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学校法人東京理科大学
会社概要

固体電子移動過程を可視化できる結晶性ダブルウオールナノチューブの創製に成功 ~固体電子移動メカニズムの全容解明に向けた大きな一歩~

東京理科大学

研究の要旨とポイント

  • 頑丈かつ柔軟な二重壁構造を有する新規結晶性ナノチューブを開発し、ナノチューブ内部に電子ドナー分子を導入することに成功しました。

  • 電子ドナー分子を包摂したナノチューブ結晶と固体の酸化剤を反応させ、その結晶構造の変化を解析することで、固体の電子移動反応を直接観察することに成功しました。

  • 本研究をさらに発展させることにより、電子移動材料開発の促進が期待されます。


【研究の概要】

東京理科大学 理学部第一部応用化学科の湯浅 順平教授、同大学大学院 理学研究科化学専攻の緒方 大二博士(2023年度 博士課程修了)、小出 祥太氏(2019年度 修士課程修了)、岸 寛之氏(2023年度 修士課程1年)の研究グループは、2種類の配位子を有する環状の亜鉛(Zn)錯体を用いて、頑丈で柔軟な二重壁構造を有する新規結晶性ナノチューブを合成することに成功しました。このナノチューブのチャネル内部にテトラチアフルバレン(TTF)やフェロセン(Fc)などの電子ドナー分子を包摂し、固体の電子酸化反応前後での結晶構造変化を明らかにすることで、固体中の電子移動を直接観測することに成功しました。

 

電子移動材料は、電子機器や太陽電池などさまざまなデバイスに活用されており、私たちの生活に欠かせない材料の1つです。より高機能な電子移動材料を開発するためには、それらの基礎となる電子移動現象に関する深い理解が必要です。しかしながら、今日まで固体の電子移動に関する詳細なメカニズムは十分に明らかにされていませんでした。そこで、本研究グループは固体の電子移動に関して深い理解を得ることを目的として、チャネル内部の電子や正孔を制御可能かつ頑丈で柔軟なナノチューブの開発とその応用に関する研究を推進してきました。

 

本研究では、2種類の配位子(LA: アクリジン配位子、LA=O: アクリドン配位子)からなる環状のZn錯体[(Zn2+)4(LA)4(LA=O)4]を合成、結晶化することで、中心部に0.90 nm × 0.92 nmの大きさのチャネルを有する二重壁構造の結晶性ナノチューブ([(Zn2+)4(LA)4(LA=O)4]n)を作製しました。また、TTF、Fcなどの電子ドナー分子をナノチューブ結晶内部に導入することにも成功しました。さらに、電子ドナー分子を包摂したナノチューブ結晶を固体酸化し、反応前後の結晶構造を比較した結果、ナノチューブ自体の構造には配位子が変化する以外違いは観察されませんでしたが、内部では電子ドナー分子の配向変化、水素結合の形成、ClO4-イオンの移動など、複数の変化が生じていることを明らかにしました。


本研究成果をさらに発展させることにより、固体電子移動のメカニズムの詳細が明らかになり、電子移動材料に関する研究の進展が期待されます。

 

本研究成果は、2024年5月23日に国際学術誌「Nature Communications」にオンライン掲載されました。


※PR TIMESのシステムでは上付き・下付き文字や特殊文字等を使用できないため、正式な表記と異なる場合がございますのでご留意ください。正式な表記は、東京理科大学WEBページ(https://www.tus.ac.jp/today/archive/20240605_9342.html)をご参照ください。


図 本研究の概要



【研究の背景】

電子移動材料は、電子が物質内を移動することで生じる電気伝導性や熱伝導性を利用した材料を指します。特に、電子を放出しやすい電子ドナー分子と電子を授受しやすい電子アクセプター分子で構成された結晶系では、電子ドナー分子から電子アクセプター分子に対して電子移動が生じやすいことが知られており、この性質を利用したさまざまな材料の開発が行われてきました。しかしながら、今日まで固体電子移動に関する詳細なメカニズムは十分に明らかにされていませんでした。


電子移動材料の1つであるナノチューブは、その特殊な構造により内部に電子や正孔を蓄積したり、電子の移動を制御したりすることができるため、電子状態を深く理解する上で魅力的な素材です。一般的に、カーボンナノチューブを合成には高温などの厳しい条件が必要であり、サイズや形状を制御することが困難であることが知られています。一方で、非共有結合性のナノチューブでは、有機または金属大環状分子の一次元柱状組織を介してボトムアップで構築する方法を用いると、サイズや形状を制御した理想的なナノチューブ結晶を作製することが可能となります。しかしながら、非共有結合性のナノチューブ結晶では、内部に電子や正孔を導入すると活性ラジカル部位が生成し、結晶状態が崩壊してしまうという課題がありました。


以上の背景から、本研究グループはX線構造解析を駆使してナノチューブ結晶を直接観察することで、固体電子移動のメカニズムを解明することを目的として、より頑丈で柔軟な非共有結合性ナノチューブ結晶の作製、ナノチューブ内部への電子ドナー分子の導入など、一連の研究に取り組んできました。

 

 

【研究結果の詳細】

① 二重壁構造を有する新規結晶性ナノチューブの作製とドナー分子の導入

アセトニトリルと1,4-ジオキサンを用いた溶媒拡散法により、単一の配位子で構成された環状のZn錯体[(Zn2+)4(LA)8]から、2種類の配位子を有する環状のZn錯体[(Zn2+)4(LA)4(LA=O)4]を合成しました。また、それらを結晶化させることで、中心部にチャネル(0.90 nm×0.92 nm)を有する二層壁構造のナノチューブ結晶([(Zn2+)4(LA)4(LA=O)4]n)を作製しました。(LA: アクリジン配位子(2,7-ビス((1-エチル-1H-イミダゾール-2-イル)エチニル)アクリジン)、LA=O: アクリドン配位子(2,7-ビス((1-エチル-1H-イミダゾール-2-イル)エチニル)アクリジン-9(10H)-オン))

 

次に、テトラチアフルバレン(TTF)、フェロセン(Fc)などの電子ドナー分子を溶解したアセトニトリル : 1,4-ジオキサン = 1 : 2の溶液を調製し、得られた二重壁構造のナノチューブ結晶([(Zn2+)4(LA)4(LA=O)4]n)を7日間浸漬しました。その結果、浸漬に伴う結晶の形状変化は見られませんでしたが、色の変化が生じることがわかりました。取り出した結晶をX線構造解析で分析した結果、結晶性ナノチューブのチャネル内部にTTFやFcが包摂されていることが明らかになりました。

 

② ドナー分子含有結晶性ナノチューブの電子酸化による変化

TTFとFcは一電子酸化されやすく、酸化剤として[Fe(H2O)6](ClO4)3を使用すると固体表面の電子移動を容易に誘発することができます。実際に、TTFやFcが包摂されたナノチューブ結晶と固体の[Fe(H2O)6](ClO4)3とを表面接触させると、TTFが取り込まれたナノチューブ結晶では黄色から暗褐色に、Fcが取り込まれたナノチューブ結晶では黄色から暗い黄色に変化することがわかりました。ドナー分子が包摂されていないナノチューブ結晶では、そのような顕著な結晶の色の変化は確認されなかったことから、これらの色の変化はドナー分子の電子酸化により、ナノチューブ内部に正孔が蓄積されたことに起因すると考えられます。

 

電子酸化後のナノチューブ結晶が結晶状態を維持していたため、X線構造解析によるさらなる分析を行いました。その結果、元のZn錯体[(Zn2+)4(LA)4(LA=O)4]のアクリジン配位子(LA)は、ほぼ完全にアクリドン配位子(LA=O)に変化したことが明らかとなりました。また、ドナー分子の近くに2つの過塩素酸イオンClO4-が存在することがわかりました。さらに、内包されている2つのTTF分子がねじれた配列から平行な配列(θ = 66.4° → 11.8°)に変化し、TTFの末端水素原子とOTf-イオンのフッ素原子の間で水素結合が生成していました(H-F距離 = 2.572Å)。対照的に、Fcではわずかな位置変化のみが観察されました(θ = 60.7° → 57.4°)。FcはOTf-イオンのフッ素原子と水素結合を形成するための水素原子を持たないので、大きな位置変化が生じなかったと考えられます。

 

今回、X線構造解析により固体電子移動の初期構造と最終構造を明らかにできたため、再配向エネルギーλ(系内の分子の再配置に必要なエネルギー)を算出しました。その結果、TTFでは1.36eV、Fcでは2.23eVという非常に大きなλ値が得られました。これは、電子酸化後にドナー分子上に発生した正電荷を補うために入ってくるClO4-イオンに起因すると考えられます。しかしながら、通常、大きなλ値は電子移動速度を減速させてしまうため、今回直接観察された構造変化は稀有な現象であると考えられます。

 

※本研究は、日本学術振興会(JSPS)の科研費(JP23H01941, JP23H0397, JP21J20598)の助成を受けて実施したものです。

 

【論文情報】

雑誌名:Nature Communications

論文タイトル:Direct observation of electron transfer in solids through X-ray crystallography

著者:Daiji Ogata, Shota Koide, Hiroyuki Kishi, and Junpei Yuasa

DOI:10.1038/s41467-024-48599-1

URL:https://doi.org/10.1038/s41467-024-48599-1

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