減らし、使用されるポリマーの種類を制限することが不可欠です」とロマン・トゥルブレは指摘します。

現在、国際的なプラスチック条約交渉は停滞していますが、本研究は科学的根拠に基づいた行動の必要性を強く示しています。

今後タラ オセアン ジャパンは、本研究成果をもとに、地方自治体や漁業関係者に向けたプラスチック問題の周知とアクションを推進し、また政策提言を行ってまいります。


論文タイトル: An Integrated Assessment of Microplastic Pollution in Coastal Surface Water and Sediment of Japan. 論文著者:Ramtahal, J.J., Sugimoto, K., Phan, S., Patouillet, Y., Troublé, R., Luscombe, C.K., Agostini, S. 

掲載誌:2025. Environ. Sci. Technol. https://doi.org/10.1021/acs.est.5c02645

本プロジェクトは、アニエスべージャパン株式会社、ヴェオリア・ジャパン合同会社、クラウドファンディング支援者276名の皆様、三豊市、その他の協力企業のご支援、および多くの皆様のご協力を得て実施されました。ここに深く感謝申し上げます。

Tara JAMBIO マイクロプラスチック共同調査:https://jp.fondationtaraocean.org/expedition/tara-jambio/

■JAMBIO(マリンバイオ共同推進機構)

北海道から沖縄までを網羅する、全国の臨海実験所、水産実験所の研究連携推進組織。2020年から2023年にはタラ オセアン ジャパンがJAMBIOと協力し「Tara JAMBIO マイクロプラスチック共同調査」を実施。日本沿岸海域のマイクロプラスチック汚染の調査と啓発活動を行った。

https://jambio.jp/

一般社団法人タラ オセアン ジャパン

一般社団法人タラ オセアン ジャパン

2003年にアニエスベーが立ち上げた海洋に特化したフランスの公益財団法人タラ オセアン財団の日本支部。
地球温暖化や環境的脅威が海洋に与える影響の研究を進める「科学探査船 タラ号」などのタラ オセアンの活動を紹介するとともに、日本独自のプロジェクトを進めている。
2020~2023年には、日本全国の沿岸海域のマイクロプラスチックの調査研究と啓発を行う「Tara JAMBIOマイクロプラスチック共同調査」を実施。
2024年からは、ブルーカーボン生態系の調査研究とその重要性を啓発する「Tara JAMBIOブルーカーボンプロジェクト」を開始した。

https://fondationtaraocean.org/jp
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会社概要

URL
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業種
財団法人・社団法人・宗教法人
本社所在地
東京都品川区上大崎2-25-2 新目黒東急ビル8階 c/o アニエスベージャパン
電話番号
-
代表者名
エチエンヌ・ブルゴワ
上場
未上場
資本金
-
設立
2016年11月