日本病院会、全国自治体病院協議会の両会長が医療の未来を語る
20周年記念式典に全国の病院幹部100人が参加
重症な患者に対応する「急性期病院」の経営コンサルティングなどを行う株式会社グローバルヘルスコンサルティング・ジャパン(GHC=本社・東京都新宿区、代表取締役社長・渡辺幸子)は11月9日、創立20周年を記念する式典「GHC20周年感謝祭」を開催しました。
記念講演では、日本病院会の相澤孝夫会長(社会医療法人財団慈泉会理事長兼相澤病院最高経営責任者)、全国自治体病院協議会の望月泉会長(八幡平市病院事業管理者兼八幡平市立病院統括院長、岩手県立中央病院名誉院長)が登壇。全国から優良経営を実践する急性期病院の経営幹部約100人が参加しました。
GHCの原点は米スタンフォード大学
GHCの原点は、米スタンフォード大学です。同大学の医療経済学の研究を率い、世界レベルの学者を多数輩出したGHC会長のアキよしかわ(写真)が立ち上げました。当初は米国の病院経営に特化したコンサルティングファームでしたが、その後、現GHC代表の渡辺(写真)を経営パートナーに迎えたことを契機に2004年、日本市場に参入。2024年で創立20周年を迎えました。
ベンチマーク分析を日本に広めたGHC
GHCは日本の病院経営に「ベンチマーク分析」を広めたことで知られています。ベンチマーク分析とは、他病院の各種経営指標や診療プロセスを比較し、データを軸に経営改善を行っていく経営手法です。ベンチマークによって診療プロセスにバラつきがあることに気が付き、そこから▼なぜバラつきがあるのか▼バラつきは患者のためになるのか▼医師、病院の都合でのバラつきなのか――などの可能性を考えた上でバラつきの原因を突き止め、バラつきを減らす。そうすることで医療の質を向上させながら、病院の経営を改善する活動をしてきたのがGHCです。
1000病院超の診療データを活用し経営を支援
GHCは創業以来、医療と経営の質向上を目指したコンサルティングを提供。医師や看護師、薬剤師、放射線技師など臨床現場を知る医療資格者たちがコンサルタントとして病院に赴き、最大で1000病院超の診療データをベースにコンサルティング活動を行っています。現場を知るコンサルタントだからこそ、現場の医療従事者たちは納得して改善活動に取り組み、実効性のある経営改善が実現します。コンサルティングで支援する累計クライアント数は700病院超になりました。
日本病院会とも業務提携
また、2018年から病院へ経営分析システム「病院ダッシュボードχ(カイ)」を提供。システムエンジニアだけではなく、GHCならではのコンサルタントが企画から開発までを担ってコンサルティングのノウハウを詰め込んだ分析システムです。2021年12月からは「病院ダッシュボードχ」の一部機能が無料で使える経営分析ツール「病院ダッシュボードχ ZERO」も提供して好評を得ています。2024年10月末時点で約850病院が導入しています。
この9年間、日本病院会と業務提携して中小出来高病院向けの経営分析「JHAstis(ジャスティス)」事業も担っています。
医療政策提言に向けた実証分析
2007年よりがん医療の均てん化を目指し活動している「CQI 研究会(がん診療拠点病院の約半数が会員)」でGHCはデータ分析を担ってきました。また、2008年から展開している「公立病院実名ベンチマーク勉強会」においては、GHCは分析で会をリードし、東海・北海道・大阪・四国の地域で拡大しています。
さらに、米メイヨークリニックとの共同研究など国内外の医療機関等との研究事業も精力的に行うほか、内科系保険連合会による「内科系技術についての診療報酬評価に関する提案」の「特定内科診療」評価の分析、財務省の「財政制度等審議会 財政制度分科会」や日本集中治療医学会の活動に必要なデータ分析を手がけたほか、「コロナ危機下の医療提供体制と医療機関の経営問題についての研究会」では委員も務め、今後の医療提供体制の構築に向けて、国を支える極めて重要なデータ分析を担当してきました。
新たな地域医療構想でGHCが支援できること
2040年に向けて、新たな地域医療構想が現在活発に議論されているなか、GHCが今後支援できることとして下記3つが考えられます。
1.「病床機能・医療機関機能の見直し、再定義」に向けた経営幹部意思決定の支援
2.全体最適を推進する「医療介護連携の広域PFM」の実現
3.医療人材の「生産性向上と人件費の変動費化」による医療需給の均衡の実現
医療提供体制の抜本的な見直しが必須
記念講演に登壇した日本病院会の相澤会長(写真)は、GHC設立前の2002年から病院経営のお手伝いをさせていただいております。さらには、医療と経営の質向上に向けた共同研究を行い、2012年から2014年にかけて開催された厚生労働省の「病床機能情報の報告・提供の具体的なあり方に関する検討会」に急性期の定義「医療資源投入量から見る急性期病院・急性期医療」(相澤試案、詳細はこちら)を提案しました。
講演では「我が国の病院医療の未来を考える」と題して講演。今後の病院経営について、日本経済が大きく伸びることなく、生産年齢人口も減っていくという環境を考えると、「医療提供体制の抜本的な見直しが必須」と指摘。2040年までに肺炎など85歳以上の手術がいらない入院患者が増えてくるので、人口の変化に合わせた医療提供体制を、地域ごとに役割分担を見直さないと経営の効率化はできないとしました。相澤会長が着目しているのは、「地域型病院」と「広域型病院」の大きく2つのタイプの病院に分けるという考え方。地域型病院は、地域における一般的な傷病を担う「治し支える医療」で、外来ではかかりつけ医機能を発揮。広域型病院は、地域型病院では対応できない入院医療などを担う「治す医療」で、外来ではかかりつけ医機能ではなく「主治医機能」を発揮するというものです。
また、持続可能な医療提供体制においては昨今注目を集める医療DX(デジタル・トランスフォーメーション)の必要性にも言及。相澤病院でも行っているスマートフォンと電子カルテの連携や、院内での業務用チャット活用によるコミュニケーション、業務の自動化を推進するRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)の活用などを紹介しました。最後に、医療DXへ取り組む姿勢について、「ビジョンを明確にし、手段と目的を履き違えず、軌道に乗るまで試行錯誤を繰り返し、適宜、業務プロセスを修正していくことが必要」と指摘しました。
新たな地域医療構想に期待
続いて登壇いただいた全国自治体病院協議会の望月会長(写真)とGHCは、CQI研究会の活動を通じて、医療の質向上に向けた取り組みをご一緒させていただきました。CQI 研究会は、会員間で診療プロセスのデータを比較。浮かび上がった課題の改善を通じて、がん医療の均てん化を目指しています。望月会長はCQI研究会の代表世話人として、(1)会員は244施設に到達(2)がん診療連携拠点病院等の約半数が会員(3)国が認める「質の高い医療」の指標=詳細はこちら=、海外論文=詳細はこちら=でも活動を発表(4)がん診療分析ツール「Cancer Dashboard」を会員へ無償提供――など2015~2024年の間ご活躍いただきました。今後も一世話人としてご活躍いただきます。
ご講演では 「地域に必要とされる、地域になくてはならない病院になろう」と題して、(1)2040年頃の医療をとりまく状況と課題―新たな地域医療構想のあり方―(2)診療報酬改定とベースアップ(3)災害拠点病院としての対応(4)働き方改革への懸念(5)地域になくてはならない自治体病院とは(6)八幡平市におけるPHRを利用したオンライン診療―のアジェンダにそって解説されました。
(1)では2024年に向けた新たな地域医療構想について、これまでの地域医療構想は病床の機能分化や連携にこだわっていたと指摘。一方で新たな地域医療構想については、入院医療だけではなく、外来、在宅医療、介護との連携等を含む医療提供体制全体の課題解決を図ることを目指したもので、新たな医療構想が目指す方向性に大きな期待を示しました。一方で目下の病院経営については、(2)の診療報酬改定とベースアップにおいて、インフレ局面において諸物価が高騰して病院経営を圧迫しているにもかかわらず、診療報酬は実質マイナス改定となっており、2023年度においては全国の自治体病院の約7割が赤字経営に陥っている窮状を訴えかけました(詳細は『これからの地域を守れる病院の条件とは』参照)。
(6)の八幡平市におけるPHRを利用したオンライン診療においては、市内でも医師偏在が存在することから市内全体で医療DXを推進。常勤医不在の診療所では、車で往復2時間という状況もあるため、市内の医療機関が連携し、タブレットパソコンのテレビ電話機能を活用した比較的安価なシステム対応によるオンライン診療の取り組みなどを紹介しました。
医療を牽引するリーダーたちからも祝辞
講演会後には、GHC顧問で学校法人国際医療福祉大学の鈴木康裕学長、社会福祉法人恩賜財団済生会 滋賀県病院の三木恒治院長、自由民主党の古川俊治参議院議員、社会医療法人宏潤会 大同病院の野々垣浩二病院長、CQI世話人代表の遠賀中間医師会おんが病院の藤也寸志(とう・やすし)がんケアセンター長(九州がんセンター 名誉院長)、八尾市立病院の佐々木洋特命総長などの先生方からご祝辞を賜りました。また、渡辺の恩師である埼玉県立大学の田中滋理事長(慶応義塾大学 名誉教授)からも電報でのご祝辞を賜りました。
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