労務費の価格転嫁「十分にできていない」企業が過半数 ― 名商が実態調査
2026年施行「中小受託取引適正化法(通称:取適法)」を前に、価格交渉の実態を名商が調査
名古屋商工会議所は、企業における労務費の価格転嫁の実態を把握することを目的に、第55回定期景況調査としてアンケート調査を実施しました。本調査の結果、労務費は原材料費やエネルギー価格と比べて転嫁が進みにくく、多くの企業が交渉の前段階で課題を抱えている実態が明らかになりました。

調査の背景
賃上げ時代に問われる価格転嫁
去る10月18日に愛知県の最低賃金は63円引き上げられ、1,140円となりました。賃上げの動きが広がるなか、労務費の上昇が企業経営に大きく影響しています。
2023年11月に公正取引委員会・内閣官房が『労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針(以下:『指針』)』を公表し2年が経過したものの、労務費の価格転嫁は依然として進んでいません。
こうした状況を踏まえ、地域企業における労務費転嫁の実態を把握するために本調査を実施しました。
なお、本調査は第55回定期景況調査(2025年10~12月期)の抜粋版であり、全体版は別途公開しています。
サマリー

第55回定期景況調査(2025年10~12月期) 概要
調査期間:11月7日(金)~28日(金)
調査方法:インターネット調査
回答企業:1,318社
(本記事では、価格転嫁の必要があり、取引において受注者の立場にあると回答した811社の回答を分析※後述)

分析対象について
労務費転嫁における実態を正確に把握すべく、母数を統一して集計・分析を行いました。
具体的には、「第55回定期景況調査」に回答した1,318社のうち、「コスト上昇の影響を受けていない、または価格転嫁の 必要がない」と回答した企業を除き、そこから「一般消費者との取引が主」と回答した企業を除き、さらに取引において 「元請け(自社が最終製品・サービスを提供する立場にあり、発注のみ)」である企業を除いた回答者811社を対象としています。

主な調査結果
労務費転嫁の実態
原材料費やエネルギー価格に比べ、労務費は最も価格転嫁が困難であることが明らかになりました。

企業規模別に分析したところ、小規模企業では約3社に1社が「まったく転嫁できていない」と回答しており、企業規模が小さいほど影響が顕著です。

労務費転嫁が進まない要因として最も多かったのは、「受注減少への恐れ」でした。
また、要因を「交渉前」と「交渉後」に分けた際、交渉前に課題が偏っています。

問題の分析
労務費転嫁を後押しするために公表された「価格交渉に関する指針」について、内容まで理解している企業は3割にとどまり、「知らなかった」もしくは「知っているが内容までは把握していない」企業が約7割にのぼる結果になりました。

さらに、指針の内容を理解している企業ほど、労務費転嫁が進んでいる傾向が確認され、制度の“理解”が“実践”につながっていないことが大きな課題として浮き彫りになりました。

労務費に関する協議が、発注者側から呼びかけられたケースは極めて少数であり、約半数の企業が「まったくない」と回答しました。
この結果から、受注者側が自ら交渉のきっかけを作らざるを得ない状況だとわかります。

一方で、労務費を他のコストと切り分け、根拠資料を用いて説明できている企業ほど、価格転嫁が進んでいる傾向も確認されました。
正確な算出が難しくとも、春闘妥結額や最低賃金改定などの公表資料を活用することで、交渉が前進する可能性が高まることが示唆されています。

考察
受注者側が取適法を理解し、労務費根拠の準備を整え、勇気をもって交渉に臨むことが重要である
本調査では、労務費は他のコストより転嫁が進みにくく、進まない最大の要因は「受注減少への恐れ」だと分かりました。さらに「交渉の場がない」「労務費上昇分を把握できていない」など、交渉の前段階でつまずいていることが浮き彫りになりました。
『指針』ではこれらの問題を解消すべく行動を示していますが、中小・小規模企業の商慣習への浸透はまだ途上です。
一方、労務費を他のコストと切り分け根拠を示せている企業ほど転嫁が進んでいることから、各種の公表資料(春闘、最低賃金改定など)を活用して根拠を示すことで、交渉が前進する可能性が高いことも明らかになりました。
そこで、受注者側に対し、「根拠資料を用いた説明」から取り組むことを推奨してまいります。
労務費転嫁は、中小・小規模企業の賃上げ原資の確保に直結する重要な課題です。「防衛的な賃上げ」から脱却し、持続的な賃上げを実現するためにも、企業には自社の価値を再認識し、強みを踏まえた価格交渉に取り組んでいただきたいと考えております。
もちろん、単に受注者の努力だけで解決できる問題ではありません。発注者側の行動変容や、サプライチェーン全体の取引適正化も不可欠であり、今後も行政機関への働きかけを進めてまいります。
押さえておきたいポイント✅価格交渉を後押しする「取適法」の施行について
価格転嫁を阻害し、受注者に不当な負担を強いる商慣習を改め、取引環境の改善を図るため、従来の「下請法」が改正され、「中小受託取引適正化法」(通称:取適法)が2026年1月1日に施行されます。
今回の改正では、受注者が価格協議を求めたにもかかわらず、発注者が協議に応じない、または必要な説明を行わないまま代金を一方的に決定する行為が禁止されるようになります。
取適法は労務費転嫁を後押しする重要な制度であり、企業においては改正内容を理解し今後の交渉に活かしていただきたく存じます。
調査結果全文はこちら
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