James Dyson Award 2020:自宅でできる乳がん検査用デバイス「The Blue Box」が国際最優秀賞受賞
一般財団法人 ジェームズダイソン財団は、次世代のエンジニアやデザイナーの支援・育成を目的に、財団が主催する国際エンジニアリングアワード、James Dyson Award 2020 (以下、JDA 2020) の国際最優秀賞、準優秀賞作品また今年より新設したサステナビリティ賞を発表しました。James Dyson Awardにとって2020年は、応募総数、賞金額¹ともに過去最高となる記録的な年となりました。今年は例年にない世界情勢の中、各応募内容は質が高く、若手のエンジニア、発明家たちの斬新な発想が光りました。今年の最優秀賞受賞2作品は、乳がん検査をより手軽に実施可能に、また効果的に再生可能エネルギーを生み出すサステナブルな方法という、大きな世界的問題の解決に大いに貢献するものです。
¹ 国際最優秀賞受賞者には、賞金30,000ポンド(約420万円、1ポンド141円換算)を、受賞者が在籍または卒業した教育機関に寄附金5,000ポンド(約70万円)が贈られます。
・最優秀賞作品:
The Blue Boxは、23歳のJudit Giró Benet氏(スペイン)が製作した尿サンプルを使って乳がんの発見につながる検査を自宅で行えるデバイスです。
・サステナビリティ賞:
JDA 2020より新設された本賞に輝いたAuREUS System Technologyは、27歳のカCarvey Ehren Maigue氏(フィリピン)が製作した廃棄された農作物を原料とする新素材です。紫外線を再生可能エネルギーに変換します。
・国際準優秀賞:
タイヤの摩耗から生じる微粒子を車輪周辺で回収し、様々な用途へのリサイクルを可能にするデバイス、The Tyre Collective (英国)と液晶を活用することで画質を損なわずにズームができる新しいカメラレンズ、Scope (カナダ)が受賞しました。
JDA 2020の総評として、ダイソンの創業者兼チーフエンジニアのジェームズ ダイソンは次のように述べています。「James Dyson Awardに応募してくれた若いエンジニア、科学者、デザイナーは、世界をよりよい変化をもたらしたいという意思をもち、作品を通してその思いを具現化しています。医療やサステナビリティ分野に関する優れたアイディアは年々増加傾向にあり、その中から作品を選出するのは困難な場合がありました。だからこそ、今年から最優秀賞を2作品に贈ることとしたのです。JuditとCarveyは、発明者、エンジニアとしてとても素晴らしく、各々の領域において素晴らしい一歩を遂げたと言えるでしょう。今回のJDA 2020受賞が今後、彼らがさらに飛躍するうえでの大きな出発点になることを願っています。」
- < James Dyson Award 2020 国際最優秀賞 > The Blue Box
²フェルドスタイン A.C.、ペリン N.、ロザレス A.G.、シュナイダー J.、リックス M.M.、グラスゴー R.E.著、2011年、注意喚起月間における患者がマンモグラフィーを受けない要因。ジャーナル・オブ・ウィメンズ・ヘルス、20(3)、p421~428。
解決方法:スペイン、タラゴナ出身のJudit Giró Benet氏(ジュディット ジャイロ ベネット)が発明したThe Blue Boxは、尿サンプルを用いて家庭で乳がん検査が行える医療用デバイスで、AIアルゴリズムにより早期乳がんの兆候を検知します。これにより、個人によっては感じる不快感を伴うこともなく、また放射線被曝もない手ごろな検査を、自宅で定期的に実施することが可能となり、女性が自らの健康管理を行うことを可能とします。
このデバイスは、尿サンプル内の化学物質を解析し、その結果をクラウドに送信します。クラウド上でAI搭載のアルゴリズムがある特定の代謝物質に反応し、ユーザーに診断結果を提供します。デバイスに連携するアプリで、ユーザーに対するすべての通信が制御され、検査結果が陽性の場合、直ちに医療専門家につなぎます。
今後数年間は、プロトタイプを最終段階に進め、人による使用実験、臨床実験、そして特許申請と重要なステージに進めるという、Juditとチームにとって非常に重要な段階を迎えることになります。
国際最優秀賞の受賞を受けて、Juditは次のように語っています。「The Blue Boxは、日常生活レベルに乳がん検査を一般化できる可能性を秘めています。社会の乳がんとの闘い方を変え、癌の発見が遅れる可能性を低減するのに役立つと考えられます。ジェームズ ダイソン氏から国際最優秀賞受賞の連絡を受けた日は、私にとって大きな転機となりました。JDA 2020の賞金を活用することで、特許の申請や研究開発をスピードアップが可能になったからです。しかし何よりも、ダイソン氏が私のアイディアの可能性を信じてくれたということが、この極めて重要な局面において私に必要な自信を与えてくれました。」
The Blue Boxに関し、ジェームズ ダイソンは次のように述べています。「残念なことに、私は癌を罹患した人達の苦労を間近で見てきました。エンジニア、科学者としてこの疾患分野に対し何かしらのアクションが取れないかと考えています。今回、Juditが用いたアプローチは、ハードウェア、ソフトウェアそしてAI技術を駆使し、検査自体を簡易かつ手軽に、日常生活上で行えるアイディアを生みだした点が素晴らしいと思います。The Blue Boxを通じてクラウド上に集積したデータは、今後の癌治療におけるインサイトとなり、それはグローバル規模のネットワークとなり得ます。彼女が今後、医療分野における必要な行政許可や承認取得に向けた、あらゆるサポートが得られることを願ってやみません。」
Dyson News Room (英語のみ)でJuditのストーリーをご覧いただけます。
・ アメリカ疾病予防管理センターによると、女性の40%が乳がん検査のマンモグラフィーを忌避しているとされ、乳がん患者の3人に1人が癌の発見が遅れたために、生存の可能性が低くなっているといわれています。マンモグラフィーを受けない女性の41%は、検査に伴う苦痛をその原因として挙げています。³
・英国を代表する、乳がんに関する慈善団体のブレストキャンサーナウは、コロナ禍でおよそ100万人の女性が、NHS(英国国民保健サービス)が提供する乳がん検査を受けておらず、命を救うかもしれない機会を逃していると警鐘を鳴らしています。⁴
・アメリカがん協会は、2020年までにアメリカ国内で診断される癌の30%が乳がんになるだろうと予測しています。⁵
³フェルドスタイン A.C.、ペリン N.、ロザレス A.G.、シュナイダー J.、リックス M.M.、グラスゴー R.E.著、2011年、注意喚起月間における患者がマンモグラフィーを受けない要因。ジャーナル・オブ・ウィメンズ・ヘルス、20(3)、p421~428。
⁴ブレストキャンサーナウ https://breastcancernow.org/about-us/media/press-releases/almost-one-million-women-in-uk-miss-vital-breast-screening-due-covid-19
⁵アメリカがん協会 https://www.nationalbreastcancer.org/wp-content/uploads/2020-Breast-Cancer-Stats.pdf
- < James Dyson Award 2020 サステナビリティ賞> AuREUS System Technology
解決方法:今年より新設されたサステナビリティ賞の受賞者であるCarvey Ehren Maigue(カーベイ エーレン メグ)氏は、廃棄物をアップサイクル⁶して光から再生可能エネルギーを生み出すためのより効果的な方法を見出すという課題に取り組みました。
⁶ 創造的再利用とも呼ばれ副産物、廃棄物、役に立たない、または不要な製品を、より良い品質と環境価値の新しい材料または製品に変換するプロセス
フィリピン、マニラのマプア大学に在籍するCarveyが発明したAuREUS(オーレウス)は、既存の建物や構造物の表面に取り付けられ、紫外線を取り込み、可視光線に変換することで発電する素材です。これは従来のソーラーパネルでは不可能な方法です。晴天下でも曇り空でも、この素材中の粒子が紫外線を吸収し発光させることで、発電が可能となります。粒子が「滞留」することにより、余分なエネルギーを除去します。これがこの素材を通して「ブリードアウト」し、可視光線へと変換され、この光を電気に変えるのです。AuREUSは、ソーラーパネルの能力を超える高いエネルギー変換率を発揮する可能性を秘めており、太陽光に直接あたっていなくても十分機能します。現在の試験結果によると、一定時間のうち48%発電が可能です。これに対し、従来の太陽光セルでは10~25%となっています。⁷ ⁸
⁷リニューアブルエネルギーフォーカス http://www.renewableenergyfocus.com/view/8359/wind-and-solar-power-cost-sensitive-to-load-factors/#:~:text=For%20solar%20photovoltaic%20(PV)%2C,electricity%20are%20US%24600%2FMWh.
⁸スタティスタ https://www.statista.com/statistics/555697/solar-electricity-load-factor-uk/
フィリピンでは、猛烈な悪天候にみまわれ、農家は作物に甚大な被害を受けることも稀ではありません。Carveyは、こうした状況から廃棄物となった作物を有効活用し、彼の新素材の基材となる紫外線吸収化合物を生成する方法を模索しました。そして地元産の作物約80種類を試験した結果、長期間の使用に耐えうる可能性のある9種類を特定しました。素材に適用した基材は耐久性に優れ、半透明で、様々な形状に成型することができます。Carveyは、この素材を窓や壁への適用にとどまらず、繊維や自動車、船舶、航空機などへの応用の可能性を模索すべく、開発を進めています。
AuREUS System Technologyに関し、ジェームズ ダイソンは次のように述べています。「廃棄対象の農作物を有効活用するというAuREUSの視点は素晴らしいものです。それ加え特に私が感銘を受けたのは、Carveyの強固な意志と決意です。2018年の国内選考から外れたという”失敗”にめげず、決意をもって継続的に取り組み進化させる姿勢。これは、アイディアを商品として具現化していく過程で必要な要素です。私自身が農業に携わる一農家であり、常に農地の肥沃さや作物生産、農地を活用した太陽光発電に関心を持っています。だからこそ、Carveyのプロジェクトの成功に大きな期待を寄せるとともに、彼の発明が風力発電のように都市部における既存の仕組みの中でも再生可能なエネルギーを生み出す一つのアプローチであると考えます。」
失敗から学ぶ:
Carveyが最初にこのアイディアをJames Dyson Awardに応募したのは2018年でした。しかしその時は、受賞には至りませんでした。当時の彼のテクノロジーは、窓への適用に限られ、また基材の主な要素は化学化合物だったのです。2年の歳月をかけ、研究開発を重ねることで、適用範囲を広げ、また廃棄農作物をアップサイクルするという方法を生み出したことで、今回新設されたサステナビリティ賞を受賞することとなりました。アイディアを更に改善しようという彼の地道な努力、そして失敗から学ぼうという姿勢が、ジェームズ ダイソンの失敗の精神を彷彿とさせます。この精神は、ダイソン社における設計プロセスの重要な要素なのです。
ジェームズ ダイソンと言葉を交わした後、Carveyは次のように語りました。「ジェームズダイソンアワードでの受賞は、私にとって始まりと終りを意味します。はたして自分のアイディアが世界にとって意味があるのだろうか、と悩み続けた日々に終止符を打つことができたということと、同時にこれから、AuREUS System Technologyを世界に届けるための新たなチャレンジが始まります。世界の自然エネルギー源を活用するよりよい形の再生可能エネルギーを創りたいと思っています。それは、人々の生活に身近であり、実現への道を拓き、持続可能、再生可能な未来へと突き進むことを意味します。」
Dyson News Room (英語のみ)でCarveyのストーリーをご覧いただけます。
・国際エネルギー機関によると、化石燃料は、依然として世界のエネルギー製品全体の81%以上を占めています。⁹
・このままのペースで化石燃料を燃やし続けると、世界のガス・石油は2060年までに枯渇してしまうと推定されています。手の届く、効果的でクリーンな再生可能エネルギーの選択肢を増やすことが、優先課題となっています。¹⁰
・ソーラーパネルは、照射される太陽光の15%~22%を利用可能な電力に変換できます。しかしこの容量は、設置場所や向き、天候に左右されます。¹¹
⁹国際エネルギー機関 https://www.iea.org/reports/world-energy-balances-overview
¹⁰エコトリシティ https://www.ecotricity.co.uk/our-green-energy/energy-independence/the-end-of-fossil-fuels
¹¹グリーンマッチ https://www.greenmatch.co.uk/blog/2014/11/how-efficient-are-solar-panels
- < James Dyson Award 2020 国際準優秀賞 >
製作者:Siobhan Anderson, Hanson Cheng, M Deepak Mallaya, and Hugo Richardson (英国インペリアル・カレッジ・ロンドンおよびロイヤル・カレッジ・オブ・アート)
問題:自動車が制動する時、加速する時、また方向転換する時、タイヤは摩耗し、微粒子を大気中に放出します。ヨーロッパだけでも年間50万トンのタイヤが微粒子となって環境を汚染しています。¹²この微粒子は空気中に浮遊する程の小ささで、人の健康に悪影響を及ぼす可能性があります。このタイヤ微粒子は、道路交通に起因するPM2.5汚染の最大50%を占め、2030年までにはすべてのPM2.5汚染の10%がタイヤ微粒子による汚染になるといわれています。大量の微粒子が河川に流入し、やがて海洋に流出、最終的には私たちの食物連鎖に混入してきます。¹³
¹²コール ピエテル ジャン他著「タイヤの摩耗:環境に放出されるマイクロプラスチックの隠れた発生源」 環境研究と公衆衛生国際ジャーナル、第14巻第10号、2017年、p1265、doi:10.3390/ijerph14101265
¹³英国環境・食糧・農村地域省「空気の質:ブレーキ、タイヤ、路面の摩耗―証拠収集」 GOV.UK、GOV.UK、2019年7月10日
解決方法:TheTyre Collectiveは、タイヤから発生する微粒子をその場で回収し、この目に見えない汚染を低減するためのデバイスです。チームが開発したデバイスを車輪に装着し、静電気を利用してタイヤから発生する微粒子を放出と同時に捕捉します。回転する車輪周辺の様々な気流も有効活用します。回収された微粒子はリサイクルされ、新しいタイヤや、インクなど他の素材へと再利用されます。
Scope
製作者:Ishan Mishra, Holden Beggs, Zhen Le Cao, Fernando J. Pena Cantu, Alisha Bhanji (カナダ ウォータールー大学)
問題:携帯電話に搭載されているカメラでは、高画質のズーム写真を撮ることができません。それは画質を落とさずに拡大するために必要な、一般のカメラのようなレンズ移動ができないためです。
解決方法:Scopeは、セル内に液晶を充填したレンズを開発しました。液晶に電圧をかけることで、レンズを動かすことなく光波面を動的に変形させ、画質を落とさずにズーム写真が撮れます。
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