イブキとVIE STYLE、ニューロフィードバックを用いたゴルフにおける“チョーキング現象”を克服する新たなトレーニング技術の開発に着手
ニューロテクノロジーで、練習場では上手くいくのに本番ではダメを解消
ニューロフィードバックのシステムの開発は完了し、予備的ではありますが、ゴルフパッティングにおいてニューロフィードバックの有効性を示す結果も得られ始めています。今後このニューロフィードバック技術を基盤に「脱力」スキルを、フィジカルとメンタル両面から身に着けるという新しい観点のトレーニング技術の研究開発を進め、プロ/アマ向けトレーニングサービスの開発・提供に着手していく予定です。
- 1. 研究の背景
先行研究では、例えば,手先の繊細な運動処理を行うバスケットボール・ゴルフは「Choking under pressure」の影響を受けやすいため,ホーム試合の観衆数が+14.7%増えるほど,プロバスケットボール選手のフリースローの成功率10%低下する事例(注1)やゴルフの大会において賞金が10,000$上がるほどゴルフパッティング成功率が0.18%低下することが報告されています(注2)。このように膨大な練習を重ね実力をつけたスポーツアスリートでさえも、本番のプレッシャーで文字通り筋肉が緊張してしまう「あがり」状態に陥ってしまい身体パフォーマンスが低下してしまいます。
このチョーキング現象には、緊張する外的な環境下で自動的に沸き起こる心理的な不安・緊張が関与している=脳内で起きている症状だと考えられており、「頭ではリラックスして力を抜きたくても、意識的に力を抜くのが難しい」ことが問題点です。この課題に対して有効性が示唆されているのが「ニューロフィードバック」と呼ばれる技術です。ニューロフィードバックとは脳内で起こっている様々な精神生理学的な変化である非意識的情報を脳計測を通してリアルタイムで個人にフィードバックし、個人の心身のパフォーマンス向上を自己促進することをサポ―トする技術です 。以下にいくつか先行研究を紹介します。
- 1.1 ニューロフィードバック研究(あがり・スポーツ不安)
- 1.2 ニューロフィードバック研究(身体パフォーマンス)
以上のように、チョーキング対策やゴルフパフォーマンスを上げるためのニューロフィードバック研究は長年行われてきており、トレーニングによって過度な緊張状態である「あがり」の改善・身体パフォーマンスの向上させる可能性が示唆されています。
そこで我々は、特に心理的プレッシャーの影響を受けやすいと考えられるゴルフパッティングをターゲットに、チョーキング下でもパフォーマンスを向上させることができるトレーニングを行うニューロフィードバック(NF)システムの構築を行いました。そのシステムおよび、予備的な実験結果を紹介します。
- 2. ゴルフパフォーマンス向上のためのニューロフィードバックシステム
「Pressure」条件では参加者に心理的プレッシャーを感じてもらうために、計3パットを成功するまで次の試行に移行しないデザインとしました(「No Pressure」では成功・失敗を問わずに3パットを行う)。成功の定義は、パッティングしたボールがホールの中心から10[cm]以下の場合としました(今回の実験では成功となるトライアルが少なかったため、失敗したパッティングから20[cm]以上パッティングパフォーマンスが向上した場合も成功としました。※成功パッティングが少ない場合NFに用いるモデルが構築できないことが理由)。
NFトレーニングでは、成功パッティングの脳波(脳活動)に近いほどVIE ZONEから聞こえる心拍音(本人のものではなく合成音)が大きくなるので、その音をなるべく大きくしてもらうように教示をしました(Fig.2)。
- 3. 予備的な実験の結果
また、試行を重ねるごとのパフォーマンスを分析すると、NF前のPreセッションではトライアルを重ねても、パフォーマンスの向上率が緩やかで分散も大きい傾向にありました。一方でNFセッションでは、トライアルを重ねるごとのパッティングパフォーマンス向上率がPre試行より高くばらつきが小さい傾向となりました(Fig.4)。
今回、先行研究から示唆されているニューロフィードバックによるゴルフパフォーマンスの向上トレーニングを、ウェアラブルIn-Ear EEG(イヤホン型脳波計:VIE ZONE)で行うシステムを開発しました。結果、予備的な結果ではあるものの心理的プレッシャー下でのゴルフパッティングパフォーマンスが向上する可能性が示唆されました。今後は開発したシステムを利用し、より本格的な検証実験を行っていく予定です。
- 4. 今後の展望
今後、このニューロフィードバック技術を基盤に「脱力」スキルをフィジカルとメンタル両面から身に着けるという新しい観点のトレーニング技術の研究開発を進め、プロ/アマ向けトレーニングサービスの開発・提供に着手していきます。
さらに発展的な可能性として、本技術とクラブを組み合わせることで、ハイパフォーマンスを目指せる次世代クラブ・トレーニングテクノロジーの開発などにもパートナーを探索しながら着手していく予定です(Fig.5)。
- 株式会社イブキ
- ※Golfingスタジオ(https://www.golfing-jpn.com/)
- イヤホン型脳波計「VIE ZONE」
- VIE STYLE株式会社
会社名 | VIE STYLE株式会社 |
代表者 | 代表取締役 今村 泰彦 |
所在地 | 神奈川県鎌倉市材木座5-15-12 |
URL | https://www.viestyle.co.jp/ |
関連会社 | VIE STYLE,INC. (US法人) |
Podcast番組 | ニューロ横丁〜酒のツマミになる脳の話〜 (https://anchor.fm/neuro-yokocho) |
(注1)Böheim, R., Grübl, D., & Lackner, M. (2019). Choking under pressure–Evidence of the causal effect of audience size on performance. Journal of Economic Behavior & Organization, 168, 76-93.
(注2)Hickman, D. C., & Metz, N. E. (2015). The impact of pressure on performance: Evidence from the PGA TOUR. Journal of Economic Behavior & Organization, 116, 319-330.
(注3)Liu, S., Hao, X., Liu, X., He, Y., Zhang, L., An, X., ... & Ming, D. (2022). Sensorimotor rhythm neurofeedback training relieves anxiety in healthy people. Cognitive Neurodynamics, 16(3), 531-544.
(注4)Gadea, M., Aliño, M., Hidalgo, V., Espert, R., & Salvador, A. (2020). Effects of a single session of SMR neurofeedback training on anxiety and cortisol levels. Neurophysiologie Clinique, 50(3), 167-173.
(注5)Zadkhosh, S. M., Zandi, H. G., & Hemayattalab, R. (2018). Neurofeedback versus mindfulness on young football players anxiety and performance. Turkish Journal of Kinesiology, 4(4), 132-141.
(注6)Mennella, R., Patron, E., & Palomba, D. (2017). Frontal alpha asymmetry neurofeedback for the reduction of negative affect and anxiety. Behaviour research and therapy, 92, 32-40.
(注7)Faller, J., Cummings, J., Saproo, S., & Sajda, P. (2019). Regulation of arousal via online neurofeedback improves human performance in a demanding sensory-motor task. Proceedings of the National Academy of Sciences, 116(13), 6482-6490.
(注8)Cheng, M. Y., Huang, C. J., Chang, Y. K., Koester, D., Schack, T., & Hung, T. M. (2015). Sensorimotor rhythm neurofeedback enhances golf putting performance. Journal of Sport and Exercise Psychology, 37(6), 626-636.
(注9)Chen, T. T., Wang, K. P., Chang, W. H., Kao, C. W., & Hung, T. M. (2022). Effects of the function-specific instruction approach to neurofeedback training on frontal midline theta waves and golf putting performance. Psychology of Sport and Exercise, 61, 102211.
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