ダイソン国際エンジニアリングアワード2022、日本国内最優秀賞を「Air Talk-Starter」が受賞
開発者自身の体験から着想を得た、ろう・難聴者とのコミュニケーションのきっかけをサポートするシステム
ジェームズ ダイソン財団(https://www.jamesdysonfoundation.jp/)は、次世代のエンジニアやデザイナーの支援・育成を目的に、同財団が主催する国際エンジニアリングアワード、James Dyson Award (以下、JDA) の国内最優秀賞作品を含む上位2作品を発表しました。初開催の2005年から一貫して「問題を解決するアイデア」がテーマである本アワードに、今年は世界29か国より1,600以上の作品が集まりました。JDA2022の国内最優秀賞は、筑波大学大学院 小嶋 凌勢氏、設楽 明寿氏による、ろう・難聴者とのコミュニケーションのきっかけをサポートするシステム「Air Talk-Starter」(https://www.jamesdysonaward.org/ja-JP/2022/project/air-talk-starter/)に決定しました。設楽氏は、JDA2021の国内最優秀賞作品である「See-Through Captions」(https://www.jamesdysonaward.org/ja-JP/2021/project/see-through-captions/)に続き、2年連続の受賞となります。
「Air Talk-Starter」は、空気渦輪を話しかけられた人の頭部に当てることでその方向を提示し、コミュニケーションの入り口を作りやすくするシステムです。ろう・難聴者が抱える最大の問題の一つに、話しかけられたことに気づけないことがあります。聴覚障害は外見や行動だけでは障害の有無やその程度に気づかれず、しかし、話しかけられても気がつかない様から、コミュニケーションの機会の損失を大きく受けています。
設楽氏は、これまでろう・難聴者向けアクセシビリティに関する研究開発に携わってきました。その中で、ろう・難聴者と聴者同士のコミュニケーションについて、手話、筆談、チャット、音声認識等の手段については日々研究されているにもかかわらず、呼びかけや話しかけについてはあまり着目されていないことを気がかりに感じるようになったと言います。 理由としては、ろう・難聴者から聴者に話しかけるとき、あるいは逆の場合も、お互い置かれている状況が汲み取りにくく、戸惑うことがあると考えていたからです。また、スマートフォンやスマートウォッチなどの振動を用いた触覚提示を用いると、振動に気を向けてしまうために話しかける手段としては適しにくく、加えて身体に接触する必要があることにも懸念を抱いていました。
そんなときに、チームメンバーの小嶋氏が取り組んでいた空気砲システムに関する研究に着目しました。開発されていた空気砲システムが「離れている相手に触覚提示を可能とする」「振動ではなく自然な触覚提示であるため、イライラする必要がない」という特徴を持っていることに気づき、Air Talk-Starterプロジェクトは始まりました。
今回の受賞を受け、設楽氏は次のようにのべています。
「ろう者の私が思い描こうとしている新しい世界観をまだ僅かしか実現できていないのですが、昨年度の『See-Through Captions』に続く形での国内受賞となり、身に余る光栄です。今回の受賞をきっかけに、『ろう・難聴者に対するコミュニケーション自体を改めて考え直す』ということを、皆さんが自ら問い直していくような雰囲気になっていけたら…と嬉しく思います。」
なお、本受賞作品には賞金5,000ポンド(約76万円*¹)が贈られます。
また、国内準優秀賞は、下記の1作品に贈られます。
・Charmy(https://www.jamesdysonaward.org/ja-JP/2022/project/charmy-1/):
ベビーカーのハンドルにかかる荷重を検知し、転倒の危険性を伝える安全装置
- < JDA2022 国内最優秀賞 Air Talk-Starter>
https://www.jamesdysonaward.org/ja-JP/2022/project/air-talk-starter/
概要:ろう・難聴者が抱える最大の問題の一つに話しかけられたことに気づけないことがあります。聴覚障害は外見や行動だけでは障害の有無やその程度に気づかれず、しかし、話しかけられても気がつかない様からコミュニケーションの機会の損失を大きく受けています。 Air Talk-Starterは空気渦輪を話しかけられた人の頭部に当てることでその方向を提示し、コミュニケーションの入り口を作りやすくします。作品動画はこちら(https://www.youtube.com/watch?v=Aif3v1m-30Y&feature=youtu.be)。
問題:ろう・難聴者と聴者同士のコミュニケーションについては、手話、筆談、チャット、音声認識といった手段があります。しかしながら、話しかけられたことに気づきづらい問題についてはあまり着目されていません。
解決策:「離れている相手に触覚提示を可能とする」「振動ではなく自然な触覚提示であるため、イライラする必要がない」の2つの特徴を持つ空気砲システムを用いて、相手に空気渦輪を当てるのを想定しています。
今後の展望:我々の大きな目標は昨年に続き「耳が聞こえない方々の生活をより豊かにするシステムの実現」です。そのためには様々な環境への導入に向けた課題はまだまだ多く残しており、基礎検証をより進めていかなくてはなりません。基礎検証を進めていくに併せて現場導入に関する議論も深めていくつもりで準備していく予定です。今回の受賞を通じて、我々のプロジェクトの可能性を訴えかけていくと同時に、様々な環境へ導入できるよう改良を重ねていきたいと考えています。
製作者:小嶋 凌勢氏 筑波大学大学院 人間総合科学学術院 情報学学位プログラム 博士前期課程
設楽 明寿氏 筑波大学大学院 図書館情報メディア研究科 博士後期課程
JDA国内審査員 緒方壽人氏コメント:
「自身がろう者であるチームメンバーとともに、エンジニアリングによって課題を解決していくプロセスは、多様化する社会においてインクルーシブなものづくりの一つのあり方を示すものである。技術的課題もあるが、自らの抱える課題を解決するだけでなく、他のろう者や難聴者の問題解決はもちろん、課題として取り組んだ話し掛け以外の活用も考えられる。また、理科の実験などで見かける空気砲のイメージがどこかユーモラスで、コミュニケーションにストレスや緊張感を与えないことも、今回解決したい課題とマッチしている。」
JDA国内審査員 川上典李子氏コメント:
「ろう・難聴者と健聴者のコミュニケーションに関して、話しかけに焦点を絞り、環境そのものを変えうる機器を開発するという課題設定がまず興味深い。被験者実験が丁寧に行われている開発過程も高く評価でき、ろう・難聴者に対して非接触でさまざまな音情報を通知する際の新たな可能性を示唆するプロジェクトとなっている。活用方法のより具体的な検討とともに、必要とされる環境での導入に向けた研究開発が進んでいくことに期待する。」
JDA国内審査員 八木啓太氏コメント:
「本作品は、空気砲によって耳が聞こえない方にNotificationを届けるという新しいアプローチをとっており、自宅や施設内における新しい通知手段として、新しい可能性を感じさせるものである。日常的な通知はもちろん緊急性の高い通知も含め、これまでにない通知が実現できるほか、難聴者がデバイス等を携帯する必要がないことなど、QOL向上も見込まれる。社会実装に向けてまだ課題が残るが、アプローチと、PDCAプロセスを評価したい。」
JDA国内審査員 菅原祥平コメント:
「ろう・難聴者とのコミュニケーションの中で、その話しかけという見落とされかねない点に着目している。ユニバーサルデザインという概念が注目されて久しいが、状況によっては健常者にも有効である可能性を秘めている。開発、評価の過程も論理的に進められており、技術への深い理解の元行われている事が窺える。現状の課題も認識されており、今後のさらなる進捗に期待したい。」
- <JDA2022 国内準優秀賞 Charmy>
https://www.jamesdysonaward.org/ja-JP/2022/project/charmy-1/
概要:Charmyは、ベビーカーのハンドルにかかる荷重を検知し、転倒の危険性を伝える安全装置です。ハンドル部にかかる「危険な荷重」を伝達し、ベビーカーの転倒を防ぐことを目的としています。作品動画はこちら。(https://youtu.be/v9jSV49kbG4)
問題:独立行政法人国民生活センターの調査によると、過去5年間で、ベビーカーの荷下げフックに掛けた荷物により車体ごと転倒し乳幼児が怪我を負った事例が288件寄せられております。しかし、街頭では荷提げフックの使用が絶えず、具体的な解決策がなされていない現状です。
解決策:私たちは、ベビーカーの転倒を防ぐ安全装置を開発しました。仕組みとしては、Charmyに荷物を吊り下げると同時に、感圧センサーが荷重を検知します。感圧センサーにかかる荷重が1.2kg(転倒しやすい危険な荷重)に差し掛かると、LEDと小型ブザーが作動する仕組みです。これによって、使用者は事前に危険な荷重を認識し、ハンドルの荷物を減らす等の対策をとることができます。
今後の展望:今後の展望としては、Charmyをブラッシュアップし、機能の精度を高めていきたいと考えております。また、Charmyの基本機能である、「荷重検知と危険の伝達」を元に、新たな課題解決を行いたいと考えております。
製作者:松井 瑞希氏 法政大学 デザイン工学部 システムデザイン学科
松井 陽光氏 明治大学 理工学部 機械情報工学科
JDA国内審査員 緒方壽人氏コメント:
「ベビーカーがバランスを崩して転倒してしまうシーンは、誰しも日常の中でも目にしたことのある光景であろう。こうした見過ごしてしまいがちな日常生活の中の問題に目を向け、試作を繰り返しながらアイデアを検証してきた点を評価した。当然ながら、いざというときのための安全装置には相応の責任が伴う。センサーの安定した正しい動作や、対処できるタイミングでの通知などの技術的な課題の克服、このアイデアをきっかけにした今後のさらなる展開などにも期待したい。」
JDA国内審査員 川上典李子氏コメント:
「解決策が見出されずにいたベビーカーの転倒問題に向き合ったプロジェクトで、「他人が見過ごす問題を解決すること」を重視し続けているジェームズ ダイソン氏の想いにまさに通じる取り組みとなっている。多数のプロトタイプ制作を通して利用者の気持もくみとったプロダクトが目指されている点に加えて、将来計画に挙げられている通りに、荷重検知と危険の伝達に関するさらなる提案の可能性も含む。提案の実用化と今後の活動の広がりの双方に注目した。」
JDA国内審査員 八木啓太氏コメント:
「本作品は、ベビーカーの転倒事故という問題に対する提案であり、転倒抑止が期待できるプロダクトである。シンプルな構成ゆえに安価に実現でき、社会実装を見込みやすい提案であることや、プロトタイピングに基づく検証プロセスも評価したい。
ベビーカーの状態推定や危険の判定には、さらなる改善が必要と考えるが、発展の余地も多く期待できるものであり、プロジェクトが将来、一件でも多くの事故を抑止することに期待したい。」
JDA国内審査員 菅原祥平コメント:
「シンプルそして低コストに問題にアプローチしている。解決策を考えるときに、その実現可能性は重要な要素であり、その点から見て完成度の高いプロジェクトになっている。造形や色などユーザーの目に触れる点も検討がされており実際に使用される場面が垣間見える。ベビーカーの上の子どもの体重など様々な外的要因によって今回設定された一律1.2kgの基準値をさらに洗練させられる可能性もあるので、今後の開発の幅も広い。」
- 今後の審査の流れ
*¹ 参考金額:1ポンド=151円 発表時の為替相場に応じて換算
- JDA2022国内審査員
ソフトウェア、ハードウェア問わず、デザイン、エンジニアリング、アート、サイエンスまで領域横断的な活動を行うデザインエンジニア。東京大学工学部を卒業後、情報科学芸術大学院大学(IAMAS)、リーディング・エッジ・デザインを経て、ディレクターとしてTakramに参加。
川上典李子氏 デザインジャーナリスト
AXIS編集部を経て1994年に独立、企業やデザイナーの取材、執筆を行う。国際交流基金主催の展覧会の共同キュレーションにも関わり、「London Design Biennale 2016」日本公式展示キュレトリアル・アドバイザーを務める。21_21 DESIGN SIGHT アソシエイトディレクター。武蔵野美術大学 工芸工業デザイン学科客員教授。
八木啓太氏 デザインエンジニア/Bsize(ビーサイズ株式会社)代表取締役
2011年、ハードウェアスタートアップBsizeを設立。同年、世界で最も自然光に近いLEDデスクライト“STROKE“を上市し、たったひとりの家電メーカー「ひとりメーカー」として話題に。NHK連続テレビ小説「半分、青い。」で「ひとりメーカー」公証として制作協力。現在は、AI・IoT技術を応用した見守りロボットGPS BoTを展開。JDA2006入賞。その他受賞歴に、Good Design賞、Red Dot賞、iF賞 等
菅原祥平 ダイソン社 デザインエンジニア
ダイソン初の日本人デザインエンジニア。現在、英国マルムズベリーのNPI(New Product Innovation)所属。
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