医学生向けキャリアセミナー 開催レポート ~自分の軸をもって学び、行動する~ 小児外科医 村上雅一先生から学ぶ医師の仕事

 小児医学・医療・保健の発展のため、小児医学研究者への研究助成や小児医学を志す医学生への奨学金給付などを行う公益財団法人川野小児医学奨学財団(所在地:埼玉県川越市、理事長:川野幸夫/株式会社ヤオコー代表取締役会長)は、2024年9月27日に当財団の奨学生を対象に「鹿児島大学病院 小児外科 村上雅一先生による医学生向けキャリアセミナー」を開催しました。その内容をご報告いたします。

<奨学金事業について> https://kawanozaidan.or.jp/scholarship/

 当財団では、小児医学の永続的な発展のためには人材の育成・輩出が重要であるという考えから、1990年に小児医学を志す医学生への奨学金事業を開始しました。現在は埼玉県内または千葉県内の高校を卒業し、小児科医や小児医学研究者を目指す医学生を対象として、月額7万円を給付しています。2023年度までで当財団の奨学生は114 名となり、卒業生の多くが第一線で医師として活躍をしています。2024年度は新たに16名の医学生が新規奨学生として決定いたしました。


<セミナー実施内容>

鹿児島大学病院 小児外科 村上雅一先生による医学生向けキャリアセミナー

●講師プロフィール


村上雅一先生 / 鹿児島大学病院  小児外科 特任助教

専門分野:小児内視鏡外科手術・外科教育・Global Surgery

資格:外科専門医

   小児外科専門医

   医学博士

略歴:東京大学文学部卒業後、 共同通信社で記者として勤務

   北海道大学医学部学士編入学

   鹿児島大学小児外科所属 現在特任助教 にてご活躍中


●講演内容(抜粋)

■ 責任感と学ぶ意欲-手術トレーニングにまい進した日々-

 子どもの頃から医師という職業に憧れがありました。大学卒業後はサラリーマンとして仕事をしており、子どもが産まれたことをきっかけに医学部に学士編入しました。医学生時代は、子どももすでに2人いたので、家族の時間を持ちながら医学部の勉強をしていました。

 病院実習では空き時間は手術に入っていました。手術室で馴染みの先生のところに行って「オペはいっていいですか?」と聞いていました。それ以外の空き時間はドライボックス(内視鏡外科手術の練習の道具)でずっと練習していました。2000時間近く練習をしたと思います。医者になってからは1日10分の練習時間をとるのも大変です。小児内視鏡外科手術というやりたい事が早めに決まっており、時間のある学生時代にトレーニングに邁進できたのは良かったと思っています。

 医師として大切だと思うことは責任感と常に学ぶ意欲です。臨床の現場では必ずやり遂げる責任感が必須ですし、医療の知識は学びきれないほどあり、常に学んでいかないといけないと思います。


■ 小児外科の特徴-少ない症例数で幅広く手術式を習得する必要性-

 小児外科で扱う疾患は非常に多いです。消化管や泌尿器、呼吸器など広範な臓器を扱いますし、多種多様な希少疾患もあります。一方で症例数は、少子化のため減少しており、1年に1回手術があるかないかの希少疾患も多いです。つまり少ない症例数で広範な手術式を習得する必要があるのが小児外科の特徴です。また同じ疾患に対しても開腹手術だけでなく、さらに内視鏡外科手術も学ぶとなると非常に大変です。

 そこで外科教育、具体的には内視鏡外科手術トレーニングのためのシミュレータを開発する研究をしています。オフザジョブトレーニングといって、患者さんで練習するのではなく、実臨床での初執刀前にシミュレータを使って練習することができます。最近では症例数のより少ない地方の施設にシミュレータを送り、シミュレータとzoomを併用したテレシミュレーション教育の取り組みも行っています。


■ 外科医療は公衆衛生-発展途上国で教えることの意義-

 「Global Surgery」とは世界一の医学ジャーナルLancet のCommission が2016年に唱えたものです。それによると現在、50億人が必要な時に外科医療にアクセスできず、1年間に約1700万人がそこに外科医がいれば助かった理由で亡くなっているといわれています。外科が公衆衛生というイメージはまったくないと思いますが、外科医療の世界的な不均衡の是正が21世紀の公衆衛生の重要なターゲットではあると訴えています。

 このGlobal Surgeryの観点からも、発展途上国での内視鏡手術の普及は必要かつ急務とされています。僕はネパールで内視鏡外科手術の指導をしています。ネパールにはたくさんの子どもがいますが、国内に小児外科医が24人しかいません。2023年にはネパール小児外科学会主催の初の国際学会で、鼠径ヘルニアに対する腹腔鏡手術のシミュレータを持っていき、ワークショップとライブサージャリーを行いました。シミュレータは1回の練習に手術用手袋1枚が必要なだけの安価なつくりにしており、発展途上国でも何回でも練習できます。今では腹腔鏡下鼠経ヘルニア修復術は現地の指導医から若手医師への指導も始まり、知識・技術が定着したと感じています。

 僕は内視鏡外科手術が好きですし、得意なのでそれを教えたいなと思っています。日頃、日本の若手の指導もしますが、海外にまで教えにいく日本人医師はそれほど多くないので、そういう小児科医が1人くらいいてもいいと思っています。


●現役奨学生との一問一答(一部)



Global Surgeryが日本で普及していない理由は何だと思いますか?




■ 日本の外科医にむけて普及活動中

Lancet Commissionが「Global Surgery」の概念を発表した際、欧米では非常に話題になりましたが、日本ではまったく話題にならなかったようです。外科教育を日本に持ち帰ってこられた北海道大学の先生がGlobal Surgeryのレポートについて広められており、僕も教えてもらいました。学生に教える側の外科医にまだ広まっていない状況なので、僕も小児外科学会などでお話して普及に努めています。




多忙な中で、家族との時間はどのように確保していますか?




■ 医局の環境もあるが隙間時間を見つけることが大事

人の多い医局でないと、なかなか休みをとることが難しいかもしれません。小児外科という観点でいうと、鹿児島は人口比率に対しての小児外科専門医数が日本一です。医局に人が多くいて、さらに主治医制ではなくチーム制をとっています。そういった環境にいるので、家族との時間は比較的とりやすいかもしれません。

臨床をしながら研究をしようとすると時間がなく追われます。朝は6時20分には家をでて、朝のうちにできる仕事を片っ端からこなすことで夜は家族と過ごせるようにしています。子どもが寝た後や3-5時とかの早朝に、論文を書いたりデータ解析をしたりしています。また飛行機の移動中はたいていパソコンを開いています。隙間時間をひたすら見つけていく事が大切かなと思います。




様々な場所で働かれているが、場所を変えるメリット、デメリットを教えてください




■ 軸があればメリットも多い

僕は内視鏡外科手術という軸があったので、それを学びたいという理由で内視鏡外科手術で有名な病院を初期研修先に選びました。鹿児島に来たのも小児内視鏡外科手術を学ぶためです。国内でも場所によって文化が違い、色々見ることは面白いし、良い経験になると思います。




<セミナー開催の背景>

 当財団は、奨学生がこれからの医学界を担う原石であると確信しています。そのような彼らが激変する社会の中で、医師として、そして人としてどのような人生を歩んでいくのかを自ら考えることは非常に重要であると感じています。キャリアを考えるうえで様々な先輩医師から声を聞くことは大変有意義ですが、卒業に向け日々学業や研修に集中する彼らにとって、そのような機会が限られることも事実です。そこで、当財団が奨学金事業を通じて得た先輩医師とのつながりを奨学生に還元したいと思い、奨学金事業の一環として本セミナーを行うことを決めました。


■イベント終了後アンケート結果(抜粋)※出席者10人中8人が回答

●本日のセミナーの感想を教えてください。 

・進路を決める上では何がしたいのかを見極めることが大切だとわかって、今後の進路に大変役立つ内容だった

・学生時代にやっていてよかったこと、現在の状況、研究についてなど、幅広い分野で貴重なお話を伺うことができた


●最も興味を持った内容を教えてください。

・学生時代から内視鏡手術に興味を持ち、かつ将来に向けて準備されていたこと

・global surgeryという単語を初めて聞いた。外科医がいれば助かった命が非常に多くあることを知り、どのような取り組みが行われているのかに興味を持った


●ご自身の今後のキャリアの参考になったことがあれば教えてください。

・研修先の選定基準。何をやりたいかを決めて研修先を選ぶということが参考になった

・学生時代からできることに取り組むことが非常に重要なのだという点


<財団概要>

財団名: 公益財団法人川野小児医学奨学財団

所在地: 〒350-1124 埼玉県川越市新宿町1-10-1

理事長: 川野 幸夫(株式会社ヤオコー 代表取締役会長)

事務局長: 川野 紘子

設立: 1989年12月25日

行政庁: 内閣府

URL: https://kawanozaidan.or.jp/

TEL: 049-247-1717

Mail: info@kawanozaidan.or.jp

事業内容: 研究助成/奨学金給付/小児医学川野賞/医学会助成

      小児医療施設支援/ドクターによる出前セミナー


■財団の創業ストーリーや事業のエピソードをPR TIMES STORYで紹介しております。どうぞご覧ください。

失われた息子の命をきっかけに設立した「川野小児医学奨学財団」ー小児医療をめぐる課題に取り組む中で感じた、子どもたちの心と体を守るために必要なこと

https://prtimes.jp/story/detail/rX5NvZs7GXb

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会社概要

URL
https://kawanozaidan.or.jp/
業種
財団法人・社団法人・宗教法人
本社所在地
埼玉県川越市新宿町 1-10-1
電話番号
049-247-1717
代表者名
川野幸夫
上場
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資本金
-
設立
1989年12月