三菱化工機と名古屋大学、電界ろ過法を用いた世界初の技術 電界フィルター®「Ele-Fil™」を共同発表
■Ele-Fil™開発の経緯
膜分離をはじめとする従来のろ過法は、微粒子をろ材が濾し取る直接ろ過方式です。ろ過はケーク※1形成や目詰まりによる性能低下という恒久的な問題を有しています。ケーク形成や目詰まりが進行すると、ろ液が流れにくくなり、処理量が低下していきます。
この問題の解決に取り組んでいた際に、ろ液中の粒子は弱いマイナスの電荷を帯びていることから、クーロンの法則※2を利用することに着目し、荷電粒子間に働く反発を利用する「電界ろ過法」の研究を進めてまいりました。今回開発したろ過技術は、既に特許出願済みです。また、名称については、電気を利用したろ過方法をイメージしていただくため、社内公募の結果を踏まえてElectric Filterの略称「Ele-Fil™」と命名しました。
※1 ケーク:表面で捕捉された粒子が堆積した層
※2 クーロンの法則:電荷間に働く反発または引き合う力は、電荷の積に比例し電荷間の距離の2乗に反比例する
■Ele-Fil™のろ過メカニズムと効果
電界ろ過法とは、積層構造の電極ろ板に形成された電界バリアの電気的反発作用を利用した非接触ろ過方法です。ろ過室に供給されたスラリー液(原液)を、電界ろ過法によって精密にろ液と濃縮液に分離できます。ナノ(nm)レベルの細かい粒子のろ過が適応できます。
従来のろ過:
細孔より小さな粒子をろ過していく過程で細かい粒子がすり抜ける場合があるほか、
ケーク形成やろ材の目詰まりが発生します。
Ele-Fil™を使用したろ過:
電気泳動※3と電極ろ板との反発作用で電極ろ板面から離れる荷電粒子に対する電気的作用力を利用してろ過を行います。荷電している粒子と電極ろ板は、電気的作用力によって非接触状態を維持し、ろ過精度が向上します。
※3 電気泳動:溶液中の電荷をもった物質が電場(電界)のもとで移動する現象
■Ele-Fil™の利用で期待される効果
1. 微細粒子のろ過: 電気的な反発作用により、ろ材細孔よりも微細な粒子のろ過が可能
2. ろ材閉塞を抑制: ろ材細孔が大きいため、細孔の閉塞を抑制
3. 高いろ過精度: ろ紙・ろ布を電極ろ板として、MF膜・UF膜レベルのろ過精度を達成
4. ろ過精度の調整: 外部電源の印加電圧調整により、ろ過精度の調整が可能
5. 対象物の広い選択性: 高いろ過圧をかけない、生体バイオマスなどのろ過が可能
■ナノファイバーフィルターろ材との組み合わせ
ナノファイバーろ材は、その特有の三次元ネットワーク構造により、孔より小さな粒子を孔の内部でつかまえることができるため、一般的なろ材よりさらに精密かつ安定的にろ過操作を継続することができます。しかし、長時間ろ過を続けると一般のろ材と同様、表面にケーク層が形成されます。また、ナノファイバーろ材は複雑な内部構造のため、機能の低下したろ材を洗浄して再利用する際に、ろ材内部の粒子を完全に排除するのは非常に難しいという側面もあります。
しかし、電界ろ過と組み合わせることで、粒子がナノファイバーろ材の内部や表面に滞留せず、ろ過操作を行いながら同時に粒子が排除されるため、ナノファイバーろ材の特長である大きな内部空間を生かして、ろ液を高速で流していくことができます。さらに、ナノファイバーろ材の本来の分離精度よりずっと細かい粒子の分離も可能になります。電界ろ過とナノファイバーろ材の組み合わせにより、さらに高精度で安定的なろ過が実現します。
ナノファイバーろ材の特徴:
圧倒的に厚さが薄く、空隙率が大きい
精密ろ過膜に相当する孔径と粒子捕捉性能をもつ
液透過速度は同等の孔径を持つ精密ろ過膜の数倍
粒子阻止率は同等の孔径を持つ精密ろ過膜より高い
■両者の役割
三菱化工機は1952年に三菱ヤングフィルターを発売以来、分離ろ過技術をコア技術として多くの製品を販売してきており、近年ではナノサイズの微細粒子スラリーを精密分離して高濃度な濃縮液と清澄ろ液の回収を実現する、回転式セラミック膜ろ過機「三菱ダイナフィルター」を販売しています。また、名古屋大学向井研究室では膜・ろ材技術を基盤とした液中物質の分離プロセス工学を研究テーマとして、ナノファイバーろ材の創製および高機能化と、水環境分野への応用を進めてまいりました。両者はこれまで培ってきたノウハウを持ち寄り、三菱化工機は主に電界ろ過法を用いたろ過技術の開発と装置化を推進し、名古屋大学向井研究室は三菱化工機が開発した技術にナノファイバーろ材を組み込むことで、Ele-Fil™のさらなる高性能化を図っています。
■今後の展開
電界ろ過法は、電源・電極とろ材構成をコア技術とし、分離操作ノウハウを組み合わせた融合技術で、ナノ粒子を含む多種多様な物質の分離に対応できます。たとえば、水ビジネス分野では薬剤の使用量を低減した水処理工程を構築することができます。また、既存の分離装置と組み合わせることで機能拡大や能力向上が図れるほか、実験用の分析装置にも技術転用が可能です。電界ろ過法は従来困難とされていた精密分離や、分離時間の短縮、メンテナンス性の向上など、様々な可能性が期待されます。今後は社会実装に向けて、多くの用途開発を実施してまいります。
主な用途および産業分野
ライフサイエンス分野 | 電子部品・電池・半導体等材料分野 | バイオプラスチック分野 |
① 藻類バイオマス ② 飲料・発酵・醸造産業 ③ バイオ創薬分野 | ① コロイド微粒子 ② セラミックス微粒子 ③ CMP研磨剤 | ① バイオポリマー製造工程 ② 乳化剤 ③ ラテックス類 |
■本リリースの取り組みを通じて、当社はSDGs(持続可能な開発目標)における次の目標に貢献します。
・目標8 働きがいも経済成長も
・目標9 産業と技術革新の基盤をつくろう
・目標17 パートナーシップで目標を達成しよう
このプレスリリースには、メディア関係者向けの情報があります
メディアユーザー登録を行うと、企業担当者の連絡先や、イベント・記者会見の情報など様々な特記情報を閲覧できます。※内容はプレスリリースにより異なります。
すべての画像