【生徒1.2万人・教職員1500人調査】LGBTQについて小学校までに教える必要があると回答した、小学校教職員は97.9%。友人等からカミングアウトを受けた経験がある中学生は、1クラスに約3人。

ReBitは『学校における性的指向・性自認に係る取り組み及び対応状況調査』を実施。LGBTQに関する相談へ適切に対応できた教職員は18.6%、教員養成課程で学んだ経験は13%等、対応の遅れが明らかに。

認定NPO法人 ReBit

LGBTQと教育に13年間取り組む認定NPO法人ReBitが、『学校における性的指向・性自認に係る取り組み及び対応状況調査』を実施しました。小学校高学年から大学生12,162名と、教職員1517名の回答より明らかになった、学校でのLGBTQの取り組みや対応に関する主要なデータと、自由回答に寄せられた具体性のある声を発表します。
本調査から、(1)LGBTQに限らず全ての子どもたちにとって、性の多様性について小学校、特に低学年までに教わる機会があること(2)性の多様性が尊重される学校環境づくりがされること(3)安心してLGBTQについて相談できる人・場があることが重要であること(4)教職員の研修等でのLGBTQに関する学びの経験が、LGBTQや性の多様性について教える力・環境を整える力・相談対応をする力を育むことが示されました。
一方で、教員養成課程でのLGBTQに関する学びの経験は僅か13%であることもわかりました。教職員の継続的な学びの機会提供が急がれるとともに、学校・教育委員会・行政等が連携して取り組みを進めることが重要であると言えます。

 

  • ​『学校における性的指向・性自認に係る取り組み及び対応状況調査(2022年度)』結果

 

 本調査は、学校における性的指向・性自認に係る取り組み及び対応状況を明らかにすることで、全ての学校がLGBTQの子どもにとっても、安心・安全な環境になることを目指し、認定NPO法人ReBit(以下、ReBit)が実施しました。本調査は、2022年6月1日(水)〜2023年3月31日(金)に、ReBitが実施した出張授業先の学校や行政等のうち同意を頂いた機関にて、教職員と生徒(小学校高学年〜大学)を対象とした調査を実施しました。


 教職員調査は1517名からご回答いただき、うち有効回答1515名を分析しました。また、生徒調査は12,162名からご回答いただき、うち有効回答12,162名を分析しました。なお、本調査のデータ入力作業の一部は、株式会社セールスフォース・ジャパンの従業員有志によるボランティア活動の一環として実施いただきました。(回答者の個人情報はセールスフォース・ジャパンへ提供しない形で入力をいただいています。)

アンケート調査より見えてきた、学校におけるLGBTQの取り組みに関する課題を、以下、6つのポイントにまとめました。

 

<教職員調査より>

1) LGBTQに関する授業について

 小学校教職員の97.9%が、小学校までにLGBTQについて教え始める必要があると回答しました。特に小学校入学前が33.2%、小学校低学年までが61.6%となり、幼少期から性の多様性に関する教育の必要性を感じていることが明らかとなりました。一方で、授業でLGBTQについて教えた経験がある小学校教職員は僅か31.0%であり、実情は理想に追いついていないことがわかります。

 2024年度から使用される小学校教科書のうち、道徳や社会を含め10点が性の多様性について触れ、保健体育では全6社が性の多様性を取り上げたという報道がされました。一方で、その記載は中学年・高学年教科書が主であることからも、今後低学年向けの教材・教科書等でも、多様性について取り上げることが望まれていると言えます。

 

2)勤務校の子どもたちによる性の多様性を尊重しない言動について

 教職員の68.3%が、過去3年で勤務校の子どもたちによる、性の多様性を尊重しない言動を見聞きしたことがあると回答しました。一方で、それらの言動へ何も対応をしなかった教職員は30.8%で、対応が十分であるとは言えません。

 最も見聞きをされていた『「もっと女らしく」「男子は〇〇すべき」等、性別を理由に理想的な行動を示すような言動』(52.5%)を含め、性の多様性を尊重しない言動は、LGBTQの子どもに限らず、全ての子どもたちにとって選択肢や自分らしさを阻害しかねません。教職員が性の多様性を尊重しない言動に気づき、適切な対応をすることは、全ての子どもたちにとって安心な学校環境づくりにつながると考えられます。

 

3)カミングアウトや相談について

 国内調査でLGBTQは約3〜10%とも言われ、クラスや学年・学校いると想定されます。しかし、児童生徒からのカミングアウトやLGBTQに関わる相談を受けた経験がある教職員は僅か26.1%でした。また、児童生徒からのカミングアウトやLGBTQに関わる相談を受けた教職員のうち「適切に対応・支援できたと思う」と回答した教職員は18.6%でした。教職員にLGBTQについて相談しづらい環境があるとともに、相談をしても適切な支援ができていない現状が明らかになりました。

 

4)教職員がLGBTQについて学ぶ機会と、子どもたちの学び・安全な学校環境の関係性について

 教職員の99.9%が「教職員がLGBTQについて知ることは重要」であると回答。一方で、教員養成課程で、「LGBTQの子どもの課題や適切な支援について学んだ経験がある」との回答は僅か13.0%であり、教員になる前に学ぶ機会が不足しています。

 なお、LGBTQについて教員研修で学んだ経験がある教職員群は、LGBTQについて学んだ経験がない教職員群よりも、性の多様性について教える力・環境を整える力・相談対応をする力が高いことがわかります。授業でLGBTQについて教えた経験は31.2ポイント高く、教職員の学びが子どもたちの学びにつながると言えます。また、子どもたちの性の多様性を尊重しない言動に気づいた際に対応した経験も21.9ポイント高く、安全な環境づくりにつながると言えます。また、カミングアウトやLGBTQに関する相談を受けた経験も15.5ポイント高いことから、教職員の学びが相談対応にもつながると言えます。

 

<教職員の声>

・子どもが「男の子がピンク選ぶの変だよ」と言った時に、ピンクが好きな子もいることや、何色を選んでも良いことを伝えました。(子ども園保育教諭)

・子どもからカミングアウトを受けて対応したことがあります。これからもカミングアウトを受ける際、対応できるようにしておかなければ、どの子どもにとっても安心な環境づくりができないと感じます。(小学校教員)

・カミングアウトしてくれた子が学級にいますが、周りの理解がまだまだだと感じています。周りの子どもや保護者たちに性の多様性について理解してもらうためにも、まずは教師である私自身が知る必要があると思います。(小学校教員)

・「もっと女らしくしたほうがいい」「男子なんだから○○すべき」などと他の教員が児童に対して言っていたのですが、私は何も言えず、話題をかえることしかできなかったです。一日の大半を過ごす学校なので、子どもたちが安心して学校生活を送るために、教職員が知識として知っておくことは必要だと感じています。また、LGBTQについて考えたことがあるかないかで普段子どもたちにかける日常的な言葉もかわるのではないかと思います。(小学校教員)

・研修前はLGBTQについて、保護者や他の教員には進路やその他の指導場面等も考えて、その子のカミングアウト内容を共有していいものだと思っていましたが、その部分ももっと考えるべきだったと感じました。過去に学年会や部活動の顧問に共有をしてしまった場面があったので、気をつけたいと思います。(中学教員)

・教職員があまりにもLGBTQについて知らなさすぎることが課題。生徒からのカミングアウトや申し出がなくとも、制度や設備の改定を考えていくる必要があるのではないか。県まるごとで、中学や高校の制服について検討したり、変更したりできないものか。(高校教員)

・「男子は〇〇」「女子は△△」という指示に違和感があるという相談を受けたことがある。その生徒からは「できる人は〇〇」のように男女差を設けないで欲しいという話があった。性の多様性を大事にすることは全ての生徒にとって大切であると深く共感した。(高校教員)

 

<生徒調査より>

5)日常のなかでの性の多様性を尊重しない言動について 

 小学生は63.2%、中学生は77.6%、高校生は81.0%が、日常のなかで性の多様性を尊重しない言動を見聞きしたことがあると回答し、いずれも高い状況です。なお、見聞きした相手は「テレビ・映画・動画(Youtube含む)」が最も多く、続いて「学校で友人から」が挙げられています。また先生や保護者など周りの大人から見聞きしている小学生は23.9%、中学生は29.9%であり、周囲の大人たちの無理解や偏見が子どもたちにも伝わっている状況であることがわかります。

 一方で、「今回の授業までLGBTQや性的マイノリティという言葉を知らなかった」小学生は63.1%、中学生は41.6%。児童生徒は、上述の通り、性の多様性を尊重しない情報に日常的に接していることをふまえると、学校で適切な情報を届けることは、差別・偏見を減らし、自己受容や他者理解を促進する上でも大切であると考えられます。

 

6)カミングアウトや相談を受けた経験

 小学生の4.4%(22.7人に1人)、中学生の8.8%(11.4人に1人)、高校生の10.9%(9.2人に1人)が、友人や周囲の人からLGBTQであるとカミングアウトを受けたり、LGBTQや性のあり方に関して相談された経験があると回答しました。クラス人数平均(小学校27.2人、中学校32.1人)にあてはめる と、小学生では1クラスあたり1人以上、中学生では1クラスあたり約3人が、友人や周囲の人からカミングアウトやLGBTQに関する相談を経験していることが想定されます。

 このことからも、LGBTQの子どもへ対応することだけでは十分ではなく、カミングアウトを受ける可能性がある全ての子どもたちが、性の多様性について学べる環境と、安心して相談できる場所・人の存在が重要であると言えます。一方で、小学生の89.6%、中学生の84.8%、高校生の84.6%は、身近でLGBTQや性の多様性のことを相談できる場所や人を「知らない」と回答しています。相談を受けた後に子どもたちだけで解決できない場合もあることを考えると、LGBTQの子どもたちだけでなく、相談やカミングアウトを受ける可能性がある全ての子どもが安心して相談できる環境が重要ですが、現在、その体制や情報提供は十分でないと言えます。

 

<児童生徒の声>

・今までオカマやオネエなどの言葉を家族からきいたりYouTubeを見たうえで声に出していっていた。悪口だと知って、気をつけようと思いました。(小学生)

・LGBTQや多様な性について、あまりよくわかっていなかったけど、今回の授業でよくわかった。この前、TikTokでLGBTQのことが出てきて「へんだな〜」みたいに軽く思ってたけど、それは間違いで、今は「みんなちがってあたりまえ」みたいに思う。これからいろんな人にあうと思うから「みんなちがってあたりまえ」を意識して生活していきたい。(小学生)

・​​授業前はLGBTQの人たちは怖いイメージがあったけど、授業で人それぞれ多様であることを知ってイメージが変わりました。小学生の頃から学びたかった。(中学生)

・先生が男女で差別やひいきをやめて、性別にかかわらず1人の人間としてみてほしい(中学生)

・実際に僕の友達で悲しんでいる人がいたので、もうそんなことにならないでほしい。多様性のある社会にしたい。(中学生)

・私は家族からカミングアウトをされたことがあります。その時は、優しく声をかけることができませんでした。授業でたくさんの事を学び、すくわれました。(中学生)

・小学校高学年からから自分は男性だと思うようになって、友達として好きだった女の子がもっと好きになったりして、男性としてふるまうようになったけど、親に「女の子らしくしろ」とか言われたりするので、すごく嫌だった。今回の授業を受けて安心しました。(中学生)

・私はこの授業を受ける前、女の子は女の子らしく、男の子は男の子らしくしないとだめなのかな?と思っていました。しかし、この授業を受けて、女らしく、男らしくではなく「自分らしく」でいいんだと思い、とても気が楽になりました。その人らしさを大事にしていきたいです。(中学生)

・大人は男は男らしく、女は女らしくと考えている人が正直多い。こういう講演を先生や周りの大人向けに行って欲しい。(高校生)

・​​一部の先生からLGBTQについてあまりよろしくない発言を聞くことがあるので、改善してもらいたいです。(高校生)

 

  • 『学校における性的指向・性自認に係る取り組み及び対応状況調査(2022年度)』考察:課題と今後に向けて


1)小学校、特に低学年までに、LGBTQに関する正しい知識を届けることが求められています。

 小学校教職員の97.9%は小学校高学年まで、61.6%は小学校低学年までにLGBTQについて教える必要があると回答しています。一方で、子どもたちは性の多様性を尊重しない情報に日常的に接しながらも、性の多様性について学校で学ぶ機会は、現状十分ではありません。2024年度から使用される小学校教科書のうち、全社の保健体育の教科書で性の多様性が取り上げられることが決まりましたが、記載は中学年・高学年教科書が主であり、今後低学年向けの教材・教科書や他教科等でも取り上げられる機会が増えることが期待されます。

 

2)全ての子どもにとって、性の多様性が尊重される学校環境づくりが重要です。

 小学生は63.2%、中学生は77.6%、高校生は81.0%は、性の多様性を尊重しない言動を日常で見聞きしています。この状況は、LGBTQへの無理解やジェンダーバイアスの強化、そして安全・安心でない学校環境につながることも想定されます。一方で、それらの言動へ何も対応をしなかった教職員は30.8%で、対応が十分であるとは言えません。教職員が主体となり、性の多様性が尊重される学校環境づくりを進めるとともに、教育委員会・行政等もその後押しをする体制づくりが望まれています。

 

3)全ての子どもにとって、安心してLGBTQについて相談できる人・場があることが重要です。

 子どもたちのカミングアウトやLGBTQに関わる相談を受けた教職員のうち「適切に対応できた」と回答した教職員は僅か18.6%であり、現状では教職員が安心して相談できる相手になれていない状況も明らかになりました。また、小学校のクラスに1人以上、中学校のクラスに約3人はLGBTQからのカミングアウトや相談を経験しています。一方で、子どもたちの84.3%は、身近でLGBTQについて相談できる人・場を知らず、支援体制は十分ではありません。
 自身がLGBTQである子どもだけでなく、相談やカミングアウトを受ける可能性がある全ての子どもたちに向けて、適切な支援や情報が届くよう、教職員・学校・教育委員会・行政等が連携して取り組むことが重要です。

 

4)性の多様性について教える力・環境を整える力・相談対応をする力を育むため、教員養成課程を含め教職員の継続的な学びの機会提供が急がれます。

 LGBTQの研修を受けたことがある教職員は、性の多様性について教える力・環境を整える力・相談対応をする力が高いことがわかりました。一方で、教員養成課程で学んだ経験がある教職員は僅か13.0%であり、教職員養成課程や教職員研修等の継続的な学びの機会提供が急がれます。

 

  • 認定NPO法人ReBitとは

 

 LGBTQの子ども・若者特有の困難解消と、多様性を包摂する社会風土の醸成を通じ、LGBTQを含めた全ての子どもがありのままで大人になれる社会の実現を目指す、認定NPO法人(代表理事 藥師実芳、2014年3⽉認可)。
 企業・行政・学校などで約1600回、LGBTQやダイバーシティに関する研修を実施。また、マイノリティ性をもつ就活生/就労者等、約9000名超のキャリア支援を行う。
◎公式HP:https://rebitlgbt.org/

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未上場
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設立
2009年12月