第32回「地球環境問題と人類の存続に関するアンケート」調査結果
●今年の環境危機時計®の時刻は9時31分で、昨年より4分針が戻った。2021年から3年連続で時計の針が戻った。
●世界各地域の環境危機時刻を見ると、昨年に比べ、南米、西欧、中東では10分以上針が戻ったが、メキシコ・中米・カリブ諸国、東欧・旧ソ連で20分以上針が進んだ。
●危機時刻を決める上で念頭に置いた項目は2011年以来一貫して「気候変動」が最多。
●脱炭素社会への転換に関し、「政策・法制度」や「社会基盤(資金・人材・技術・設備)」の面は、「一般の人々の意識」の面ほど進んでいない。
●SDGsの中で、世界の問題として関心が高い目標には、「13.気候変動に具体的な対策を」がすべての国、地域で最も多く選ばれた。これに「1. 貧困をなくそう」、「16.平和と公正をすべての人に」が続いた。
●日本で2030年の達成度が最も低いと思う目標は「5.ジェンダー平等を実現しよう」と「13.気候変動に具体的な対策を」の二つが1位だった。
I 環境危機時計®~人類存続の危機に対する認識
I-1 環境危機時計®の時刻
・環境危機時計®の時刻は、2011年以来、進む傾向にあったが、2021年から3年連続で時計の針が戻って9時31分になった。(図1, 2)
・環境危機時計® の時刻が昨年から大きく変化した地域:
時刻は、南米では21分戻り9時22分、東欧・旧ソ連では24分進み10時01分、メキシコ・中米・カリブ諸国では26分進み9時58分だった。
※赤色は昨年より時刻が進んだ地域・国、緑色は昨年より時刻が戻った地域・国
・調査開始以降の世界全体の環境危機時計® の時刻の推移では、1996年以降、2000年を除いて、常に9時台の「極めて不安」の領域を示している。(表1・図4)
・日本は昨年から針が2分戻って9時31分となり、世界平均同じ時刻を示している。日本は近年、世界平均と差はほとんどない。(図4)
I-2 回答者の年代層による環境危機時刻の推移 (2014年~2023年)
・60代以上の回答者は、他の世代よりも進んだ環境危機時計® の時刻を回答する傾向がある。
・今年は40代、50代の示す環境危機時計® の時刻が5分進み、20代、30代とそれ以上の世代との差が顕著になった。過去10年を振り返ると、20 代、30 代が示す環境危機時計®の時刻は、2018年まで上昇傾向にあったが、その後は時計の針が戻る傾向にある。(図5-1)
・中国は回答者数が多く、その回答者の9割近くを占める20代、30代の人々は、政府の環境対策を評価し、中国での環境問題は良い方向に向かっていると考えているようである。(図5-2)
II 環境危機時計® の時刻記入にあたって念頭においた「地球環境の変化を示す項目」(世界)
本調査は、時刻を決める上で、次の「地球環境の変化を示す9項目」から、回答者が住む国または地域において最も深刻だと思われる環境問題を1位~3位で選んでいただいた。(調査結果の詳細は調査報告書をご参照ください。)
地球環境の変化を示す9項目:
1. 気候変動、2. 生物圏保全性(生物多様性)、3. 陸域系の変化(土地利用)
4. 生物化学フロー(環境汚染)、5. 水資源、6. 人口、7. 食糧、8. ライフスタイル(消費性向)、
9.社会、経済と環境、政策、施策
II-1 地球環境の変化を示す9項目の加重平均選択率
・環境危機時計®の危機時刻の記入にあたり念頭においた項目の選択率について、世界全体では「気候変動」が30%で最多、次いで13%の「生物圏保全性(生物多様性)」が続き、この順は6年連続で同じ。(図6)
II-2 環境危機時計® の危機時刻の順位
・世界全体の「地球環境の変化を示す項目」を環境危機時計® の時刻順に並べると、「生物圏保全性(生物多様性)」(9時59分)、「気候変動」(9時33分)が世界平均(9時31分)よりも進んでいる。(図6)
III 環境問題への取り組みの改善の兆し ―パリ協定、SDGs採択(2015年)以前との比較
環境問題への取り組みの改善の兆しとして、①「一般の人々の意識」、②「政策・法制度」、③「社会基盤(資金・人材・技術・設備)」の3つの観点から、脱炭素社会への転換と「地球環境の変化を示す項目」について問うた。
(「全く進んでいない」を「-2」、「どちらかといえば進んでいない」を「-1」、「どちらかといえば進んでいる」を「+1」、「確実に進んでいる」を「+2」として数値化し平均値を出した)。
III-1 脱炭素社会への転換の進み具合に関する認識
・脱炭素社会への転換については、どちらかといえば進んでいるが、「政策・法制度」や「社会基盤(資金・人材・技術・設備)」の面は、「一般の人々の意識」の面ほど進んでいない。「一般の人々の意識」、「政策・法制度」、「社会基盤(資金・人材・技術・設備)」のどの観点からも昨年から大きな変化がないと認識されている。(図7:報告書 表8から作成)
III-2 気候変動の改善の兆しに関する認識
・改善の兆しがある項目として最も多く選ばれたのは、「気候変動」(27.0%)で、ついで「社会、経済と環境、政策、施策」(16.3%)、「ライフスタイル(消費性向)」(12.7%)と続く。(表2)
・「気候変動」について、回答者は政策、法制度(0.75)や社会基盤(0.71)よりも、一般の人々の意識(1.28)について改善の兆しを見出している。(表2)それぞれの指標値は昨年からほとんど変わっていない。(図8:報告書 表10から作成)
IV 持続可能な開発目標 (SDGs)に関する認識
持続可能な開発目標 (SDGs)に関して、日々の生活で関心を持っていること、世界の問題として関心が高いことを17 ある目標の中から3 つずつ選び、関心の高いものから順に1 位、2 位、3 位を決定してもらった。回答は1~3位の百分率の積上げで、各項目を比較し、上位の5つの目標を表9-1, 9-2に示した。それぞれの地域、国ごとのデータは、「2023年調査報告書」に記載。
・世界全体でみると、日々の生活で関心を持っている目標として、「13.気候変動に具体的な対策を」、「3.すべての人に健康と福祉を」、「7.エネルギーをみんなにそしてクリーンに」、「15.陸の豊かさを守ろう」が、多くの国で選ばれた。目標3,7が選ばれていることは、COVID-19のパンデミックを経験したあとで、日々の健康を願い、最近のエネルギー価格の高騰に困惑する回答者の気持ちが表れている。
・世界の問題として関心が高い目標に、「13.気候変動に具体的な対策を」がすべての国、地域で最も多く選ばれた。これに「1.貧困をなくそう」、「16.平和と公正をすべての人に」が続く。
・表11、12を合わせてみると、世界の多くの人が気候変動の問題を身近な世界の問題としてとらえ、日々の生活の中でも関心を持っている。
持続可能な開発目標 (SDGs)の達成可能性に関して、自分が住む国・地域で見たときに、17 ある目標の中で2030 年に達成度が高いと思う目標、低いと思う目標を3つずつ選び、それぞれ高いもの、低いものから順に1 位、2 位、3 位を選んでもらった。回答は1~3位の百分率の積上げで、各項目を比較し、表10-1に高いと思う目標の上位5つを、表10-2に低いと思う目標の下位5つを示した。それぞれの地域、国ごとのデータは、「2023年調査報告書」に記載。
・自分の住む国・地域で2030年に達成度が高いと思う目標として、世界平均としては、「6.安全な水とトイレを世界中に」、「4.質の高い教育をみんなに」、「2.飢餓をゼロに」の三つが選ばれている国・地域が多い。(表10-1)
・自分の住む国・地域で2030年に達成度が低いと思う目標として、「1.貧困をなくそう」、「13.気候変動に具体的な対策を」、「10.人や国の不平等をなくそう」の三つを選んだ回答者が多かった。これらは世界的に共通の課題である。(表10-2)
・「5.ジェンダー平等を実現しよう」の自国での実現が難しいと考えている回答者が、特に日本、中国、韓国に多い。
本調査は回答者から世界各国における環境問題の実情やご意見、改善策を記入して頂く自由記述欄を設けております。今年もアンケート回答とともに有意義なご意見やコメントを多数いただきました。それらの中から抜粋したものを、9月6日午前11時より財団ウェブサイトに掲載致します。環境問題に関する有識者の生の声を是非ご覧ください。
https://www. af-info.or.jp/questionnaire/result.html
【調査概要】
・調査期間:2022年4月から6月
・調査機関:旭硝子財団
・調査対象:世界各国の政府・自治体、非政府組織(NGO/NPO)、大学・研究機関、企業、マス・メディア等で環境問題に携わる有識者(旭硝子財団保有データベースに基づく)
・有効回答数:1,805
・調査方法:調査票を日本語、英語、中国語、韓国語、スペイン語、フランス語の6カ国語で作成し、毎年4月に調査票を送付し6月までに回答を得、世界各地域のご意見を比較・分析して9月に調査結果発表
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