〈2025年度第1回 中小企業経営実態調査〉人権方針を策定している中小企業は9.1%のみ重要性を認識している企業は8割超。人権意識と取り組み状況に大きなギャップ
~外部人材の活用や経営層の理解・制度整備が鍵に~
Green(グリーン)とDigital(デジタル)を活用した中小企業の変革を目指すフォーバル GDXリサーチ研究所(本社:東京都渋谷区、所長:平良学)は、中小企業を対象にした「2025年度第1回 中小企業経営実態調査」を実施しました。

近年、企業活動における「ビジネスと人権」は国際的に大きな関心を集めています。欧州では2024年に人権デュー・ディリジェンス指令(CSDDD)が施行され、国際取引において企業の人権対応が一層厳しく問われる状況となりました。国内でもESG投資や人的資本開示の広がりを受け、人権方針の策定や情報開示が企業に求められる場面が増えています。さらに長時間労働やパワハラ、メンタル不調など、労働環境に関わる問題が社会課題として顕在化しており、社員の権利を守る取り組みが経営にとって不可欠となっています。こうした背景を踏まえ、中小企業の人権対応について調査を実施しました。
【調査結果サマリー】
①8割以上が「ビジネスと人権」を重要と認識する一方、方針を策定している企業はわずか9.1%
人権配慮の必要性は広く理解されているものの、実際の制度整備には大きなギャップが存在
大企業に求められる対応は、中小企業にも求められてゆく
②人権対応の課題は「専門知識やノウハウを持つ人材がいない」(36.6%)と
「他の経営課題が優先されている」(34.6%)が上位
経営資源の制約により後回しにされやすい実態が浮き彫りに
一方で「対応ノウハウがない」という声も多く、外部知見の活用や支援制度の導入が今後の鍵となる
③人権への取り組みにより5割(56.8%)が「社員の満足度・定着率向上」を実感
職場環境の改善や離職防止など具体的な効果が見られる
人権対応は「コスト」ではなく「人材活用の投資」として、働きやすさと企業成長の両立に寄与
【アンケート概要】
・調査主体:フォーバル GDXリサーチ研究所
・調査期間:2025年7月8日~2025年8月8日
・調査対象者 :全国の中小企業経営者
・調査方法:ウェブでのアンケートを実施し、回答を分析
・有効回答数:932人
本リリースの調査結果をご利用いただく際は、必ず【フォーバル GDXリサーチ研究所調べ】とご明記ください。

Q1. 貴社にとって、「ビジネスと人権」への対応は経営上の重要課題だと思いますか。(n=932)
Q2. 貴社では、人権を尊重する方針を策定していますか。(n=758)
「ビジネスと人権」への対応の重要性を尋ねた設問では、「非常に重要だと思う」(30.2%)、「ある程度重要だと思う」(51.2%)と回答した企業が合計で81.4%に上り、人権への対応を重要だと考える企業の多さが明らかになりました。一方、ビジネスと人権を重要だと思うと回答した758社に、人権を尊重する方針の策定状況について尋ねると、「策定している」(9.1%)、「現在策定中」(5.9%)と答えた企業は合計15.0%にとどまり、必要性の認識と制度整備の間に大きな差が見られました。
この結果から、多くの中小企業で人権の重要性は認知・理解されているものの、実際の方針策定は限定的である状況が浮き彫りとなりました。特に「策定していないし、予定もない」と回答した企業は34.3%に上り、人権方針整備の必要性を十分に理解していない企業も一定数存在することがわかります。
人権への取り組みは欧州企業ではすでに進んでいる一方で、日本の中小企業経営者には具体的な対応方法について理解が不足していると考えられます。重要性を認識するだけでなく、制度として方針を定め、客観的に評価できる仕組みを整えることが、企業の人権対応を前進させる要となります。
今後は、経営層が人権方針策定の意義やメリットを理解するとともに、外部知見や事例の活用、社内での運用ルール整備など、具体的な取り組みを支援する体制の構築が必要です。これにより、制度としての人権対応が定着し、社員の働きやすさと企業成長の両立につながることが期待されます。



Q3. 貴社では、従業員の人権を守るためにどのような取り組みを行っていますか。(n=758)
Q4.従業員の人権を守るための取り組みを行う上での課題はありますか。(n=558)
Q5. 従業員の人権を守るための取り組みを行っていないと回答した方にお伺いします。その理由は何ですか。(n=173)
従業員の人権を守るための取り組みについて尋ねた設問では、「労働時間・休暇・安全衛生などの労働環境の適正管理」が66.1%と最も多く、次いで「ハラスメント防止に関する方針の策定と研修の実施」(26.4%)、「メンタルヘルスや福祉制度などの従業員支援体制の整備」(24.8%)が続きました。一方、「行っていない」と回答した企業は22.8%存在する結果となりました。
人権を守るための取り組みを行う上での課題については、「専門知識やノウハウを持つ人材がいない」(36.6%)、「他の経営課題が優先されている」(34.6%)、「対応にかかるコストや時間が確保できない」(32.8%)が上位に挙げられました。さらに、取り組みを行っていない企業に理由を尋ねた質問では、「他の業務が優先されている」が29.5%で最も多く、次いで「何から始めればよいか分からない」が27.2%となりました。
以上の結果から、人権を守るための取り組みにおいて、企業のリソース不足や優先順位の低さが課題として浮き彫りになりました。特に中小企業では、専門知識を有する人材の不足により、取り組みの着手自体が難しい状況が見受けられます。また、経営層による取り組みの優先度の低さや方針の明確化不足が、全社的な推進を妨げる要因となっています。今後は、外部専門人材の活用や社内教育の充実を通じて人権対応のノウハウを蓄積し、企業全体での意識向上と制度整備を進めることが求められます。さらに、人権対応を単なるコストではなく、社員の定着や働きやすさにつながる投資として捉える視点も重要です。




Q6.従業員の人権を守るための取り組みを行うことで、どのような効果がありましたか。
あてはまるものをすべてお選びください。(複数選択)(n=585)
Q7.従業員の人権を守るための取り組みによって得られた効果は、取り組みをする上でのコスト(人件費など)に見合っていると感じますか。(n=585)
従業員の人権を守るための取り組みを行うことでの効果について尋ねた設問では、半数以上の56.8%が「社員の満足度や定着率の向上」と回答しました。次いで「リスクの低減」(37.1%)や「取引先や顧客からの信頼向上」(21.5%)が挙げられ、特に社内の満足度向上や定着率への影響が顕著であることが明らかとなりました。
次に、従業員の人権を守るための取り組みを行う上でのコスト(人件費など)と見合っているかについては、「十分に見合っている」の9.7%、「ある程度見合っている」の38.8%を合計し48.5%、つまり約半数の企業が、効果とコストのバランスを肯定的に捉えており、人権を守るための取り組みへの投資に価値を見い出しているということがわかりました。
この結果から、人権への対応は単なる法令遵守やリスク回避にとどまらず、人材活用の投資として重要であることが示されました。従業員の満足度向上は職場環境の改善や離職防止に直結し、企業の安定的な成長にも寄与します。また、人権に配慮した取り組みは、組織文化の向上や従業員のモチベーション維持にもつながることが期待されます。さらに、近年注目されるESG投資や人的資本開示の観点でも、人権対応が評価基準の一つとなっており、制度整備は企業の外部評価向上にも貢献します。
今後は、中小企業においても、人権への取り組みを経営戦略の一環として位置付け、従業員の権利保護と企業成長の両立を目指すことが求められます。国・関係機関による支援やノウハウ活用を通じ、社内全体で人権対応の意義や具体的な方法を共有することが、効果的な取り組みの実現につながると考えられます。


フォーバル GDXリサーチ研究所所長
平良 学(たいら・まなぶ)
■経歴
1992年、株式会社フォーバルに入社。九州支店での赤字経営の立て直し、コンサル
ティング事業の新規立ち上げ、
全体統括を経て、2022年に新たに発足した中立の独立機関「フォーバルGDXリ
サーチ研究所」の初代所長に就任。
中小企業経営の実態をまとめた白書「ブルーレポート」の発刊、全国の自治体と連携
し、地域の中小企業経営者に向けたDX、GXの講演、中小企業経営者向けのイベ
ントの企画などを通じて、中小企業のGDXを世に発信している。

■コメント
本レポートでは、中小企業の人的資本対応、とりわけ「人権」への理解と対応状況を調査しました。
「ビジネスと人権」の認知度は27.3%にとどまりましたが、重要と考える企業は8割を超え、意識と実践の間にギャップがあることが明らかになりました。
取り組みを行う企業は約6割でしたが、「人権方針の策定」は15.0%、「従業員研修」は8.0%にとどまりました。背景には業務の優先や人材不足などの要因があると考えられます。国連や政府は方針策定やデュー・ディリジェンスを求めており、中小企業にも対応が必要です。
一方、取り組み企業からは従業員エンゲージメントや信頼獲得といった効果も報告されています。本レポートが、中小企業における人権尊重の推進につながることを期待します。
■フォーバル GDXリサーチ研究所とは
日本に存在する法人の99%以上を占める中小企業。この中小企業1社1社が成長することこそが日本の活力につながります。中小企業が成長するための原動力の1つにGreen(グリーン)とDigital(デジタル)を活用し企業そのものを変革するGDX(Green Digital transformation)があります。
フォーバルGDXリサーチ研究所は、中小企業のGDXに関する実態を調査し、各種レポートや論文、報告書などをまとめ、世に発信するための研究機関です。「中小企業のGDXにおける現状や実態を調査し、世に発信する」をミッションに「中小企業のGDXにおいてなくてはならない存在」を目指し活動していきます。
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