「認知症世界の歩き方」映画化記念シリーズ「脱偏見のために、デザインと映画は何が可能か vol.3」を開催しました!
ゲストは、ボーダレス・ジャパン代表の田口一成さん。申し込みは150名を超え、会場には約50名参加いただきました。
7月8日(火)に、トークイベント「脱偏見シリーズ」の第3回目が福岡にて開催されました。
第3回のゲストは、ボーダレス・ジャパン代表の田口一成さんにご登壇いただきました。
25歳で同社を創業して以来、数多くの社会課題をビジネスで解決してきた、日本のソーシャルビジネスの先駆者です。日経ビジネス「世界を動かす日本人50」、Forbes JAPAN「日本のインパクト・アントレプレナー35」などに選出され、TEDxでの登壇や『9割の社会問題はビジネスで解決できる』の著者としても知られています。
※ issue+designは、認知症とともに幸せに生きるヒントを届けるため『認知症世界の歩き方』の実写映画化にチャレンジしています。映画についての詳細はこちら。制作支援のため国内外8か国でクラウドファンディングを実施しています。
私たちの社会には、気づかないうちに根強く残っている「偏見」や「誤解」があります。これらはしばしば私たちの行動や考え方に無意識の影響を与え、さまざまな生きづらさを生んでいます。
本イベントシリーズ「issue+design challenge 2025 脱偏見のために、デザインと映画は何が可能か」は、認知症に限らずさまざまなフィールドで「脱偏見」に挑戦しているゲストをお招きし、認知症に関する偏見を乗り越え、より豊かな社会的理解を生み出すことを目的としたプロジェクトの一環です。
このイベントでは、映画『認知症世界の歩き方』の制作背景や意義に触れながら、デザインや映画がどのように偏見を打破できるのかを共に考えていきます。映画化に向けた取り組みを通じて、認知症やその他の社会的課題に対して、新しい視点をどのように広めていけるのか、ゲストとともに議論していきます。
社会に根付くさまざまな偏見を解きほぐし、誰もが生きやすい社会を作るために、デザインや映画は何ができるのでしょうか?

第3回目のゲストは、ボーダレス・ジャパン代表の田口一成さん。
田口さんがこれまでどのように偏見や誤解と向き合い、社会課題に挑んできたのか、またその背景にある思いやビジョンについてじっくりお話を伺いしました。ビジネスや映画、デザインなど、多様なアプローチから「脱偏見」を考える時間となりました。筧裕介氏(issue+design 代表)と対談を行い、ファシリテーションは但馬武氏(issue+design 理事)が務めました。
イベント概要
日時: 2025年7月8日(火)18:30~20:30(開場18:00)
会場: 福岡市舞鶴庁舎 2階大研修室
(〒810-0073 福岡県福岡市中央区舞鶴1丁目4−13)
オンライン視聴はzoom
主催:特定非営利活動法人issue+design
後援:福岡市
<ゲスト>
田口一成(たぐちかずなり)
ボーダレス・ジャパン代表取締役CEO
1980年生まれ、福岡県出身。早稲田大学在学中に米国ワシントン大学へビジネス留学。卒業後、㈱ミスミ(現 ミスミグループ本社)を経て、25歳でボーダレス・ジャパンを創業。 社会課題を解決するソーシャルビジネスのパイオニアとして、日経ビジネス「世界を動かす日本人50」、Forbes JAPAN「日本のインパクト・アントレプレナー35」、EY「アントレプレナー・オブ・ザ・イヤー・ジャパン」に選出。2020年、カンブリア宮殿に出演。 TEDx『人生の価値は何を得るかではなく、何を残すかにある』の再生回数は110万回を超える。2021年『9割の社会問題はビジネスで解決できる』(PHP出版)を出版しベストセラーとなる。
<ホスト>
筧裕介(issue+design 代表)
<ファシリテーター>
但馬武(issue+design 理事)
アーカイブ動画のリンク先
当日の様子
オープニング
issue+design代表の筧より、これまで社会課題に取り組んできたデザインの実践や、「認知症世界の歩き方」プロジェクト誕生の背景について語られました。
偏見が根強く残る現状を変えるため、映画では「認知症の人が前向きに、幸せな人生を生きている姿」をポジティブに描くことを大切にしたいと話し、海外展開へのビジョンについても言及。
最後に、「『認知症』という、人生100年時代において誰もが直面するテーマを、幸せに共に生きられる社会へと変えていきたい。そのために、この映画づくりに取り組んでいます」と力強く語りました。

田口さんの印象的な発言
「一人ひとりの小さな行動が、社会を動かす」ソーシャルビジネスのエコシステム
田口一成さんは、ボーダレス・ジャパン代表として、国内外13か国で50社以上のソーシャルビジネスを展開してきました。講演では、「社会の課題をみんなの希望に変える(SWITCH to HOPE)」というグループのパーパスのもと、これまでの活動についてお話いただきました。

田口さんは、社会課題に対する“無関心”は、実は“未認知”であると指摘します。「知らないから関心を持てない」──だからこそ、メディアなどを通じて社会課題を可視化し、知るきっかけを届ける活動を行っています。また、環境・貧困・教育・多文化共生といった複雑に絡み合う課題に対し、領域を横断する形で多様な事業を展開しています。
グループ内のすべての企業が利益の10%を「共通ポケット」に積み立て、その資金をこれから社会のために起業したい人たちへの「恩送り資金」として提供しているお話の中で、「恩返しではなく恩送りを。受けた支援は次の挑戦者へ」──この循環型支援の仕組みが、新たな挑戦を次々と生み出しているという印象を受けました。
また、この日は「非営利法人ボーダレスファンデーション」が設立されたとのこと。グループ全体で事業利益の10%を寄付し、営利と非営利の“二足のわらじ”で社会課題にアプローチしていくと語りました。
他にも、田口さんはもっとたくさんの社会起業家が誕生することが必要だという思いから、社会起業家の養成プログラム「ボーダレスアカデミー」を立ち上げています。「社会のために何かしたい」と思っている人たちに声をかけ、「みんなで日本の社会起業家を育てていこう」と、オールジャパンの体制で取り組んでいます。このプログラムの発想の原点として、芸人養成のNSCの仕組みをヒントにしたというエピソードも印象的でした。
最後に、南米の先住民に伝わるハチドリ「クリキンディ」の物語を引用し、「私は、私にできることをしているだけ。」というハチドリの行動の在り方を賞賛し、一人ひとりの小さな行動の積み重ねの大切さを語り、締めくくりました。
クロストーク
認知症とどう付き合うかの希望の物語でイメージを変えていくことで偏見を乗り越える
「無関心とは“知ったうえで関心を持てないこと”だが、実際は“未認知”の段階にいる人が大半ではないか」と田口さんは語りました。
ボーダレスシネマというドキュメンタリー映画の上映会を開催していた時も、「ドキュメンタリー映画を見て社会問題を知り、心を動かされた」という人が半分くらいいました。実際に知ったら全然考え方が変わるという実感を持ったと言います。
これを受けて筧は、「認知症は“知っている”人が多いが、関わりたくないというバリアを非常に強く感じる」と応じました。講演などで直接伝えると強く響くのに対して、ネットでの発信は手応えがなく、「関心があっても関わらないようにしている”圧”」のようなものを感じていると話しました。
認知症当事者は国内で1000万人と言われているので、身近な人が関わっているケースは多い。しかし、「“関係ないものにしたい”という心理が働いているのでは」と話しました。
話題は、がんや戦争といった他のテーマを例に広がりました。がんは絶望的な病気として見られていた時期があるものの、現在では「治る」希望がある。しかし認知症には「なったら終わり」という偏見がいまだに残っており、また戦争のように直視することが辛いテーマとして避けられている面もあるのではないかと語られました。
「認知症には“希望の物語”がない」というのが、多くの人の潜在的な印象であり、だからこそ認知症に対する“イメージ”を変えていく必要がある、と語り合いました。

最後に、田口さんに対して「何をやると、この認知症の問題は変わっていくと思いますか?」という質問を投げかけると、「企画展」のアイデアが出ました。
「人間は、ちゃんと知ったときに無関心ではいられない」と語り、ただ、そのためには「質の高いクリエイティブ・表現」が不可欠だと強調しました。認知症において良いクリエイティブのパッケージが出来上がった時に、今の講演の内容などもより理解が進んでいくのではと話しました。
筧はすでに取り組んでいる「認知症世界の歩き方旅のガイド」というコンテンツを紹介しつつ、「企業領域への広がりにはまだハードルがある」と課題を共有。田口さんはそれに対して、「だからこそ、僕たちのような人がハードルが高いところに挑戦する意味があり、面白いところ。やっていきましょう」と、力強く応じ、トークを締めくくりました。
参加者の声
「今回の講演に参加させていただき認知症の世界が身近に感じられました。」
「考えてみれば、その認知障害症状が実はどのようなものであるか当事者ご本人たちから理解しようと思っていませんでした。」
お知らせ

7月11日に、READYFORでのクラウドファンディングが終了いたしました。
合計157名の方にご支援いただき、支援総額は2,403,000円になりました。皆さま、たくさんのご支援をありがとうございました!
自社サイトでは、引き続きご支援を受け付けております。
今回のレポートをご覧になり、プロジェクトに興味を持たれた方や、認知症に対して何か行動を起こしたいとお考えの方は、ぜひこちらのページで詳細をご確認ください。

実写映画『認知症世界の歩き方』について
20万部を超えるヒットとなった書籍が実写映画化!
映画『認知症世界の歩き方』は、2026年秋、日本での公開を皮切りに、台湾やフランスなど世界各国での上映を予定し、現在制作を進めています。「認知症は怖い」「認知症は悲劇」といった固定観念をくつがえす、心温まるヒューマンドラマのロードムービーです。
制作費を募るクラウドファンディングは、2025年初夏に世界8か国で実施。日本国内で実施していたREADYFORでのクラウドファンディングは7月11日を持って終了しました。
プロデューサー 筧裕介(issue+design代表)
監督・脚本 田村祥宏(株式会社イグジットフィルム代表)
主催
issue+design(イシュープラスデザイン)
「社会の課題に、市民の創造力を。」を合言葉に、2008年から始まったソーシャルデザインプロジェクト。市民・行政・企業が参加し、地域・日本・世界が抱える社会課題に対して、デザインの持つ美と共感の力で挑む。東日本大震災のボランティアを支援する「できますゼッケン」、妊娠・出産・育児を支える「親子健康手帳」、人との出会いを楽しむ旅のガイドブック「Community Travel Guide」、300人の住民とともに地域の未来を描く「高知県佐川町 みんなでつくる総合計画」、認知症の方が生きる世界を見える化する「認知症世界の歩き方」他、行政や企業とともに多様なアプローチで地域が抱える課題解決に挑むデザインプロジェクトを多数実施中。
HP: https://issueplusdesign.jp/
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