未知の化合物の構造を迅速に決定できる「超臨界流体クロマトグラフィー※1」と「結晶スポンジ法」を連結した分析プラットフォームの確立と、分析法の汎用性向上に成功!
~「日本農芸化学会2021年度大会」トピックス賞を受賞~
キリンホールディングス株式会社(社長 磯崎功典)のキリン中央研究所(所長 吉田有人)は、協和キリン株式会社(社長 宮本昌志、以下協和キリン)と協力し、「超臨界流体クロマトグラフィー」と「結晶スポンジ法」を連結することで、さまざまな化合物を含む調査サンプルから、解析したい化合物を迅速に分離し、未知の化合物の構造決定をスピーディーに行える分析プラットフォームを世界で初めて確立しました※2。
さらに、当社は、この分析法の汎用性を向上する技術を独自に開発しました。これにより、研究開発工程のボトルネックとなる「解析対象化合物の分離・単離および構造決定プロセス」を一連の手順で、よりスピーディーに行えるようになり、物質の生成法の最適化、製品開発スピードのさらなる向上、生産工程の効率化などが実現できるようになります。当社はこの、研究成果を2021年3月18日(木)から21日(日)に開催された「日本農芸化学会2021年度大会」で発表し、一般演題1,299件の中から選定された31演題に贈られるトピックス賞を受賞しました。
※1 調べたい目的物質を混合物から分離・精製する技法の一つ。超臨界流体クロマトグラフィーは、移動相に超臨界状態の二酸化炭素と微量の揮発性有機溶媒を用いることが特長である。有機溶媒の使用量が少なく環境負荷が低い分析手法であり、化合物の分離機能も優れている。
※2 第31回クロマトグラフィー科学会議で報告(静岡産業経済会館、2020年11月18日~20日)
「結晶スポンジ」とは、直径約0.5から1nm(ナノメートル。1nmは10億分の1m)の穴(細孔)が無数に開いた、細孔性の単結晶です。「結晶スポンジ法」とは、分子構造を解析したい化合物の溶液に「結晶スポンジ」を浸し、その細孔内に化合物を包接させ、X線を照射し回折像を測定することで、化合物の構造を観測・決定することができる技術です。
「結晶スポンジ法」を用いると、従来のX線分析において化合物の構造決定に不可欠とされてきた対象化合物の結晶化が不要となります。加えて、微量のサンプル溶液があれば化合物の構造を観測できるため、現在ものづくりのボトルネックとなっている「対象化合物の構造決定」を迅速化できる、新たな構造解析技術として注目されています。
●研究背景
食品や医薬品をはじめ、さまざまな分野の研究開発において、調査サンプルに含まれる化合物を分離し、その分子構造を明らかにすることは重要な工程です。当社は、2017年より東京大学大学院工学系研究科の藤田誠卓越教授が開設した社会連携講座に参加し、革新的な構造解析法として注目される「結晶スポンジ法」の技術をオープンイノベーションにより獲得しました。さらに、協和キリンが活用ノウハウを持つ「超臨界流体クロマトグラフィー」と「結晶スポンジ法」を連結することで、化合物の分離や構造決定をより迅速に実現できる分析プラットフォームを開発しました。一方、本分析法で使用できる溶媒の種類がこれまで限られていたことから、汎用性向上のためにさまざまな溶媒が使用できる技術の開発が求められていました。
●研究概要
これまで、溶媒によっては、浸す際に「結晶スポンジ」を破壊してしまうという問題がありました。当社は、「結晶スポンジ」の溶媒への耐性が本分析法全体の制約になっていることに着目し、アルコールやアセトニトリル などの極性溶媒※3に耐性がある「結晶スポンジ」を探索した結果、極性溶媒に耐性を示す複数の「結晶スポンジ」を見いだすことができました。
今回見いだした「結晶スポンジ」を活用することで、これまで「結晶スポンジ法」での分析が困難であった化合物の分析が可能となりました。また、「超臨界流体クロマトグラフィー」と「結晶スポンジ法」を連結した分析法でさまざまな溶媒を使用できるようになったため、当社グループで見いだした分析法の汎用性が飛躍的に向上しました。
※3 誘電率の高い溶媒を指す。特に、機能性分子のような医薬品候補となる化合物は、極性溶媒には溶解しやすいが、誘電率の低い無極性溶媒には溶解しづらいものが多い。
●今後の展開
キリングループは長期経営構想「キリングループ・ビジョン2027」を策定し、「食から医にわたる領域で価値を創造し、世界のCSV※4先進企業になる」ことを目指しています。
その実現に向けて、既存事業の「食領域」(酒類・飲料事業)と「医領域」(医薬事業)に加え、キリングループが長年培ってきた高度な「発酵・バイオ」の技術をベースにして、人々の健康に貢献していく「ヘルスサイエンス領域」(ヘルスサイエンス事業)の立ち上げ、育成を進めています。ヘルスサイエンス領域では、「免疫」、「脳機能」、「腸内環境」を重点領域に定め、さまざまな研究開発を行っています。
※4 Creating Shared Valueの略。お客様や社会と共有できる価値の創造。
今回の受賞では、「結晶スポンジ法」を応用し、さまざまな溶媒を使用できる「結晶スポンジ」を発見したことにより、幅広い分野のものづくりで活用できる「超臨界流体クロマトグラフィー」と「結晶スポンジ法」を連結させた分析プラットフォームの汎用性を向上させたことが評価されました。本分析法の汎用性向上により、研究開発工程のボトルネックとなる「解析対象化合物の分離・単離および構造決定プロセス」を一連の手順で、よりスピーディーに行えるようになり、物質の生成法の最適化、製品開発スピードのさらなる向上、生産工程の効率化などが実現できるようになります。
今後は、キリングループが展開する「食領域」、「医領域」、「ヘルスサイエンス領域」における研究開発の競争優位性を高める基盤技術として活用することで、有用物質の探索や生産・製造法開発のプロセスを高速化し、価値ある製品を次々と作り出すことを目指します。
●日本農芸化学会 トピックス賞について
本賞は、公益社団法人日本農芸化学会が主催する「日本農芸化学会」年次大会で初めて公表される、学術的または社会的にインパクトのある内容を含む発表に授与されます。一般講演登録演題の中から選定された約30演題に与えられる栄誉ある賞です。
キリングループは、自然と人を見つめるものづくりで、「食と健康」の新たなよろこびを広げ、こころ豊かな社会の実現に貢献します。
‐記‐
1.発表演題名
「超臨界流体クロマトグラフィーと結晶スポンジ法を連結した分析系における極性溶媒耐性結晶スポンジの活用」
2. 学会名
「日本農芸化学会2021年度大会」
3.発表日
2021年3月18日(木)~21日(日)
4.発表者
キリンホールディングス株式会社 R&D本部 キリン中央研究所 三輪真由佳 北田直也 谷口慈将
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