世界初の「量子論に基づくトライボケミカル反応シミュレーション手法」の開発に成功【産技助成Vol.73】
独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構
東北大学大学院工学研究科
従来、摩擦・摩耗・潤滑というトライボロジー分野で活用されてきた
流体力学および連続体力学では全く解明不可能な「摩擦と流体と化学反応」が
複雑に絡み合ったトライボケミカル反応ダイナミクス(注1)の解明を世界で初めて実現した
東北大学大学院工学研究科
従来、摩擦・摩耗・潤滑というトライボロジー分野で活用されてきた
流体力学および連続体力学では全く解明不可能な「摩擦と流体と化学反応」が
複雑に絡み合ったトライボケミカル反応ダイナミクス(注1)の解明を世界で初めて実現した
1.研究成果概要
研究代表者が開発済みのSCF-Tight-Binding量子分子動力学法と非平衡古典分子動力学法を融合することで、化学反応を含むトライボロジー現象を解明可能なトライボケミカル反応シミュレータの開発に成功しました。さらに、この開発シミュレータを活用し、摩耗防止剤Zn-DTPとフリクション低減剤Mo-DTCからの摩擦下での潤滑被膜の生成反応ダイナミクスの解明に成功しました。また、Zn-DTP潤滑被膜の耐摩耗作用の本質である摩擦下での摩耗粉の溶解反応ダイナミクスも解明しました。これらの計算成果と実験研究との共同により、Zn-DTP添加剤からリン分の減量を実現する方法として、リン酸亜鉛とホウ酸カルシウムの混合潤滑被膜が有効であることを明らかにしました。また、鉄基板ではなく酸化鉄基板を用いることにより、無硫黄添加剤が有効に機能することを新たに提言しました。このように、本開発シミュレータが無硫黄・無リン添加剤の理論設計に非常に有用な方法論であることが示されました。
2.競合技術への強み
シミュレータに関する従来技術と本技術の比較
【流体力学・連続体力学シミュレーション】
摩擦ダイナミクスシミュレーション:○(これまで広く活用されてきた)
化学反応ダイナミクスシミュレーション:×(原理的に不可能)
摩擦下での化学反応ダイナミクス(エンジンオイル用添加剤の設計):×(原理的に不可能)
【第一原理分子動力学法】
摩擦ダイナミクスシミュレーション:△(計算時間がかかるため前例が無い)
化学反応ダイナミクスシミュレーション:○(高精度計算が可能)
摩擦下での化学反応ダイナミクス(エンジンオイル用添加剤の設計):△(計算時間がかかるため前例が無い)
【本研究で開発したシミュレーション手法】
摩擦ダイナミクスシミュレーション:○(短時間で計算可能)
化学反応ダイナミクスシミュレーション:○(短時間で計算可能)
摩擦下での化学反応ダイナミクス(エンジンオイル用添加剤の設計):○(短時間で計算可能)
3.今後の展望
本研究で対象とした自動車エンジンオイル用添加剤の設計のみならず、ハードディスク、宇宙機器、半導体等における「摩擦と流体と化学反応」が複雑に絡み合ったトライボケミカル反応ダイナミクスの解明と、より多様な分野での材料設計・プロセス設計に幅広く展開していきます。
本研究の成果により化学系の准教授から機械系の教授に転身・昇任したことから、トライボロジーに限らず、様々な機械工学分野に化学を導入し、メカノケミカル、ケモメカニカルという新規融合分野の開拓を量子論に基づき精力的に展開していきます。
4.参考
成果プレスダイジェスト:東北大学教授 久保 百司氏
研究代表者が開発済みのSCF-Tight-Binding量子分子動力学法と非平衡古典分子動力学法を融合することで、化学反応を含むトライボロジー現象を解明可能なトライボケミカル反応シミュレータの開発に成功しました。さらに、この開発シミュレータを活用し、摩耗防止剤Zn-DTPとフリクション低減剤Mo-DTCからの摩擦下での潤滑被膜の生成反応ダイナミクスの解明に成功しました。また、Zn-DTP潤滑被膜の耐摩耗作用の本質である摩擦下での摩耗粉の溶解反応ダイナミクスも解明しました。これらの計算成果と実験研究との共同により、Zn-DTP添加剤からリン分の減量を実現する方法として、リン酸亜鉛とホウ酸カルシウムの混合潤滑被膜が有効であることを明らかにしました。また、鉄基板ではなく酸化鉄基板を用いることにより、無硫黄添加剤が有効に機能することを新たに提言しました。このように、本開発シミュレータが無硫黄・無リン添加剤の理論設計に非常に有用な方法論であることが示されました。
2.競合技術への強み
シミュレータに関する従来技術と本技術の比較
【流体力学・連続体力学シミュレーション】
摩擦ダイナミクスシミュレーション:○(これまで広く活用されてきた)
化学反応ダイナミクスシミュレーション:×(原理的に不可能)
摩擦下での化学反応ダイナミクス(エンジンオイル用添加剤の設計):×(原理的に不可能)
【第一原理分子動力学法】
摩擦ダイナミクスシミュレーション:△(計算時間がかかるため前例が無い)
化学反応ダイナミクスシミュレーション:○(高精度計算が可能)
摩擦下での化学反応ダイナミクス(エンジンオイル用添加剤の設計):△(計算時間がかかるため前例が無い)
【本研究で開発したシミュレーション手法】
摩擦ダイナミクスシミュレーション:○(短時間で計算可能)
化学反応ダイナミクスシミュレーション:○(短時間で計算可能)
摩擦下での化学反応ダイナミクス(エンジンオイル用添加剤の設計):○(短時間で計算可能)
3.今後の展望
本研究で対象とした自動車エンジンオイル用添加剤の設計のみならず、ハードディスク、宇宙機器、半導体等における「摩擦と流体と化学反応」が複雑に絡み合ったトライボケミカル反応ダイナミクスの解明と、より多様な分野での材料設計・プロセス設計に幅広く展開していきます。
本研究の成果により化学系の准教授から機械系の教授に転身・昇任したことから、トライボロジーに限らず、様々な機械工学分野に化学を導入し、メカノケミカル、ケモメカニカルという新規融合分野の開拓を量子論に基づき精力的に展開していきます。
4.参考
成果プレスダイジェスト:東北大学教授 久保 百司氏
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