「引きこもり146万人」をどう見る? 女性の実際の割合は? 中高年、専業主婦…広がりすぎた引きこもり、支援の考え方とは? 現場に届く相談の20年間の推移は? 支援の現場から今回の引きこもり調査を解説!
支援の現場から見た内閣府「引きこもり調査」
<引きこもりは4年で推計115万人から146万人に>
3月末、内閣府は「こども・若者の意識と生活に関する調査」の結果を発表しました。
今回の調査では回答者のうち引きこもり状態にある人の割合が出され、そこから今回報道されている「引きこもり推計146万人(15~64歳)」という数字が算出されています。
平成31年に同様の調査で発表された数字は、推計115万人(15~64歳、うち15~39歳は平成28年発表)でした。
この時は40歳以上の、中高年の引きこもりの方が、39歳以下よりも数が多いことが話題になりました。
ここからわずか4年で、30万人も引きこもりが増えたことになります。
<引きこもりの約半数が女性>
今回の特徴に、引きこもりのうち女性の割合が高くなったことも挙げられます。
今回の調査では、15~39歳と40~69歳で分けて結果を出しています。
15~39歳は女性が45.1%(前回は36.7%)、40~64歳は報道によれば52.3%(前回は23.4%)とのことですから、女性の割合が増えたことは間違いありません。
※内閣府ホームページ上の記載は、40~69歳の女性40.6%のみ。40~64歳の数字はなし。
<支援現場の体感は女性が4割>
ニュースタート事務局は、「地域若者サポートステーション」を、千葉県市川市で運営しています。
このいちかわ・うらやす若者サポートステーションでは、女性利用者が全体の3割だったところ、最近は4割に増えてきました。
はっきりとした統計は出されていませんが、この「3割が4割に増加」に近いあたりが、多くの支援現場の体感ではないでしょうか。
女性の引きこもりは増加しており、半数に近づきつつあるのは間違いないでしょう。
<引きこもりかどうかを聞く調査ではない>
ただし今回の結果、例えば164万人をそのまま引きこもりの人数と言っていいのかは、疑問があります。
まずこの調査票には、「引きこもり」「ひきこもり」という言葉が一切使われていません。
引きこもりという表現はないままに、現在の外出頻度、その期間や理由を聞かれます。
「コロナ禍でどのくらい外出が減ったか調査したいんだな」と考えながら回答した人がいても、おかしくない聞き方でしょう。
「自分を引きこもりだと思いますか」といったストレートな質問がない以上、この結果は「引きこもり(と自覚している人)の声」とは言えません。
とは言え、前回の調査も同じ聞き方ですので、数字の増減にはやはり着目するべきです。
<引きこもりの約半数が家族以外との会話がある>
一般的に引きこもりは、「家族以外の第三者との関係性がない人」というイメージではないかと思います。
ですが「最近6ヶ月間に、家族以外の人と会話しましたか」という質問に、15~39歳の45.8%、40~69歳の49.0%が、「よく会話した」または「ときどき会話した」と回答しています。
全体の回答は会話したが80%前後のため、引きこもりとされた人は会話が少ないのは確かです。
またどの程度の会話なのかも言及されておらず、関係性があるとは言い切れません。
それでも「コロナ禍で退職したけれど、友人たちと楽しく趣味の外出はしている」といった、引きこもりと呼んでいいのか分からない人が含まれている可能性はあります。
<中高年引きこもりの過半数が「困っていない」>
中高年の結果では、更に疑問を感じるところがあります。
「あなたは今までに、社会生活や日常生活を円滑に送ることができなかった経験がありましたか。または社会生活や日常生活を円滑に送れていない状況がありますか」という質問への回答です。
15~39歳は「今までに経験があった(または現在ある)」が47.9%で、「どちらかといえばあった(ある)」の19.4%を含めると、67.4%が社会生活や日常生活に困難を感じています。
それに対し40~69歳は、「どちらかといえばなかった(ない)」または「なかった(ない)」が、過半数の53.5%を占めます。
15~39歳のこの数字は、わずか22.9%です。
本人が困難を感じているかが全てではないですが、本当に支援が必要な人はどのくらい存在するのか、悩んでしまうような数字と言えるでしょう。
<引きこもり支援を模索する材料に>
以上の3点から、今回の推計164万人という人数は、支援すべき引きこもりとは違う層がかなり入っている可能性があります。
同時にこの調査では拾えていない人が相当数いる可能性もあり、結局のところ、引きこもりの人数やその増減はあやふやです。
ただこの調査を活用する方法はあるはずです。
最近は中高年や主婦の引きこもりなど、引きこもりの多様さはかなり可視化されてきたと思います。
今回の調査結果も、引きこもりの多様さを裏付けるものとなりました。
今後大切なのは、「どんな支援が必要なのか」を考えることです。
そのための調査やデータが必要になってきます。
<ニュースタート事務局への相談は20年間20代が中心>
ニュースタート事務局は1994年より約30年間、若者支援を行っています。
1999年には訪問支援と寮という、現在の支援の形を完成させ、今現在もその支援を継続しています。
相談は親御さんからがほとんどになります。
古い記録は細かく残っておらずおよそですが、2005~2009年の相談の5割以上を20代が占め、平均年齢は約25歳です。
2010~2014年もこの傾向は変わらず、平均年齢も26歳とほぼ同じです。
中高年の引きこもりが言われ始めた2015~2019年は、20代の相談が46%に下がり、10%を40代が占めるようになり、平均年齢も28歳に上がります。
2000年代・2010年代の20年は、40代の相談が少しずつ増加し平均年齢も上がるものの、中心の年齢層は20代のままでした。
<2020年代は20代前半が3割に増加>
そして2020年から2023年現在までは、また独特な動きを見せます。
これまでずっと25%前後だった20代前半の相談が、何と30%を超えるのです。
相談は50代までまんべんなくあり、平均年齢は28.3歳になりますが、明らかに20代前半が相談の中心になりました。
ニュースタート事務局では、世間一般に言われるような引きこもり高齢化の影響は、そこまで感じられない状況です。
これは支援の目的が自立であること、寮など支援にはある程度の料金がかかることが関係していると思われます。
まだ20代で長い未来がある中、できればきちんと自立してほしいという親御さんが多いのでしょう。
<女性の相談は2割未満のまま>
相談の男女比ですが、これも3~4割という支援の一般的な傾向とは少し違います。
ニュースタート事務局への女性に関する相談は、まだ2割に届きません。
2015~2019が16.6%、2020年以降でやっと18.9%です。
寮は男性が大半を占めますから、娘を持つ親御さんは入寮をためらう気持ちはあるでしょう
男性に恐怖心があり、女性のみの場の方が行きやすい当事者が多いのは間違いありません。
恐らく今後も、女性の相談が4割になることはないと思われます。
<ニュースタート事務局の支援は20代男性向き>
ニュースタート事務局の支援は、20代の息子を自立させたい親御さんが興味を持つ支援だということです。
実際にそういった人たちを支援し、結果7~8割の人が自立していきますから、その対象にマッチした支援を行えているとも言えるでしょう。
このやり方を中高年に当てはめても、多くの親御さんは「ここから自立を目指して支援にお金を払うよりも、貯金して本人に残す方がいいのではないか」と考えるはずです。
8050問題ともなれば「親亡き後をどうするか」が支援のテーマになりますから、法的な手続きなど、全く別の支援が必要になるでしょう。
支援対象を広げると支援そのもののカラーが薄くなり、現在得意としている20代男性の自立率が下がる可能性もありますので、今後も現行の支援を継続していく方針です。
<15~39歳の大半は実家暮らし、40~69歳は半数が年金生活>
今回の内閣府の調査では、本当に様々な人が引きこもりに分類されています。
15~39歳は単身世帯はわずか8.3%、配偶者ありが16.0%ですから、大半が親御さんと暮らしています。
主な収入が年金という人は7.6%で、現役世代の親御さんか配偶者の就労か事業による収入で暮らしています。
40~69歳は配偶者がいる人が52.3%、単身世帯は25.8%です。
年金が主な収入という人が56.8%、生計を支えているのが父か母という人は5.1%しかいませんから、大半が配偶者か自分自身の年金なのでしょう。
40~69歳の生活保護に頼る人は、15~39歳の1.4%から大きく増えて7.7%で、中高年の方がかなり生活に困窮している様子がうかがえます。
<単一の支援では太刀打ちできない>
実家で親と暮らし、親の収入に頼りながら引きこもる人。
配偶者の収入で生活し、家事育児を担う専業主婦の引きこもり。
同じ専業主婦でも、中高年で配偶者の年金で生活する人。
自分の年金で生計を立てているが、引きこもり状態の人。
中高年の単身世帯で、生活保護を受けている人。
パッと見えるだけでも、これだけの人々が引きこもりには含まれています。
1つの支援では対応しきれないことは、容易に想像がつくでしょう。
<調査結果をよりよい支援につなげるために>
今は引きこもりの人の範囲が広がりすぎたために、「いったい何から取り組めばいいのか」と現場が右往左往しているように思います。
まずはどんな人にも対応できる支援を考えるのではなく、「こういう人になら高確率でマッチする」という支援を一つ一つ固めることです。
対象は狭いけれど効果が出せる、そんな支援の種類が増えていけば、結果として幅広い人に対応できるようになるのではないでしょうか。
その中でも人数が多いタイプ、緊急度が高いタイプなどに向けた支援は、優先的に考えていく必要があります。
それには今回の調査のようなデータは、大いに有効です。
年代・男性女性・配偶者の有無など様々な項目で分け、それぞれの人数や状況などが分かれば、支援を考える参考になるはずです。
今後は支援の結果を共有し、効果を検証していく枠組みも必要になるでしょう。
今回の調査結果を、単なるニュースの材料に終わらせず、今後の支援に役立てていただくことを望みます。
執筆者について
久世 芽亜里(くぜ めあり)
ニュースタート事務局スタッフ。
主に広報や親御さんの相談を担当。
新潮新書「コンビニは通える引きこもりたち」著者。
コラムを多数配信。
コラム一覧:https://www.newstart-jimu.com/support/
認定NPO法人ニュースタート事務局について
「家族をひらく」を理念に、1994年から25年以上、ニート・引きこもりなどの若者の自立を支援してきました。
これまでに1,600名を超える支援実績があります。
全国を対象とした訪問支援(レンタルお姉さん®️)、共同生活寮(現在20代~40代の30名在籍)、新しい生き方・働き方を考える「ニート祭り」の開催など、幅広く活動しています。
名称:認定NPO法人ニュースタート事務局
所在地:千葉県市川市宝2-10-18
電話:047-307-3676(10:00~17:30、水・日・祝祭日休み)
URL:https://www.newstart-jimu.com/
【調査概要】
・調査期間 2005年1月1日~2023年4月19日
・調査機関(調査主体) 認定NPO法人ニュースタート事務局
・調査対象 当団体へのお問い合わせのうち、お名前や当事者の年齢など個人情報を開示した方
・有効回答数(サンプル数) 3,753名
・調査方法(集計方法、算出方法) 期間内の問い合わせを集計
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