抗リウマチ活性が期待される植物由来天然化合物メリリアニンの全合成に成功

~神経系疾患治療薬への応用に期待~

東京理科大学

【研究の要旨とポイント】

  • シキミ属植物の1種であるIllicium merrillianumの果皮に含まれる天然化合物「メリリアニン」は抗リウマチ活性などを持つと期待されていますが、人工的な合成法が確立されていませんでした。

  • 本研究では、不斉反応と分子内環化反応を活用することで、メリリアニンを世界で初めて全合成することに成功しました。

  • 本研究成果により、メリリアニンをはじめとする生物活性の解明や抗リウマチ薬などの神経系疾患治療薬開発への貢献が期待されます。


【研究の概要】

東京理科大学 理学部第一部応用化学科の椎名 勇教授、村田 貴嗣助教らの研究グループは、シキミ属植物Illicium merrillianumの果皮に含まれる天然化合物、メリリアニンを世界で初めて人工的に合成することに成功しました。


メリリアニンは2002年にシキミ属植物Illicium merrillianumの果皮から単離された天然有機化合物です。メリリアニンには抗リウマチ活性が期待されており、神経系疾患の治療薬成分として注目を集めました。また、Illicium merrillianumの樹皮や果実は古くから漢方薬として利用されてきたという背景もあり、メリリアニンの構成成分と生物活性との関係を明らかにすることは重要です。これまで、その立体構造の複雑さも相まって、全合成に成功した報告例はありませんでした。そこで、本研究グループはメリリアニンを人工的に合成すべく、検討を進めてきました。


本研究では、不斉向山アルドール反応(*1)ならびにSmI2(*2)を用いた分子内環化反応を活用することで、メリリアニンの全合成を達成しました。また、合成の鍵となる中間体を安定して得る方法の確立にも成功しました。そのため、本手法は、神経系疾患治療薬への応用が期待される他のイリシウムセスキテルペン類似体の合成への道も開くと期待されます。


本研究成果は、2023年12月31日に国際学術誌「Organic Letters」にオンライン掲載されました(Issue刊行予定日:2024年2月17日)。


※PR TIMESのシステムでは上付き・下付き文字を使用できないため、化学式や単位記号が正式な表記と異なる場合がございますのでご留意ください。正式な表記は、東京理科大学WEBページ(https://www.tus.ac.jp/today/archive/20240216_1410.html)をご参照ください。


図 本研究の概略図とメリリアニンの分子構造


【研究の背景】

古来より、シキミ属植物は漢方薬として利用されており、シキミ属植物に含まれるイリシウムセスキテルペン類の中には、神経系疾患に対する有効性が認められたものもあります。そのため、シキミ属植物の有効成分と生物活性との相関関係を理解し、治療薬へと応用していくことは極めて重要です。


メリリアニンは、2002年にシキミ属植物のIllicium merrillianumの果皮から単離されたセスキテルペンジラクトンです。メリリアニンの分子構造は非常に複雑で、3つの第4級炭素を含む5つの連続した不斉炭素中心と、3つの環が縮環する炭素骨格を有しています。その構造的な複雑さゆえに合成が難しく、単離報告以降、メリリアニンを応用した研究はほとんど進展してきませんでした。さらに、これまでに報告されている立体構造は相対立体配置のみであったため、その絶対立体配置を決定するための不斉全合成の達成が求められてきました。


本研究グループは、2023年7月、長年人の手で合成できなかった天然化合物、タンザワ酸Bの全合成に成功するなど、複雑な有機化合物の合成において高い成果を挙げてきました(※1)。今回、不斉向山アルドール反応、分子内環化反応を活用することで、メリリアニンの不斉全合成の実現を試みました。


※1: 東京理科大学プレスリリース

『新たな抗生物質の候補、タンザワ酸Bの初の人工合成に成功 ~タンザワ酸類の合成や多剤耐性菌にも有効な抗菌薬の開発に期待~』

URL: https://www.tus.ac.jp/today/archive/20230711_3477.html


【研究結果の詳細】

はじめに(-)-メリリアニンの逆合成解析を行い、合成経路に関する検討を行いました。実際の合成では不斉向山アルドール反応、SmI2による還元的分子内環化反応、分子内マイケル付加、ワッカー型酸化反応などを活用し、30の最長直線工程を経て、(-)-メリリアニンの不斉全合成に成功しました。総収率は1.6%で、(-)-メリリアニンの絶対立体配置を決定することもできました。本研究では、三環式のジラクトンを主要な中間体として得ることもできたので、他のイリシウムセスキテルペン類似体の合成への応用が期待できます。


本研究を主導した椎名教授は「イリシウムセスキテルペンは神経系疾患に対しての効果が期待される化合物群でありながら、その高度に酸化・縮環した構造から人工合成が困難とされてきました。私たちは抗リウマチ活性が期待できるIllicium merrillianum由来のメリリアニンに着目し、神経系疾患の治療に貢献できるリード化合物を創出したいという想いから研究を重ね、最終的にメリリアニンの不斉全合成を達成することができました」と、成果についてコメントしています。


【用語】

*1 向山アルドール反応

アルドール反応の一種。ルイス酸の存在下で、ケトンまたはアルデヒドとシリルエノールエーテルを反応させ、β-ヒドロキシカルボニル化合物を生成する。


*2 SmI2(ヨウ化サマリウム(II))

サマリウムとヨウ素からなる金属化合物。有機合成においては、1電子還元剤として使用される。


【論文情報】

雑誌名:Organic Letters

論文タイトル:Total Synthesis of the Sesquiterpene (-)-Merrillianin

著者:Isamu Shiina, Takashi Iizumi, Saori Taniguchi, Masuhiro Sugimoto, Takahisa Shimazaki, Yu-suke Yamai, Go Ogawa, Tetsuro Yamada, Shojiro Shinohara, Yosuke Kageyama, Teppei Kuboki, Yuki Suwa, Keita Yonekura, Keiichi Ito, Kiyotaka Toyoyama, Satoru Tateyama, Takahiro Mori, and Takatsugu Murata

DOI:10.1021/acs.orglett.3c03877

URL:https://doi.org/10.1021/acs.orglett.3c03877

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上場
未上場
資本金
-
設立
1881年06月