遠隔診療・地域医療を活用した分散型臨床試験の実現に向けた治験業務効率化の共同検証を開始
~患者さんの負担軽減と治験の迅速化を両立する、新しい治験モデルの構築をめざす~
国立大学法人 京都大学医学部附属病院(所在地:京都府京都市、病院長:髙折 晃史、以下:「京大病院」)、独立行政法人 国立病院機構 四国がんセンター(所在地:愛媛県松山市、病院長:山下 素弘、以下:「四国がんセンター」)、新医療リアルワールドデータ研究機構株式会社(本社:京都府京都市、代表取締役社長:是川 幸士、以下:「PRiME-R」)と、株式会社NTTデータ(本社:東京都江東区、代表取締役社長:鈴木 正範、以下:「NTTデータ」)は、治験実施医療機関とは別のパートナー医療機関にて臨床試験を行える「分散型臨床試験(DCT)」の実現を見据えた治験業務の効率化に関する共同検証(以下:「本検証」)を2025年10月22日より開始しました。
本検証では、治験実施医療機関を京大病院、パートナー医療機関を四国がんセンターと見立て、NTTデータの治療支援システム「PhambieLINQ®」注1)を活用して、両医療機関の診察情報やスケジュールなどのデータ連携、業務標準化の検証を行います。さらに治験参加者の早期特定をめざし、京大病院が中心となって立ち上げた、産学連携による全国規模のリアルワールドデータ(RWD)収集基盤「J-CONNECT」注2)において、PRiME-Rの「Cyber Oncology®」注3)を活用した治験対象患者の抽出なども行い、DCTの実現可能性を高める治験ネットワークの基盤整備をめざします。
将来的には、本検証の成果を全国の医療機関へ展開することをめざし、患者さんの治験参加機会を広げるとともに、日本国内における創薬の迅速化やドラッグラグ注4)の解消に貢献します。
【背景】
治験は新たな治療法の開発や薬剤承認の前提となる重要なプロセスであり、患者さんにとっても貴重な治療機会となっています。一方で、従来の治験は特定の医療機関への継続的な通院を前提としており、遠方に居住する患者さんや通院が困難な患者さんにとっては参加のハードルが高いという課題がありました。こうした課題を受けて、近年では「分散型臨床試験(DCT)」という新しい臨床試験の形が注目されています。DCTは、従来の治験のように特定の医療機関への通院を前提とせず、遠隔診療や地域医療機関などのパートナー医療機関との連携を通じて、自宅や近隣の医療機関から治験に参加できる新しい治験実施形態です。患者さんの負担を軽減し治験へのアクセスを拡大する一方、医療機関間の情報共有においては、郵送やFAX、メールなど手作業に依存した現場負担の多い情報連携、データ形式の不統一、患者リクルートの不確実性などが普及のボトルネックとなっています。さらに、DCTにより複数医療機関で連携した場合の患者さんへの負担軽減や治験への参加率の向上などの効果を明示した実際のデータもないことも普及が進まない一因となっています。
【概要】
京大病院、四国がんセンター、PRiME-R、NTTデータは、DCT実現に向けた治験業務の効率化と治験ネットワークの基盤整備に関する共同検証を2025年10月から2026年3月まで実施します。本検証では、治験実施医療機関を京大病院、パートナー医療機関を四国がんセンターと見立て、NTTデータの治験支援システム「PhambieLINQ」およびPRiME-Rの「Cyber Oncology®」を活用して、以下の3つの検証テーマを評価します。
①システム利用による治験業務の標準化・効率化検証
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来院日管理機能やvisitチェックシート(来院日ごとの実施事項のチェックリスト)機能の利用に伴う、来院日管理設定ファイルの標準化
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治験実施医療機関およびパートナー医療機関における治験業務フローの整備
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治験支援システム利用時の課題抽出、および課題に対する対応策の検討
② 医療機関間のデータ連携の有効性検証
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検査結果や画像情報などの紙資料をデータ化(PDF化)し、京大病院と四国がんセンター間でクラウドを活用した診察情報を共有する連携プロセスの検証
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連携される診察情報などのデータの正確性・即時性・業務負荷への影響の検証
③リアルワールドデータ活用による治験ネットワークのフィージビリティ検証
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J-CONNECTにおいてリアルワールドデータ(RWD) 注5)の収集に活用している「Cyber Oncology®」を用いた適格基準に合致する候補患者の検索
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治験の適格基準に合致する候補患者の早期特定による治験期間短縮化、および治験登録患者数の増加の検証
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RWDを活用した治験の適格基準に合致する候補患者の早期特定・募集ができる治験ネットワークの実現可能性の検証
本検証における、主な役割分担は以下のとおりです。
<京大病院・四国がんセンター>
治験の業務手順に関する情報提供、施設内環境整備、RWDで検索した候補患者の適格性確認
<PRiME-R>
主要な電子カルテと連携し、RWDを構造化・収集する「Cyber Oncology®」の提供、データ検索支援
<NTTデータ>
治験支援システム「PhambieLINQ」の提供および設定・プログラム改修、データ連携支援
本検証では、DCTのモデルケースを構築することで、製薬企業や医療機関にとっての実用的な導入手法を提示し、日本における治験の拡大と効率化に資することをめざします。さらに、複数の病院の診療データを活用して、治験に参加できる患者数の早期抽出や患者数の見通しを立てることで、治験ネットワークの基盤整備に向けた体制構築をめざします。

図1:共同検証の概要
【今後について】
京大病院、四国がんセンター、PRiME-R、およびNTTデータは、本検証で得られた成果をもとに、治験支援システムのさらなる高度化と、医療機関同士の連携強化を推進します。これにより、治験業務の効率化と品質向上を実現し、患者さんにとって円滑かつ前向きに治験へ参加できる仕組みの実現をめざします。
将来的には、本実証の成果を全国の医療機関への展開をめざしており、日本の創薬開発の加速と医療DXの推進に貢献します。
また、NTTグループでは、ICT の先進技術を活用し、治験参加者募集から治験データ連携・管理、オンライン診療支援、医療機関支援までを一貫してサポートする治験・臨床試験サービスを提供しています。NTTグループとしても、医療分野におけるデジタル活用のさらなる促進と、創薬環境の整備に取り組んでいきます注6)。
【注釈】
注1)「PhambieLINQ」は、NTTデータが開発した医療機関と製薬企業をつなぐ治験総合プラットフォームです。医療機関と
製薬企業のデータ連携を実現し、データの高品質化、治験プロセスの効率化に寄与します。
「PhambieLINQ®」は日本国内におけるNTTデータの商標です。
https://www.nttdata.com/jp/ja/lineup/phambielinq/
注2)J-CONNECTは、京大病院を中心とした25の医療機関と製薬企業が参画する産学連携による全国規模のリアルワールドデー
タ(RWD)収集プロジェクトです。電子カルテと連携し、医療データを構造化し収集するPRiME-R自社開発の「Cyber O
ncology®」を活用し、我が国の課題である実臨床におけるリアルワールドデータ収集と利活用に取り組み、20万件を超え
る院内がん登録症例のレジストリを構築しています。
https://www.kuhp.kyoto-u.ac.jp/press/20231024.html
https://prime-r.inc/newsrelease/674/
注3)「Cyber Oncology®」は、PRiME-Rが提供する医療機関・製薬企業の臨床試験を支援するシステムです。主要な電子カル
テと連携し、がん領域を始めとした様々な疾患に関する臨床データの自動構造化を実現することで、臨床試験の効率化や創
薬に向けた治験施設の探索・選定などに寄与します。
「Cyber Oncology®」は日本国内におけるPRiME-Rの商標です。
注4)ドラッグラグとは、海外で承認・使用されている医薬品が、日本で承認され実際に使用できるようになるまでに生じる時間
の差を指します。この遅れは、治験の開始時期や審査期間の違いなどに起因しており、日本の患者さんが新しい治療薬を利
用できるまでの時間の短期化が求められています。
注5)リアルワールドデータ(RWD)とは、医療現場での診療行為から得られる医療情報の総称です。
注6)NTTグループの「治験・臨床試験」への取り組みは、NTT株式会社のWebサイトに掲載しています。
https://group.ntt/jp/magazine/blog/ntt_med/
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