社会課題の自分事化を促進する3要素が理論モデルから明らかに
〜法政大学石山教授、ビジネスリサーチラボとの共同研究で「社会配慮行動促進モデル」を構築〜
NPO法人クロスフィールズ(東京都品川区、代表:⼩沼⼤地)は、法政大学大学院 石山恒貴教授と株式会社ビジネスリサーチラボ(東京都目黒区、代表:伊達洋駆)と共同で「社会配慮行動促進 (=社会課題の自分事化を通じた行動発揮)」に関する理論モデルを開発、社会課題の自分事化が「俯瞰」「危機感」「内発性」の3つの要素で促進されることがわかりました。本モデルの構築によって「個人の社会課題に対する当事者意識がどれだけ育まれたか」について、アンケートを活用した分析を通じて測定・評価することが可能になりました。クロスフィールズでは、本理論モデルやアンケート回答結果を活用したプログラムの改善や社会インパクトの測定/発信に力を入れていく予定です。
クロスフィールズは2011年の創業以来、「社会課題を自分事化する人を増やす」というミッションのもと、社会課題の現場にビジネスパーソンを一定期間派遣する留職プログラムや、社会起点で物事を考えるマインドを醸成する社会課題体感フィールドスタディなど、さまざまな越境プログラムを展開してきました。参加者数は13年間で、のべ3,000名以上に上ります。
越境学習についての調査研究は、これまでも有識者の方々とともにプログラムごとの比較検証やリーダーシップ発露のモデル分析などを行ってきていました*。一方で社会課題に取り組むことに向けた「社会課題の自分事化」とは具体的に何か、あるいはプログラム参加前後で自分事化は育まれるのか、等の効果検証は十分に行なえていませんでした。
*過去の調査研究をまとめたページはこちら:https://crossfields.jp/update/research/
そこで越境学習研究の第一人者・法政大学大学院 政策創造研究科 石山恒貴教授と株式会社ビジネスリサーチラボと共に、2年間以上にわたるディスカションと共同分析の結果、社会課題の自分事化レベルを測る「社会配慮行動促進の理論モデル」を構築することができました。本モデルはすでに先行研究で実証されている環境配慮行動に関する研究を軸に検討を行ったもので、独自開発に成功しました。
本モデルの検証にあたり、15歳から69歳までの一般のモニター983名に対してアンケートを実施し、本モデルの有効性を確認しました。アンケートの分析を通じて社会課題の自分事化に関する要素として以下の3つがあること、そしてこれらの要素が各個人のなかで高まることによって「社会課題の解決に対して何らかのアクションを起こしたい」といった意思が高まり、行動の発揮に繋がる(=社会配慮行動)ということがわかりました。
1. 俯瞰:
「実は、自分の行動や意識が社会課題と結びついているかもしれない」など、自身と課題の関連性を俯瞰して考える想像力のこと
(↔ 社会課題は遠い問題で自分とは関係ないものだととらえている)
2. 危機感:
社会課題を重要な問題だと認識し、それにより生活が脅かされるかもしれないと危機感を感じること(↔ 課題の当事者に対して共感を抱けず、他人事だと考えている)
3. 内発性:
社会課題に対して自発的に取り組みたいと考えること
(↔ 自身の原体験やパーパス起点ではなく、社会的な規範やルールを元に受動的に取り組む)
またクロスフィールズでは、当団体が実施するプログラムの効果検証にも本理論モデルの活用を始めています。2022年9月から2023年7月の間に当団体が提供する社会課題体感フィールドスタディ*に参加したビジネスパーソン88名を対象にプログラム参加前後でアンケートを実施したところ、プログラム参加を通じて社会課題の自分事化が促進されることがわかりました。上記した3つの要素の中でも特に、「俯瞰」と「内発性」がプログラム参加後に伸びることがわかりました。これはプログラムの実施運営においてクロスフィールズが注力している、「参加者の内省を促すファシリテーション」や「自身の想いやパーパスを言語化するワーク」などが作用していると考えられ、今後もこうした介入を継続していくことが「社会課題の自分事化」の促進には重要であることが明らかになりました。
クロスフィールズでは今後も本理論モデルを活用し、展開している各プログラムの改善や社会インパクトの測定と発信を進めていく予定です。
*社会課題体感フィールドスタディとは:
社会課題体感フィールドスタディとは、数時間〜1週間の短期集中型のリーダー向け越境プログラムです。国内外の社会課題の現場や現地リーダーの志から刺激を受け、社会に対する感性とぶれない軸を育んでいきます。(詳細はこちら)
法政大学大学院 石山恒貴教授 コメント
時代環境として、社会課題への関心が高まっていることに疑いはないと思います。しかしながら、それを実際に自分の問題として考えるのか、一般的な社会における問題と考えるのか、そこには大きな違いがあると思います。そして自分の問題として考えなければ、自分の行動にもつながらないでしょう。しかし、どうすれば自分の問題として考えるのか。この点が解明されることは今までありませんでした。本プロジェクトの調査結果をきっかけとして、社会問題の自分事化への注目が日本社会でさらに高まっていくことを期待しています。
株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役 伊達洋駆氏 コメント
社会課題は、私たちの仕事や日常生活に関わっています。それらについて理解を深め、行動を起こすことが大事です。しかし、具体的にどのように行動を促進することができるのでしょうか。今回は理論、データ、そして実践的な知識という3つの側面から、その疑問に答えるモデルを構築しました。今後、モデルがさまざまな場面で役立ち、社会課題への取り組みを進める手助けとなることを願っています。
*本件に関するビジネスリサーチラボ社からのインタビュー記事はこちら
NPO法人クロスフィールズ ディレクター 西川理菜 コメント
クロスフィールズは創業以来、多くのビジネスパーソンと社会課題の現場との出会いをプロデュースしてきました。彼ら彼女らがそうした「原体験」を得ることで、意識や行動が変わり、そして社会が変わっていく確かな手応えを感じてきましたが、そうした変化を数値的に測ることはできていませんでした。今回具体的なモデルの構築とともに変化の測定手法が明らかになったことで、このデータ分析をもとにより大きな社会インパクトを創出を目指すこと、そしてその変化を広く発信することに努めていきます。
【NPO法人クロスフィールズ】
クロスフィールズは、国内外の社会課題の現場とビジネスパーソンをつなぐことで、社会課題解決とリーダー育成の両方を実現することを目指す非営利組織です。社会課題解決の現場に企業の社員が飛び込み、現地のNPOや社会的企業とともに課題解決に取り組む留職プログラムのほか、国内外の社会課題の現場を「体感」するリーダー向け「社会課題体感フィールドスタディ」、VR/360度映像を活用して当事者の目線で社会課題を擬似体験する「共感プログラム」など様々な事業を展開しています。(ウェブサイト:https://crossfields.jp/ )
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