ポリシロキサンとバイオポリマーの特性を相互に生かした複合多孔体の製造法
断熱材に適した柔軟で透明なエアロゲルを実現する新製法を提案
・ ポリシロキサンの多孔質骨格とバイオポリマー架橋体を一つのゲル内に形成
・ 重量比約10%のバイオポリマーとの共存により柔軟性が向上
・ エアロゲル材料を用いた断熱材などの開発に貢献
・ 重量比約10%のバイオポリマーとの共存により柔軟性が向上
・ エアロゲル材料を用いた断熱材などの開発に貢献
- 概 要
この製造法は、多孔質のポリシロキサン骨格とバイオポリマー架橋体を同じ空間内で個別に形成させ、両者が数十ナノメートルのスケールで均質に複合した透明なエアロゲルの作製を可能にします。これにより、はっ水性と柔軟性の両立など、単一成分では実現できなかった機能をもつ多孔質材料を作ることができます。熱伝導率が静止空気のそれよりも低い断熱材などの開発に貢献します。
なお、この技術の詳細は、2023年7月19日(中央ヨーロッパ時間)に「Angewandte Chemie International Edition」に掲載されました。
下線部は【用語解説】参照
※本プレスリリースでは、化学式や単位記号の上付き・下付き文字を、通常の文字と同じ大きさで表記しております。
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正式な表記でご覧になりたい方は、産総研WEBページ(https://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2023/pr20230720_2/pr20230720_2.html)をご覧ください。
- 開発の社会的背景
次世代の断熱材の有力候補として、エアロゲルが知られています。エアロゲルとは、約90%を超える高い空隙率で、数十ナノメートルの空孔をもつ多孔体のことです。緻密なバルク材料やマイクロメートル孔の多孔体と異なり、超軽量、低熱伝導率、低光散乱(透明)、独特なナノ空間などの特性を示します。これらの特性を生かした断熱材を筆頭に、CO2吸着材や触媒担体など、カーボンニュートラルに貢献する機能材料として、エアロゲルは注目されています。
- 研究の経緯
産総研では、天然資源を主原料とするエアロゲルの開発に取り組み、バイオポリマーのキトサンを用いたエアロゲルと透明で柔軟な断熱材を開発してきました(2015年11月9日 産総研プレス発表[1]、2017年9月4日 主な研究成果web掲載[2])。この材料は耐湿性に課題を抱えており、現在まで技術移転には至っていません。そこで、疎水性のポリシロキサンとバイオポリマーとの複合化に着目しました。バイオポリマーをナノファイバー状にするための処理を行った場合(セルロースナノファイバーなど)を除き、両者を均質に複合したエアロゲルを作ることは、これまで困難でした。今回、安価な水溶性バイオポリマーとポリシロキサンとの均質な複合エアロゲルを実現する手法を開発しました。
なお、本研究開発は、独立行政法人日本学術振興会科研費、基盤研究(B)22H01894による支援を受けています。
[1]https://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2015/pr20151109/pr20151109.html
[2]https://www.aist.go.jp/aist_j/new_research/2017/nr20170904/nr20170904.html
- 研究の内容
疎水性を示す安価なポリシロキサン原料としてメチルトリメトキシシラン、安価で豊富な資源を有するバイオポリマーとして、アルギン酸、ペクチン、カラジーナン、カルボキシメチルセルロースを選択したところ、カルボキシメチルセルロースを除く三つのバイオポリマーにて、数十ナノメートルのスケールで均質に複合した透明なエアロゲルを得ることに成功しました。特に、siloxane-firstで作製したポリシロキサン−アルギン酸の複合エアロゲルは、透明性とはっ水性に優れ、曲げ試験では、ポリシロキサン単体のエアロゲルと比べ、約2倍の曲げ変形が可能でした(図2)。また、biopolymer-firstで作製したポリシロキサン−カラジーナンの複合エアロゲルでも、透明性でやや劣るものの、同様の柔軟性の向上が見られました。これら複合エアロゲルは、もともと曲げに弱いタイプのポリシロキサン多孔体に、バイオポリマー架橋体が重量比で10分の1程度加わることで、柔軟性が顕著に向上することを示しています。
また、ポリシロキサン−アルギン酸の複合エアロゲルで約13 cm角の検体(厚さ約5 mm)を試作し、熱伝導率を測定したところ、静止空気よりも低い値(22 mW/(m·K))を示しました。この材料は、かさ密度の最適化により、さらに低い熱伝導率を実現できる可能性があり、高性能・透光型の断熱材への応用が期待されます。
- 今後の予定
- 論文情報
論文タイトル:Biopolymer–Polysiloxane Double Network Aerogels
著者:Satoru Takeshita, Takumi Ono
DOI:10.1002/anie.202306518
- 用語解説
シロキサン結合(Si–O–Si)をもつ高分子の総称。シリカ(SiO2)は、一つのSi原子が周囲の4つのSi原子とシロキサン結合で結ばれた骨格をもつ。これら4つの結合のうち、いくつかを有機官能基に置き換えたさまざまなポリシロキサン化合物がある。今回は、一つをメチル基に置き換えたもの(下記参照)。
バイオポリマー
天然物から直接抽出して得られる高分子、または天然物からとれる成分を原料として製造された高分子。今回は前者。
エアロゲル
かつては超臨界乾燥法で作製した多孔体をエアロゲルと呼んでいた。現在は類似材料の乾燥法が多様化したため、分野や材料によって定義が若干異なる。ここではメソ孔(2 nm~50 nmの空孔)を主とし、空孔同士が連結しており、90%程度以上の高い空隙率(体積に対する空隙の割合)を有する均質な多孔体をエアロゲルと呼んでいる。
架橋体
高分子の鎖と鎖の間、あるいは一つの鎖の別々の箇所に橋掛けとなる結合を導入し、高分子鎖の網目を形成させたもの。今回は、バイオポリマーのカルボキシ基(COO−)やスルホ基(SO3−)が、金属イオン(Ca2+やAl3+)と静電的に結合し、カルボキシ基あるいはスルホ基同士が金属イオンを介して橋掛けされる。
熱マネジメント材料
熱の移動を抑える断熱材、熱をためる蓄熱材、熱を逃がす放熱材など、熱エネルギーを効率よく制御するための材料群。
キトサン
廃棄されたエビやカニの甲殻から工業生産されるバイオポリマーの一種で、アミノ基(–NH2)を含む多糖類。キトサンは弱酸性の水に溶けるが、ポリシロキサン骨格を形成させるpHでは析出してしまうので、今回の手法では使用していない。
超臨界乾燥
物質を臨界圧力・臨界温度以上に置くと、液体・気体の界面が発生しない超臨界状態となる。この超臨界状態を経由して、界面張力による変形や微細構造への影響を回避した乾燥方法。今回は、湿潤ゲルに含まれるエタノールと超臨界CO2(臨界圧力7 MPa、臨界温度31 ℃)が高圧で均一相を作ることを利用し、エタノールを超臨界CO2で置き換えたのち、減圧して気体のCO2に変えて乾燥させた。
メチルトリメトキシシラン
ポリシロキサン原料の一種で、一つのシロキサン結合がメチル基(Si–CH3)に置き換わったポリメチルシルセスキオキサンを作る。これ以外にも、ビニル基(–CH=CH2)の導入と重合でアルキル鎖(単結合炭化水素)のネットワークを内部に入れ込んだものなど、いくつかのポリシロキサンエアロゲルが報告されている。これらの中には、透明性と曲げ耐性を両立できるものもあるが、特殊なポリシロキサン原料や後処理などが必要なため、現在まで産業応用には至っていない。
アルギン酸、ペクチン、カルボキシメチルセルロース、カラジーナン
天然物由来のバイオポリマーで、増粘剤、安定化剤などとして幅広く工業利用されている。アルギン酸、ペクチン、カルボキシメチルセルロース、カラジーナンの主な資源は、それぞれコンブなど褐藻類、かんきつ類、植物由来のセルロースを改質したもの、スギノリなど紅藻類である。
かさ密度
多孔質材料や容器に充てんした粉末などにおいて、骨格の固体部分と空隙部分の両方を含めた全体の重量を全体の体積で割って求める見かけ上の密度。かさ密度が小さい方がよりスカスカな(空隙率が高い)多孔質材料となる。
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