『2025堀場雅夫賞』 受賞者決定 / 授賞式は10月17日

~「分析・計測技術」 研究者を奨励、支援~

株式会社堀場製作所

株式会社堀場製作所(京都市南区吉祥院宮の東町2 代表取締役社長 足立正之|以下「当社」)は、このほど、国内外の大学または公的研究機関の研究開発者を対象とした「分析・計測技術」に関する研究奨励賞『堀場雅夫賞』の2025年度受賞者を決定しました。
2003年の本賞創設から21回目となる今回の選考テーマは「次世代医療に貢献する分析・計測技術」で、海外含め44件(国内34件、海外10件)の応募がありました。募集分野において権威ある7名の研究者で構成される審査委員会が、将来性や独創性、ユニークな計測機器への発展性に重点を置いて評価し、以下の3名を堀場雅夫賞受賞者に、1名を特別賞受賞者に決定しました。受賞記念セミナーならびに授賞式は、学術界および行政関係から出席者をお招きし、10月17日(金) 京都大学 国際科学イノベーション棟5F(西館) HORIBAシンポジウムホールにて執り行います。

受賞者と受賞研究内容

【堀場雅夫賞】

加地 範匡(カジ ノリタダ)氏
 国立大学法人九州大学 大学院工学研究院 応用化学部門(機能) 教授
 「細胞治療のための非標識・非破壊単一幹細胞分析技術の開発」

・西原 諒(ニシハラ リョウ)氏
 国立研究開発法人産業技術総合研究所 健康医工学研究部門 主任研究員
 「潜在的発光酵素機能を利用したタンパク質分析技術の開発」

・安井 隆雄(ヤスイ タカオ)氏
 国立大学法人東京科学大学 生命理工学院 教授
 「ナノワイヤによるリキッドバイオプシーの開拓と次世代医療への展開」

【特別賞】

・黄 琳(ホアン・リン)氏 
 上海交通大学 医学部 准教授(中国)
 「がんの進行過程を分子レベルで識別するためのプラズモニックナノアレイの開発」

堀場雅夫賞について

堀場雅夫賞は堀場製作所創立50周年を記念し、2003年に創設されました。本賞は、画期的な分析・計測技術の創生が期待される研究開発に従事する国内外の若手研究者や技術者を支援し、科学技術における計測技術の地位をより一層高めることに貢献しようというものです。分析・計測技術のなかでも当社グループが育んできた原理や要素技術を中心に毎年対象分野を定め、ユニークかつその成果や今後の発展性を世界にアピールすべき研究・開発にスポットを当てています。

2025堀場雅夫賞 審査委員会 委員一覧 (敬称略、順不同)

審査委員長:末松 誠 公益財団法人実中研 所長 / 慶應義塾大学 名誉教授
海外審査員: Alan Ryder(アラン・ライダー)
       Professor, School of Natural Sciences, University of Galway

       Catherine Alix-Panabières(キャサリン・アリックス・パナビエール)
                   Professor, Faculty of Medicine, University of Montpellier

審査委員:濱村 美砂子 アレクシオンファーマ合同会社 社長
               矢冨 裕     国際医療福祉大学大学院 大学院長、教授
               吉岡 和憲    株式会社堀場製作所 バイオヘルスケア本部
                                  メディカルソリューション部 部長
               横川 昭徳    株式会社堀場製作所 バイオヘルスケア本部
                                  ライフサイエンスソリューション部 部長

授賞式について

日程:2025年10月17日(金)
場所:京都大学 国際科学イノベーション棟5F(西館) HORIBAシンポジウムホール

【2025場雅夫賞授賞式プログラム(予定)
第一部:受賞記念セミナー(14:30~)
・受賞者 講演: 受賞者3名、特別賞受賞者1名
第二部:授賞式 (17:00~)
・受賞研究紹介
・本賞/副賞授与

2025堀場雅夫賞の募集分野と背景

いまだ記憶に新しい新型コロナウイルス感染症COVID-19の世界的対策において、メッセンジャーRNAワクチンの実用化とその拡大などにより感染症予防が飛躍的に進歩しました。また、PCR検査や抗原検査の急速な普及により感染有無の判定が容易にできるようになりました。その一方でワクチンの供給能力不足や治療薬開発の難しさが顕在化し、検査や計測の重要性が改めて認識されました。

ポストコロナの現在、世界各国でバイオ医薬品とワクチンの両方に使用可能なデュアルユースの生産拠点が整備されています。平時は次世代医療の要となる細胞・遺伝子治療薬や抗体医薬品などのバイオ医薬品を生産し、感染症パンデミックの発生時には迅速なワクチン生産が可能となる体制が整えられようとしています。研究開発への投資も積極的に進められており、国が総力を挙げて、バイオ医薬品やワクチンの開発から生産までを支援しています。

この社会環境のもと、分析・計測技術に対しては、遺伝子改変された細胞の安全性や有効性を評価する方法や、薬剤投与の要否を判断するために免疫機能を確認する方法などの基礎研究が求められています。加えて、大型機器や専門の訓練を必要としない簡便な検査、迅速・正確な診断を実現する分析・計測技術も重要となります。また、バイオ医薬品の開発段階から品質を作りこむ評価技術の開発や、細胞を培養して得られた生成物や培地成分などをモニタリングする品質・製造管理技術を確立するための応用研究および生産プロセス開発も必要とされています。これらの研究開発には、「細胞」「生命分子」「培養環境」を新たな手法で分析・計測することが不可欠です。

2025堀場雅夫賞では、テーマを『次世代医療に貢献する分析・計測技術』と定め、なかでも次世代医療に貢献する細胞や生命分子の新たな分析・計測技術(基礎研究)と、バイオ医薬品の開発・生産プロセスに貢献する細胞や生命分子関連の新たな分析・計測技術(応用研究および生産プロセス開発)を募集対象※とし、人々の健康と安全・安心に寄与する分析・計測技術の発展につながる研究にスポットを当てました。

※純粋な治療法、純粋な新薬の開発など、分析・計測技術を主体としない研究業績は対象外

受賞者ご紹介【堀場雅夫賞】加地 範匡(カジ ノリタダ)氏
国立大学法人九州大学 大学院工学研究院応用化学部門(機能) 教授
 
「細胞治療のための非標識・非破壊単一幹細胞分析技術の開発」

次世代医療の中核を担う技術として期待される細胞医療※1において、細胞移植前にその細胞自体を検査して安全性を担保することは必要不可欠である。しかし、これまでの細胞診断法は、細胞に蛍光タンパク質を導入し、その発光を利用して確認する方法(蛍光タンパク質標識)や、細胞を破壊して内部のDNAをPCRなどにより分析する方法が中心であり、診断後の細胞をそのまま細胞医療へ臨床応用することが難しいといった課題があった。加地氏は、マイクロ流体デバイス※2に細胞と同程度の大きさの微小空間を配置して電流・光学同時計測システムを組み合わせることで、細胞の硬さや柔らかさといった機械的特性を単一細胞レベルで非標識・非破壊かつ高速で計測する技術を開発した。これにより、1細胞あたり数ミリ秒~数十ミリ秒※3という非常に短い時間で細胞が体の様々な組織や臓器に変化する能力の評価やがん細胞の選別に成功した。本技術は、細胞の全数検査を可能にし、細胞医療におけるスクリーニング法※4や臨床応用前の細胞の品質保証・安全性向上に貢献することが期待される。

※1 細胞医療:患者本人や他者由来の細胞を移植することにより、ケガや病気で失われた体の組織や機能を回復させる治療法。

         これまで治療が困難であった疾病への有効なアプローチとして期待されている。
※2 マイクロ流体デバイス:微細な流路内で液体を精密に制御・操作する装置。細胞操作や化学反応、診断などに用いられる。
※3 1ミリ秒: 1/1000秒。
※4 スクリーニング法:大量の候補の中から対象を効率的に選別する方法のこと。

西原 諒(ニシハラ リョウ)氏 
国立研究開発法人産業技術総合研究所 健康医工学研究部門 主任研究員
「潜在的発光酵素機能を利用したタンパク質分析技術の開発」

タンパク質は、その量や構造の変化を測定することで、疾患や感染の有無を把握できる重要な生体分子であり、多くの測定法が開発されている。しかし、従来の手法は操作が煩雑であることが多く、高度な技術や長時間の測定を必要とする課題があった。西原氏は、新型コロナウイルス由来のスパイクタンパク質※1が、ウミホタル由来の発光物質「ルシフェリン※2」を発光させる現象を発見した。通常、ルシフェリンは「ルシフェラーゼ」と呼ばれる発光酵素の触媒作用で発光するが、スパイクタンパク質がその代替となって発光を促す。この現象を応用し、ウミホタルのルシフェリンをヒト唾液と混合するだけで、唾液中のスパイクタンパク質の量を1分で検出できる、簡便かつ迅速なタンパク質分析技術を開発した。さらに、ルシフェリンの化学構造を人工的に改変することで、ウイルス由来タンパク質に限らず、ヒト由来タンパク質の検出や抗体医薬品の品質評価にも展開できることを実証した。今後、汎用性の高い新しいタンパク質分析技術として、医療・創薬分野での幅広い応用が期待される。

※1 スパイクタンパク質:ウイルス表面に存在するとげ状のタンパク質。ウイルスの体内への侵入を引き起こす要因となる。
※2 ルシフェリン:発光酵素ルシフェラーゼの基質となる物質の総称で、酸化によって発光する。
        蛍の発光に関与するホタルルシフェリンなども含まれる。

安井 隆雄(ヤスイ タカオ)氏
国立大学法人東京科学大学 生命理工学院 教授
「ナノワイヤによるリキッドバイオプシーの開拓と次世代医療への展開」

細胞から放出される細胞外小胞※1は、タンパク質やmicroRNAなどから構成され、細胞間の情報伝達に関与している。細胞外小胞は放出した細胞に関する情報を有するため、病変組織から放出されたものは各種疾病の指標(バイオマーカー)としての活用が注目されている。安井氏は様々な酸化物ナノワイヤ※2構造の作製・制御技術を開発し、細胞外小胞の解析に適したナノワイヤを創出した。さらにナノワイヤと細胞外小胞の相互作用を解析し、細胞外小胞を網羅的に捕捉するメカニズムを解明した。開発したナノワイヤは、体液中の細胞外小胞の解析によるがん検知、すなわち「リキッドバイオプシー※3」の実践と、がんの予後予測や転移のしくみ解明へ展開されている。

※1 細胞外小胞:細胞から放出される膜小胞。内部に機能性分子を含み、細胞間のコミュニケーションに利用される。
※2 ナノワイヤ:直径がナノメートルオーダー(10億分の1メートル)の細いワイヤー形状の物体。
※3 リキッドバイオプシー:血液や尿などの体液に含まれる生体物質を分析する技術。
        従来の組織生検と比較して患者の負担が小さいため繰り返し行える利点がある。

【特別賞】黄 琳(ホアン・リン)氏 
上海交通大学 医学部 准教授(中国)
「がんの進行過程を分子レベルで識別するためのプラズモニックナノアレイの開発」

代謝バイオマーカー※1は、がんの早期診断において極めて重要な指標であり、その高感度な検出と正確な解析は臨床判断に不可欠である。しかし、従来の診断法では、サンプル前処理の効率、検出感度、データ解釈といった面で課題が残っている。これらの問題を解決するために、黄氏は、代謝分子を効率的に分離し、高感度の質量分析※2とAIによる解析を組み合わせた新しい代謝物解析システムを開発した。これにより、代謝物の濃縮効率は従来比で1,000倍以上に向上し、光熱・電気化学制御により単一細胞レベルで約95%の代謝物を網羅的に検出可能となった。また、深層ニューラルネットワークモデル※3の開発により、肺がん、大腸がん、胆管がんなどの診断で90%以上の精度を実現し、従来法のバイオマーカー解析手法を大きく上回る性能を示した。本研究成果により、生体検査を行わずに、短時間で高精度ながん診断が可能になることが期待されている。さらに、本技術はがん領域にとどまらず、個別化医療※4、創薬、代謝性疾患の研究など、幅広い分野への応用が見込まれている。

※1 代謝バイオマーカー:生体内の代謝状態の変化や疾患の指標となる物質。
※2 質量分析:試料中に含まれる微量な物質を、その分子の質量を高精度で測定することによって特定・定量する技術。
※3 深層ニューラルネットワーク:人間の脳のようにパターンを認識することを学習するコンピュータシステム。
    多数の「ニューロン」が層状に接続され、情報を段階的に処理することで機能する。
※4 個別化医療:患者一人ひとりの体質や遺伝情報、生活習慣などに基づいて、最適な治療法を選択する医療。

■受賞者の所属・役職等は応募時点のものです。

このプレスリリースには、メディア関係者向けの情報があります

メディアユーザー登録を行うと、企業担当者の連絡先や、イベント・記者会見の情報など様々な特記情報を閲覧できます。※内容はプレスリリースにより異なります。

すべての画像


ビジネスカテゴリ
医薬・製薬医療・病院
ダウンロード
プレスリリース素材

このプレスリリース内で使われている画像ファイルがダウンロードできます

会社概要

株式会社堀場製作所

2フォロワー

RSS
URL
https://www.horiba.com/jpn/
業種
製造業
本社所在地
京都府京都市南区吉祥院宮の東町2番地
電話番号
-
代表者名
堀場 厚
上場
東証プライム
資本金
120億1100万円
設立
1953年01月