大麦は2型糖尿病患者の血糖値上昇を抑制することを確認
-科学雑誌『Diabetology International』掲載-
これまで健常者における大麦の食後血糖上昇抑制効果は確認されてきましたが、2型糖尿病の治療を受けている患者における効果は検討されていませんでした。本研究では、糖尿病治療薬のメトホルミンを服用している糖尿病患者と投薬治療はせずに食事・運動療法のみの糖尿病患者において大麦の摂取で食後高血糖が抑制され、同じく糖尿病治療薬であるアカルボースを服用している糖尿病患者でも同様の傾向が見られました。この結果より、大麦の摂取は2型糖尿病患者における血糖コントロールの手段として有効である可能性が示唆されました。
なお、本研究成果は科学雑誌『Diabetology International』(Diabetol Int. 2022 Apr 13(2):387-395)に2022年4月13日に掲載されました。
<研究のポイント>
・血糖値の変動は麦ごはんの摂取により食事・運動療法のみのナイーブ群で低下、メトホルミン群で低下傾向
・食後血糖の曲線下面積(AUC)では麦ごはんの摂取によりナイーブ群、メトホルミン群で低下、アカルボース群で低下傾向
⇒大麦の摂取は食事・運動療法のみの2型糖尿病患者およびメトホルミンを服用している患者で血糖値上昇抑制効果があり、アカルボースを服用している患者でも同様の傾向が見られた。
大麦は2型糖尿病患者の食事療法の選択肢として有効である可能性がある。
<研究背景と目的>
糖尿病治療は、運動療法、食事療法を基本とし、これらに加えて適切な治療薬を用います。食後の高血糖は心筋梗塞などの大血管障害の発症リスクを上げることが分かっているため、糖尿病治療において特に重要な問題です。
大麦は食物繊維を多く含み、食後高血糖を抑制する機能が知られています。しかし、多くが健康な人を対象とした研究であり、糖尿病患者を対象とした研究は限られています。特に、特定の糖尿病治療薬を摂取している2型糖尿病患者を対象とした大麦の食後高血糖の抑制効果を調べた研究は報告されていません。
そこで本研究では、糖尿病治療薬であるメトホルミン(1)、アカルボース(2)に焦点を当て、これらの治療薬を摂取している2型糖尿病患者に対する大麦の効果を調べました。
<研究方法>
2型糖尿病患者で、食事・運動療法のみを行っている人(ナイーブ群)、食事・運動療法に加えてメトホルミンを摂取している人(メトホルミン群)、食事・運動療法に加えてアカルボースを摂取している人(アカルボース群)それぞれ10名を研究対象者としました。
対象者は、初日に白米ごはんを負荷食とした食負荷試験(3)を行い、その後5日間は1日2食白米ごはんを食べてもらい、続く7または8日間は1日2食の麦ごはんを食べてもらいました。血糖値の変動は持続血糖測定器(4)(Freestyleリブレ・アボット社製)で観察しました。
最終日に、麦ごはんを負荷食とした食負荷試験を行いました(図1)。食負荷試験は白米ごはんまたは麦ごはん(共に炭水化物が50 gになるよう調整)にカレー(100 kcal/食)をかけて食べてもらい、空腹時、食後30、60、90、120分の血糖値を測定しました。
<研究結果>
①血糖値の変動は麦ごはんの摂取によりナイーブ群で低下、メトホルミン群で低下傾向
血糖変動の指標の一つである平均血糖変動幅(Mean amplitudes of the glucose excursions: MAGE)(5)は全対象者とナイーブ群で麦ごはん摂取時に低下、メトホルミン群で低下傾向が認められました。アカルボース群では平均値では低下していましたが、有意差はありませんでした。(図2)
また、同じく血糖変動の指標となる平均血糖値、変動係数(Coefficients of variation: CV)(6)、そして血糖管理目標値である70~180 mg/dLの範囲内にある時間の割合を示すTime in range(TIR)でも全対象者とナイーブ群では一貫して麦ごはんの摂取により改善が認められました。さらにメトホルミン群は平均血糖値で有意な改善が認められ、アカルボース群ではTIRで改善傾向が認められました。
②食負荷試験の結果は麦ごはんの摂取によりナイーブ群、メトホルミン群で低下、アカルボース群で低下傾向
食負荷試験の結果、全対象者、ナイーブ群、メトホルミン群では食後血糖の曲線化面積(Area under the curve: AUC)(7)で麦ごはんの摂取により有意な低下が認められ、アカルボース群では低下傾向が認められました。(図3)
<今後の展望>
本研究で、大麦による血糖コントロールの改善効果が2型糖尿病患者においても認められ、その効果は糖尿病治療薬を摂取していない人(ナイーブ群)で一貫して高いことが分かりました。また、糖尿病治療薬でも、メトホルミンを摂取している人に対しては大麦の効果は有効と考えられましたが、アカルボースを摂取している人に対しては、わずかに改善傾向を示したものの、大麦の効果が弱くなることが分かりました。この理由としてアカルボースは糖の吸収を促すα-グルコシダーゼの作用を阻害することで消化・吸収を遅らせますが、大麦の食後高血糖を抑える作用も、β-グルカンの粘性による消化・吸収の遅延の影響が大きく、作用機序が類似していることから有意な変化がみられなかったと考えられます。
大麦には内臓脂肪の低下や満腹感の持続など、抗肥満効果が報告されていますが、メトホルミンを摂取している人には肥満型の2型糖尿病患者が多いため、糖尿病治療に加えて肥満の改善にも大麦の機能が期待されます。また、アカルボースには副作用として腹部の膨満感などの消化器症状が認められることがあり、アカルボースの摂取が難しい患者の場合には大麦が役立つ可能性があると考えられます。
本研究の結果により大麦の摂取が2型糖尿病患者の食事療法での血糖コントロールの手段として有効である可能性が示唆され、食事療法の選択肢を増やせることが期待されます。
【用語解説】
(1)メトホルミン:肝臓での糖新生を抑制、インスリン抵抗性の改善など、複数の作用により血糖値を改善する糖尿病治療薬。(ビグアナイド薬)
(2)アカルボース:二糖類を単糖類へ分解するα-グルコシダーゼを阻害することで、糖の吸収を遅延する糖尿病治療薬。(α-グルコシダーゼ阻害薬)
(3)食負荷試験:白米ごはんなどの食事を摂取した後の食後血糖値の変化を測定する試験。本研究では、白米ごはんと麦ごはんを摂取した後の血糖値の変化を比較している。
(4)持続血糖測定器:装着時に血糖値を定期的に測定することで、1日の血糖値の変動を調べることができる機器。本研究ではアボット社製Freestyleリブレを用いた。
(5)平均血糖変動幅(MAGE):24時間の血糖測定結果から求めた、血糖値の変動の代表的な指標。標準偏差を超える血糖変動の平均値。
(6)変動係数(CV):24時間血糖測定結果から求めた、血糖値の変動の代表的な指標。標準偏差を1日の平均血糖値で割った値。
(7)曲線下面積(AUC):食負荷試験の血糖値の変動曲線とX軸の間の面積。食負荷試験での血糖値の増加量を表す指標。
- はくばくについて
当社の社名「はくばく」は白い大麦という意味です。創業社長である祖父が「もっと麦ご飯を喜んで食べてもらいたい。」という思いから、大麦を一粒一粒半分に割って黒い筋を目立たなくした製品を開発しました。
以来、我々はくばくは穀物とともに歩み、精麦の他、雑穀、和麺、麦茶、穀粉、米を事業として手がけるようになりました。
人類を太古から支えてきた大切な「穀物」を、現代の食卓へもっと多く登場させ、もっと楽しんで食べてもらうこと。それは家族の笑顔が増えること。またそれは家族が健康になることだと考えています。これを実現するために、我々はくばくは「穀物の感動的価値を創造する」ことを社員一丸となって本気で目指して参ります。
(株式会社はくばく 代表取締役社長 長澤 重俊)
社名 : 株式会社はくばく
所在地 : 〒409-3843 山梨県中央市西花輪4629
代表 : 代表取締役社長 長澤 重俊
設立 : 昭和16年4月15日
資本金 : 98,000,000円
事業内容: 食品製造および販売
URL : https://www.hakubaku.co.jp/
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