日本発医療システムで、ベトナムの人工呼吸器関連肺炎発症率低下を目指す
このシステムは国立研究開発法人 国立国際医療研究センター(所在地:東京都新宿区、理事長:國土 典宏、以下 NCGM)とTXP Medical株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役:園生智弘、以下TXP Medical)が共同で開発したものです。本事業は、国立国際医療研究センターが実施する、厚生労働省の「令和5年度医療技術等国際展開推進事業」の1つです。
【背景】
VAPは気管挿管下の人工呼吸患者に人工呼吸開始48時間以降に新たに発生した肺炎です。日本のICUでVAPは入院患者の3~4%1)、1000人工呼吸日あたり12.6症例発生し2)、ICU内の院内感染で最も多いとされています。また、VAP発生率は人工呼吸開始5日以内で3%、5~10日で2%、以後1%の日毎の割合で増加します。3)さらにVAPにより死亡率は20~55%増加、在院日数を6日間延長させるとの報告もあります。従って、適切な予防策の徹底実施がVAP発生予防のためには極めて重要です。
注:人工呼吸日とはそのICUにおいてその日の人工呼吸器を装着している1患者を1として、計算する。例)2日間人工呼吸器を患者している患者が2名の場合、4となる。
【ベトナムと日本のVAPの違い】
ベトナムと日本のVAPの発生率で比較すると、日本では5-10件(1000人工呼吸日あたり)、ベトナムにおいては10-20件(1000人工呼吸日あたり)といわれています。しかしながらベトナム全体での発生数はVAP自体の報告をする仕組みが確立されていないため正確な数は不明で、死因数からの逆算ではベトナムでは圧倒的に日本より発生率が大きい可能性が考えられます。1病院あたりのICUの病床数も日本では10-30床程度が一般的ですが、ベトナムの現地医師によるとベトナムの中核病院ICUでは50-100床程度で、挿管患者数も多いといわれています。ベトナムにおけるVAP自体の死亡率は40%4)ですが、日本ではVAPそのものが死因となることは殆どありません。
【VAP予防方法】
VAP予防策として日本集中治療医学会では下記のVAPバンドルの遵守が推奨されています。
① 確実な手指衛生
② 人工呼吸器回路を頻回に交換しない
③ 適切な鎮静・鎮痛をはかる
④ 人工呼吸器からの離脱ができるかどうか、毎日評価する
⑤ 人工呼吸中の患者を仰臥位で管理しない
【VAP予防の課題】
ベトナムの多くのICUでは現在VAPバンドルの遵守が十分行われていません。従来、NCGMからベトナムのICUに対してこのようなVAP バンドルの遵守を促す取り組みが行われていましたが、このデータは紙媒体で入力、管理されており、これらのデータを人力でグラフにして可視化していました。
そこで国立国際医療研究センター病院集中治療科・診療科長 岡本 竜哉医師とTXP Medicalが共同でVAPバンドルアプローチを成功させるための独自システムであるVISTA(VAP bundle‘s Ideal System To Aid patients)を開発し、現在バックマイ病院ならびに108軍中央病院の2病院で実証事業を開始しています。
【VISTAの概要】
VISTAは、集中治療室で気管挿管されている重症患者に対して、VAPの合併を防ぐため、日々バンドル項目をベッドサイドでチェック・入力することができます。このチェック結果はリアルタイムに可視化され、多職種で共有すること、また、患者ごと病棟(病院)ごとのトレンドをグラフ表示することができます。結果として、バンドル自体の遵守率を向上させ、VAP発生率を減らすことを目的としたシステムです。
PC端末での入力閲覧管理だけでなく、スマートフォンやタブレットなどのモバイル端末を用いてベッドサイドで日々のバンドル遵守状況を入力・閲覧することが可能です。今後は、本システムを使ってベトナムのICUスタッフが自律的にVAP対策を行なっていくこと、また2病院の指導下にある多くのベトナムの病院に広がっていくことが期待されます。
累積のバンドル遵守状況や月毎の遵守状況に加え、VAP発生率や人工呼吸器日数の情報も時系列でグラフ描画され、ダッシュボードで確認することができます。
【引用】
1)武澤 純:集中治療部の病院感染に関する臨床指標の研究.薬剤耐性菌の発生動向のネットワークに関する研究.厚生労働省、2002
2)Suka M, Yoshida K, Uno H, et al: Incidence and outcomes of ventilator-associated pneumonia in Japanese intensive care units; the Japanese nosocomial infection surveillance system. Infect Control Hosp Epidemiol 2007, 28: 307-313.
3)Cook DJ, Walter SD, Cook RJ, et al: Incidence and risk factors for ventilator-associated pneumonia in critically ill patients. Ann Intern Med 1998, 129: 440
4)https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5631117/pdf/ofx163.1679.pdf
5)https://minds.jcqhc.or.jp/docs/minds/ICUIP/04_Ch4_ICUIP.pdf
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